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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第6話


 「なぁ、藤川先輩が怪獣に襲われた話…知ってるやろ?」

「まさか、知らん人は居て無いと思うで。もはや、うちの学校だけの話でも無いし。」

「せやろなぁ…10人以上から電話、掛かって来たもんなぁ。私も20人くらいには電話したもん。」

「私もそうやったわ…」「最初に聞いた時は『怪獣ってほんまに居てたんや。』って思うたぐらいやで…すぐに青田先輩の事やって分かったけど。」

「アキちゃん……」

「なぁ、良子はそう思わへんかった?」

「アキちゃん…って……」

「あの藤川先輩がやで…怪獣でも無かったら?」

「怪獣でも無かったら?」

「うわっ…かいじゅ……」「青田先輩、お早うございます。」

「お早う…ええよ。予想は出来てた。」

「先輩…あの~~」

「かまへんって…」「今まででも怒った事なんか無いやろ?」

「はい、それは確かに…けど……」

「もう、あきらめてる。相手があのアホや。」「恐竜って言い始めたんも…うちやしな。」

「えっ、そうなんですか?」

「元々はあいつ一人が、恐竜や怪獣やって言うてたんやけど…そのうち、うちのあだ名はキングギドラに落ち着いたんや。うちも勝手にあいつの事、『ハ虫類の脳みそ』とか言うてる間に…最初は可哀そうやって言うてたお父ちゃんが、『夕子お前は、キングギドラで怪獣やろ…ハ虫類を大きしたら恐竜やないか』って…ほんま、ええ家族と、友達に恵まれたわ……」

「……………先輩、これ。高木さんや伊藤さんほどや無いかも知れませんけど…気合入れて作りました。」

「私も…右に同じです。」

「ありがとう……」「うわっ、これはまた凄いやんか…二人とも大きさと迫力で勝負って感じやなぁ?」

「はい、その通りです。判ってもらえて嬉しいです。」

「…右に同じです。とにかくなんの技術も無いので、全財産を掛けて購入したチョコレートがこの形になったと思って下さい。」

「こ、これ…一気に食べたら命に関わりそうやなぁ。心して食べるわ……」

「はい。卒業してからもお願いします。二十歳の誕生日には、お店に直行しますので。」

「右に同じです。」

「それは、楽しみにしとくわ…あんたらは後輩やから、誕生日に関係なく、うちも飲める歳になってるからなぁ。」

「そんなん、ちょっとぐらい…あっ、先輩、ルールや規則には厳しいですもんね。ご主人も警察官やのに失礼しました。」

「アキちゃん…って…もう…」

「あっ…未来の、やった。」

「せやから、アキちゃん…そう云う問題やのうて…ほんまに……」

「アキらしいわ。あんたらには、何を言われてもかまへんで。ただ、恐竜との話は…オリンピックを生贄にした、仮、仮、仮、仮契約やからな。それだけは覚えといてや。」

「えっ、それってもしかしたら契約は成立して無いって事と……」

「アキちゃん! あんたええ加減に…早よ行くで、今日の先輩は忙しいんやで。」

「失礼しました。後でまた覗いて下さい。」

「うん、ありがと…」

(今の二人も体育会系や。しかし、これは、ごっついなぁ…これ食べて恐竜が鼻血なんか出したら、おもろいけど、気持ち悪いやろなぁ…アカン考えんとこ)


 「先輩、お疲れ様でした~。卒業式までにも来てくれますよね?」

「うん、週一くらいは来るつもりやで。」

「すごい数ですけど、とにかく1位~3位までは発表しに来て下さい。お願いします。」

「……うん、わかった。ほな、みんな有難うやで…お疲れさま。」



 「うわ~っと、これは想像をはるかに超えてるやないか…どないして持って帰るつもりやねん?」

「はい…これ。」

「…でっかい風呂敷やなぁ~、見た事もないサイズやで。」

「お婆ちゃんに相談したら、箪笥の奥から出してくれたんや。」

「こんなもん担いだら、風呂敷から足が生えたみたいに成ってしまうど。」

「うちやったらな。」

「ちょっと待て…これ全部、俺に持たせるつもりやないやろなぁ?」

「そんなん当たり前やないか。」

「うん、せやろ…って、どっちの当たり前?」

「マサが一人で持つ方の当たり前。」

「お前、今年はすごい事になるって判ってたんやろ? カバンぐらい用意しとかんと。」

「後輩にもそう言われたんやけどな。」

「それこそ当たり前やないか。」

「アホっ!なんぼ貰える事は予想出来ても、それを見越して袋やカバンを用意する分けにはいかんやろ。」「風呂敷やったら、シューズケースにでも入るやないか…アホっ。」

「文章の最初と最後に…今は、そんな事言うてる場合や無さそうやな……」「………これでなんとか……」「おう、ずっしりや。このままガード下へ持って行ったら、すぐに売れるど…ゴメン、冗談や。」

「風呂敷で顔が見えへんから云うて、うちが怒る前に謝るくらいやったら、始めから言わんといたらどうやねん……」

「…………なぁ、物心ついてからずっと思うてる事なんやけど、なんで…なんでも分かるんや?」

「今のマサの一言で、うちの言うた事が正解やって判ったやろ? 必ず正解してる訳や無いんやけど、あんたはその場で答えを教えてくれるんや。後はそのデータを積み重ねたら、予想の的中確率も上がっていくんや。」

「・・・・・・」

「感心しながら、悩んでもしゃ~ないで。」

「い、今は、黙ってたやないか?」

「ほら…今、判ったやんか……」

「……お、お前には、一生勝たれへんのやろか…せやろなぁ。」

「ええか、いま本気で喧嘩したら、絶対マサの勝ちやんか? なぁ、衝撃の事実教えたろか?」「あんたはうちに負けて喜んでる。」

「えっ…?…」

「そうは思わへんか?」

「いや。これはちょっと…全部は否定出来へんように思うけど…」

「よう考えてみ…全部とは違うても、ほとんどやと思うで?」「せやから、力ずくの喧嘩でも、死ぬまでうちの方が強いんや。」

「…うん、勝てる気がせえへん。」

「なっ、絶対マサの方が強いのに……」「うちには判ってるんや。うちを命がけで守ってくれるんは、お父ちゃんと、お母ちゃんと、マサ…あんただけや。親以外に居てるって凄い事やで。」

「そんなん、嫁はんや家族を守るんは当たり前やろ。」

「そこやねん…うちはまだ嫁はんとちゃうやろ? せやのにマサ、あんたは子供の頃から、うちが嫁はんに成るもんやと思いこんでるやないか。」

「……思うてたら…アカンのか? 厭って言うんか?」

「かまへんよ……時々、『うちも、そう思うてるんとちゃうやろか?』って考える事があるんやから。」

「ほんまか…?」「夕子、今やったら…夢かどうか確かめるために、もう一発殴ってもかまへんで。」

「あのなぁ、考える事は在っても…答えは出てへん。」「それに、あんたのそんなややこしい性格が…時々めんどくさいんや!」

「…今後、気を付けます…」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第7話


 「そうか…まさかとは思うたけど、噂はほんまやったんや。」

「まぁ、まだまだ先の事やから…」

「そうやな、おなじ結婚するんでも、オリンピックへ行って、約束果たしてから一緒に成りたいもんなぁ。」「応援するから頑張ってもろうてや。ほな、ご馳走さま。」

「有難うございました…」「ふ~っ…」

「今日は、もう店じまいや、夕子も一息ついて、それから片づけたらよろしいやんか。」

「まだ、早いけど…せやなぁ。」

「そうやで、もう、お客さん来はっても、食べてもらう物が在りませんやろ。」

「うん、暖簾入れとくわ。」

「判ってると思うけど、夕子のお陰やね。」

「…うちとマサのやろ?」

「この1週間は異常ですわ。入りきれへんお客さんの方が多かったんと違うやろか?」

「忙しいのはええんやけど、複雑なモンが在って素直には喜ばれへんわ。」「どうや? うちは付き合われへんけど、お母ちゃん一杯飲んだら?」

「そうやねぇ…忙し過ぎて、進めてくれるお客さんも居てへんかったからね。けど、よろしいわ、一人で飲むんは好きや無いし。」

「明日は休みやのに、ちょっと待ってや。」「うちが飲めるようになったら、なんぼでも付き合うたるから…」「あっ、お父ちゃん、まだこんな時間や・・・せやねん・・・うん、待ってるわ。」

「お父さんなんて?」

「あと、20秒で来る…はずや。」


 「さむいやないか~・・・待たせたなぁ。」

「遅いやんか。3分も掛かってるで?」

「食べるモンも残ってないのに、ちょうどチキンラーメンが出来る頃やないか。」

「ほんまにマサとおんなじ頭の構造やなぁ…あいつやったら、そこが、カップヌードルに変るだけや。」

「年代の違いやね。お父さん、何にする?」「寒いけどビールにするんか…ウィスキーのお湯割りでも作りましょうか?」

「お前は?」

「私は・・・」「最初はビールにしましょうか。」「…ほんでも、夕子や無いけどほんまに何してましたんや? はい・・・」

「うん。お前もほい…もう、寝るつもりで着替えたところへ電話が掛かってきたんや・・・ふ~~旨いなぁ…」

「はい、ほんまに・・・」


 「なぁ、うちのアイデアで実現したのに、2人だけの世界にハマるんはやめてや。」

「すまん、すまん。けど、ほんまに一緒に飲める時が楽しみやなぁ…片づけは3人でやるから、まぁ、ここに来てお茶でもどうや?」

「うん…はい、お待ちかねの一品やで。」

「えっ、チキンラーメン……お前は?」

「カップヌードルやで。」

「なるほど…よう出来た話や。」

「あとは、わずかですけど、この残りモンも片づけて下さいね。無理には食べんでもよろしいけど…って、ほんまにわずかですわ。」

「なぁ、お母ちゃん…お父ちゃんなぁ、さっきの電話で『明日は休みや。もう食べるモンも残ってない。店を閉めたんで、お母ちゃんの相手をしに来いってことやろ』って、うちの声聞いただけで、こう言うたんやで。」

「それは…明日が休みで、この一週間の忙しさを考えたら…」

「あんた。ええカッコはやめとき。夕子のために私が種明かしをしますわ…お父さんは元々来るつもりでしたんや。」

「えっ、そうなんか?」「土曜日やから?」

「全部をひっくるめてですわ。この一週間は忙しいてお父さんが覗いた時もまだまだお客さんが一杯で入れませんでしたやろ…この土曜日に来えへんかったら一週間飛んでしまいますやんか。」

「それは、うちもそう思うたから…せなのに、なんで着替えてたんや?」

「嘘に決まってますやんか…なぁ?」

「ほんま、かなわんなぁ…」

「夕子の声聞いただけで、こう言うた。ってところで分かりましたんや。明日が休みやから、料理はそろそろ無くなる頃や。行ってもええか、どうなんか…と、思うてる処に夕子の電話や。決め手は、夕子は20秒って言うてるのに3分掛かりましたやろ? 待ってましたと思われるのが恥ずかしかった…これが正解ですわ。」

「大当たり…みたいやなぁ?」

「うん、細かいとこまでな。」「全部、当たってる…ズバリ大当たりや。」

「さすが、お母ちゃん。役者が違うわ。」「これを、てのひらの上に乗ってるって云うんやろか?」

「夕子と昌幸くんの場合は、これ以上やと私には思えますけど?」

「それは、俺でもそう思う。」

「あのなぁ、文鳥やインコやったら手の上に乗っても可愛らしいけど、ハ虫類はマニアック過ぎるわ。」

「乗せる方かて怪獣や…ゴメン。」「せやけど今、光線の出そうな眼でにらんでたやないか……ええか、イメージを変えるためには自己改革も必要やど。」


「あのなぁ、うちはお父ちゃんとマサ以外には、可憐とは言わんけども…ほんで、しとやかとも言えんけどな…おまけに、大人しい事も無いし、色白どころか真っ黒やしなぁ…」「洗濯板みたいな体にスポーツ刈りに近い髪型って…お母ちゃん、もうアカン。うちに女としてのええとこって在るんやろか?」

「そんなん…一杯在るはずですわ。」「なぁ、お父さん?」

「あ、当たり前やないか。」「料理はしてる処は見た事ないけど…この春から料理学校に通う事やしなぁ、クラブを辞めたと云うことは色もちょっとは白なるやろ? せや、クラブや、足は速いで~ほぼ無敵や。」


「お父ちゃん、もうええ。」「よ~判った。うちは足が速いだけの女やったんや。」

「お父さん、もうちょっとなんとか…」

「洋子、女のお前が…なんとか・・・」

「なぁ、二人の世界に入られるのも寂しいけどな、親子3人で遊ぶんもやめとこ。」「いつまでも、うちにはマサしか居て無いと思わす作戦に付き合うてられへんわ。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第8話


 「マサ、チョコレートのベスト3決まったか?」

「うん、だいたいはな…後はお前の意見も含めて、夕子が自分で決めたらどうや?」

「食べて無いうちが、どうやって決めたらええんや?」

「ほぼ一週間…家族ぐるみで食べたけどまだ残ってる。」「ほんで、『これは』って奴は食べんと置いて在るんや。それを夕子が見て決めてくれ…いや、決めんとアカンやろ? 凄いのが在るんやで。食べんでも、見て決めたらんと、全部が手作りやのに、くれた相手に悪いやないか。」

「たしかに…その通りや。見せてもらうわ…あの、ソフトボールか砲丸か、みたいなヤツは? どないしたんや、食べたんか?」

「在る意味、あれが一番すごいかもしれん。実は本物の砲丸で型を取って作ったんや。」「残してあるから、見たら判るはずや。」

「嘘やろ…なんで判ったんや?」

「粘土か何かで型を取ったんやろなぁ、銀紙はがしたら、メーカー名のエバニューのロゴ(Ever new)がはっきり入っとった。」「けど、とにかく、あれは一気には無理や。かなりの確率で命に関わるど…第一、口のサイズから考えても噛み付きも出来へん。」

「第一印象はうちもそう思うた。あれ一個で胃袋満タンや。無理やり食べたら、あんたも言う通り命が危ないわ。」

「せやな…けど、ほんまに色々と凄いのが在ったんやで。どうせ全部は食べ切れへんしなぁ…ほれ、これや。」

「うわ~全部でいくつ在ったんや?」

「83個や…」「だんだんペースも落ちて来て、今は見るのも…苦労したで。」

「そうか、せやろなぁ…」「それで、これが予選を勝ち残った面々なんか?」

「どれも大作ばっかりや。」「せやけど、一位は…誰が選んでも断トツやと思うけどな。」

「これやろ? やっぱり高木か…これは立派な売りモンに出来るなぁ。」「凄過ぎるやないか。ど~やって作ったんやろ?」

「完璧なスパイクシューズや。最初見た時はビックリしたで。」「サイズは小さいから、本物で型は取らへんしなぁ。箱はほら、この靴箱にスポンジと綿に包んで入ってたんや。」

「へぇ~踵からのラインがよう出来てるけど、なんと云うても、スパイクと紐やで。」

「なっ。一位はこれしか無いやろ?」

「うん。このトロフィーもよう出来てるんやけど・・・」「これも、やっぱり伊藤ちゃんか。気合の入り方が違うとは聞いてたけど、ここまで来たら逆に怖いわ。」

「どうや、自分で見て決めたらんとアカンと云うのが分かるやろ? これで、一位と二位は決まったやないか。」

「ほんまや、マサの言う通りやったわ…3位も砲丸しかないやろ。みんな凄いけど、ここは力技の勝ちやで…」

「実はなぁ、ここに残ってない物の8割は力技やった。そのまた8割は、なんぼ考えても何か判らんモンばっかりや。無理やりこじつけて解釈しても…ナマコなんか、ウミウシなんか、ひょっとしたらウンコかも知れへんモンまであったど。」

「アホっ。せやけど、まさかとは思うけどな、一人か二人…思い当たる奴が居てるんが恐ろしいわ。」

「ウンコやとしてもか?」

「アホっ! あんたや在るまいし、体育会系とは云うても女のこやで。」「いや、あんたの言う通りやわ。一人か二人やけどな…色合いが色合いだけに、思いついたらやってしまいそうな奴が居てるんや。」

「俺には、その一人か二人の気持ちごっつい分かるけどなぁ…」

「マサ…それは、あんたやからや。」

「夕子お前、子供の頃の事、忘れたんとちゃうやろなぁ?」

「なんやねん、子供の頃の話って?」

「お前の場合、お前と遊んだら親に怒られる奴まで居てたんやど…忘れたんか?」

「…もうええ、その辺でやめとき。」

「思い出したみたいやなぁ?」

「やめときって言うてるやろ。」

「理由も思い出したんか?」

「理由…か?」

「思い出したけど…認めたくない?」

「マサ~ええ加減にしとかんと…」

「俺の予想も、お前ほどや無いにしても、結構当たるもんやなぁ?」

「このアホが…ほんなら、うちの予想も言うけど…マサあんた、この話、何が在っても喋らんと気がすまへんのやろ?」

「さすが夕子。俺の事を良く御存じで。」

「やっぱりな…なぁ今、好きなだけ喋ってもええから、今後一切、人前で思い出したり、喋ったりしたら・・・」

「・・・喋ったりしたら?」

「その日を境に永久絶縁や…覚えときや。」

「今、辛抱して、後で喋ったら?」

「アホか! それもおんなじ永久絶縁に決まってるやろ…この、どアホっ!」

「ほな今、喋らして頂く事に…ねっ、ウンコの夕子さん?…」「おっと、今やったら好きなだけ喋ってもええんやろ?」

「ちょこまかと逃げやがって…このウンコ野郎が・・・」

「ウンコ野郎は、夕子お前の事や。」「ビー玉でいざとなったら、ウンコを踏んででも勝負に徹するし…喧嘩になったらその靴で平気に蹴りは入れるわ、逃げたらもう一回、ウンコ付けてから投げつけるわ…缶けりなんか、お前が鬼になったら、人が蹴られへんように缶にウンコ付けまくっとったやないか。」


「…頭の芯がクラクラして来たわ…まだまだ続くんか?」

「いや、言いだしたら、なんぼでも在るんやけどこの辺にしとく…なっ、こんな事しとったら、そらあの子と遊んだらアカンって言われても仕方ないやろ。思い出したか?」


「思い出しとう無かったけどな。」「しかし、とことん、いらん事ほど、よう覚えてるみたいやなぁ…」「……それにしてもそんな奴、この世に生きてたら問題やろ? 今でも生きてるんか、そいつ?」

「元気なんや、これが…」

「いまでも、あちこちで迷惑掛けとるんとちゃうんか?」

「こいつの場合、小さい時ほど理性の欠けらも感じられへん奴やったそうなんや。けど年齢と共に改善はされて来たみたいでなぁ…今では何処へ行っても人気者らしいで。」

「当然、男の子やろ?」

「残念な事に、女の子やったんや。」

「そんな奴、人気者って云うても彼氏なんか居てる訳ないんやろなぁ?」

「それが、人も羨むような…ゴメン。その眼…やめてくれるか?」

「ええか、『好きなだけ喋ってもええ』とは言うたけどな、好きなように喋ってええとは言うてへんやろ…どアホっ!」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第9話


 「とうとう卒業ですね。青田先輩、有難うございました。」「ほんま、これからも仲良くして下さい…お願いします。」

「私もお願いします。先輩は私らみんなの憧れなんです。並んで歩くだけでも嬉しいんです。」「先輩が彼氏やったらええのに…って思うてるのは私だけや無いはずですわ。」

「有難う。もしかしたら、うちは、男より女にモテるタイプなんやろか?」

「もしかしたらって…もしかせんでも、絶対そうです。」

「アキちゃん…あんたまた……」

「あっ……」「けど、先輩には最高の彼氏が居てるやないですか。」「彼氏は一人で十分やし、その上、彼女が何人も居てるなんて目茶苦茶カッコええですやん。」

「アキちゃん…って……」「先輩、いつもの事で、すみません……」

「いや、かまへんけど…」「なぁ、マサ…藤川って評判ええんか?『カッコええ』とか聞いた事は在るんやけども……」

「そんなん、無茶苦茶カッコええですやん。え~っと、この中でも、浅井さんと横田、大塚の3人は好きって云うか、大ファンって云うか……」

「ストップ!」「もぅ~~なに言うてるねん……先輩、勘違いせんといて下さいね。」「アキ、あんただけは…ほんまに……」

「まぁ、誰がどう思うててもかまへんし、勘違いもせえへんけど…あいつ、そこそこ人気が在るんやな?」

「それは……」「なぁ…?…」

「うん。」「……仮にですけど…もし、青田先輩が居て無かったら、バレンタインデーはかなり危険な事になるんとちゃいますか。」

「間違いないですね。危険かどうかは別としても、キャリーバッグぐらいは必要やと思います。」

「それって、冗談やろ? なんぼなんでも、そこまでは……」

「いえ、青田先輩の手前、控えめに言うてるつもりですけど……」

「嘘やろ。ほんまに?あいつ…そんなにモテるんか?」

「断トツですわ。この周辺の学校、特に女子高なんか大騒ぎで…藤川先輩の試合って応援団は女の子ばっかりですやん。横田と大塚なんかも応援に……」

「はい先輩ストップです…そこまで。」

「あんたら練習サボってと違うやろなぁ?」

「いや多分……日曜の試合とかだけやったはずやと…そ、それに、何試合も前の事は記憶が曖昧やし……」

「はい、それもストップです。何試合もって云うのはちょっと…具合が……」

「あんたら、ほんまに…?」

「いえ…それにしても、先輩はどうして応援に行かないんですか?」

「そんなもん、勝つのが判ってるからに決まってるやないか。」

「え~っ、それは調子が悪い時も在るやろうし、やってみるまでは…第一、応援って力になる事を先輩も知ってはりますやんか。」「もしも負けたら『応援に行っといたら良かったのに』って後悔しませんか?」


「全然。」「もしも負けた時は『アホッ』って云うたらしまいやんか。」「けど、なるほど…うちが応援に行ってないのを知ってる分けやもんなぁ……」「これって、たしかに試合に行かんと判らん事やわ。」

「はい……うちの生徒だけでも50人前後はいつも行ってますよ。」

「そうそう、ほんで会場に入ったら、とにかく最初に青田先輩を探すんですわ。」

「えっ、ほんまかいな……?」

「それは、先輩が居てたら困る…って事は無いんですけど、居てない事が判ると、ちょっとでもええ席で応援せんと…ねっ。」

「だいたい、学校別に別れて陣取るからね…一番大きいのは、○○学園の応援団です。いっつもですわ。」

「ちょっと待って、もうええわ…なんや気持ち悪うなってきた。」「ほんなら、あいつがチョコレートの一つも貰われへんのは全部、うちのせいやと云うんか?」

「・・・・・・」


「いま…半分ぐらいがうなづいて、半分ぐらいが首を斜めに……」「高木、あんた首が斜めに動いとったけど?」

「あ~~っ、一つも無いかどうかは分かりませんけど、うちの学校内では絶対にゼロのはずです…と、云う意味の『首斜め』です。」


「……ほな、あいつのファンやと言うてくれる浅井は?」

「う~~っ、青田先輩が居て無かったら、『遠慮なく渡すに決まってるやんか』と、云う意味の『直首』です。」


「もうええ……」「疲れて来たわ。最後にちょっと聞いて置きたいんやけど…うちの噂はどうなんや? 後輩の男子は、うちの事をどう言うてるんや?」

「完璧に校内の一番星です。カッコええって、絶大な人気ですよ。誰に聞いても男女の区別無く答えは同じはずです。もちろん藤川先輩でもかないませんわ。」

「うわっ…今のは、一斉にうなづいてくれてたなぁ……」「けど、後輩と云う事は別にして…彼女になって欲しいとか云う話は聞いた事、無いんか?」


「なぁ、今も一斉にうなづいたようやけど…気のせいやんなぁ?」

「・・・・・・」


「なんで、一人もうなづかへんねん?」

「いや、私らは女やからチョコレートも渡せますけど、男子は、あの藤川先輩の事を考えたら…とても告白なんて……」

「せやろ。あいつがチョコをもらわれへんのは、うちのせいかも知れんけど、うちが生まれてから一回も男の子から告白とかされた事が無いんも、確実にあいつのせいなんや。」

「・・・・・・」


「おい、誰もうなづかへんのは、なんでやねん?」「なぁ高木…陸上女子代表として説明してくれるか?」

「……ちょ…ちょっと……高木先輩なにしてるんですか?」


「……い、いや、青田先輩から離れとかんと……」「私も今後、陸上部を引っ張っていかんとアカン体やから……」

「どんな事を喋るつもりやねん?」


「え~っと、いろんな要素が考えられますが、私がまず思うのは…先輩のスパイク、白いですけど、裸足になっても真っ白なスパイク履いてますよね?」


「高木…日焼けの話をしてるんか?」

「はい。ほんで、ランパンと競技用のハイカットショーツとで出来た二重の日焼け……子供でもあんな黒い子は見たことが無いほどですけど……」「え~と、ここからは、良子が言い始めたんですけどね…」

「ちょ、ちょっと待ってや。あれは…先輩、陰口で言うたんやないですからね。」

「ええよ。何を聞いても怒らへんから。」

「心を込めて、しみじみと『……あの黒さ、脂肪ゼロの筋肉と筋だらけの足……マサイ族や…』って良子が……」


「ちょっと、ちょっと…卑怯やんか。みんな一緒に爆笑しとったのに。伊藤ちゃんなんか、今も唇かんでこらえてるやん。」「そうや、高木さんこそ、その後『いやいや、先輩の場合、なんと云うても上半身やで』…」


「良子ゴメン…私が悪かった。そろそろ帰る時間やろ……?」

「それは聞こえへん。陸上部の日焼けってランニングシャツだけや無うて、競技用セパレートやスポーツブラの日焼けってみんな当たり前の事やろ?」

「良子、アカンて…二人だけの秘密って約束やんか。」

「もう、遅い。」「先輩も当然、セパレートとスポーツブラで二重の日焼けが在るはずやんか? せやけど在る時、高木さんがシャワールームで見たものは……」

「アカンて……」

「キャプテン云うのは忘れてええから、一年で押さえとき。」

「見たものは?」

「どう見ても、スポーツブラだけで出来た二重の日焼け跡…その心は?」


「あっ、あれか? あんなん、なんにも大した事やあらへんやんか。高木も心配せんでもええで。前と後ろを間違うただけや…誰でもする事やんか?」

「・・・・・・」


「………嘘やろ?」「今…全員が……首を横に? 嘘やん…誰でも1回ぐらいは……えっ……1回も無いんか?」

「・・・・・・」


「………もうええ…何回、うなづくつもりやねん。見てる眼がしんどいわ……」「そら、競技用セパレートは間違いようが無いし…普通のブラジャーも間違いにくいかも知れんけど……スポーツブラは前も後ろも見わけが付かへんやないか……?」

「付くでしょ…普通。」「それに…『普通のブラジャーも間違いにくいかも』って言いましたよね? 『かも』って…先輩、普通のブラジャーは使わないんですか?」

「えっ…伊藤ちゃんやったら、まぁ、必要かも知れへんけど、他のみんなかて、うちとそんなに変らんから、いらんやろ?」

「いやいや~普通…いるでしょ? 本気で言うてるんですか? 先輩には、何べんも驚かされて来ましたけど、卒業式に衝撃の事実が明らかになりましたわ……」


「それって、まさか先輩…もしかして、ブラジャー持ってないんですか?」

「え~っ…そんなん……」「せ、せやから365日、スポーツブラやんか。」「高木は持ってるんか…嘘やろ?」

「持ってますよ。当たり前ですやん。」「まぁ…高校に入ってからですけど…ね。」

「え~~っ、福田なんか…絶対にいらんやろ……なぁ?」

「…残念ながら、私も…正直、あんまり必要は無いんですけど…去年、入学してからは…高木先輩と同じです。」


「せやから、スポーツブラやろ? 違う……? 嘘やん……ほんま…に?」「なぁ…誰かなんとか言うて……」

「先輩、この頃では、小学生から使ってる子も珍しく無いんですよ。」


「それは、特殊な…ホルスタインとかの仲間とちゃうんか?」

「牛やないんやから…ほな先輩は何の仲間なんですか?」


「うちは、その…スペアリブとか……」

「…意味が判りませんわ。」

「スポーツブラにもサイズは在りますよね?先輩の場合は……?」

「うちか? うちはやなぁ…その手の話は好きと違うんや……」

「先輩、そろそろ気がついて下さい。」「先輩って、美人かって聞かれたら、物凄い美人ですけど、暗い処では表情も判らんほど黒いし…そのゴツゴツした体にその髪型では、初めて会うた人は、カッコええ男前としか見えないと思いませんか?」


「確かに…学校以外のトイレでは、男に見られて睨まれるけどな……」「その代り、混んでる時は男子トイレに行ってもバレへんから便利やで。」

「それが出来るんは地球上で先輩だけです。」

「元々、なんで告白された事が無いのかって云う話やったんですよ…あっ、すみません。」


「……ようするに、男らしいけど、女としては魅力の欠けらも無いと……?」

「・・・・・・」

「…欠けらぐらいは…なぁ?」

「……うん。」「そうそう……」

「青田先輩…これからも、根性と勇気で頑張って下さい。」


 「有難う………」
 「みんなも頑張ってや。これからは、紫外線対策もした方が…日焼けは皮膚ガンの原因やとも言うし……」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第10話


 「お父ちゃん…ちょっとこっちへ来て、これ食べてみて。」

「え~~っ、今度は大丈夫やろな? この前の奴は危なかったど……」

「危ない分け無いやんか。味は別として、食べられるモンしか出してへんやろ。」

「味は別とせんと、重視して欲しいんや…そこが問題やと思うで……」「うわっ…これはアカンやろ。始めからアウトやんけ。」

「始めからアウトはひどいやろ。せめて一口でも食べてからやなぁ……」

「その一口が無理やろ? せやからアウトなんや。見た眼だけでも怖いのに、台所に充満してるこの匂いが、俺に食べたら危険やと教えてくれてるやないか。」「労働者にとって、いかに休日が大切か、ちょっとは考えてもらわんと。」

「なにを大袈裟な事を…ちょっと焦がしただけやんか。早よ食べて意見を……」

「ちょっとでも、大袈裟でも無いやろ? 食べてみんでも……それが俺の意見や。」

「何を言うてるんや。マサが非番やったら食べさせるんやけど、今日ははお父ちゃんしか居てないやんか。」「せっかく作ったんやで…早よっ。」

「せっかく作らんでもええんや。」「昌幸もたいがい、えらい目に合されてるみたいやけど…そのうち、どっちか死ぬ日が来るど。」

「アホな事言わんといてや。お父ちゃんとマサが死ぬようなモン、お客さんに出されへんやないか。」

「夕子、お前…だいそれた事を考えたらアカンぞ。そんな事したら、大阪の食文化が根底から崩れてしまうやないか。」

「やかましいわ! なにが大阪の食文化やねん…アホっ。」「こないして、眼と鼻を押さえて食べたらええんや。観念して食べんかい…このくそ親父が………」

「こ、殺される~~」「……あっ、これはアカン…だいたい、なんて云う料理やねん?」「中には…なにが入ってるんや?」

「これはやなぁ、筑前煮が煮詰まり過ぎて、途中からきんぴらへと華麗なる変身をとげた……今日しか味わう事の出来へん貴重な一品なんや…なっ、生きてるやないか。」

「2時間後に死んだら、ど~するつもりや?だいたいやなぁ、なんで、無事に完成したモンを食べさせてくれへんのや~?」

「そこやねん。無事に完成したら自分でも食べるんやけど、中々…無事に完成してくれへんのや………」

「…自分で食べた事は在るんか?」

「……ない。」

「お前、料理学校に通いながら、努力の順番…間違うてるんとちゃうやろなぁ?」

「努力の順番ってなんやねん?」

「俺に詳しい事は分からんけど、普通は技術と味付けを並行して習うんとちゃうんか?」 

「う~ん…どうやろか? とにかく、まだまだ基礎的な事ばっかりやからなぁ。それに味付けも技術の内やないのんか?」

「それは、そうやなぁ。」「でもお前が器用なんは知ってる…しかし、それにしてもや、包丁さばきなんか、最初はど~なる事やと思うたのに、今やお母さんが驚くほど上手いやないか。なのに味付けときたら、幼稚園レベルや。これって、不思議やと思わへんか? バランスがおかしいやろ…?」

「それで、努力の順番ってか? 自分でも、おかしいとは思うけど、理由は分からへん。」「あえて言うなら、包丁を持ってる時は楽しいけど、包丁を置いたとたん、ど~云う分けか緊張感が緩むんや。」

「そ、それが理由やろ。一言で言うたら性格に問題が在るんや。」

「えっ、そうやろか?」

「それしか無いんとちゃうんか? 昌幸やお母さんはどない言うてるんや?」

「マサはこの前『今回は自信作やで』って食べさせたら、よっぽど嬉しかったんか、涙流しながら食べて、眼、どころか唇まで腫らして『もうちょっと辛さを押さえたら、ばっちりや』って言うてくれたから、お父ちゃんと都合が合う時に、二人に食べさしたるつもりなんや。」

「なぁ夕子、一週間ほど前なんやけど…昌幸の奴、真っ赤な眼と腫れた唇で、ここへ来てなぁ『先生、巻き込んですみません』って言うて帰りよったんやけど…今の話と合わせて、なんか関連が在るんとちゃうか?」

「それは無いわ。泣いて喜ぶほどやのに…マサが素直なんは、お父ちゃんもよう知ってるやんか。」

「……ほ、ほんなら、お母さんは…なんて言うてるんや?」

「マサとお父ちゃん以外には『食べさせたらアカン』って。他は…まぁ『ボチボチ頑張ったらええやん』と、それぐらいやで。」

「今のところは、週一の日曜日だけやから持ち堪えてるけど『ボチボチ頑張る』んも、ほんまにボチボチにしといてくれるか。」

「あっ、そうや。この『変身・筑前煮スペシャル・きんぴらバージョン』はちょっと失敗やったけど、晩御飯はマサと一緒にその『自信作』を食べさせたるわ。あいつ今日は、夕方に帰って来よるんや。」

「いや~残念やけど、俺、今日は茂ちゃんらと飲みに行く予定が……それに『変身…なんとか』の失敗はちょっとや無いど。」

「あっ、それやったら今から材料買いに行くついでに断っといたるから、心配いらんで。ほんで……マサとこにも寄って、おばちゃんに伝言たのんどいたら一石二鳥やんか。」「ほな、行ってくるわ。」

「…行ってらっしゃい………」「昌幸…一生恨むからな。」


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