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夕子、西成区花園町在住。 第37話       (マサの目標…)

 「なぁ、おとうちゃん…マサの奴あれ以来、お父ちゃんに惚れ込んでしもうて、柔道でオリンピックを目指す事にしたそうやわ。」

   「体操選手はどないしたんや…?」

  「せやねん、あいつ何でも思い込みが激しいからなぁ…。」                                           「それも去年のオリンピック見て、憧れよってんけど…まぁ、実際のところ、なにをやっても上手いんやで、器械体操も鉄棒も…うちにも出来へんバク転かて出来よるねん。 せやから、お父ちゃんには憧れたとしても…『目指すんは体操選手でええやん。』…って、言うたんや…けど…。」

    「けど…?」

 「なんや、言葉一つ一つに重みを感じたとか言うて…それにお父ちゃんの持ってる雰囲気が気に入ったらしいんやけど、それは柔道を通じて身に着いたんやないかと…マサにはそう、感じられるんやて。」

 「嬉しいような、ちょっと、こそばい気もするくらいやけど…それは実際にそうかもしれん。 柔道と云う格闘技でありながら…なんて言うか、上手くは言えんのやけどな、本気でやればやるほど、独特の世界観が開けてくるんや。」

   「今のうちには、ちょっと難しいわ……。」                                                    「それでな、柔道選手になって…そのあと、警察官になるって云う…最終目標が出来たらしいわ。」

    「ほんで、警察辞めたら骨接ぎ屋か…?」

  「それは判らんわ…けど、それで【セイカンなんとか】を始めたりしたら…あいつとは一生、口きかへん。」

    「…ありがとう、俺とは口をきいてくれて…… なぁ話しを変えよか……。」

  「せやけど、なんで、警察官なんやろ… お父ちゃんはもう、警察辞めてるのに。」

 「男の子が憧れる職業のひとつなんや。 特に、柔道やってる子には、なおさらなんやろ… お父ちゃんもそうやった。」

  「ふ~ん、そうか…女の子のバスガイドとか…スチュワーデスと一緒なんや。」

    「そうかもな、…夕子もそうなんか…?」

  「…ちょっとだけ……いや、あんまり興味ないわ…。」

 「うん、そうやなぁ…夕子にはちょっと、イメージが違うように思えるなぁ。」 「…どうや、やっぱり居酒屋の女将か?」

 「そんなん、分からへん…せやけど向いてるとは思うで。」 「…なぁ、お父ちゃんは…なんで警察官を辞めたん…?」

    「……そ、それは………」

  「いつか…聞きたいとは思うてたんや…。」                                                     「お母ちゃんに聞いても知らんって言うし…なぁ、ほんまにお母ちゃんにも言うてないんか…?」

 「ほんまや…。」  「…2,3秒は目をパチクリさせてたけど、『ああ、そうですか…』ってなぁ…ただ、それだけやった。」       「なんにも聞かへんかった・・・俺にとって最高の優しさやった事は確かや。」

   「聞かれたら…どうしてたんや…?」

 「…でも……でも、聞かれへんかった…… 洋子…あいつは聞かへんかった……それだけや…。」                   「バスガイドでも、女将でもええけど…夕子も出来る事なら、そんな女に成って欲しい…と…お父ちゃんは思うてる…。」

 「…うん…うちの場合…なんにも聞かんと、黙ってられるかどうかは判らんけど…意味は何となく理解出来たと思う…。」      「せやから……この話はここまでや…って事なんやろ…?」

   「夕子は察しがええから、助かるわ。」                                                      「いつか言う時が来るかもしれんけど、その時は、夕子からではなくて…やっぱり洋子からで無いとあかんと思うてる。」

  「それは絶対そうやと思うわ…うん、わかった。」 「よっしゃ…お父ちゃん、もう十分や。」                        「最後にこれだけは教えて… 警察官が…厭で辞めたんとは違うんやろ……?」

  「…難しい質問やなぁ…俺自身、警察官と云う仕事には誇りを持ってたし…それはいまでも全く変わりない。」           「どんな世界でもそうやけど、色々な人が居て…色々な事が起きる… 俺は、信念を曲げてまで、自分に嘘をつくようなマネは出来なかったと言う事や…… これでどうや…勘弁してくれるか……?」

   「うん。 …なぁ、マサが、警察官を目指すんは…間違うてる訳やないんやろ……?」

   「当たり前や。」 「最初から…そう云う質問やったら簡単やったのに…マサに、頑張るように言うたってくれ。」           「警察官は…遣り甲斐のある、りっぱな仕事やと……。」

   「わかった、思ってた通りの答えやった。 …けど、それを聞けて良かったわ。」

 「夕子、お前自身がほんまに、ええ奴っちゃなぁ… マサの事も…真面目に心配してやってるのが伝わってくるで…。」

   「勘違いだけはしたらあかんで… あいつ、アホ過ぎて…放っとかれへんだけや。」

    「ほいほい…そう云う事にしときましょ…。」

  「お父ちゃん、なんか…引っ掛かる言い方するやんか… どう云うつもりかしらんけど…。」

 「いや、なんて言うか…大人になって、制服姿を見たら… カッコ良さに惚れ込むとか……?…。」

     「無い!」

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