制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第14話
「マサ、非番の日に昼御飯を食べに来てくれた云うて、お母ちゃん喜んどったわ。せやけど、うちが居て無い時を選んで来た分けやないやろなぁ…?」
「アホな事を…そんなはず無いやろ。酒も飲めんのに夜に行ってもと思うて、昼御飯にしたんやないか。」
「判ってるよ…さすがに、ええ食べっぷりや云うて感心しとったで。」
「やっぱりおばちゃんの釜めしは最高やったわ。けど、最近は出汁や味付けも夕子がしたりする事も在るそうやなぁ。上達の早さが凄いと褒めとったで。」
「加減の出来る女へ変身するって言うてたやろ…サナギの期間は迷惑も掛けたかも知れんけど、無事に孵化して変身は完了したんや。」
「ほ~っ…サナギの期間って普通はじっとして大人しいモンやと思うけど、さすがに夕子や…暴れまくってくれたなぁ…もうちょっと孵化に時間が掛かってたら、俺か先生のどっちか死んでたど…絶対。」
「じっとしてたら、孵化もして無かったんやから、華麗な孵化に貢献出来たと喜んどいたらええねん。」
「あのなぁ…華麗な孵化と聞いて連想するんは、普通はアゲハ蝶とかやろ? せやけど、お前の場合はミヤマクワガタかマイマイカブリやないか………あれっ? ゆ、夕子…ど~したんや?」
「アホっ、殴られるんを予想して言うのはやめてくれるか。」「それになぁ、アゲハ蝶よりミヤマクワガタの方が好きなんや…怒られへんやろ。」
「しもた! お前の嫌いなマイマイカブリだけにしといたら良かったなぁ…」
「……なんで、うちがマイマイカブリを嫌いやと? 確かに好きや無いけど。」
「お前、カタツムリもエスカルゴも嫌いやないか。見た眼は真っ黒で細長い手足…そっくりなんやけどな…痛っ! ここやったんか~~今のは効いたど…」
「やかましいわ! 真っ黒で細長い手足で悪かったなぁ…そのマイマイカブリに嫁に来てくれと言うたんはあんたやで。」「今更、あれは嘘やったと言うつもりなんか?」「それやったら、うちも……」
「違う~。それだけは違う……『それやったら、うちも…』って、おまえこそ、『嘘でもええから』とは言うたけど、ほんまに嘘やったんか?」
「いいや……それは違う…嘘なんか言うてへんで。」
「…ゆ、夕子~俺、素直に喜ぶで………」
「あんた、さっき『しもた!マイマイカブリだけにしとったら』って言うたやろ? どない考えても怒られるために言うてるやんか。うちの言うた通り、あんたは、うちに怒られて喜んでるってわかるやろ?」
「ど~なんかなぁ? そう言われたら怒られるのは計算に入ってたけど……」「とにかく思いついたら黙ってられへん性格やって、お前も知ってるやないか。わざわざ怒られようと思うてる分けとは違うと思うで。」
「ほんなら『真っ黒で細長い手足』って云うのは、うちの受け答えに関係なく、どうせ言うてたって事なんか?」
「うん。絶対言うてた。」
「2回殴られても?」
「せやねん。思いついた時点で体を張る覚悟が必要やねん。」
「それで、覚悟って簡単に出来るんか?」
「長い間に身に付いたみたいで、覚悟は出来るんや。けど今日でもそうや…お前の怒るタイミングが読み切られへん。ここを間違うと恐怖は倍増してしまうんや。」
「あんた、ほんまに子供の頃から進歩してへんなぁ。そのまんま大きなっとるやんか。」
「夕子の事になるとそうやと思う。どう云う分けかお前と居てると、気持ちも性格も考え方まで子供の頃に戻ってしまうんや。」
「それは~…あんたほどや無いけど、うちにも当てはまるで。誰と居るより安心出来るし、楽しいと思う…『せやけど』………」
「それは嬉しいけど…夕子、さっきの一撃はきつかったでホンマ……なぁ『せやけど』の続きは…?」
「…女って事も忘れてしまうんや。」
「……な、なるほど。」「せやけど………」
「どないしたんや? あんたこそ、『せやけど』の続きは?」
「うん……せやけど、夕子お前……嫁に来てくれるって云うたのは…嘘や無いって言うてくれたよなぁ?」「あそこは、本気にしといてええんやろ?」
「うん、嘘や無いで…本気にしといてもかまへん。」「ただし、条件付きなんを忘れたらアカンで。その件については、オリンピックの出場を決めたら…改めて相談においで。」
「よっしゃ絶対に決めてみせたる……待っとってくれ。」
「あせる事はない………心配せんでも、あんた以外は訪ねてけぇへんわ。」
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