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夕子、西成区花園町在住。 第28・29話        (運動会前夜-2)

       「…片付いたみたいやな、手伝うわ。」

  「うぅん、すぐに済むから…自分でビール抜いて飲んでて。」 「…あっ、暖簾だけしもうて下さい。」

      「よっしゃ…わかった…。」   「………入れといたで。」                                         「……なぁ、なんの話か判ってる時は…ちょっと一言、言うてくれたら…それを、きっかけに出来るんやけど…。」

  「なんの話って、さぁどっちですやろ。 言い訳が見つかった…と云う方か…夕子の運動会の事なんか…。」

     「…あした、夕子の……」

  「運動会の方ですねんな。 はい、明日ですなぁ。 応援には3人そろて行くつもりです。」

      「そうか、あのっ……」

    「もちろん、お弁当も考えて在ります。」

     「そ、そうか、ありがとう…ほんなら…」

     「ほんなら?……なんです…?」

  「いやっ、ほんならやなぁ……ほんなら…ぼちぼち………」

 「ほんなら、帰るんですか? ……青田三郎、きをつけ! 敬礼!」

     「 はっ! 」

   「 報告! 始め! 」

 「はい、わたくし青田三郎、嫌疑の掛かっております一件につきまして…弁明をさせて頂きます。」

     「着席!」

   「ふ~っ、…事の起こりはやな…。」

 「ほんま手間の掛かる人やわ。 慌てんでもええから、はいっ、ビール飲んで…落ち着いて話してください。」             「私には…サブちゃんの言う事、信用しようって気持ち…まだまだたくさん残ってますのやで。」

  「そうか、嬉しいわ。」 「どこから話したら…お前が聞いたって云うお客さんやけど、その人かどうかは判らへん…。」       「もしかしたら、そうかも知れん。 店のお客さんやし…滅多な事も言われへんけど…。」

 「もう、まどろっこしいわぁ。 今は二人しかい居てへんし…なにを言うても、ここだけの話やんか。」                   「たぶん、そのお客さん本人の話やと思います。…確か、中井さんって人でなぁ…街中に大きな土地を持ってて、戦後、えらいお金持ちになったそうです。 この人が、来る度に…とは言うても3回ほどですけど、『飛田に、足を洗わせて引き抜いてやりたい子が居てるんやけど…これがほんまに、ええ子やねん。 本気で惚れてしもうた。』って…ノロケてましたんや…それが、このあいだ事ですわ…今のところは、それっきりなんですけど…『あいつ、飛田の女やのに亭主がいてたんや。信じられへん話やろ。 そんな事って在るんか?』…どう思うって私に聞くから…『今は、時代が変わりましたよってに、そう言う事も在りますやろ…』…って言いましたんや…ふぅ~~…。」

  「洋子お前、すごいなぁ。 これが台詞やったら…漫才師か講談師でも目指したらどうや…?…。」

  「あほ!大事な話してるのに。 だいたい、あんたの話やねんで。」

  「あっ、いや、すまん。 けど、その子が琴美で、その亭主が俺やったって話やろ…?」

     「そうです。」

  「ほんなら、もう解かってるやないか、俺のしゃべる事…なんか残ってるんか?」

   「なにを言うてるの。 なんでそうなったかを説明せんかいな。」

  「おぅ、そ、そうやな…せやけど、洋子はなんで…なんで、その子の亭主が俺やと判ったんや。」
 
    「…判った?…ほな、この話は事実や言うこ事ですのんかっ‼」

  「うわっ!…ビックリ……お前のその迫力…確実に受け継がれてる。 心配はいらんで……。」


 「そんな心配してない! ちょっとは真面目に考えや!…このアホが、ほんまにぃ……」                          「あのなぁ…私の亭主は、ここら辺では有名な猛者で、やくざも一目置く元警官…そして、今は骨接ぎやってる人っ言われて思いつくのは…?」

      「 …俺。」

    「せやろ~~!」

  「は…はいっ! あかん……もう、あかん。 お…お前、最初は慌てんでもええって言うてたやないか。」                「ふ~~っ、 これ以上は堪忍や…俺の心臓、もう喉まできてる。」

 「おもろいやないか…どれ…くち…開けてみぃ …いっそ外に出したろか…!?」

  「え~っと、あれは確か……って、ほんまにどこから話をしたら…ええんや……?…」

  「こないだは、事の最初から話すって言うてたやないの。」                                           「だいたい、この話については筋が読めてるんやから、なんであんな仕事を始めたんか…その辺りを最初から説明してみなはれ。 もしもの話ですけど、納得できて、誤解がとけたら、夕子のためにも帰りますよってに…。」

     「…そうかっ、ほんまか…頑張るわ。」

  「頑張るって………。」                                                                  「誤解やったら解けるかも知れませんけど…誤解や無うて、ほんまの事やったら誤解の解きようが在りませんで…。」

    「いや、まったくの誤解やねん。 洋子の勘違いや。」

 「ほな、あれは……まぁ、よろしい。 聞いてからです。 いっさい誤魔化しは認めませんよってに。」

 「判った…。 まず、第一号のお客さんは…源氏名を春駒って云う姉さんで、警官の時から顔には見覚えの在る人やった。」   「お前が見て勘違いをした時もこの春駒やったんや。」

  「あれが、勘違いですか? いっそ見間違いで…それは目が悪いからと違うかって…言うて欲しいわ。」

 「もちろん始めのうちは、仕事柄…体のあちこち…特に腰の調子がって事で、整体と指圧やったんや。 それがある日、今日は特別に調子が悪いからと言うて、もっと強くとか…そこは弱くとか、もうちょっと右やとかやってるうちに、俺の手を持ってやなぁ…そこは春ちゃんあかんやろって言うたんやけど…別料金払うからお願いってなぁ…金が欲しかった訳や無いけど、いろいろ話を聞いてたら気の毒に思えて…そこに俺のサービス精神がプラスされてしもうてなぁ。 それからや…お前が見て勘違いしたのが5回目くらいの時やった。」

 「回数なんか関係ないやんか。 おまけに、なにがサービス精神や…なんやて5回目やて…? ほんまにぃ…ほかにも、それらしい人、何人も来てたやないか。」 「だいたいあの場面を見て、勘違いは無いやろ。 …誰が見てもそうとしか見えるかいな。」

 「たしかに、…でも、違うんや。 それでな、2、3回した後、同じ思いの子はたくさん居てる…お願いやからって…他の子を連れて来てなぁ…。」 「割り切ったらええ商売になるやんかって…頼み込まれたんや。 とにかく、もう一度言うけど…ほんまに金の問題や無うて、『一人に出来て…』…って言われるのが…それが、俺には辛かったんや…。」

   「わかったような事言わんとき。」                                                        「スケベ心は無かったと言うつもりですか?…なかなかの二枚目や言われて、鼻の下伸ばしてたんですやろ。」

 「ちがう、それこそ誤解や。 あくまでも仕事なんやって何べんも言うてるやないか。 まぁ、警官やったのが幸か不幸か、けっこう顔を知ってる子が多かったんも確かやし…それで…ああ、あの人やったらって、口コミで広まったらしいわ。 そこにはまぁ…中々の二枚目と云うのが役に立った事も含まれるのかも……これに付いては自分で言うのはチョット気が引ける……」

  「 やかましいわ!」  「二枚目が役に立って良かったって…自分で認めてるやないか。 スケベ心丸出しやろ!」

 「それも、違う。 仕事と考えた上での事や。 仕事やったら繁盛して喜ぶのは当たり前やろ?…なぁ俺の事、信用する気持ちはたくさん残ってるって言うてたやんか…と、とにかくそんな中の一人が、琴美さんや…ふぅ、やっとここまでたどり着いたわ。」

 「ほんまやね…信用する気持ちの事です…実は、状況はどうあれ、サブちゃんの仕事場、勝手に覗いたんは悪いと思うてます。 それにな、確かにあんたの言う通り…サブちゃん、あんたは服は着てました。 それは、ちゃんと覚えてます。 けど、どない考えても、これからって状況にしか…」  「たどり着いたところで、今日はこのへんにしときましょ。」 「明日は夕子の運動会です…それこそ、こっちは勘違いしたらあきませんで…あくまでも、主役は夕子で、サブちゃん…あんたや無いんですから。」

    「…う、うん、 …でも、ここまでで…ええのんか?」

  「ことの始まりはまぁ判りました。 たどり着いたここからさきは、だいたいの察しはついてますよってなぁ…。」              「…『人助けのつもりで…』って云う…言い訳まで判ってますわ…。」

 「そこまで判ってるんやったら、納得出来たと言うことで…夕子のためにも帰って来てくれたらええのんと……。」

  「あほっ! 納得なんか出来ますかいな。 …根本的な解決も気持ちの整理も全然や。

    「そんな、なぁ、 …洋子…」

     「汚い手でさわりなっ!」

  「…あ…あした…晴れたらええのになぁ……お休みなさい……。」

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