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夕子、西成区花園町在住。 第42話      (居酒屋「洋子」 前編)

  「ごちそうさま。 お母ちゃん美味しかったわ… けど、今日も急な話で迷惑かけたんとちゃうのん…?」

   「いえ、今日はお婆ちゃんから連絡もらってましたから… 電話って便利ですなぁ…。」

  「そうか、うちは昨日まで聞いて無かったから…お母ちゃんは聞いてたんや…。」

 「私も、夕子とそうは違いませんで… だいたい婦人会の集まりは、前もって予定してた事やと思いますけど、お通夜と重なったんは急な話に決まってますがな…それより、お父さんは晩御飯、どないするつもりやろか…?」

   「飲み友達と…松喜寿司やろ。」

 「お母ちゃんや、お父さんは付き合いの無い人ですけど、松喜寿司さんは…お通夜に行くはずやと思いますねん。」         「まあ、終わったら…お店を開けるのかも知れませんけど…。」

   「そうなんや……。」                                                                「飲みに行く処はなんぼでも在るけど、食べるとこはなぁ…昼と夜では町が一変するから…麺類だけは避けるはずやし…。」

 「そうですなぁ、晩御飯にお好み焼やホルモンって云うのも、何かもう一つやしね… でもまぁ、どないでもなりますやろ。」


    「ママ~、ちょっと早いけどかまへんか…?」

「あっ、森川のおっちゃんや、いらっしゃい。」 「お母ちゃん、ちょっと手伝うていくわ…帰っても誰も居て無いし。」

  「おや若女将、どないしたんや…? 今日はまだ火曜日やで…。」

 「お婆ちゃんが出かけてるから、ここで晩御飯やってん。 おっちゃん、今日は一人なん…?」

「すぐに山ちゃんが来よる… そこでタバコ買うてるわ…ほんでもって…先ずは、ビール二本と土手焼き二つや。」

 「まいど~、あれ、今日は土曜日やったかな? …はい森川さん、これで良かったはずやね…?」

   「えっ、これ、ロンピ…おう、すまんなぁ…ええのんか…?」

  「なに言うてますのん、ついでですやんか…。」                                                  「はい、はい、まずは一杯……ん、若女将、有難う。 …はい、お疲れ様…ふ~っ、うまい!」

  「うん。 ほんまに旨い。 最初の一杯は季節に関わらず…やっぱりビールやな…。」

 「…そうは言うても、ちかごろは朝晩が冷え込む季節になって来ましたやんか…森川さん、そろそろ二杯目からはお湯割りなんかどうです?」

   「いや~まだまだ……せやな…うん、ママ~~、二杯目はお湯割りにするわ。」

    「はい…いつも通りのロク・ヨンでよろしいね…?」

     「うん、きもち薄めで…。」

 「森川のおっちゃんって、日本酒は冷で飲むのに…焼酎はお湯で割るんやなぁ…。」

   「さすが若女将や、客の好みを覚えてるやないか。」

 「うちの記憶に在るおっちゃんは、とにかくここで飲んでるおっちゃんやから、知らんあいだに覚えてしもうたわ。」           「シイタケと納豆が嫌いなんも知ってるで…。」

   「えっ、森川さん、納豆あきませんの…?」

 「あんなもん、人間の食うもんやあらへん。」                                                    「なにが悲しゅうて…… だいいち、糸、引いとるやないか、糸…… 山ちゃん、お前…食えるんか…?」

   「旨い、安い、健康的…完璧な食いもんですやん。」

  「安うて健康的なんはそうかも知れんけど、俺は騙されへんど…絶対に食わん。」

 「ちょ、ちょっと、それやったら食べず嫌いですやんか。 あんな旨いもん食べんと損でっせ…ねっ、ママ…?」

 「ええ、まぁ、私も夕子も好きなんですけど……。」                                                  「…実は、サブちゃんも…森川さんと同じ事…『人間の食うもんや無い。』とか言うて…あきませんねん。」

    「せやろ。 サブちゃんとは昔から気が合うんや…… 誰が何と言おうと…絶対食べへん。」                         「だいたい…死んだ嫁はんの遺言で、納豆だけは…食べたらあかんと言われてるんや…。」

   「奥さんは…生きてはります!」

    「……せやったかな……?」

   「もう、怒られますよ…知りませんで~。」

 「実は、そろそろ来る頃やと思うわ…。」                                                       「今日は、俺らが早かっただけで…いつものように待ち合わせしてたんや… さっきの事は内緒やで。」

   「面白い人やとは思うてたけど、おっちゃん…ほんまにおもろいわ~。」                                  「けど…うちの場合、内緒にしとくように頑張ってみるけど…おばちゃんの顔を見て…口が裂けてしもうた時はゴメンやで。」

   「口が裂けたらあかんがな。 裂けても言わんといてや…たのむで若女将…。」

 「あっはは…夕子もみんな、ほんまにおもろい…ええのりですわ。 ヘタな漫才より、面白いかも知れませんなぁ…。」


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