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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第6話

   「なぁ、藤川先輩が怪獣に襲われた話…知ってるやろ…?」

  「まさか~知らん人は居て無いと思うで。 もはや…うちの学校だけの話でも無いし…。」

 「せやろなぁ…10人以上から電話掛かって来たもんなぁ……私も、20人くらいには電話したもん。」

 「私もそうやったわ……。 あの藤川先輩が…まさか……⁉」                                             「最初に聞いた時は、『怪獣ってほんまに居てたんや。』って思うたぐらいや… すぐに青田先輩の事やって分かったけど。」

   「あ…アキちゃん………。」

  「なぁ、良子はそう思わへんかった…?」

   「だから…アキちゃん…って……。」

  「あの藤川先輩がやで……怪獣でも無かったら…誰が…?」

   「怪獣でも無かったら…?」

  「うわっ…かいじゅ……」 「青田先輩、お早うございます。」

   「お早う…ええよ…予想は出来てた。」

    「先輩…あの~~~」

  「かまへんって…」「今まででも怒った事なんか無いやろ…?」

   「はい、それは確かに…けど……」

  「もう、あきらめてる…相手があのアホや。」「恐竜って言い始めたんも…元々は…うちやしなぁ。」

   「えっ、そうなんですか…?」

「元々はあいつ一人が、恐竜や怪獣やって言うてたんやけど…そのうち、うちのあだ名は【キングギドラ】に落ち着いたんや。」  「うちも勝手にあいつの事を『ハ虫類の脳みそ』とか言うてたら、最初は『可哀そうや…』って言うてたお父ちゃんが、『夕子お前は、キングギドラやから怪獣やろ…? ハ虫類を大きしたら恐竜やないか。』って…ほんま、ええ家族と、友達に恵まれたわ…。」

 「…恐竜と怪獣のルーツが判りました……。」「予想はついてました……素晴らしい家族とお友達やと思います……。」

  「…………先輩、これ……高木さんや、伊藤さんほどや無いかも知れませんけど…気合入れて作りました。」

  「私も…右に同じです。」

  「ありがとう……。」「うわっ! これはまた凄いやんか~~ 二人とも、大きさと迫力で勝負って感じやなぁ…?」

   「はい、その通りです…判ってもらえて嬉しいです。」

「右に同じです… とにかくなんの技術も無いので…全財産を掛けて購入したチョコレートが…この形になったと思って下さい。」

  「こ…これ、一気に食べたら…命に関わりそうやなぁ…心して食べるわ……。」

 「はい…卒業してからもよろしくお願いします。 二十歳の誕生日には、お店に直行しますので。」

   「全面的に…右に同じです。」

 「それは、楽しみやなぁ…あんたらは後輩やから…当然、うちも飲める歳になってる…鍛えとくわ…。」

 「そんなん、ちょっとぐらい…あっ!先輩、ルールや規則には厳しいですもんね。 ご主人も警察官やのに失礼しました。」

   「あ…アキちゃん…って…もう……相も変わらず…。」

   「あっ…未来の、やった。」

  「せやから、アキちゃん…そう云う問題やのうて…ほんまに……この子だけは…先輩、聞き流して下さい…。」

 「良子こそ、気を使わんでもええよ…アキらしいやんか…それに、あんたらには…何を言われてもかまへんし…。」           「ただ、恐竜との話は…オリンピックを【生贄】にした、仮、仮、仮、仮契約やからな。 それだけは覚えといてや。」

  「えっ!【生贄】ですか…? それってもしかしたら…契約は成立して無いって事と……。」

   「アキちゃん! あんたええ加減に…早よ行くで、今日の先輩は忙しいんやで。」

   「失礼しました……後でまた覗いて下さい。」

   「うん、ありがと………。」 (今の二人も…間違いなく体育会系や。) 
             (しかしこれは…ごっついなぁ…これ食べて恐竜が鼻血なんか出したら…⁈…  
                               …おもろいけど、気持ち悪いやろなぁ…アカン考えんとこ。)


  「先輩、お疲れ様でした~。卒業式までにもまた、来てくれますよね…?」

  「うん、週一くらいは来るつもりやで…。」

  「すごい数ですけど、とにかく1位~3位までは発表しに来て下さい……お願いします。」

 「……うん、わかった。 ほな、みんな有難うやで…お疲れさま…。」 (ほんまに…みんな…有難う……)


  「うわ~っと…これは想像をはるかに超えてるやないか…どないして持って帰るつもりやねん…?」

   「はい…これ…!」

  「…でっかい風呂敷やなぁ~~見た事もないサイズやで。」

  「お婆ちゃんに相談したら、箪笥の奥から出してくれたんや。」

 「こんなもん担いだら、風呂敷から足が生えたみたいに成ってしまうやないか…。」

   「うちやったらな。」

  「ちょっと待て…これ全部、俺に持たせるつもりやないやろなぁ…?」

  「そんなん当たり前やないか……あんた風に言うたら…おお当たりや…。」

   「ふむふむ、なるほど……って…どっちの当たり前…?」

   「マサが一人で持つ方の当たり前。」

 「お前、今年はすごい事になるって判ってたんやろ…? カバンぐらい用意しとかんと。」

   「後輩にもそう言われたんやけどな…。」

   「それこそ当たり前やないか…。」

 「アホっ! なんぼ貰える事は予想出来ても、それを見越して袋やカバンを用意する分けにはいかんやろ。」                      「風呂敷やったら、シューズケースにでも入るやないか…アホっ!」

 「いつもながら、最初と最後に……今は、そんな事言うてる場合や無さそうやな……。」                              「………これでなんとか……おう、ずっしりや。 このままガード下へ持って行ったら、すぐに売れるど…ゴメン、冗談や…。」

 「風呂敷で顔が見えへんから云うて、うちが怒る前に謝るくらいやったら…始めから言わんといたらどうやねん……。」

 「…………なぁ、…物心ついてからずっと思うてる事なんやけど、なんで…なんでも判るんや…?」

 「今のマサの一言で、うちの言うた事が正解やって判ったやろ…?」                                        「必ず正解してる訳でも無いけどな…あんたは、いつもその場で答えを教えてくれるんや。」                           「後はそのデータを積み重ねたら…予想の的中確率も上がっていくと云う寸法や…。」

   「……!…?………」

  「感心しながら、悩んでもしゃ~ないで。」

   「い、今は、黙ってたやないか…?」

   「ほら…今、判ったやんか………。」

  「……お、お前には、一生勝たれへんのやろか…せやろなぁ…。」

 「ええか、いま本気で…力勝負の喧嘩をしたら…絶対マサの勝ちやんか…? なぁ、衝撃の事実教えたろか…?」   
   「あんたは、うちに負けて…喜んでる。」

    「えっ…?… え~~~っ!?…」

  「そうは思わへんか…? ちょっと…思い当たった顔しとったで…。」

 「…いや、これはちょっと……そ…そうかも…全部は否定出来んような……。」

「よ~~~~う…考えてみ…? 全部とは違うても…ほとんどやと思うで…?」「心の中でいくら葛藤しても…答えは一緒や…。」        「せやから、力ずくの喧嘩でも、死ぬまで…うちの方が強いんや。」

 「まだ葛藤中で…答えはまだやった…けど、答えは一緒なんやな……確かに、どんな喧嘩でも…勝てる気がせえへん。」

 「なっ! 絶対マサの方が強いのに……。」「せやから…人に自慢する訳にはいかんけど…うちには判ってる事がある…。」      「うちを命がけで守ってくれるんは、お父ちゃんと、お母ちゃんと、マサ…あんただけや…親以外にも居てるって凄い事やで。」

   「そんなん、嫁はんや家族を守るんは当たり前やないか…。」

    「そこやねん…うちはまだ嫁はんとちゃうやろ…?」                                                  「せやのにマサ、あんたは子供の頃から……うちが、嫁はんに成るもんやと思いこんでるやないか。」

   「……思うてたら…アカンのか……?…厭や…って言うんか…?」

 「かまへんよ……時々…『うちも、そう思うてるんとちゃうやろか…?』って…考える事があるんやから。」

 「ほんまか…?」「ゆ…夕子、今やったら…夢かどうか確かめるために、もう一発殴ってもかまへんで。」

「あのなぁ、考える事は在っても…答えは出てへん。」「それに、あんたの…そんなややこしい性格が…時々めんどくさいんや!」

   「…今後、気を付けます…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第7話

   「そうか…まさかとは思うたけど、噂はほんまやったんや…。」

    「まぁ、まだまだ先の事やから……。」

 「そうやな、おなじ結婚するんでも、オリンピックへ行って…約束果たしてから一緒に成りたいもんなぁ…。」         「応援するから頑張ってもろうてや……ほな、ご馳走さま…。」

   「有難うございました…… ふ~っ…。」

  「今日は、もう店じまいですわ…。」「夕子も一息ついて…それから片づけたらよろしいやんか…。」

   「まだ、早いけど……せやなぁ……。」

  「そうやで…もう、お客さん来はっても…食べてもらう物が在りませんやんか…。」

   「うん、…暖簾入れとくわ。」

  「判ってると思うけど…夕子のお陰やねぇ…。」

   「…うちとマサのやろ…?」

  「この1週間は、異常ですわ……入りきれへんお客さんの方が、多かったんと違うやろか…?」

 「忙しいのはええんやけど、複雑なモンが在って…素直には喜ばれへんわ。」                                 「どうや…?うちは付き合われへんけど、お母ちゃん一杯飲んだら…?」

 「そうやねぇ…忙し過ぎて、進めてくれるお客さんも…居てへんかったからねぇ……。」                            「けど、よろしいわ…一人で飲むんは好きや無いし。」

 「明日は休みやのに、ちょっと待っとってや…。」「あと2年…実際には1年ちょっとや…うちが飲めるようになったら、なんぼでも付き合うたるから………あっ、お父ちゃん…まだこんな時間やけど……そう………せやねん………うん………待ってるわ。」

   「お父さんなんて…?」

  「あと、20秒で来る……はずや…。」



  「さむいやないか~~待たせたなぁ…。」

  「遅いやんか……3分も掛かってるで…?」

 「食べるモンも残ってないんやろ…3分あったら…ちょうど、チキンラーメンが出来る頃やないか…。」

 「ほんまに、マサとおんなじ頭の構造やなぁ…あいつやったら、そこが、カップヌードルに変るだけや。」

 「年代の違いやね。」「お父さん、何にする?寒いけどビールにするんか…ウィスキーのお湯割りでも作りましょうか…?」

  「お前は……?」

 「私は……最初はビールにしますわ…。」「…ほんでも、夕子や無いけど…ほんまに何してましたんや?…はい……」

 「うん…。」「お前もほい……もう、寝るつもりで着替えたところへ電話が掛かってきたんや……ふ~~旨いなぁ……。」

   「はい…。」「ほんまに……こんな時間から寝るつもりで……?…」

 「なぁ、うちのアイデアで実現したのに…2人だけの世界にハマるんはやめてや…。」

 「あぁ…これは、すまん…すまん…。」                                                                「けど、ほんまに一緒に飲める時が楽しみやなぁ…片づけは3人でやるから、まぁ、ここに来てお茶でもどうや…?」

 「勿論、そのつもりやで…でも、その前に…はい、お待ちかねの一品やで…。」

  「えっ?チキンラーメン……お前は…?」

   「カップヌードルやで。」

   「なるほど……よう出来た話や…。」

 「あとは、わずかですけど…この残りモンも、片づけて下さいね……無理には、食べんでもよろしいけど……。」

 「なぁ、お母ちゃん…お父ちゃんなぁ、さっきの電話で『明日は休みや…もう食べるモンも残ってない…店も、もう閉めたんで、お母ちゃんの相手をしに来いってことやろ』…って、うちの声聞いただけで…こう言うたんやで。」

  「それは…明日が休みで、この一週間の忙しさを考えたら……。」

 「あんた…ええカッコはやめとき。夕子のために、私が種明かしをしますわ…お父さんは、元々来るつもりでしたんや。」

   「えっ、そうなんか…?」「土曜日やから…?」

「全部をひっくるめてですわ…この一週間は忙しくて、お父さんが覗いた時も、まだお客さんが一杯で入れませんでしたやろ…。」   「この土曜日に来えへんかったら、一週間飛んでしまいますやんか。」

  「それは、うちもそう思うたから…せなのに、なんで着替えてたんや…?」

   「嘘に決まってますやんか…なぁ…?」

  「ほんま、お前には…かなわんなぁ…。」

 「夕子の声聞いただけで『こう言うた。』って処で分かりましたわ…。」                                        「お父さんの考えは…今週はとにかく忙しい、おまけに明日が休みと云う事は…料理はそろそろ無くなる頃や…でも、行ってもええのか…どうなんか…と、思うてる処に夕子の電話や。」                                               「決め手は……夕子は、20秒って言うてるのに…3分掛かりましたやろ…?」                               「…待ってましたと…思われるのが恥ずかしかった…これが正解ですわ…。」

  「す…すご……大当たり…みたいやなぁ…?」

  「うん、細かいとこまでな……全部、当たってる…ズバリ大当たりや。」

  「さすが、お母ちゃん…役者が違うわ。」「これを、てのひらの上に乗ってる…って云うんやろか…?」

  「夕子と、昌幸くんの場合は…これ以上やと…私には思えますけど…?」

   「それは、俺でも…そう思う。」

  「あのなぁ、文鳥やインコやったら…手の上に乗っても可愛らしいけど…ハ虫類はマニアック過ぎるわ。」

「乗せる方かて怪獣やないか…ゴメン。」「お前のその…瞬間的な反応…ど~にかならんか…?俺でも、ちょっとビビったわ。」         「お前、今…光線の出そうな眼でにらんでたけど…ええか、イメージを変えるためには…自己改革も必要やど。」

「あのなぁ、うちはお父ちゃんとマサ以外には…可憐とは言わんけど…しとやかとも言えんけど…おまけに、大人しい事も無いし、色白どころか真っ黒やしなぁ…。」「おまけに、洗濯板みたいな体にスポーツ刈りに近い髪型って……お母ちゃん、もうアカン……うちに、女としてのええとこって在るんやろか…?」

  「そんなん…一杯在るはずですわ…。」「…なぁ、お父さん…?」

「あ、当たり前やないか。」「料理をしてる処は見た事ない…けど…この春からは料理学校に通う事やし…え~っと、ほんで…。」   「クラブを辞めたと云うことは…色もちょっとは白くなるやろ…?せやっ!…クラブや、足は速いで~~ほぼ無敵や~!」

  「お父ちゃん、もうええ…。」「よ~判った…うちは、足が速いだけの女やったんや…。」

   「お父さん、もうちょっとなんとか……。」

   「洋子、女のお前が…なんとか……。」

 「なぁ……二人の世界に入られるのも寂しいけど…親子3人で遊ぶんも…やめとこ…。」                               「いつまでも、うちには…マサしか居て無いと…思わす作戦に付き合うてられへんわ。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第8話

   「マサ、チョコレートのベスト3…決まったか~?」

  「うん、だいたいはな…後は、お前の意見も含めて…夕子が、自分で決めたらどうや…?」

  「食べて無いうちが、どうやって決めたらええんや…?」

  「ほぼ一週間、家族ぐるみで食べたけど…まだ残ってる。」                                             「それで…『これは』って奴は、食べんと置いて在るんや……それを夕子が見て決めてくれ…いや、決めんとアカンやろ…?」     「凄いのが在るんやで……食べんでも、見て決めたらんと、全部が手作りやのに…くれた相手に悪いやないか。」

「たしかに…その通りや。」                                                                       「見せてもらうわ…あのソフトボールか砲丸か…みたいなヤツは…?どないしたんや…食べたんか…?」

 「在る意味、あれが一番すごいかもしれん……実は、本物の砲丸で型を取って作ってたんや…。」                           「残してあるから…見たら、お前にも判るはずや。」

   「嘘やろ…なんで判るんや…?」

 「粘土か何かで型を取ったんやろなぁ、銀紙はがしたら…メーカー名のエバニューのロゴ(Ever new)がはっきり入っとった。」   「けど、とにかく、あれは一気には無理や。かなりの確率で命に関わるど…第一、口のサイズから考えても噛み付きも出来へん。」

「第一印象は、うちもそう思うた……あれ一個で、胃袋満タンや…無理やり食べたら、あんたも言う通り…命に関りそうや…。」

 「せやな…けど、ほんまに色々と凄いのが在ったんやで…どうせ、全部は食べ切れへんしなぁ…ほれ、これや…。」

  「うわ~~全部でいくつ在ったんや…?」

 「83個や…」「だんだんペースも落ちて来て、全部を見るだけでも…苦労したで。」

  「そうか、せやろなぁ…」「それで、これが予選を勝ち残った面々なんか…?」

  「どれも、大作ばっかりや。」「せやけど、一位は…誰が選んでも断トツやと思うけどな。」

 「これやろ…?やっぱり高木か…これは立派な売りモンに出来るなぁ。」「凄過ぎるやないか…ど~やって作ったんやろ…?」

 「完璧なスパイクシューズや……最初見た時はビックリしたで~。」                                           「サイズは小さいから、本物で型は取らへんしなぁ……箱はほら、この靴箱にスポンジと綿に包んで入ってたんや。」

  「へぇ~~踵からのラインがよう出来てるけど、なんと云うても…スパイクと紐やで。」

  「なっ…!一位は、これしか無いやろ…?」

 「うん…。このトロフィーも、よう出来てるんやけど…。」                                                    「これも、やっぱり伊藤ちゃんか……気合の入り方が違うとは聞いてたけど、ここまで来たら…逆に怖いわ。」

 「どうや、自分で見て決めたらんとアカンと云うのが分かるやろ…?これで、一位と二位は決まったやないか。」

 「ほんまや、マサの言う通りやったわ…3位も砲丸しかないやろ……みんな凄いけど、ここは力技の勝ちやで…。」

 「実はなぁ、ここに残ってない物の8割は力技やった。 そのまた8割は、なんぼ考えても何か判らんモンばっかりやった。」      「なんとか、無理やり解釈しても…ナマコなんか、ウミウシなんか、ひょっとしたら…ウンコかも知れへんモンまであったど。」

  「アホっ!せやけど、まさかとは思うけどな、一人か二人…思い当たる奴が居てるんが…恐ろしいわ。」

   「ウンコやとしてもか…?」

 「アホっ!あんたや在るまいし、体育会系とは云うても女の子やで……いや、あんたの言う通りやわ…。」                 「一人か二人やけどな…色合いが色合いだけに、思いついたら…やってしまいそうな奴が居てるんや…。」

  「俺には、その一人か二人の気持ち…ごっつい分かるけどなぁ…。」

   「マサ…それは、あんたやからや。」

  「夕子お前、子供の頃の事、忘れたんとちゃうやろなぁ…?」

   「なんやねん、子供の頃の話って…?」

  「お前の場合、お前と遊んだら…親に怒られる奴まで居てたんやど…忘れたんか…?」

   「…もうええ、その辺でやめとき…。」

    「思い出したみたいやなぁ…?」

    「やめときって、言うてるやろ…。」

   「理由も、思い出したんか…?」

    「理由?……か…?」

    「思い出したけど…認めたくない…?」

   「マサ~!ええ加減にしとかんと……!」

  「俺の予想も、お前ほどや無いにしても、結構当たるもんやなぁ…?」

 「このアホが…ほんなら、うちの予想も言うけど…マサあんた、この話、何が在っても喋らんと気がすまへんのやろ…?」

   「さすが夕子……俺の事を、良く御存じで…。」

 「やっぱりな…なぁ今やったら、好きなだけ喋ってもええから…今後一切、人前で思い出したり、喋ったりしたら………」

    「…喋ったりしたら…?」

  「その日を境に、永久絶縁や…覚えときや!」

   「今、辛抱して…後で喋ったら…?」

  「アホか!それもおんなじ…永久絶縁に決まってるやろ…この、どアホっ!」

 「ほな今、喋らして頂く事に…ねっ、ウンコの夕子さん…?」「おっと、今やったら好きなだけ喋ってもええんやろ…?」

  「ちょこまかと逃げやがって…このウンコ野郎が……!」

 「ウンコ野郎は、夕子お前の事や。」「ビー玉の勝負でいざとなったら、ウンコを踏んででも勝負に徹するし…喧嘩になったらその靴で平気に蹴りは入れるわ、逃げたらもう一回、ウンコ付けてから投げつけるわ…缶けりなんか、お前が鬼になったら…人が蹴られへんように…缶に、ウンコ付けまくっとったやないか。」

  「…頭の芯がクラクラして来たわ…まだまだ続くんか…?」

 「いや、言いだしたら、なんぼでも在るんやけど…この辺にしとく…。」                                             「なっ、こんな事しとったら、そらあの子と遊んだらアカンって…言われても仕方ないやろ。 思い出したか…?」

 「思い出しとう無かったけどな…。」「しかし、マサの場合は…いらん事ほど、よう覚えてるみたいやなぁ…。」              「今の話に出て来た奴…遊んだらアカンとまで言われた奴…この世に生きてたら問題やろ…?」                         「今でも生きてるんか、そいつ…?」

   「元気なんや、これが…。」

  「いまでも、あちこちで…迷惑掛けとるんとちゃうんか…?」

 「こいつの場合…小さい時ほど、理性の欠けらも感じられへん奴やったそうなんや…。」                                「けど、年齢と共に改善はされて来たみたいでなぁ…今では、何処へ行っても人気者らしいで。」

   「当然、男の子やろ…?」

  「残念な事に、女の子やったんや…。」

 「そんな奴、人気者って云うても…彼氏なんか…居てる訳ないんやろなぁ…?」

  「それが、人も羨むような……ゴメン……その眼…やめてくれるか…?」

 「ええか、『好きなだけ喋ってもええ…』とは言うたけどなぁ…好きなように喋ってもええ…とは言うてへんやろ…どアホっ!」

 

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第9話

 「とうとう卒業ですね…青田先輩、有難うございました。」「 ほんまに、これからも仲良くして下さい…お願いします。」

 「私もお願いします。」「先輩は、私らみんなの憧れなんです……並んで歩くだけでも…嬉しいんです。」                  「先輩が彼氏やったらええのに…って、思うてるのは…私だけや無いはずですわ。」

  「有難う……もしかしたら…うちは、男より…女にモテるタイプなんやろか…?」

   「もしかしたらって…もしかせんでも、絶対そうです。」

    「アキちゃん…あんただけは…また………。」

 「あっ……ついつい…」「…でも、羨ましい話ですよ…先輩には最高の彼氏が居てる事ですし…。」                        「彼氏は一人で十分やし、その上、彼女が何人も居てるなんて…目茶苦茶カッコええですやん。」

 「だから~~アキちゃん…って……。」「先輩、いつもの事で、すみません……いつものように聞き流して下さい。」

 「いや、かまへんけど…」「なぁ、マサ…藤川って評判ええんか…?『カッコええ』とかは聞いた事は在るんやけども……。」

 「そんなん、無茶苦茶カッコええですやん。」                                                            「え~っと、この中でも、浅井さんと横田、大塚の3人は好きって云うか…大ファンって云うか……。」

 「ストップ!」「もぅ~~なに言うてるねん……先輩、勘違いせんといて下さいね。」「アキ、あんただけは…ほんまに……。」       「アキの暴走を止めるんは…良子の管轄やろ…後輩まかせにせんと、しっかり頼むわ~~。」

  「まぁ、誰がどう思うててもかまへんし、勘違いもせえへんけど…あいつ、そこそこ人気が在るんやな…?」

   「それは………なぁ…!?……」

 「……仮にですけど…もし、青田先輩の存在が無かったら…バレンタインデーは…かなり危険な事になると思いますよ。」

 「間違いないですね……危険かどうかは別としても…キャリーバッグぐらいは、必要やと思います。」

   「えっ…それって、冗談やろ…?なんぼなんでも、そこまでは……⁉…」

    「いえ、青田先輩の手前…控えめに言うてるつもりですけど……。」

   「嘘やろ…⁈ ほんまに…? あいつ…そんなにモテるんか…?」

「断トツですわ…この周辺の学校、特に女子高なんか大騒ぎで…藤川先輩の試合って…応援団は女の子ばっかりですやん。」     「横田と大塚なんかも、応援に……は…必ず………。」

  「はい、先輩ストップです…そこまで。」

  「あんたら練習サボってと違うやろなぁ…?」

 「いや多分……日曜の試合とかだけやったはずやと…そ、それに、何試合も前の事は記憶が曖昧やし……。」

 「はい、それもストップです……何試合もって云うのはちょっと…具合が……」「それに、高木キャプテンも一緒に……。」

 「わ~~~~っ!」                                                                      「横田の、練習メニューは見直した方が良さそうやなぁ…と、考えてたところなんや……なっ、もう終わりにしよ…。」

   「あんたら、ほんまに……?」

 「いや~~1回も応援に行ってない女子の方が珍しい…と言うか…ど~~言うたらええのか………。」                           「でも…そもそも…青田先輩はどうして…応援に行かないんですか…?」

  「そんなもん、勝つのが判ってるからに決まってるやないか。」

「え~っ、それは調子が悪い時も在るやろうし、やってみるまでは…第一、応援って力になる事を先輩も知ってはりますやんか。」   「もしも負けたら…『応援に行っといたら良かったのに…』って後悔しませんか…?」

 「全然…!」「もしも負けた時は『アホッ!』…って云うたらしまいやんか。」                                   「けど、なるほど…うちが応援に行ってないのを知ってると云う事は……これって、たしかに試合に行かんと判らん事やわなぁ。」

  「はい……うちの生徒だけでも、50人前後は…いつも行ってるはずですよ…。」

  「そうそう… ほんで会場に入ったら、とにかく最初に青田先輩を探すんですわ。」

   「えっ、ほんまかいな……?」

 「それは、先輩が居てたら困る…って事は無いんですけど、居てない事が判ると、ちょっとでもええ席で応援せんと…ねっ。」

  「だいたい、学校別に別れて陣取るからね…。」「一番大きいのは、○○学園の応援団です。 いっつもですわ。」

 「ちょっと待って、もうええわ……なんや気持ちが悪うなってきた…。」                                        「ほんなら…あいつが、チョコレートの一つも貰われへんのは全部…うちのせいやと云うんか…?」

 「…………」「…!……」「……❕……」「…………」「……‼…」「………⁉…」「……………」「………!…」

 「いま…半分ぐらいがうなづいて、半分ぐらいが首を斜めに……」「高木、あんた…首が斜めに動いとったけど…?」

「あ~っ、一つも無いかどうかは不明ですけど…うちの【学校内では絶対にゼロ】のはずです…と、云う意味の【首斜め】です。」

  「…説得力があるのか無いのか………ほな、あいつのファンやと言うてくれる…浅井は…?」

 「う~~~っ… はい!打ち首覚悟で、正直に報告させて頂きます…。」                                      「青田先輩が居て無かったら…『遠慮なく渡すに決まってるやんか…』と、云う意味の『直首』です。」

「もうええ……疲れて来たわ…。」「マサの話は…もうこの辺で…終わりにしとこ………せっかくの機会やから…ちょっと…。」                 「…なぁ…うちの噂はどうなんや…?後輩の男子らは…うちの事をどない言うてるんや…?」

 「完璧な校内の一番星です…!男らしくてカッコええって…絶大な人気ですよ。」                               「誰に聞いても…男女の区別無く、答えは同じはずです……もちろん、藤川先輩でもかないませんわ。」

「うわっ~~ 今のは、一斉にうなづいとったけど…『男らしくて…』と云う部分に…反応したとは思わんようにしとくわ…。」       「自慢や無いけど…同級生にモテたりした事は…子供の頃から一度もない……。」                               「…なぁ…後輩と云う事は別にして…彼女になって欲しいとか云う話は聞いた事、無いんか…?」                                 「おいおい…今も一斉にうなづいたようやけど…うちの…気のせいなんか~?」

  「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

   「なんで、一人もうなづかへんねん…?今のは…ピクリとも動かんかったやないか…?…」

「それは…… 私らは、女やからチョコレートも渡せますけど、男子は、あの藤川先輩の事を考えたら…とても告白なんて…。」

 「そうか、やっぱりなぁ… あいつがチョコをもらわれへんのは、確かにうちのせいかも知れん…それは認めるとしても…。」       「うちが生まれてから今まで…男の子から、一度も告白とか…言われた事が無いんも…確実にあいつのせいやったんや…。」

  「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

「おい、またもや全員、ピクリとも動かへんのは…なんでやねん…?」「なぁ高木…陸上女子代表として説明してくれるか…?」

  「……ちょ…ちょっと……高木キャプテン…なにしてるんですか…?」

 「……い、いや、青田先輩から離れとかんと……」「私も今後、陸上部を引っ張っていかんとアカン体やから………。」

  「おい高木……どんな事を喋るつもりやねん…?」

  「え~っと…いろんな要素が考えられますが、私がまず……まず真っ先に思うのは………」

   「…真っ先に、思うのは…?」 

  「…青田先輩のスパイク…白いですけど……裸足になっても、真っ白なスパイク履いてますよね…?」

  「高木…なんや勿体つけて……日焼けの話をしてるんか……?」

 「はい…。更には…ランパンと競技用のハイカットショーツとで出来た二重の日焼け………。」                       「小学生でも…あんな黒い子は見たことが無いほどですけど……え~と、ここからは、良子が言い始めたんですけどね……。」

「ちょ、ちょっと待ってや…勿体つけてると思うたら…」「…あれは……あれは、青田先輩…陰口で言うたんやないですからね。」

  「…ここまで来たら…何を聞いても怒らへんから……勿体つけんと…早よしゃべり…。」

 「はい…くれぐれも言うときますけど……私とちゃいますよ…良子がですよ…。」                               「良子が…心を込めて、しみじみと『…あの黒さ、脂肪ゼロの筋肉と筋だらけの足…マサイ族や~~。』って…良子が……。」

 「ちょっと、ちょっと…良子、良子って、卑怯やんか……みんな一緒に爆笑しとったくせに……。」                      「ほらっ…!伊藤ちゃんなんか、今も、唇かんでこらえてるやんか…。」「そ、そうや…青田先輩…続きがあるんですよ…。」        「高木さんこそ、その後…『いやいや、青田先輩の場合…なんと云うても上半身こそ…真骨頂やで…!』って……。」

「アカン…!良子ゴメン…私が悪かった……踏み込んだらアカン領域ってあるやろ…なにより…そろそろ帰る時間やろ…?」

「もう踏み込んでる…ここまで来たら…それは聞こえへん。」「青田先輩に、隠し事は通用せえへん…私の覚悟は整うた…。」    「…では、改めまして…青田先輩もご存じの通り…陸上部の日焼けって、ランニングシャツだけや無うて、競技用セパレートやスポーツブラの日焼けって…当然ながら、みんな当たり前の事ですよね…?」

  「良子、アカンて……二人だけの秘密って…約束したやんか…。」

 「もう遅い……あんたも覚悟を整えとき……。」「青田先輩も当然…セパレートとスポーツブラで出来た…二重の日焼けが在るはずですよね…?せやけど在る時、高木さんが…シャワールームで見たものは……!?…」

 「…アカンて……今日の良子は、いつもの【アキ】より…アカン……今日は逆に【アキ】が良子を止めてえな……。」

   「キャプテンと云うのは忘れてええから、一年で押さえとき…。」

  「…悪い予感しかせえへんけど…聞くしかない……良子、高木が見たものは…?」

 「どう見ても、スポーツブラだけで出来た、二重の日焼け跡…その心は…?」

 「……その……」「…ゴクっ…」「…………」「……心……」「………」「……は……」「………?……」「…………」

   「…アカン…うちの人生…今日までや………。」

 「あっ、あれか~~~?!なんや~あんなもん…なんにも大した事やあらへんやんか。」                           「高木も、なんも心配する事なんかあらへん……ただ…前と後ろを間違うただけや…誰でもする事やんか…?」

 「………」「…!……」「……❕……」「………」「……‼…」「………⁉…」「…え~~っ…」「……!…」「…うそ…」

 「………嘘やろ?」「今…全員が……首を横に…? 嘘やん…誰でも1回ぐらいは……えっ……1回も無いんか…?」

  「……無……」「…!……」「……❕……」「…………」「……‼…」「………⁉…」「……な………」「………!…」

 「………もうええ…何回、うなづくつもりやねん……見てる眼がしんどいわ……」                               「確かに、競技用セパレートは間違いようが無いし…普通のブラジャーも間違いにくいかも知れんけど………。」            「せやけど、スポーツブラに関しては…前も後ろも…見わけが付かへんやないか……?」「…なぁ…みんな……?」

 「付くでしょ…普通…。」「それに…『普通のブラジャーも間違いにくいかも…』って言いましたよね…?」                   「あの~~青田先輩…『かも』って事は…普通のブラジャーは使わないんですか…?」

 「えっ?…伊藤ちゃんやったら、まぁ必要かも知れんけど…他のみんなかて、うちとそんなに変らんから…いらんやろ…?」   

 「いります!普通…絶対に必要でしょ…?本気で言うてるんですか…?」                                   「先輩には、何べんも驚かされて来ましたけど…卒業式に衝撃の事実が明らかになりましたわ……。」

  「そ、それって… まさか先輩…もしかして、ブラジャー持ってないんですか…?」

 「え~~っ…そんなんもん……せ、せやから365日、スポーツブラやんか…。」「高木は持ってるんか…嘘やろ……?」

  「持ってますよ!当たり前ですやん。」「まぁ…私の場合…高校に入る前からくらいですけど…ね。」

 「と、言う事は…中学生の時から…? 嘘や…高木でも……?福田は……絶対にいらんはずや……なぁ…?」

 「…残念ながら、私も…正直、あんまり必要は無いんですけど…去年、入学してからは……高木先輩と同じです。」

 「せやから、スポーツブラやろ…?うちも、スポーツブラは中学の時から…当たり前に……。」                       「えっ…?違う……?嘘やん……ほんま…に…?」「…なぁ…誰かなんとか言うて………高木…助けてくれ……。」

   「先輩、この頃では…小学生から使ってる子も…珍しく無いんですよ…。」

「確かに居てたよ…今田の…そんな事はど~でもええねん…でもそれは、特殊な…ホルスタインとかの仲間とちゃうんか…?」

 「…今田さんとか言う人には内緒にしときますけど…牛やないんやから…ほな、先輩は何の仲間なんですか…?」

  「うちは、その…スペアリブとか……骨付きカルビとか……。」

   「…意味が判りませんわ。」

  「スポーツブラにもサイズは在りますよね…?先輩の場合は……?」

「うちか…?うちはやなぁ…その手の話は興味がないし…好きでもないし…まぁ指定さえ無かったら…中学当時のままでも…。」

「先輩、そろそろ気がついて下さい。」「先輩って、美人かって聞かれたら、物凄い美人ですけど、暗い処では表情も判らんほど黒いし…そのゴツゴツした体にその髪型では、初めて会うた人は、カッコええ男前としか見えないと思いませんか…?」

 「……確かに…学校以外のトイレでは、男やと思うて睨まれる事も多いわ……。」                               「その代り、混んでる時は男子トイレに行っても…バレへんから便利なんやで…ええ事もあるんや…。」

   「それが出来るんは、地球上で…青田先輩だけです!」

  「元々、なんで告白された事が無いのかって云う話やったんですよ……あっ、すみません…。」

   「……ようするに、男らしいけど…女としては、魅力の欠けらも無いと……?」

 「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

   (うわ~~これはマズイ…) 「おいっ……いや……欠けらぐらいは…なぁ……?」 

 「……はい……」「……そ…」「……!?……」「……えぇ……」「…………」「……もち……」「…!!……」「…………」

  「…青田先輩………これからも、根性と勇気で頑張って下さい。」

 「うん…有難う………。」「みんなも、高木キャプテンの言う事を守って、怪我だけはせんように…気を付けて頑張るんやで。」   「そして今日、気が付いたんやけど…これからは、紫外線対策もした方が…日焼けは皮膚ガンの原因やとも言うし…なぁ…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第10話

  「お父ちゃん…ちょっとこっちへ来て、これ食べてみて…。」

 「え~~っ、今度は大丈夫やろな…?この前の奴は危なかったど……。」

 「危ない分け無いやんか……味は別として、食べられるモンしか出してへんやろ。」

 「味は別やとしたらアカン…そこは重視して欲しいんや…そこが問題やと思うで……⁈…」                            「…う……わっ……これ、これはアカンやろ………始めからアウトやんけ。」

  「…始めからアウトはひどいやろ~ せめて一口でも…食べてからにしてえなぁ……。」

 「その一口が無理やろ…?せやからアウトなんや。」                                                「見た眼だけでも怖いのに、台所に充満してるこの匂いが…俺に食べたら危険やと…教えてくれてるやないか…。」                 「労働者にとって、いかに休日が大切か…ちょっとは考えてもらわんと…。」

  「なにを大袈裟な事を…ちょっと、焦がしただけやんか……早よ食べて意見を……。」

  「ちょっとでも、大袈裟でも無いやろ…?食べてみんでも……それが俺の意見や…。」

 「何を眠たい事…言うてるんや…マサが、非番やったら食べさせるんやけど、今日は、はお父ちゃんしか居てないやんか。」      「せっかく作ったんやで…早よっ!」

 「せやから、せっかく…作らんでもええんや…。」                                                      「昌幸もたいがい、えらい目に合されてるみたいやけど…そのうち、どっちか…死ぬ日が来るど。」

 「アホな事言わんといてや……お父ちゃんとマサが死ぬようなモン、お客さんに出されへんやないか…。」

 「夕子、お前…だいそれた事を考えたらアカンぞ……そんな事したら、大阪の食文化が…根底から崩れてしまうやないか。」

 「やかましいわ!なにが、大阪の食文化やねん…アホっ。」                                              「こないして、眼と鼻を押さえて食べたらええんや……観念して食べんかい…このくそ親父が………。」

 「こ、殺される~~」「……あっ、これはアカン…だいたい、なんて云う料理やねん…?」「なにが入ってるんや…?」

 「これか…? これはやなぁ…筑前煮が煮詰まり過ぎて、途中からきんぴらへと華麗なる変身をとげた……と云う……。」          「今日しか、味わう事の出来へん…貴重な一品なんや…なっ、生きてるやないか…。」

 「2時間後に死んだら、ど~するつもりや?だいたいやなぁ…なんで、無事に完成したモンを食べさせてくれへんのや~?」

 「そこやねん…… 無事に完成したら、自分でも食べるんやけど、中々…無事に完成してくれへんのや………。」

   「…自分で、食べた事は…在るんか…?」

   「……ない。」

  「お前、料理学校に通いながら、努力の順番…間違うてるんとちゃうやろなぁ…?」

   「努力の…順番ってなんやねん…?」

 「俺に、詳しい事は分からんけど…普通は、技術と味付けとを並行して習うんとちゃうんか…?」 

「う~ん…どうやろか?とにかく、まだまだ基礎的な事ばっかりやからなぁ…それに味付けも…技術の内やないのんか…?」

 「それは、そうやなぁ。」「でも、お前が器用なんは…よう知ってる…それこそ、包丁さばきなんか、最初はど~なる事やと思うたのに、今やお母さんが驚くほど上手いやないか。」                                                     「それやのに、味付けときたら…幼稚園レベルや…これって、不思議やと思わへんか…?バランスがおかしいやろ…?」

 「それで、努力の順番ってか…?自分でも、おかしいとは思うけど、理由は分からへん。」                         「あえて言うなら、包丁を持ってる時は楽しいけど、包丁を置いたとたん…ど~云う分けか緊張感が緩むんや。」

  「それが理由やろ…。一言で言うたら…性格に問題が在るんや。」

   「えっ、そうやろか…?」

 「それしか無いんとちゃうんか…?昌幸やお母さんはどない言うてるんや?」

「マサはこの前、『今回は自信作やで』って、食べさせたら、よっぽど嬉しかったんか…涙流しながら食べて、眼、どころか唇まで 腫らして…『もうちょっと辛さを押さえたら、ばっちりや。』って、言うてくれたから、お父ちゃんと都合が合う時に、二人に食べさしたるつもりなんや。」

 「なぁ夕子、一週間ほど前なんやけど…昌幸の奴、真っ赤な眼と腫れた唇で、ここへ来てなぁ『先生、巻き込んですみません』…って言うて帰りよったんやけど…今の話と合わせて…なんか関連が在るんとちゃうか…?」

  「それは無いわ。泣いて喜ぶほどやのに…マサが素直なんは、お父ちゃんもよう知ってるやんか。」

   「……ほ、ほんなら、お母さんは…なんて言うてるんや…?」

「マサと、お父ちゃん以外には『食べさせたらアカン』って…他は、まぁ『ボチボチ頑張ったらええやん』と、それぐらいやで。」

「今のところは、週一の日曜日だけやから持ち堪えてるけど『ボチボチ頑張る』んも、ほんまにボチボチにしといてくれるか。」

 「あっ、そうや…この【変身・筑前煮スペシャル・きんぴらバージョン】はちょっと失敗やったけど、今日の晩御飯はマサと一緒にその【自信作】を食べさせたるわ……あいつ、今日は…夕方には帰って来よるんや。」

「いや~残念やけど、今日は茂ちゃんらと飲みに行く予定が……それに『変身…なんとか』の失敗は【ちょっと】や無いで…。」

 「あっ、それやったら…今から材料買いに行くついでに、断っといたるから…心配いらんで。」                        「ほんで……マサとこにも寄って、おばちゃんに伝言たのんどいたら…一石二鳥やんか。」 「ほな、行ってくるわ~。」

   「…行ってらっしゃい………。」「…昌幸、一生恨むからな…。」