制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第39話


 「なぁマサ、先輩の小西さんから何か聞いてないか?」

「いや別になにも。毎日顔を合わしてる分けでも無いからなぁ…せやけど、もしかしたら伊藤ちゃんの話と違うんか?」

「その通りなんや。なにか知ってるんか…うちが聞いた話では、既に付き合い始めてるらしいんやけど。」

「そうか、小西先輩から直接きいた分けやないから、どこまで信用出来るかは不明やけどな…ええ彼女が出来たと云う噂は聞いてるんや。タイミングから考えても、伊藤ちゃんしか居てないと思うで。」

「やっぱりな、目撃情報まで在るのに、当の本人が完全黙秘をしてるらしいんや。隠す必要なんか何にも無いのにおかしいと思わへんんか?」

「なるほど、陸上女子の情報網では真相解明が出来んかった分けや。それで、男の側やったら隠してるはずも無いやろうと…?」

「せやねん、隠す理由が判らへんわ。」

「お前は誰からその話を聞いたんや?」

「高木……あっ、そうか…」

「やっぱりな。夕子、お前にしたら気づくんが遅すぎるやないか。」

「いやいや、逆にあんたにしたら鋭いやないか。」「そう言えば高木の奴、やたら気合が入っとったからな…伊藤ちゃん、高木に気を使うてたんや。」「後輩やったら尚更よう言わんやろしなぁ…うちが電話でもしたら簡単に分かりそうやけど、いざと成ると聞きにくい気分になるなぁ…」

「せやけど、それを聞いて、高木さんに伝えてやれるんは、お前しか居てへんやろ?」「いっそ、放っといたらどうやねん?」

「そこなんや…どないしても結束力は堅いはずやけどな、こう云う事は、どうせ広まるんやったら早いうちに、しかも一斉に広まった方が次に集まる時に集まりやすいんや。」

「ほぅ…親分は色んなところに気を使わんとアカンのやなぁ。」

「おんなじ親分でも、あんたとではこう云う処が違うんや。」「うちは民主主義やけど、あんたは独裁主義やからな。」

「なぁ、一般常識の真逆を言うのはやめてくれるか。誰かに聞かれた処で、本気にする奴は居てへんと思うけどな。」

「あのなぁ、うちが荒っぽいのはマサにだけなんや。後輩にもほとんど怒った事も無いんやで、それに比べてあんたはどうや、みんなビビって逆らえへんだけやないか。」

「ビビって逆らえへんのはお前の方が上やと思うけどな…確かにちょっとは思い当たるモンも在るわ。」「せやから言うて、俺もなんぼ怒ったとしても殴ったりした事なんか1回も無いんやで…暴力では絶対に人を納得させる事は出来へんからな。人を育てるには、根気と愛情が不可欠なんはお前も知ってる通りやないか。せやのにお前は、俺だけにやとしても…殴る蹴るの悪行三昧やないか。」


「それは、あんたの場合はうちに怒られて喜ぶのを知ってるからやんか…」

「殴られて喜ぶ奴は居てへんやろ。」

「殴られるような事をせんといたらええだけの話やないか。」「それからな、あんたが後輩でも誰でも、殴ったりしてへんのは知ってるけどな『恨みっこ無しや、文句が在るんやったら掛かって来んかい』って…これはどない考えても暴力やろ。」「うちの場合は、こんな事も言うたりはせえへんのや。」

「今はな……」「俺は、子供の頃にお前が口癖のように使うてるのを聞いて覚えたんや。」


「あんたなぁ…こう云うしょうも無い事から順番に忘れるように、何回も言うてきたはずやで…」

「人間、印象に残る事は、中々忘れられへんもんや…お前は、その印象に残る事をし過ぎてきただけの事やないか。」

「子供の頃から頭の片隅には在ったけどな、いよいよ、あんたの存在がうちの人生の妨げに成ってきたように思えてきたわ。」

「あのなぁ、お前の場合、目撃者や犠牲者も星の数ほど居てるからな、俺一人ではどうにもならんと思うで。」

「ほな、あんたは、その中で一番の目撃者やし、犠牲者でも在ると云う事かいな?」

「まぁ、云わば『真実の語り部』やな。」

「アホっ…なにが『真実の語り部』や。しかしなぁ、子供時代の事実関係そのものを消し去る方法を誰か教えて欲しいわ。」


「これも子供の頃に、お前が俺に言うたセリフやけどな…『魔法使いや無いから無理なんや!』…残念やったな。」

「マサあんた、今日は久しぶりに殴られたいと思うてるんと違うやろな?」

「アホな事を…思う分けないやろ。」


「そう云えば最近、減ったなぁ。」

「ほんまや…言われてみれば、その通りや。けど、俺が真面目なだけとちゃうんか。」

「ほぅ~。温泉大作戦についての反省が全く感じられへんなぁ…実行前にバレてほんまに良かったとは思わへんのか?」


「う~っ、アレについては、良かったんか…悪かったんか……」

「バレて悪かった要素が、何か在ると言いたいんか?」「万が一、作戦決行後にバレたとしたら…って云うシナリオを考えた事が無いようやな?」


「先生が作戦本部の解散を急いだ理由が、今やっと分かりました。」「今後は小西先輩と伊藤ちゃんについての情報収集に全力で努めさせて頂きます。」

「今の…その気持ちを忘れたらアカンで。」


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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第40話


 「アル~お前は幸せモンやど…夕子がちっこい時やったら、確実に髭を切られてるとこやからな。」

「また、しょうも無い事思い出して…それも早よ忘れて欲しいリストの上位ベスト3やないか。」

「お前の場合は上位が多過ぎて、ベスト3に20件は入ってるやろ? 計算が合わへんのにも程があるで。」

「アホっ。20件ってどこから出て来た数字やねん? なんぼなんでもそんなに在るはずが無いやろ。」

「あのなぁ、20件でも足りんやろ? 俺の社交辞令が分からんのか。」

「…もうええ。この話を続けたら、また一杯ほじくり出して来るんは目に見えてる。」

「あっ…そんな早よ気が付いたらアカンやないか。ええ流れやったのに。」

「アホっ、あんたの考える事ぐらい簡単に分かるわ。何年付き合うてると思てるんや…退屈したらロクな事を思いつかんのは、マサの子供の頃からの習性やないか。」

「う~ん…実はその通りやねん。今日は道場が使われへんから完全休養日なってしもうたんや…暇や、暇や、退屈や~~」


「うっとしい奴っちゃなぁ…あっ、電話やんか、ちょっと待っときや。」

「…って、おい、俺の家やで。」

「わかってるけど、今はうちとあんたしか居て無いんやで…」「もしもし、藤川ですが……はい、昌幸ですね……実は今、ニワトリと腕相撲をやってますんで、ちょっとだけ待ってやって下さいね…」「マサ~電話や~」


「お、お前、無茶苦茶な奴っちゃなぁ…誰からやねん?」「はい、もしもし代わりました昌幸ですが……はい! えっ、まさか…違いますよ……はぁ……はい……はい分かりました。失礼します。」「……」「…夕子~頼むわ~ビビらせんといてくれるか…仲のええ先輩で助かったけど、緊急の呼び出しとかやったらどないするつもりやねん。」

「アホっ! 小西さんやったからに決まってるやろ。小西さんとは、伊藤ちゃんの事も在って、ちょくちょく話をしてるからな、すぐに分かるし、仲もええからや。」

「そらまぁ…誰かれ無しに、あんな事を言うとは思わへんけどな…はっきり言うて無茶苦茶ウケとったで。伊藤ちゃんもおもろい子やけど『やっぱり、お前は凄い』と伝えてくれと言うとったわ。」

「よっしゃ…今度、電話をとる機会があったら『ウルトラマンとにらめっこ』にするからな、内緒にしとかなアカンで。」

「…ほんま、お前は凄いわ……」

「そんな事より、小西さんは何の用で電話してきたんや? 伊藤ちゃんがらみとは違うんやろな?」

「うん、それは違う要件やった。ただ、陸上部軍団が人気でなぁ、俺は勿論やけど小西先輩もええ彼女が出来たもんやから、あちこちからお願いをされてるみたいやで。」

「お願いって…季節に関係無く、飲み会のコンパをしてくれって事かいな?」

「そ~やねん。お前を手本としてる様な奴ばっかりやから、あっさりしてる上に高級バッグや貴金属に興味が無いところが大人気なんや。」「と成ると、主な必要経費は飲み食いだけやからな。」

「なるほど、ほんで飲み会の料金はまかしとけと云う事かいな?」

「勿論や。回数制限も無いと思うで。」

「喜んで来る奴ばっかりなんが、ちょっと恐ろしい気もするけどな…よっしゃ、ゴールデンウィークまでにセッティングしたるわ。」

「お~っ、ええ感じやないか。そんなに日数も無いからな、大丈夫やったらすぐに連絡を回したらんと…」

「あした…あさってまで待ってくれるか? 高木に声を掛けたら2時間以内に決まるはずや。まぁ、一日は保険やな。」

「高木さんの気合って、あれ以来入りっぱなしなんか?」

「アホっ、そんな言い方したら高木が飢えてるように聞こえるやないか。近いモンは在るかも知れんけど…伊藤ちゃんにええ彼氏が出来たんが余計な圧力になってるみたいや。」

「なるほどな、せやけど本人にその気が在るんやったら、高木さんの場合、なんぼでも相手は居てるはずや。」

「あんた、伊藤ちゃんが小西さんに取られて、高木に乗り換えたんとちゃうやろな?」

「お前、自分自身の存在をど~云うふうに考えてるねん?」

「あんたと一緒でなぁ…取りあえず、思い付いたら言うてしまうんや。」

「まぁ、それが普通やけどな。」「アル…お前いつの間に膝の上に乗ってたんや? 完全に落ち着いとるやないか。」


「アルの奴ほんまにマサには、ようなついてるなぁ…あんたが居てたら、うちの方へは来よらへんもんな。お父ちゃんの事も大好きやし、こいつオスのくせに男の方が好きみたいやで。」

「それは、お前の体に柔らかさが感じられへんからと違うんか?」

「アホな事言いなや…あんたの体の何処が柔らかいねん?」


「お前こそアホな事言うたらアカンで、ゴツゴツの度合いが違うやろ? お前の場合、どこを触っても『コツン・コツン』と言いそうやないか。」


「あのなぁ、そんな時代も在ったけど…って、みゆきと違うで!」

「あっ、それはずるいわ~」


「油断出来へんからな…ええか、確かに、そんな時代も在ったかも知れんけどなぁ、うちは現役を引退してから4年近くも経ってるんやで。現役のあんたよりゴツゴツしとったら具合が悪すぎるやろ?」

「ほんなら、お前の体からにじみ出る、容赦のない残虐性が、アルの本能を刺激すると云う事か?」

「あんたの持ってる、うちのイメージやけどなぁ…いっぺん、一から構築し直してもらう必要が在りそうやな。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第41話


 「なぁ…ど~にかならんか?」

「ど~にもなりませんなぁ。」

「なんや、お父ちゃん、また小遣いを使い果たして…突撃交渉中かいな?」

「アホっ、今回は違うんや。」「せや、夕子の協力も不可欠なんや、たのむわ~」

「なんで、うちの協力が必要なんや? 話が見えへんやないか?」

「お父さんなぁ、今年は老人会の世話役に当たってますんや。せやから、敬老の日の旅行を決めんとアカンのやけど、その為の下見に付き合えと言うんですわ。」「お店を休む分けにはいかへんと、言うてたところですわ。」

「いや~そこなんや、必ず複数で行くと云う決まりやから、そこは町会長さんと行くんやけどな。向こうは夫婦で来はるんや…俺一人と云う分けには行かんと思わへんか?」

「そんな事を言うてもなぁ…夕子ひとりではとてもやないけど…」

「なぁ、それって、いつの話なんや?」

「まだ決まってないけど、町会長は隠居してはる身やからな、基本、俺の都合でええはずなんや。」

「お母ちゃん、それやったらゴールデンウィーク前の『日・月』にしたらええねん…たまには夫婦で旅行に行っておいでや。」

「お父さんとおんなじ事言うて…日曜日は休みやし、月曜は帰って来てからでも夜の開店には間に合うと言うんですやろ?」

「まぁ、そうやけど…」

「あんたら簡単に言うけどなぁ、私はちっとものんびり出来ませんやんか…それにあんた一人では月曜の昼だけでも大変やで。」

「いや大丈夫や心配いらんで。実はまた後輩らとの飲み会を予定してるんやけど、それを月曜日にして、夜は貸し切りにするんや。」

「ふ~ん、そうは言うても…」

「ええねん。出来る事なら土曜日が良かったんやけど、うち一人でも日曜から準備したら間に合うし、平日の月曜でも2人くらいは手伝える奴も居てるはずや。せやから、お母ちゃんは帰って来ても、店の事は放っといてのんびりしてくれたらかまへんで。」

「うんうん、夕子、有難う。」「なぁ、夕子もこう言うてくれてるんや、息抜きのつもりで付き合うてくれたらええやないか。」

「そらまぁ、貸し切りの飲み会やったら、心配は在りませんけどなぁ…」「無理せんと昼も臨時休業にしたらどうです?」

「うん、西島さんや吉川さんみたいに、毎日来てくれはる人だけの限定営業にするわ。」

「それがよろしいなぁ…あの人らのお昼御飯はうちが無いと困りはるよってね。」

「ええ感じやないか…行く気になってくれたようやなぁ?」

「まぁ、一般のお客さんに迷惑が掛からんのでしたら…仕方おませんなぁ…こんな事でも無いと旅行なんか行けませんしね。」


「うん、行っといで、行っといで…弟も妹もいらんけど行っといで。」

「もう、この子は…ほんまに。」

「なんや、いらんのんか? 俺は気合十分やったのに。」

「あんたまで何を言うてますねん…もう、いややわ~眼がちょっと本気やんか。」

「はいはい、好きにしたらええんやで。」

「そんな事より、夕子、今日は出かける予定とちゃうのんか? 昌幸くんと昨日約束してたように思うんですけど?」

「う~ん、予定ではそうなんやけど、あいつ宿題が終わってないのか、まだ来る気配も電話も無いんや。」

「宿題って…あんたまた無理な事を頼んだんとちゃいますか?」

「いや、そんな大そうな事やないで。だいいち行先も決まってないんやし…せやから、もし車で出掛ける気やったら、うちのお気に入りのアルバムの録音と洗車をしてから迎えに来るように言うただけの事やんか。」

「なるほど、ここに来んと洗車も始まらん分けやからなぁ…洗車が始まったら、お前はおきまりの弁当係と云う事か?」

「一応の予定ではな。早起きが出来へんかったら、無理はせんでもええって言うたから、まだ寝てるかも知れへんわ。」


「いえ、昌幸くん昨日はビール2本で止めとったし、今頃あんたの注文どおり『サミーディビス・Jr』を録音してますわ。」

「いや、今回は『ヘレン・レディ』もなんや。ライブ盤が出たもんやから…1枚にしといたったら良かったなぁ。」

「そら、2枚のアルバムとなったら3時間ほど掛かるやないか、それから洗車しとったら午前中はつぶれてしまうで。」

「ほんまやで、あの子は何でも『うん』とか『よっしゃ』って言うんやから、考えてあげんと…それに、あんたも洗車なんかどうでもええ事なんやろ?」

「それはそうなんやけど、柔道以外は甘やかしたら癖になるタイプやから…」



 「お早うございます。」「おい夕子、録音はばっちりや。今から洗車するからな、もうちょっと待っとけよ。」

「ほら…聞きわけのええ子やろ?」

「まだ9時やないか…昌幸あいつ、6時までには起きたんとちゃうか?」「そうか、そうやったわ。あいつの場合、子供の頃からずっとそう云う奴やった…」「徹夜で夫婦漫才のコンビ名を考えるような奴やからな。」

「そう云うこっちゃ…それこそ、今更みたいに何を言うてるんや。」「よっしゃ…ほな、うちは気合入れて弁当作りといこか。」

「おい、それで何処に行くんや?」

「…マサ~、何処に行く?」

「えっ…何にも考えてへんけど、そっちはお前の担当のはずやろ?」

「なぁ夕子…用意はおにぎりと卵焼きくらいにしといて、洞川あたりでバーベキューなんかどうですやろ?」

「うん…ええ感じやけど?」

「なぁ、お父さん私らも連れて行ってもらいませんか? 帰り道で温泉も入れまっせ。」

「えっ…お、おう、ほんまええ感じやけど、かまへんのんか?」

「めっちゃええやんか…大歓迎やで。」

「ほな、夕子は料理係で買い物は私が担当しますわ。さっそく掛かりましょ。」

「マサ~お父ちゃんが助っ人に行くから、気合入れて洗うんやで~」


「お、俺の役割まで決まってた分けやね?」「お~い昌幸、手伝わしてくれ、大峰山で吊るされたらたまらんからな。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第42話


 「おい夕子、聞いてるとは思うけど、3組のカップルが誕生したらしいで。」

「聞いてる。ええ話なんやけど、高木が可哀相でなぁ…なんでやろ?」

「今回は気合が空回りと云うよりは、人の世話を焼き過ぎた感じやなぁ。」

「マサもそう思うか? 3組とも高木のお陰で誕生したようなモンやからなぁ。」「ほんでもあんた、こんな時間にどないしたんや…御飯食べてきたんか?」

「いや、食べてない。」「忙しかってな、帰りが遅くなってしもうたから、着替えだけしてすぐに来たんや。」

「ほんなら、腹ペコなんやな…はい、これでビールを飲みかけとき。」

「うん…なぁ、唐揚げだけはとにかく先にくれへんか?」

「わかってる…せやけど、土手焼きが気にいらんのやったら、お母ちゃんを敵に回す事になるで。」

「あ、アホな事を…そんな分け在るはずが…ねぇ、おばちゃん?」

「もう…いつもの事で分かってるやろ。夕子は、昌幸くんのその反応が面白うて言うてるのに毎度毎度、まぁ見事に反応するもんですなぁ…ほんま子供の頃のまんまやわ。」

「お母ちゃん、在る意味それがマサの取り柄やねん。みんなで大事にしたってや。」

「自分で言うのもなんやけど、素直を売りにして来ましたから…」

「ほんまに自分では言わんとき…アホに聞こえる。」

「…せ、せやけど、この時間にしたら、今日はなんか暇そうやないか? 土曜日や云うのに北村さんや、山本のお兄ちゃんまで居てないやないか?」

「ああ…あんた、ええ時に来たかも知れへんで。あんたが居てたらもめてたんとちゃうやろか? お母ちゃん、どう思う?」

「いえいえ私は、夕子がなんか言いかけたらどないしょうかと思うて…ハラハラしてましたんやで。」

「えっ、なんかモメ事でも在ったんか? 俺はまた、近頃、週休2日制が増えて来た影響でも在るんかと思うてたんやけど。」


「そんな事を言うてはる同業者も居てますけどね、今のところ、この『洋子』には影響在りませんわ。」「実は、場違いで派手な格好の人が居てましたんよ…若い子ですけどね。夕子が言うように、昌幸くんが来る前に帰って良かったかも知れませんなぁ。」

「俺はそんな少々の事では…まぁ人に迷惑でも掛けん限りは黙ってると思うけど。」

「微妙やなぁ…迷惑は掛けてへんけど、北村さんや山本さんも、実は森川のおっちゃんまで来てたのに雰囲気が悪かったんやろなぁ、一杯だけ飲んだら、さっさと帰ってしまいはったんや。」「あんたが居てたら黙ってへんのと違うやろか?」


「う~ん、何とも… 一人やろ? 派手って云うてもどんな格好やったんや?」

「まぁ、格好は俗に云う『ヘビメタ』やな、とにかく頭が凄かったんや…格好はヘビメタで頭は『セキセイインコ』や。」


「セキセイインコ? そらまた凄い例えやけど、想像もつかへんやないか。」

「いや~夕子あんた、うまい事言うやんか。ほんまに『セキセイインコ』やったわ…ぴったりですやん。」

「ほ~っ…それは是非、見てみたかったもんやで。」「けど夕子…それこそお前がよう黙ってたもんやなぁ?」

「アホっ。大人しゅう飲んではるのに、うちは格好だけで、お客さんに文句なんか言わへんわ。」

「そうか、確かにそうやけど…お前も大人になったもんやで。」「それにしても急に一人でなぁ、もちろん初めてのお客さんやろ…そこが不思議な気もするけどな?」

「そうやよなぁ…」「まぁ文句も言わへん替わりに、正直なところ、2度と来ていらんと思うたから、愛想の一つもせんと放っといたしなぁ…もう1回見たいと思うても、もう見られへんと思うで。」

「せやねぇ、自分でも場違いやと思うたはずやし…たまたまお腹が空いた時に、ここが眼に入っだけですやろ。」「せやけど、あんな格好って…頭も、着てるモンにしたかて、どこで見つけて来るんやろか?」

「お母ちゃんには用が無いけど、今はそんな専門店も在るらしいからな…もちろん、うちにも死ぬまで必要の無いシロモンや。」


「お前は生まれ変わってもいらんやろ? 髪の毛を染める事すら無さそうやしなぁ。」

「当たり前や。せっかく日本人に生まれて、日本人に一番似合う黒い髪をしてるのに、なんで染める必要があるねん。」
「染めて似合うてる人を見た事も無いわ。」


「確かにな。そんなお前にしたら、男が染めるなんて考えられへん事やろ?」

「別に、他人がどんな格好をしててもかまへんし、染めてる人に『似合ってませんよ』と云うはずも在らへんけど…うちの周りではちょっと勘弁して欲しいなぁ。」

「お前の周りでは、男女を問わずそんな奴は居て無さそうや…心配いらんわ。」

「そこやな、心配もしてへんけど、自分に似合うてへん格好してたら冗談抜きの『アホ』に見えるからな…それでも本人は似合うと思うてる分けやろ? 実際には、よっぽどの相手で無いと注意は出来へんと思うんや。」


「その点、お前は自分に一番似合うのはジャージやと知ってるからな…偉い!」

「あんた最近は、うちのタイトスカートが気に入ってたんと違うんか?」

「う、うん…それは、断トツなんやけど、あんまり人に見せとう無いんや。」

「はいはい、あんたら二人で勝手にやっときなはれ…どうせ今日は暇なんや。」

「いや~おばちゃんのジーンズ姿には、夕子でも勝てませんわ。」

「ちょっと悔しいけど、ほんまやで。」「それにお母ちゃん、ジーパンを愛用するように成ってからアウトドアにも目覚めたやんか。この前のバーベキューもそうやったし。」

「その通りですわ。めちゃ楽しかったし、また是非…お願いします。なにより、おばちゃんが居らんと話になりませんわ。」


「ほら夕子…昌幸くんのグラスが空いてるやないの、放っとたらあきませんやろ。」

「ほんまに、お母ちゃんのその性格イヤとは違うけど…はいマサ…」

「あの~おばちゃんにお願い出来ますか?」

「もう、なんて可愛い子なんやろ…? はい ……」


 「マサ…あんた、意外と出世するかも知れへんなぁ。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第43話


 「お邪魔します…ここよろしいですか?」

「はい、どうぞどうぞ…いらっしゃいませ。あれっ、もしかしたら…荒木さんとこの隆弘くんと違うのん?」

「あ~はい、そうです。」「取りあえずビールと唐揚げを下さい。」

「よっしゃ…お母ちゃん、隆弘くんやで。」

「…あら、ほんまに。お父さんにはお世話になって、昨日も来てくれてはったんやで。」

「はぁ…らしいですね。」

「はい、お姉ちゃんが注いだろ…いつの間に成人しとったんや?」 

「…ふ~っ、先月が誕生日で成人式は来年なんですわ。」

「そうやったんや。マサが酒に弱いのも聞いてるやろ? あんたは大丈夫なんか?」

「はい、修行中です。でも俺は藤川のお兄ちゃんよりは飲めそうですわ。」

「まぁ、あいつは特別やし…荒木さんとこはお爺さんからの付き合いで、家系的にも飲めそうやもんなぁ。」

「はぁ…その藤川のお兄ちゃんから、ここの唐揚げが旨い旨いと聞かされてたんで、二十歳になったら絶対食べようと決めてたんですけど、1回食べたら本当にハマってしまいまして…」「そう云う事でこれからは、ちょくちょく寄らしてもらいますので…」

「それは、心強いお客さんが増えて嬉しいやんか。」「せやけど…いつ1回食べたんや? 荒木のおっちゃんって持って帰った事なんか在ったやろか?」

「…実は、この前…ヘビメタの衣装で…」


「え~~っ!」「お母ちゃん、聞いてた?」

「はぁ、聞いてましたで。あれ隆弘くんでしたんかいな…今週のハイライトですわ。」

「うわっ、出た…歳がバレるっちゅうねん。」「まぁ、そんな事はど~でもええけど、ほんまに驚きやんか。」

「はい、その節は迷惑を掛けてすみませんでした。趣味でバンドを組んでるんですけど、びっくりさせようと云う気持ちと、どうせ僕やと分かると思ってたもんで……」


「全然わからんかったなぁ。顔に特別なメイクをしてた分けでも無かったのに…あんたも何か一言を言わんとアカンわ。」

「いえ…ほんまに御免なさい。」「空気が変わったんが痛いほど分かったんで、言いだすタイミングを逃してしもうたんですわ。山本さんらも帰りはったし、尚更……」


「そうか…ほんで隆弘くん、今日はゆっくり出来るんか?」

「はい、お詫びを兼ねてそのつもりで来ましたから…明日も休みですし。」

「ほんなら、マサが来るから一緒に飲んだってくれるか? 修行中には丁度ええ相手やと思うで?」

「丁度ええかどうかは分かりませんけど、嬉しいです。お兄ちゃんには子供の頃から可愛がってもらいましたから。」

「あんたもやっぱりな…良かったわ。この辺の子はええ子ばっかりみたいや。」「せやけど、こないだの格好はびっくりしたで…荒木のおっちゃんは知ってはるんか?」

「もちろん内緒でなんかしてませんよ。けどこの前、あの格好で来た事は内緒にしてますねん。」「出来るんやったら、このまま内緒にしといてもらえませんか?」



 「こら隆弘…未成年が酒飲んで何が内緒にしとってや? 現行犯逮捕じゃ。」

「うわっ、兄ちゃん違う…俺も先月で二十歳になったんや。」「そうでないと、夕子姉ちゃんかて飲ましてくれるかいな。」


「…うん、それもそうやな。」「俺にもこの組み合わせで頼むわ。」


「もう、兄ちゃんの場合、冗談が通用せえへんとこが在るから…俺らの世代には親より怖いんが兄ちゃんなんやから、あんまりビビらせんといてくださいや。」

「ほらみてみぃ…これが世間一般が感じてるマサへの評価なんや。肝に銘じて、これからは優しく生きて行くこっちゃ。」「はい、唐揚げは大盛りにしといたで。」

「…隆弘、怒れへんから正直に言うてくれ。俺と夕子とどっちが怖いと思う?」

「それは、お兄ちゃんに決まってるやんか。夕子姉ちゃんは、ほんまに優しかったしなぁ…ただ、昌幸兄ちゃんがビビってるのを知ってたから、何が在っても絶対逆ろうたらアカン相手やと…この辺の子供やったら誰もが全員、肝に銘じてたはずですけど。」

「隆弘、ええ感じなんやけど…微妙な言い方やなぁ?」「もうちょっと決定的な…」

「アホっ! 何を無理やり交渉してるねん。いつも言うてたやろ。うちはマサとお父ちゃん以外には可憐な乙女で通ってたんや。」


「おい、おれも何回も言うて来たはずやけどな、お前『可憐』と『乙女』の使い方を根本的に間違うてるで…なぁ?」


「なぁ…って、俺には答えられませんわ。」

「隆弘くん、こんなアホにビビらんでも素直に言うたらええんやで。」

「いや~ぼ、僕は『可憐』も『乙女』も学校で習い忘れたみたいで…あっ、丁度その日、風邪引いて休んでたんですわ。」


「やった~ええぞ隆弘…俺の勝ちや。」

「ふっ…マサは別として、あんたええ度胸してるやないか? 今晩からこの辺うろつく時は注意するんやで。」

「兄ちゃん…俺、ほんまの恐怖ってモンが分かってきたように思いますわ。」

「よっしゃ、それが分かって来たら大人の証拠や。ほんで、それを丁寧に教えてくれるんが、この店とこのお姉さんや。」

「じっくり人生勉強させてあげるで~」

「はい…下手な漫才より、よっぽど面白いですわ。」


「そら、一時は夫婦漫才を目指した事…」

「…事なんか…1回も無い! アホっ。」

「せやったかなぁ…そ、そうか隆弘も二十歳になったんか…なるほどそれで早速、唐揚げと云う分けや。どや、旨いやろ?」


「はい、それはもう…味にも、店にも完全にハマりました。」「お兄ちゃん、一杯注がせて下さい……」

「おう、お前もいけ……んっ…これからも宜しく頼むで。」

「はい、それはもう……」


「なぁマサ、この前の『セキセイインコ』やけど…この隆弘くんやったんや。」

「ごふっ! う~っ~~」


「きたないなぁ…あんただけは、ほんまに。」

「痛いど~鼻からビールや…」「お前こそ、完全にタイミングを狙うてたやないか…ビールは効くで…け、けど、ほんまなんか?」


「はい、実はそれを白状しに…けど『セキセイインコ』って云うのは、もしかしたら俺の事なんですか?」

「せや、見てない俺に説明する例えが、ヘビメタの格好に頭は『セキセイインコ』やったんや。自分で聞いてどない思う?」

「いや~上手い表現やと思いますよ。グループ名も『レインボー・バード』ですから。」

「お~っ、云い得て妙とはこの事やなぁ。」「せやけど、なんで誰も『隆弘』やって気が付かへんかったんや?」

「それやねん。この子もなんか言うたら良かったんやけど…うちらも、まさか隆弘くんとは思わへんやろ? まぁ、それだけ特異な格好やと云う事や。」「ええか、あの格好でここに来たんは、お父さんにも内緒にしとくけどな、結局はあの格好が許されるんは、ステージだけやと云う事やで。」


「はい、世間一般では受け入れられない事が良く分かりました…これからは、ステージだけにしておきます。」


「それがええやろ…見てない俺は、ちょっと残念やった気もするけどな。」

「残念がらんでもええ…日本人には黒い髪が一番なんや。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第44話


 「夕子、お父さん知らんか?」

「いや、知らんけど…うちのカンではパチンコやと思うで。」

「なんでそう思うんかは知りませんけど、お父さん、この頃パチンコなんか行ってませんのやけどなぁ。」

「それは、うちも知ってる。せやけど、そこに在る雑誌を熱心に読みながら『おい夕子、俺って獅子座やったよなぁ?』って聞いたんや。それが何を意味するかは、お母ちゃんでも『ピン』と来るやろ?」

「ええ事が書いて在ったと言うんですか?この雑誌ですやろ…婦人誌でっせ?」

「運勢に婦人誌もなんも在ったモンや無いやろ? 声が弾んどったから…金運か、飲みに行ったらモテるとかな…そんなとこしか無いと思うで。」


「…夕子はこれ読んでませんのか?」

「読む分けないやんか。うちには芸能人のスキャンダルも運勢も、全く興味ないんやから…鑑識呼んでも指紋も出ぇへんはずや。」


「そうですなぁ…せやけど、まるで読んだとしか思えんほど、夕子の言う通りですわ。」

「ほんまに? なんて書いて在るんや?」

「運気最高週間万事良。金運ギャンブル運・大吉。恋愛運・酒席にて大吉…あのおっさん、本気やな…」


「二兎追う者や心配いらんわ。」

「えっ、どう云う事やのん?」

「これもうちのカンやけどな…お父ちゃん、小遣い制に成ってから、お金には不自由してるやろ? せやからパチンコで資金を稼いでから飲みに行くつもりなんや。」

「ふんふん…太陽は西から昇る事は無いと、夕子は言いたいんやね?」

「もちろんや。うちの知ってるだけでも、お父ちゃんの連敗記録は現在『19』かそれ以上のはずや…おまけに、よこしまな事を考えてる時ほど勝負弱いんもお父ちゃんの特色やんか…絶対に心配いらんわ。」

「夕子はよっぽどの自信が在るんか、お父さんの負けを確信してるようですなぁ?」

「当たり前やんか…それこそ賭けてもかめへんで。」

「アホな事言わんといて。私かて、賭けるとしたら『負ける』方にしか賭けるはず無いやないの。」

「なるほど不成立か…よっしゃ、負け方まで予想したるわ。お母ちゃんでも、フィーバーって聞いた事あるやろ?」

「そらまぁ、世間でこれだけ騒ぎに成ってますよってなぁ…ときたまやけど『フィーバー当てたから来た』ってお客さんも居てはるくらいやから。」

「こないだの木村さんやな?」「でも、それって喜んでられへんのやで…負けたから飲まれへん事の方が多いんやから。」

「これまた、パチンコなんかした事も無い私にでも納得出来る話ですなぁ。」

「せやろ。ほんで時代はもう、開けチューリップからフィーバーに変ったらしいんや。うちも詳しい事は知らんけど、のんびりした遊びから短期決戦になったみたいやで。」


「ふ~ん…ほんで、お父さんはどんな負け方しはるって言うんや?」

「うん、気が付いたら居て無かったから、おそらくは開店時間の10時に合して出て行ったはずや…今で1時間ちょっとやろ? この時点で帰って来て無いと云う事は、あの中途半端な運で1回当たりよったと思うねん。」

「ほな、お父さん…今日は勝ってはるって云う事かいな?」

「現時点ではな…なぁ、お母ちゃん何年、お父ちゃんと暮らしてるんや? この中途半端な運が、傷口を結果的に広げる事になるんやんか。」


「…言いたい事は分かりますわ…ほんで?」

「ええ気に成って…『よっしゃ~もう1発』から『よしよし、ここがスタートと思たらええんや』に変って『さっきも、このくらいで当たったんや…よし今度当たったら帰るで』になって『おかしいな…そろそろ当たらんと、当たってもチャラやないか』となって来て……『えらいこっちゃ、素直に飲みに行っとたら良かったやんけ』と、ここまで来たら最後は『やってもうた~』と玉砕するんや。」


「まるで見て来たような、リアルな負けっぷりでしたなぁ…これはお父さんが帰って来るのが楽しみですわ。」「帰る時間までは予想出来ませんのんか?」


「う~ん、そうやなぁ、1時半を過ぎた頃には帰って来るはずや。」「ほんでおそらく第一声は…『あ~腹減った、昼飯あるんか?』これしか無いと、うちは思うで。」

「うわ~っ、早よう時計を進めたいわ。なぁ夕子の予想が当たるとして、お父さんのお昼御飯はどないします?」

「せやなぁ、予想は当たると思うけど、作って置いてやらんと仕方がないやろなぁ。」

「夕子、あんたの予定はどうでしたんや? 昌幸くんの都合も在るんとちゃうの?」

「マサと昼を食べに行く約束やったんや。けどこの展開では、1時半には家に居らんと仕方ないやんか…野口のお好み焼しか無さそうやな…お母ちゃんは?」

「家を空ける分けにもいかんのですけど…お父さんのお昼を用意してから、私もあんたらに付き合うてもかまへんやろか?」

「ええやんか…それが正解やと思うで、早よう今から段取りしぃや。マサにすぐ来るように電話しとくわ。」

「はいな、ほな早速…」


 「ほらな、まだ帰って無いやろ?」

「ここまでは夕子の予想通りやけど、問題は、後20分で帰って来るかどうかですなぁ。」

「いや…おばちゃん、こんな時の夕子予想は外れた事が無いから、俺は期待しても大丈夫やと思いますよ。」

「あんたが言うと説得力在るわ~昌幸くんも夕子にはかなりやられて来たもんねぇ。」

「そら、20年以上びっしりと…」

「高い確率で生涯続くかも知れんけど、うちから断っといたろか?」

「…いや是非、お願いしといて下さい。」



 「あ~腹減った、昼飯あるんか?」

「うっ……」

「ぐっ…クッ……」

「なんや夕子も昌幸も唇なんか噛んで?」

「昼御飯も忘れるぐらい、朝からどこに行ってましたんや?」

「いや~うん…久しぶりにパチンコや。」

「なぁ、ええ運勢が一週間も続くっておかしいと思わへんかったんですか?」

「…うっ…それは…あれやないか…」

「あれがどないしたんや? 1回当たったとこで帰って来たら良かったですなぁ?」

「えっ…な、なんで……」

「素直に、可愛らしいお姉ちゃんの居てるお店に飲みに行っといたら良かったと…気づいた時には手遅れでしたなぁ?」

「…ちょっ…ちょっと…待って…」


「ちょっと待っても『やってもうた~』もんはどないもなりませんやんか?」「おまけに連敗記録もキリのええ『20』に到達したんと違うんですか?」

「…う~~っ…せやねん。なぁ…そこまで分かってるんやったら…なんとか…」


「禁煙に成功しといてホンマ良かったですなぁ…後は今月一杯、お酒を辛抱するだけですやんか…頑張りや!」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第45話


 「事件や…夕子、事件やど。」

「事件はあんたの専門分野やないか…うちとこに言うて来るのはお門違いやで。」

「分かってるわ。そう云う分野の事件とは違うに決まってるやないか。」

「マサの事件には子供の頃から、何回も付き合うて来たけどな、あんた以外の人から聞いた事件には、確かに大きな出来事も在った。けど、あんたの口から聞いた話で『事件』やと思えたのは…百万歩譲って、タコ焼きの値上げだけやった。」「ほんで…どんな事件なんや? 言うてみ?」


「いや…一回出直してくるわ…」

「ちょっと待ち…おもろそうやないか?」

「よう考えてみたら、たいした事件でも無さそうや…ほな。」

「アホっ!『ほな』や在るかい。言いたくてウズウズして来たんやろ?」

「それは、そうやけど…お前の先制攻撃にひるんでしもうたやないか。」

「その雰囲気からして、どうせ食べるモンやろ? タコ焼きと同じで『譲れる歩数』が在るかも知れんやないか。」


「そう云う意味では、百万歩よりは少ないと思うで。天王寺の路地裏に期間限定で、スペシャル焼2枚をカップルで食べ切れたら無料になるお好み焼屋が出来たんや。」

「なるほど、カップルって云う処がミソなんやな?」

「その通りや。先輩に成功した人も居ってなぁ、確かに凄いボリュームらしいんやけど、男が1枚半以上は食べてやらんと、普通の女の人では無理な量らしいんや。」

「ほ~話がだいぶ見えて来たで…」

「ほんでや、特大のミックスモダン焼きを2枚らしいけどな、これを1時間以内に食べたらええと云うんやから、俺とお前にしたら時間無制限と一緒やろ?」

「当然や、1時間で食べられへんモンは2時間掛けても食べられへんわ。」

「なっ…おまけに食べ切れたら、普通サイズやけどミックス焼の無料券までプレゼントと云う事やから…近々、小西先輩も伊藤ちゃんと挑戦しに行くと言うとったわ。」


「ミックス焼の無料券? それを早よ言わんかい…事件やないか。」

「せ、せやろ…良かった~」

「食べる話となると、高木や…大塚も凄かったはずやで。なぁ、カップルとは言うても、付き合うてる必要は無いわなぁ?」

「うん、男と女やったらええと思うで。」

「ええ感じや、『高木チャンス』もあり得るかも分からんな……さっそく連絡したらんとアカンわ。」

「あっほんでな、どうせ行くんやったら、一緒に行かへんかと誘われてるんやけど…」

「小西・伊藤コンビか?」

「うん。」

「なんの問題も無いやんか…今度行く時には一緒に行く事にしとこ。」

「…今度?」

「あんた、今日は昼御飯を食べへんつもりなんか?」

「さすが夕子や…行こか。」




 「ふ~っ、出て来た時はちょっとビビったけど、食べられるモンやなぁ…」

「うん、あれは確かに…普通の人やったら、男3人でも無理やろな。」

「いや、4人でもどうやろか。」

「かも知れへんなぁ…うちも頑張ったけど、久しぶりにあんたの『ハ虫類の食いだめ』には恐れ入ったわ。」


「相手がお前で無かったら絶対に無理や。」

「それこそ、高木が最適なんや…言うとくけど伊藤ちゃんは、うち程は食べられへんはずやけど、小西さん大丈夫か?」

「俺とおんなじ理由で大丈夫やと思う。」

「なんや…おんなじ理由って?」

「残り4分の1になった時、ちょっと箸が止まり掛けたやろ?」

「あ~っ、分かるわ~あそこがポイントやったなぁ。」「正直なところ、美味しかったのは1枚とちょっとくらいやったわ。」


「俺も、全く同じ意見や。」「そこからは気合の勝負やったけど、残り4分の1からは…これを食べんと金を払わんとアカンと云う危機感だけやったわ。」

「1枚…3000円のお好み焼やもんな。」

「それが2枚や…気合も入るやろ?」

「なるほど…それが小西さんと伊藤ちゃんにも当てはまると云う分けや。」

「当てはまるとは思わんか?」

「あの2人やったら絶対に心配いらんわ。」「伊藤ちゃんの負けん気と根性は、小西さんが弱音を吐いてもカバー出来るほど凄いで。」


「それは小西先輩にも同じ事が言えるはずや…ただし、2人が行く時に、お前はもう1回チャレンジする覚悟と勇気は在るんか?」


「………なぁ今、それを聞くんはやめてくれへんかなぁ…腹が減ってる時にもう1回聞いて欲しいわ。」

「それって、遠まわしに嫌がってるんと違うんか?」


「ほな、あんたはど~やねん?」

「…難しい質問やなぁ……」

「アホっ…普通はそうやろ? けど、うちはイケると思うで。何回もは厭やけどな、もう1回は大丈夫な気がして来たわ。」

「さすが夕子や…そうなると俺も大丈夫に決まってるやないか。」

「今…答えが出てしもうたやんか。なんか…ちょっと、自分が怖いわ。」

「言うとくけどな、今日とおんなじだけは食べてくれんと俺もギリギリやからな?」

「まぁ、それも当たり前やろ。せやけど腹が張るのは分かってても……次は1本だけでええから、うちはビールも飲むで。」

「本気で言うてるんか? さっきも言うたやろ…俺もギリギリなんやで?」

「いや、たくさんは無理やけど、1本やったらええ効果が期待できるように思うねん。」

「まぁ、お前が言うんやったら心配はせえへんけどな…俺には考えられへん事や。」

「ん~、ど~なんやろ? あんなモン水だけで食べてるより、ちょこっとビールでも在った方が食が進むんと違うんかなぁ…?」


「ふんふん、そう言われたら………」


「…けど…やっぱり、あんたはやめとき。」

「…俺もそう思う…」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第46話


 「お~い、朝からアルが起こしに来よったから、ついでに連れて来たったど。」

「なぁ、マサ…アルの奴、あんたになついてるんは分かってるけど、あんたの家でエサまでもろてるんと違うか?」

「いや~どうやろ…俺が居てる時は、今日みたいに上に乗って来よる事も在るから、こうやって連れて来たんやけどな。」

「やっぱり、エサの話はおばちゃんに聞かんと分からんか……」

「なんや、エサをやったら具合悪いんか?」

「そんな事はあらへんけど、ただこの頃、時々食欲が無い事が在るねん。せやけど調子が悪いどころかメチャ元気やし、どこかで食べてるに違い無いんや。」

「なるほど、そら確かにお母んで無いと分からへんわ。」「気になるようやから、ちょっと待っとくんやったら聞いてきたるで?」

「せやねん、マサとこで無かったら、それはそれで問題やしなぁ…ゴメンやけど頼むわ。」



 「安心せえ、当たり前のように、お母んやったわ。せやけど、無理にやってる訳や無さそうやで。」「アルの方から『おねだり』をして来た時だけ、夕子が忙しいて『おあずけ』されてると読んでの事らしいわ。」

「そうか…アル~お前、実に世渡り上手なネコやったんやなぁ? お店にペットを入れる分けにもいかへんからな……マサのおばちゃんやった気も使わへんし、好きなだけご馳走になってきたらええんやで。」


「お、おい今…こいつ…うなづけへんかったか? 絶対そう見えたど……」


「アホっ、理由は分からんけど、たまたまに決まってるやないか。」

「そうやろか。タイミングが抜群やったからな…絶対そう見えたんやけど…?」

「あんたの何でも面白い方に取る性格…嫌いや無いで、そう思うてたらええやんか。」

「…まぁ、それはそうかも知れんけど……こいつ、妙に頭のええとこが在るからな。」

「確かに…『間』というかタイミングは心得てるわなぁ……さすがに大阪の猫だけの事は在るやないか。」


「えっ…結論はそれかいな?」

「大阪は猫までおもろい…って、ええ感じやと思わへんか? 思うやろ?」


「思う…ええ感じや。」「アル~お前は大阪の猫やから、ひょうきん者らしいで。」「そう言うたら、名前までひょうきんやもんなぁ…え~っと…『アルフォンヌ・スタインベック・シュッツトガルト3世』か…知ってるから読めるけど…………なぁ、夕子?」

「うん、ど~したんや?」

「いや、この迷子札のプレートって、知らんかったら勿論読めんと思うけど、先生やおばちゃんは読めるんか?」

「それって、大きな声では喋らん方がええ話とちゃうんか? まさか…名前くらい2人とも知ってるからな。」

「あっ…いや~うちのお母んも最近……離せば分かるって歳みたいでなぁ…」

「そうやなぁ、お父ちゃんはそうでも無いんやけどな、お母ちゃんが本や雑誌を読む時には老眼鏡が無いと苦しいみたいや…元々眼が良かったせいも在るらしいけどな。」

「お母んもそう言うとったなぁ…それに親父も若い時から近視でメガネは掛けてるけど、そろそろ遠近両用が必要になってきたような事を言うとったわ。」

「う~ん、みんな、まだまだ老け込む歳でも無いけどなぁ……聞いた事は無いけど、その迷子札は確かにキツイかも知れへんわ。」


「せやろ? これはホンマに細かいからな、老眼の人にはつらいモンが在ると思うで。」

「せやけど…なぁ、お母ちゃんの前で、老眼の話はご法度やからな。覚えときや。」

「な、なんか、怖そうやなぁ?」

「うちが…ビビるくらいやからな。」

「……これは口が滑らんように気を付ける必要が在りそうやな。」

「まぁ、難しゅう考える事はあらへん…見ても知らん顔しとったらええんや。」

「そうは言うても、俺は今まで、おばちゃんがメガネを掛けてる姿も見た事が無いからな……今後、見た時には気を付けるわ。」

「そうしてあげて…あんたとか、若い人に言われるんが一番こたえるみたいやから。」

「それが、若さの秘訣なんやろ。老眼とかには逆らわれへんだけで……気持ちを持ってる事が大切なんやと思うで。」


「分かったような事言うやないか?」

「……分かってるんや。ええか、オリンピックに行くんやと云う気持ちが無かったら、キツイ練習には耐えられへん……それを更に支えてるんが、夕子…お前や。」


「あ……アホっ、急に何を言いだすんや……嬉しいけど、妙に恥ずかしいやないか?」

「別に、どうと云う理由は無いんやで…いよいよ近づいて来たからな、絶えず自分の気持ちを駆り立てて維持する必要が在るんや。」


「…そうか……まぁ…『頑張りや』としか言いようが無いけどな……」

「それで十分や。誰に言うより、お前に言う事が…俺には大切なんやから。」

「それで、気持ちは駆り立てられるんか?」

「なによりも効くんや。」

「維持も出来るんか?」

「利子まで付くんや。」

「そんな…マサ……嬉しいやんか…………」


「……………………」

「……ここから先は……おあずけや……」

「…う…うん…分かってる……まかしとけ。」「ええか、俺は…どんな事が在っても、金色の土産を持って帰えって来る……ほんで、この土産は…夕子、お前のモンなんや。俺はなぁ……俺の人生の目標は金メダルなんかより、もっと輝いてるんや。」


「…あ、アホっ………アホやけど……なぁ、アル~お前も応援したってや、頼むで。」


「 … … 」


「…ほ、ほら……今のは完全やったやろ? 2回やで、2回うなづいたやんか……」

「…うん……うちも見た…確かに2回…」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第47話


 「なぁ、お母ちゃん……今でもお父ちゃんの事、大好きやろ? それは普段から見てても分かるねん。」

「な、なにを急に言い出すんや? お刺身と一緒に指まで盛り付けるとこやったやんか。」


「…なぁ、子供の頃からなんべんも聞いてるけどな…元々、男前やったお父ちゃんの制服姿を見て惚れ込んだんやろ?」

「ほんまになんべんも言うてきたやないの…なんやのん今更…?」

「うん…今でも大好きなんはええとしてな、今でも男前やと思てるんか?」

「もう、けったいな子やなぁ……そんなん当たり前やんか。そら、確かにちょっとお腹も出て体型は変りはったけど…あんな男前、見た事ありませんわ。」

「胸張って言うもんなぁ……いつもやったら『痒ぃ~』ってセリフやけど、改めて聞いてみたら…嬉しく聞こえるモンやなぁ……」

「夕子…あんた、昌幸くんとなんか在ったんか? もしかしたら…とうとう……」

「……とうとう…って……何を考えてるんかは知らんけど…うちも、マサが男前に見えてきたんや。」


「そんなん、ずっと前から男前やんか…今まで思うてなかったんかいな?」

「うん、ブサイクとも思うた事は無いけど、正直…男前とも思うて無かったんや。」

「冗談やと思うてましたけど…夕子だけの評価が低いって、ほんまでしたんか?」

「どうなんかなぁ…なんて言うんか、マサより『カッコええ子』も『性格のええ子』も見た事が無いのは絶対的な事実なんやで。」

「当たり前やろねぇ…私も、お父さんかてそう思うてますから。」


「実はうちも、あいつの事がちいさい頃から…ずっと好きやったんかも知れへんなぁ。」


「あのなぁ……そんな事、この辺の人やったらみんなが知ってる事やんか。」「あんただけが厭がってるフリをしてた事まで、みんなが知ってますんやで? あんた自身かて分かってますやろ?」


「せやなぁ……うちだけが、ホンマは嬉しいくせに…って事やったんかもなぁ?」

「それを今になって気が付いたって言う話を……夕子はしたいんか?」


「……結論はそうなるんかなぁ? とにかくあいつ…男前やったんや。アホもだいぶマシになったやろ? 気が付いたら悪いところが見当たらんように成ってしもたんや。」


「私が聞いてて『痒ぃ~』と思えてきましたわ…まだまだノロケ話は続きますんか?」


「堪忍やで…うちがノロケるって可笑しいもんなぁ……せやけど、マサのお陰で色んな事に気が付いてきたんや。」

「なるほどね。それを昌幸くん本人には…ちょっと言い難いやろしなぁ、私で良かったら聞いたげるで。」


「うん。うち思うんや、うちにもマサにも…他に幸せになれる相手が、実は居てるかも知れへんやろ? せやけど、あいつで無いとアカン理由は、あいつほど…うちを好きになってくれる相手が居て無いからなんや。」


「その通りやで……ええか、昌幸くんが、あんたに怒られても、エライ目に合わされても、あんたの事がずっと好きで居てくれたんは……夕子あんたが、あの子事を好きやと気付いてたからやで。」


「せやねん、うちもそれに気が付いたんや。」「人って好きな相手に好かれる事で、更にもっと相手を好きになれるって事がな……やっと…やっと恥ずかしがらんと、素直に感じられるようになったんや。」


「ほら、それを昌幸くんに言うてあげんと……どんなに喜んでくれると思うんや?」

「そんなん出来る分け無いやんか……恥かしいて……」


「…ほんまに、この子は……昌幸くんは夕子の喜ぶ事を素直に言うてくれますやろ? 違うんですか?」

「せやねん、お母ちゃんの言う通りや。マサの奴…ほんまに、こっちが恥ずかしなるような事を素直に言いよるねん。」


「それも子供の頃からずっとやんか…ほんまに素直でええ子やで。」

「うん、おまけに最近は信念をもってるんやろなぁ…堂々としてカッコええんや。」

「…ハイハイ……そろそろ、ホンマにええ加減にしとかんと……今日はその男前が来るんと違いますんか?」


「せやねん、予定では、そっちの男前と一緒に来るはずなんやで。」

「うふっ…なんか嬉しい気がするやんか……厭やわ~」「ほれ夕子、暖簾出してや~」




 「…あっ、森川さん今晩は…今日は一人ですか?」

「せや…今のところはな。今日あたり、北さんと山ちゃんが来る頃やと思うてな。」


「なるほど…せやけど時間的に来る頃とは違いますやんか。今から飲んでたら、北村さん達が来るまでに、出来あがってしまうんとちゃいますか?」

「アホぅ…年は取っても30分では酔わへんわ。それよりサブちゃん、ちょっとママと若女将のしつけが成って無いど。」

「えっ、なんか在りましたんか?」


「なんもかんも在るかいな…2人共、わしの顔みるなり『なんや、森川のおっちゃんか』って言いよったんやで…『責任者出て来い』ちゅうんや。」「ママとは話が付いてるからな…お前らを待っとたらしいんやけど…ええか? 1杯目はサブ、2杯目は昌幸のおごりやからな。」


「…なんで、俺らのおごりになるんや? 普通は店のおごりになるんと違うんか?」


  「不思議やろ? あんたらが男前やからや。」


  「…あっ……どうぞ若女将も飲んで下さい。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第48話


 「なぁマサ、ふと思たんやけどな…あんた趣味ってなんか在るんか?」

「おい、なんぼ俺でもカチンとくるど…趣味の1つや2つ無い方がおかしいやろ?」「だいたい今更なにを聞くんや? そうかプレゼントでもくれる気なんか?」

「アホっ、ちょっとお客さんと趣味の話になったんや。ほんで考えてみたら、うちも『趣味は?』って聞かれたら…音楽鑑賞…ぐらいしか思いつかへんかったんや。」

「お前の場合は片寄り過ぎてるから…音楽鑑賞とは言わんと、ずばり『サミーディビス・ジュニア』と言うたらどうやねん?」


「アホっ! 他の人も聞くわ…まぁ、8対2ぐらいやけどな……ほな聞くけどな、あんたの趣味って何やねん? 考えてみても全く思いつかへんで?」


「柔道とお前に決まってるやろ……2つも在るから俺の勝ちやで。」

「はぁ~ …聞いたうちがアホやったわ……お願いやから、よそで言わんといてや。」

「なんでやねん…これ以上の趣味は無いやないか? お前も、料理と俺を入れといたらどうや? 今やったら無料でサインもついてくるキャンペーン中やど。」


「アホっ、もうええ……せやけど、なんか……今までみたいには腹が立たたへん…自分でも不思議やわ。」
「まぁ、あんたの場合はトレーニングが趣味みたいなモンけどな…せや、ジョギングが在るやんか?」


「あのなぁ、お前も今、自分でトレーニングって言うたやろ? ジョギングって言うたら趣味に聞こえるけど、ランニングやないか…筋トレも全部、趣味の中の『柔道』に含まれてるんや。」

「せやなぁ、解釈としてはそうなるわなぁ…ほな、最後に残ったんは…『エロ雑誌収集』だけやんか?」


「…な、なにを言うんや……アホっ、そんなモン趣味って……それはやなぁ…その~…趣味の中の『夕子』に含まれてるんや……」


「アホっ! あ、あんたこそ何を訳の分からん事言うてるんや……なんでエロ本がうちに含まれんとアカンねん? ちょっと待ちや……なるほど、あんた微妙な表現するやないか……ほな、あんたが最初に言うたように、うちが『プレゼントでもくれる気…』やとしたたら……何が期待出来ると言うんや?」


「…いや……それは違うやん……話の成り行きやないか…いつもの事やろ?」「すごい推理力やけど、度が過ぎてると思うで…」


「ふ~ん……まぁええわ。」「こう言う話は……最近ちょっとアブナイ気になるんや……この辺にしといたるわ。」「ほんで…あんた今日は、趣味の練習は予定して無いんか?」


「うん、この頃はなぁ……休む時には完全休養日にするようにしてるんや。」

「それはええ事やと思うで。気分転換って大事な事やし…うちも部活が懐かしいわ。」

「まぁな…しかし、気分転換も大事やけど、ここまで来たら、怪我が一番怖いからな…疲れを抜く事が必要なんや。」


「……なぁ、お好み焼ばっかり食べてんと、どっか温泉でも行かへんか?」

「まぁ、この前も行った洞川とか…そんなに遠いとこで無かったらなぁ…」

「向こうでのんびり出来る方がええから、近いにこした事はないんやけど……どこか思いつかへんか?」

「う~ん……近場の温泉やろ? 限られてるとは思うけど、道が分からへんやないか?」

「加太やったらどのくらいで行ける?」

「距離は洞川とかわらんと思うけど、26の混み具合によるなぁ…道は判るけど心当たりでも在るんか?」

「うん、魚釣りの好きなお客さんから聞いた事が在るんや…マサも知ってるやろ? 西村さんや。」

「パン屋さんの?」

「違う、建材屋さんの方や…どっちもお得意さんやけど、パン屋の西村さんは魚が大好物でも魚釣りはしはらへん。」


「おもろいなぁ……確か、建材屋の方の西村さんは釣った魚を持って来てくれるのに、自分では食べへんのやろ?」

「ほら、知ってるやんか……魚料理で食べるんは『アラ炊き』と『ジャコ』だけやねん。」

「不思議なモンやなぁ?」

「お陰で釣った魚はほとんど持って来てくれはるから有難いんやけどな。とにかく、うちの店で魚釣りと言うたら、この西村さんの事やねん。」

「なるほどな…ほんで、その西村さん情報が加太なんやな?」

「新鮮な魚が、安く食べられるお店が何軒か在ってな、日帰りで温泉に入れる宿かホテルも在ると言う話やったんや。」

「ほ~、おんなじ処へ行くより、そっちへ行ってみよか? 距離は似たようなモンやと思うし、道も加太やったら迷う事も無いわ。」

「それに食べるモンかて、山の幸より海の幸が好みやろ?」

「…よし…スクランブル発進や。」「今からやったら午前中には付くはずやからな…悩んでる暇は無い……洗車は?」


「アホっ、そんなもん要るかいな…弁当もいらんやろ?」

「洗車って、弁当と引き換えやったんか?」


「今頃なに言うてるんや? 車は走ったらええんやけど、うちが弁当作ってる間にあんたが遊んでると思たら腹が立つやないか?」


 「……ガソリンを入れんとアカンなぁ…」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第49話


 「なぁ、お父ちゃん、ほんまにお通夜には一人で行くんか?」

「そのつもりやけど…昌幸の事か?」

「うん、マサは行かんでもええのんか?」

「大先輩とは言うても、面識も無いOBなんやから必要無いやろ……現役やったら別かもしれんけどなぁ。」


「そうか、それやったら別の用事なんや。」

「なんや別の用事って? 昌幸がどないかしよったんか?」

「いや…あいつ急に、今晩は帰りが遅いって言いよるもんやからな……」

「なるほど…友達と約束でも在るんやろ。」

「いや違うな……急過ぎたし、ちょっと様子が普段とは違うたんや。」

「どないしたんや? 夕子にしては珍しいやないか…まさか心配でもしてるんか?」

「明日は休みやから当然今日は店に来る予定やったんや。それを昼休みに、わざわざ電話を掛けてくるって…絶対におかしいわ。」


「なんでやねん、急に誘われる事も在るやないか…普段のあいつが『お~い中村くん』過ぎるんや。」

「アホっ。分かるんが厭やけど、茶化さんといて…だいたい新婚と違うやんか。」

「お~歌詞まですぐに浮かぶって事は…お前も中々の懐メロファンやな?」

「せやから、茶化したらアカンって……別にいらん心配をしてるつもりは無いんやけど、あいつの事は何でも分かるんや……絶対になんか在ったはずなんや。」

「…まぁ、お前がそう言うんやったら、間違い無くなにか在ったんかも知れへんけど、無理やり聞き出すような事はやめとけよ。」


「…せやな。分かった…そうするわ。」

「おいおい、マジかいな……ええ話や無い事まで分かってるんか?」

「…うん…なんでやろ? 分かるんや。」「そろそろ準備に出かける時間や…お父ちゃんもお通夜が済んだらお店に来るんやろ?」


「うん、帰って風呂に入ったら行くつもりやで…俺も明日は休みやしな。」

「マサも用が済んだら来よるやろ……」



 「……マサ…お帰り…」

「……いつも通り、唐揚げ大盛りとビールのセットをたのむわ。」

「…遅うなるって言うてた割りには早かったなぁ…もう用事は済んだんか?」

「うん、ちょっとした話が在って集合が掛かっただけやったからな…先生はまだか?」

「お通夜なんは知ってるやろ? 終わったら来るそうや…約束してたんか?」

「いや、約束してる訳とは違う……俺には面識も無い大先輩らしいけど、懐かしい面々が集まるみたいやから、話し込んで先生こそ遅うなるかも知れへんで。」


「偉い人も多いんと違うんか? お父ちゃんの場合は『エライさん』に親しい人は居て無いと思うで。」

「…それもそうやな…まぁ、のんびり待つ事にするわ。」

「……あんた、お父ちゃんになんか話でも在るんか?」

「…分からへん……先生から話が在るかも知れへんし……粕汁くれるか。」

「…うん、粕汁やな…」

「……ふ~っ…ビールもおかわりや。」


「いょ旦那、今日はペースが早いでんなぁ。」

「……心配せんでも3本以上は飲めへん。」

「…し、心配なんかしてへん…」「ノリが悪いやないか…なんか………はい、粕汁におでんの卵と厚揚げを入れといたで。」

「なぁ夕子、なんか在ったんは気付いてるんやろ? 聞くのを辛抱してくれてるんやと思うけど……はっきりしたら言うから、ちょっと待っといてくれ。」

「うん、それはかまへん。けど…うちが心配するような話とは違うんやろな?」

「…違う……どっちか言うたら喜ぶかも知れん話や。」

「……それは……まぁええ。マサがそう言うんやったら期待して待っとくわ。」

「うん、ゴメンなぁ…」



 「おう…昌幸、居てたんか。招集が在ったんやろ? 話は聞いたで。」

「そうやろうと思うて待ってました。」

「前代未聞の出来事や…内緒にせえと言われてるやろ?」

「はい、夕子にも言うてません。」

「あいつは、昼にお前からの電話で…すでに何か在ったと気づいてる。誤魔化さんと正直に言うたった方がええと思うで。」

「…やっぱり、そう思いますか?」

「うん、組織を通じての情報やと言いながら俺らの耳に入ってくる時には……お前には気の毒やけど、決まった事やと思うで。」

「……そうでしょうね…先輩にもそう言う人が多いですわ。」

「せやから話を広める訳にはいかんけど、夕子に話をするくらいは問題ないはずや。」

「完全に決まってからの方がええと云う事はないですか?」

「言いたい事は分かるけど、相手は夕子や…そのまま伝えといた方がええやろ。公表されて騒ぎになるのも時間の問題やと思うで。」

「分かりました…今日は先生と飲んで、夕子には明日の休みに話をしますわ。」

「それがええ。みてみい夕子の奴、わざわざ俺とお前から離れてくれてるんが…お前にも分かってるやろ?」


  「はい…」




 「マサ……二日酔い、大丈夫か?」

「うん、大丈夫や…俺もなんとかビールの限界が4本になりつつあるみたいや。」

「お酒なんか弱いままでええやんか…マサにはええとこが一杯在るんやから……」

「なぁ、人に言われたら困るんやけど、お前には正直に言うとく……日本はモスクワオリンピックの出場を辞退するそうや。」


「…………まさかとは思うてたけど、きのう『喜ぶかも知れん話』と言うたやろ? オリンピックに関わる事かも知れんとは考えたりしてたんや。」


「そうか……さすが夕子やな。」「確定はして無いらしいけど、俺らの耳に入ると云う事は決定やと覚悟しとく必要が在るそうなんや。」

「そうか…お父ちゃんがそう言うたんやろ? 残念ながらこう云う事は当たりよるんや。」

「おそらくな……多くの先輩も同じ事を言いながら慰めてくれたわ。」「せやけど夕子、俺には慰めなんか必要無いで、いままで通り自分に出来る事を頑張るだけの事や。」「お前は助かったと喜ぶつもりか?」


「アホっ、内容は別として…ロクな話や無い事は分かってた。」「これで、やる気を無くすような男やったら、うちの方から願い下げやけど……仕方が無い事やんか。」


「うん、お前がそう言うのは分かってた。せやから言うてる訳や無いんやけど、ここでやる気を無くしたら、お前まで失くしてしまうやろ……神頼みをしても無駄な事は知ってるしな。」


「当たり前やろ……神や仏やって言いかけたらそれこそマサとは終わりや。うちは無神論者と云う事に誇りを持ってるんや。」


「それは俺も、全く一緒や。悟りを開くって事は、御経になんの意味も無いって事に気がつく事やと思うてるくらいやからな。」


「お坊さん以外で、それに気がついたマサは偉いやんか……まぁ、うちとあんた以外の人がどう思うてたとしても、全くど~でもええんやけどな。」


「ほんまにその通りやな…それにお前としかこんな話は出来へんしなぁ。」

「当たり前や。ここだけの話に決まってるやんか……気を付けや。」「…まだ…夢も消えた訳やないんやろ?」


 「…任せとけ…選抜試合にも絶対に勝つ。」


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弘と書いてひろむと読みます

Author:弘と書いてひろむと読みます
主人公の夕子と昌幸は作者と同級生と云う設定。          ディープな町、西成区花園町の世界を御堪能下さい。

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