制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第30話


 「なぁお母ちゃん、この頃気になるんやけど、いつまでもジャージに割烹着って訳にもいかへんのとちゃうやろか?」

「せやねぇ、私は着物が当たり前に成ってますけど、あんたには動きにくいやろし、かまへんのとちゃいますか?」

「せやけどお母ちゃん、ちょっとは色気も必要やと言うとったやんか。」

「色気は服装だけで出て来るモンやありませんで。あんたがこの頃めっきり女らしく成ったんも、昌幸くんからプレゼントしてもらったスーツやワンピースのお陰とは違いますんやで。」

「えっ、せやけどアレがきっかけで……」

「そう、きっかけでしたんや。」「あんた自身が目覚めたと言うた方が正しいんやろけど、『ジャージのままでええんやろか』って思うのも同じ事ですわ…夕子の中の女が弾けたと云うことやね。」

「そうか…後輩からも色んな事を言われてきたけど、なんやかんや云うても、気にして無かった。」「せやけど、面倒くさいと思いながらも、鏡に映ったスーツ姿の自分を見て『うわっ! これがうちかいな……中々、イケてるやん』と正直なところそう思うたんや。」

「それこそ、そこが夕子の中の女が弾けた瞬間やった訳やね。」

「うん…なんや気恥かしい感じもするけど、それが良かったと思えるわ。」

「一番喜んでるのは、なんと云うても昌幸くんやと思いますけどね。」

「それについては、うちもそう思う。あいつの狙い通りやと思うたら腹も立つけど、これに関しては良しとしとくわ。」

「とにかく、そう云う気持ちを持ってるんやったら、ジャージでもええんやないかと思いますねん。動きやすいし、あんたには、これはこれでよう似合うてますからなぁ…そうや、エプロンにしたらどうですやろか? 割烹着って着物を想定したものやからね。」

「そうかも知れへんなぁ…当たり前のように割烹着を着てたけど、なんか違和感を感じとったんや。それに、うちに着物は…ちょっと無理があるしなぁ。」

「そう云うことやね。今の夕子は、男の子や無うて、ちゃんと女の人に見えますからねぇ…しかも、えらいべっぴんやし。せやから、清潔で小奇麗な格好やったらよろしいんや。」「良かったなぁ…私に似てて。」


「……素直に喜んどくわ。」「でも、なんか納得がいったわ。メニューと一緒で、何がなんでも和風にこだわる必要もないのかも知れへん。お母ちゃんは着物に割烹着、うちはジャージにエプロンでもええんや。」

「そうやね、逆に私が、着物ばっかりや無うてジーパンでもはいてみよか? お揃いのエプロンも面白いかも知れませんで。」

「それ…ええやん。お母ちゃんのジーパンも絶対似合うわ。うちも見てみたいし、お父ちゃんをびっくりさせたろ…うちの方が背は高いけど、サイズはそんなに変らへんやろ? 今度の休み、エプロンと一緒に買うてきたるわ。」

「そうやね、夕子のセンスに任せますわ。けど、ジーパンはスリムにしてや。」

「スリムなんやな…まぁええわ、ほんでサイズは?」

「…ジーパンは自分で買いに行く事にしますわ……エプロンだけ買うてきて。」

「娘に恥ずかしがってどないするねん。」

「私は女に目覚めてから、まだ起きたままなんや。それに、あんたの買い物って一人で行くんとちゃいますやろ?」

「それって、黙って付いてくる専属の荷物持ちの事を言うてるんか?」

「その荷物持ちにバレて、夕子と比べられたら恥かしいやんか。」

「そんなん誰も比べるかいな。仮に比べた処でどうなるんや?」

「私に対して持ってるイメージを大切にしてやらんと…ただでさえ最近は私のファンが減って、あんたの方へかたよってきてるんやから……」

「お母ちゃん、変なとこで、うちをライバルにするのんはやめて欲しいわ。」

「いいえ、ライバルとは思うてません…単純に悔しいだけですわ。」「若いお客さんは分かりますけど、不思議な事にお年寄りも、ほとんどが夕子のファンですやんか…私のファンって、ごく幅の狭い40~55ぐらいの年代だけやないの……」

「お母ちゃん、そんなとこまで分析してるんか? ライバルどころか、うち…ねたまれてるんとちゃうか?」

「いや、ねたんでる訳でも無いんですけど、なんや悔しいんですわ。」

「なんか『女に目覚めてから起きたまま』って言う一言に説得力を感じる展開やなぁ。」

「私は、夕子と張り合うつもりなんか、全く無いんやで、せやのにどこかで……なんて云うんか…そう云う事なのかも知れませんなぁ……」「さぁ、すっかり遅うなってしまいましたやんか。夕子は、まだ何かする事が残ってるんですか?」

「いや、あさってが休みやから、こんなもんで十分や。お母ちゃん…帰ろか。」「ほんで、あさってには荷物持ちも休みやから、趣味のええエプロン探してくるわ。お母ちゃん、ほんまにジーパンはええのんか?」


「……気持ちは嬉しいんですけど、やっぱり自分で買いに行く事にしますわ。」


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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第31話


 「なんや昌幸、誘いに来たんか?」

「いえ…ちょっと先生の顔を見に寄ったんですけど、先生が行くんやったら、なんぼでも付き合いますよ。」

「お前、飯は食べて来たんか? 俺はちょうど食べ終わったところなんや。」

「はい、食べてはきたんですけど、ちょっと物足らん気がして……」

「なるほど…よっしゃ付き合うたるわ。」

「先生、ちょっと見せたい物が在るんですけど、ここで………」

「ふ~ん……そう云う事か…」「何か持ってるとは思うてたんや。店に行く前でないとマズイんやな?」

「はい、ものごっついマズイです…実は、これですわ。」


「お、おい…これは………」


「先生、振り向かんでも、今は大丈夫ですやんか……店は営業中なんやから。」

「せ、せやな。」「しかし、これは…うわぁ~アカンやん。完全にアウトやないか…お前、これどないしたんや?」

「新婚旅行でハワイに行ってきた先輩の土産ですわ。」

「なるほど、それで完全無修正か。」「上手い事隠せた訳やな…けど、ドキドキやろ? ちょっと待てよ…お前の先輩って事は?」

「はい、その通りですけど、なんか話によると、堂々とさえしとったら、初めての海外旅行…ましてや新婚旅行となると形式だけで、ほとんど調べられへんらしいですわ。」

「ふ~ん、そんなモンなんか…まぁ、これぐらいの事、たまには警察官と云う事を忘れてもええやろ…大きな声では言えんけどな。」

「はい、此処だけの話、婦警さん以外は、みんな同じ事言うてましたわ。」

「そらそうやろ、だいたい商売にする奴が居てるから悪いんや。個人で楽しむ分には何て事無い話なんや。」「そう言えば、押収物を見るんを楽しみにしてる奴もおったわ。」


「先生、それこそ此処だけの話に………」


「…せ、せやな。とにかく、今はこれをど~するかって事が大問題や。お前、どこに隠しても夕子に見つかるから、俺のところへ持って来たんやろ?」

「それはその通りですけど、ええ隠し場所が在ったとして、先生に内緒にしてても良かったんですか?」

「…で……でかした。さすが昌幸、褒めてつかわす。」

「はっ、有難き幸せ…って、早よ隠すところを考えて、飲みに行きましょうや。」

「う~ん、実際のところそれが問題やで。夕子に見つかってから、なんか雲行きも悪いし居心地も悪いんや……」

「先生、言うときますけど、見つかるんやったら、おばちゃんですよ。夕子にだけは絶対に見つからん処に隠して下さいよ。」

「ほんで、もし見つかった時には、一人で罪をかぶれと云う事かいな。」

「この雑誌と引き換えの、どないしても譲られへん条件ですわ…頼みますよ。」

「頼まれてもなぁ…この前は、碁盤の箱に隠してたんを夕子が踏み台に使いよって見つかったんやで。」

「そんなん、碁盤が押し入れの奥やったらええけど、すぐそこに見えてますやん。相手は夕子やのに踏み台にしてくれと言うてるようなモンですやんか。」

「アホっ、お前にそんな事言われたないわ。お前こそ引き出しの奥とか、旅行カバンの中とか、ベッドの下とかで、いかにも見つけて下さいって場所やないか? お前こそしっかりせんかい。」
 
「しっかりしたいんですけど、俺の部屋で隠せる場所と云えば、ごく限られてますから、どこに隠しても、ちょっと手の込んだ掃除をされたら一巻の終わりなんですわ。」

「そうやなぁ、洋子も夕子もこんなモン探し回るタイプとは違うんやけど、ちょっとしたタイミングで見つかってしまうんや。」

「先生、以前見つかった月2回の雑誌は今、どこに隠してあるんですか?」

「アレは押し入れの……せや、あそこや。ちょっと待っとけよ……」



 「よっしゃ、これで安心や…しっかりと預かったで。」「さぁ、祝杯をあげに行こか。」

「待ってましたと言いたいんですけど、ほんまに大丈夫でしょうね? 今回は物が物だけに、絶対にお願いしますよ。」

「まかさんかい。ちょっと見るには不便な場所やけど、それだけ見つかる心配も無いと云う事やないか。」



 「よし、まずは乾杯や…昌幸、有難う。」

「なぁマサ、こんな中途半端な時間に、しかもお父ちゃんと来るって事は…何をしとったんや? 今やったら大目に見られる事でも、後になれば成るほど……覚悟は出来てるんやろな?」

「な…なにを言うんや、ちょっと先生に用が在っただけなんやけど、話をしてる内に、軽く一杯…となったんやないか。」

「あんたはいつも軽く一杯やんか。けど、ええわ。今回はうちには関係無さそうや。」

「えっ、なんで、そう思うんや?」

「マサがお父ちゃんに用が在ったんやろ? ほんで、入って来ていきなり乾杯や…『昌幸有難う』をうちが聞き逃すはず無いやんか…お母ちゃん、お父ちゃんがマサから何かええモンもろたみたいやで。」

「あら、昌幸くん有難う。帰ってから私も見せてもらいますわ。」

「…いや~そんなこと………」

「昌幸! お前は黙っとたらええんや。」「ここは帰るまでに策を考えて、俺がなんとか切り抜ける…子供の頃からお前の自爆には泣かされてきたんや、今日は絶対にアカン。」

「あんたら二人のヒソヒソ話で、内容まで想像がつくわ。」


「…先生~~~」

「お前も現役の警察官やろ…状況証拠と動機は思いっきり在っても、物証が見つかれへんかったらええんや。心配いらん。」

「……はい、命あずけます。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第32話


 「おい夕子、おばちゃんのジーパン姿、目茶苦茶カッコええやないか。俺はとしては、着物よりええと思うんやけどなぁ……」

「直接、お母ちゃんに聞かせたってくれるか…当分の飲み食いはタダにしてくれると思うで。」

「いやいや冗談とちゃうで。たとえば昼はジーパンにエプロン、着物は夜だけにするとか…なっ、お客さんも絶対に喜ぶわ。新しいファンが増えるんも間違いないで。」

「ええやないか…それも追加して聞かせたら、半年はタダになるはずやわ。」

「おいおい…とにかく、エプロンを買いに行くのに付き合わされたけど、こう云う狙いがあったんやな。」

「せやねん。急に何を思うたんか、ジーパンにお揃いのエプロンって言い出したんは、お母ちゃんからやで。」

「あっ、ほんで、ジーパンは1本やったのに、エプロンは2枚買うたんか。」

「あの時買うたんは、実はうちのジーパンなんや。『買うてきたろか?』って聞いたんやけどな…ど~しても自分で買いに行く言うて、お母ちゃんは自分で買うてきたんや。」

「えっ、そうなんか…おばちゃんジーパンなんか初めてやろ?」

「なんでやろなぁ…その理由を喋る勇気は無いけどな、あんたが褒めとったと聞いたら喜ぶ事だけは確かや。」

「まぁ、褒められるんは誰に褒められても、嬉しいやろ? けど、お前が喋るのに勇気がいるような理由が…俺には想像も出来へんけどなぁ……」

「想像もせんまま、忘れたって。」

「わ、わかった…」「ただ、お前のジャージに割烹着姿は…違和感と言えばそうかも知れんけど、俺としてはユーモラスな可愛らしさが在って好きやったんやけどな。」「二度と見られへんと成ると寂しい気もするわ。」

「実はうちも、違和感を持ちながらも気には入ってたんや。白い割烹着に黒い顔がアンバランスでなぁ…それが、マサの言う、ユーモラスに見えたんかも知れんわ。」

「うん…ほんまや、そんな気がする。」「しかし、ジーパンはおばちゃん自身も気に入ったんやろなぁ…今日は休みやのに、着てはったもんな。」

「あんたに見て欲しかったんやと思うで。」

「えっ、ほんまにか…なんでやねん?」

「あんたが来ると聞いて、着替えたからや…それまでは、いつも通り着物やったんや。」「先週の日曜日に買うて来て、初めて着たんが一週間後の今日やと思うで。」

「ええ~、喜んでええのか、不思議と云うたらええのやろか……」

「喜んだらええやんか。不思議な事もあらへん…お母ちゃんはマサのファンやから。」

「おっと…先生、ごめんなさい……」

「アホっ…ようするに、うちとお父ちゃん以外の誰かに褒めて欲しかったんや。真っ先に思い当たるんはマサしか居て無いやんか。」

「うん…まぁ、そうやろなぁ。」

「なっ。これでマサがさっき言うてた事を伝えたったら…さっそく明日の昼から、ジーパンと揃いのエプロンで営業開始や。」

「それこそ、ええ感じやないか。」

「まぁな…うちも楽しみにしてるんや。」「子供の頃は、お父ちゃんが自慢で、カッコええと思うてた。」
「今が違うとは言わへんけど、実はお母ちゃんが、なんて云うんか…今回のジーパンもそうやけど、歳を取るどころか若返ってきてるように思えるほどなんや。」


「なるほどなぁ…先生は確かに、おっちゃんに成ってきたと思えるけど、おばちゃんは全然、変ってへんもんな。」「ほんまに綺麗なおばちゃんのまんまや。」


「ええ感じやで…これで年間無料席ご案内は確実になったわ。」

「ぜひ、正直にそのままお伝え下さい。」

「まかしとき…って、アホっ。」

「ほんでも、確かにおばちゃんは年を取らへんな。知らん人には、お前と親子には見えんのと違うやろか?」「初めてのお客さんなんか、どう思うてるんやろな?」

「何回もある話やけどな…お母ちゃんの場合、嘘をついたり、誤魔化したりする気は無いようやけど『姉妹やろ』って言うてくれたお客さんには、過剰なサービスしてるんを…うちは見逃したってるんや。」


「ええやないか。」「おばちゃん、乙女してはるんや…これからも見逃したってくれ。」

「あんたらしい発想やけど…うちも全く同じ意見や、安心しとき。」


「よっしゃ、それには安心しとくわ。」「せやけど、ついでにもう一つ、安心させて欲しい事が在るんやけど…かまへんか?」


「えっ、何を思い出したんか知らんけど、急になにやねん?」

「いや~実は、ずっと前から思うてる事なんやけどな、お前こそ、その格好なんとかならへんのんか?」

「意味が判らへん…どこが気に入らんねん?いつもの格好やないか。」

「せやから、ずっと思うてる事やと云うたやろ。お前、夏になったらその格好やけど、今からお好み焼きでも食べに行くとなったら、その格好では行かへんやろ?」

「アホっ。当たり前やないか。それもいつもの通りやろ…この上に、ジャージ、もしくはTシャツとジーパンやないか。なにが言いたいんか知らんけど、知恵熱でも出たんか?」


「ほんまに、いつもの事やけどな…その上にジャージやろ?」

「しまいに怒るで…なにが言いたいねん?」

「今のお前って、ほぼ…下着やろ?」


「あ……アホっ…スポーツブラとランパンやないか?」「ちょっ、ちょっと待ちや…スポーツブラは、もしかしたら…100人に聞いたら何人かは下着と答えるかも分からんけど、ランパンはちゃうやろ? この下にまだ、ちゃんとはいてるし………」

「結局のところ…お前冬でも、今は脱いでるそのジャージを着てるだけの事やろ?」

「そ、そうや。」「けど、それはええやないか…なんもおかしい事あらへんやろ?」

「うん、それはええんや。そのまま表を歩けるやろ? 問題はそこや……」

「ちょっと待って…今日はスポーツブラやけど、競技用のセパレートの時も在るで。これは完全にアウトドアやないか?」

「競技場で見る分にはな。競技用のハイカットショーツなんかビキニより際どいやないか。そんなモンで商店街を歩いてる奴、見た事ないやろ? 在る意味、ドッキリやど。」


「もうええ、これで表を歩く分けとは違うんやから…ようするに、あんたはそのドッキリが厭なんか?」

「…いや、そんな事は…全然………」

「ほんならかめへんやないか…いらん事考えんと、あと2年辛抱しとったらええんや。」



制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第33話


 「困ったなぁ………」

「お母ちゃん…お父ちゃんが何か困ってはるけど、あれはお母ちゃんに助けを求めてる言い方やで。」

「放っといたらよろしい…朝からずっと困ってはるんや。あんたも昌幸くんが困ってる時は、子供の頃からロクな事が無かったやろ?この手の男の共通点や。」

「あいつの場合は、喜んでる時もロクな事が無かったけどな。」「ほな、うちは放っといたらええんやな?」

「薄情な娘やで。困ったもんや……」

「全然、無視して放っといて。」

「よっしゃ分かった。ちょっと用が在って店に行くけど、お母ちゃん…なんかついでが在るんやったら言うてや。」

「店に用事は在りませんけど、買い物に行くんやったら、カツオ節と昆布を頼みますわ。」

「それやったら、昼にマサと御飯食べに行ったついでに買うてくるわ。」

「はい、それで頼みます。明日の開店に間に合うたらええのやから。」

「ほな、お父ちゃんゴメンやで、うちは力になられへんわ。」「まぁ、用が在って出かけるんやけど、その間にマサが来たら、慰めてもろたらええやんか。ことによっては助けてくれるかも知れへんで。」


「昌幸が来るんか?」

「夕子、ちょっと待ち!」「あんた、しょうも無い事考えとったらあきませんで。」「昌幸くんやったらきっと助けるはずやから、夕子から『絶対アカン』と釘を刺しといてや。」

「怖い嫁やで、困ったなぁ……」

「お父ちゃん…何をしたんや?」「マサが助けられる事って…また性懲りも無く、小遣い使い果たしたんか?」


「頭のええ娘や、困ったなぁ……」

「アホっ! あんたが困った奴なんや。」「弱いんやから麻雀で負けるんは珍し無いけど、もっと弱いパチンコで取り返せるはずが無いやろ。『天下無敵の無一文や』と言うて泣きついてきたんやけど…今月一杯は何が在っても許さへん事に決めたんや。整骨院の帳簿もきっちり調べるよって覚えときや。」


「あっ、それはしゃ~ないわ。」「敵に回すとしたら、お父ちゃんか、うちとお母ちゃんの連合軍か…好きな方を選ぶように、きっちりマサに伝えとくわ。」

「麻雀もパチンコも、お前らも…みんな嫌いや。昌幸はたった一人の味方やのに…ほんまに、困ったもんや………」

「アホっ、一週間ほどの辛抱やないか…これに懲りて考え方を改めるんやで。」

「お父ちゃん、観念するしか無いやんか…ほな、うち行ってくるし……」



 「まぁ先生、月末までの飲代は俺が持ちますやんか…後は、これを機会に煙草をやめたらどうですか?」

「お前、簡単に言うけどなぁ…禁煙って何回やっても失敗するほど難しいんやで。」

「せやから、吸いたくても吸えないんやから…『仕方が無い、これはチャンスや』と考えたらええやないですか。」

「ほんまに簡単に言うなぁ…そら、お前は酒も煙草もギャンブルもせえへんから言えるんや。煙草代もくれへんって、ちょっとひどいいやないか………」

「確かに酒は飲まないと言うてもええ量ですけどね…せやけど、禁煙が難しいのも分かるつもりですよ。俺に子供の頃から『体の為や、煙草は一度覚えたらやめ難い。初めから手を出すな』と言うてたのも先生やから。俺はそれを忠実に守っただけですやんか。」

「せやな、お前は懸命やった。確かに1週間…吸いたくても吸えんとなると、やめられそうな気もするなぁ。」「何回も失敗したけど、もう一回頑張ってみる事にするわ。」

「それそれ…周りに吸う人間が居て無いんやから、それが応援になると思いますよ。」

「うん、確かにそうや…店以外はな。」



 「マサ、お父ちゃんの話を聞いたから、早めに来て慰めてくれてるんやな?」

「うん、禁煙の決意まで固めてもろたから、みんなで応援するんやど。」

「えっ、ほんまか…って、お母ちゃん、煙草代まで取り上げかいな? 自業自得とは云え厳しいやんか。」

「可哀そうやろ? 困ってるんや…」

「あんたは黙っとき。」「それぐらいせんと、懲りるちゅう事を知らん人やから…これで禁煙に成功したら、怪我の功名や、昌幸くんに感謝するんやで。」「夕子はもう、用事は終わりましたんか?」

「それなんやけど…うちも、お母ちゃんに怒られんとアカンねん。ちょっと引っ掛けて、花瓶を割ってしもうたんや。」

「あれまぁ、ほんで怪我なんかしませんでしたんか?」

「いや、ただ割れただけやから……」

「ほんなら、かまへんやないの。そんなにええ物やないけど、押し入れに、二つほど代わりが在りますわ。」

「ほんま?ほんなら、それを持って行くわ。」「なぁ、押し入れのどこ?」

「たしか、アルバムとか積んでる奥ですわ。」


 「ああ、これやなぁ…在ったけど、お母ちゃんヘソクリでもしてるんとちゃうか? なんか入ってるで…」


 「…昌幸、逃げるぞ………」

「えっ先生、急になにを…?」

「つべこべ言うな、一刻を争うんや。」

「先生…まさか………」

「その、まさかや…いくでダッシュや!」


 「ちょっと待ち! 二人とも動きな!」

「いやん………」

「この前の『昌幸、有難う』が、これやったんやな…怪しいとは思うてたけど、物的証拠が見つかってしもうたなぁ…法の裁きちゅうもんを教えたるええ機会やで。」「元警察官の方はお母ちゃんに身柄を引き渡すよって、面倒見たってや。」

「私は、今更そんなん…どうでもよろしい。けど、とにかく禁煙が成功したと確認できるまで、小遣い無しは確実ですわ。」

「何が在っても、今月中にやめんとアカンやないか…困った事になってしもたわ。」

「お父ちゃん、おめでとう…禁煙成功は確実みたいやな。」「…さてと…ほな、現役の警官は、その読めもせん英語の雑誌を持って、うちの部屋までついておいで。」


「…困ったなぁ………」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第34話


 「昌幸、悪かったな。」「せやけど、アザも無さそうやし、元気そうで良かったわ。」

「いや~っ、一時はどうなる事かと思て、ちょっと先生を恨みましたけど、あの後『アホっ、お父ちゃんを捲き込まんと、一人で大事に隠しとかんかい』と、一言怒られただけで終わりましたんや。」「あいつも俺なんかと一緒で、話はおもろい方がええと思う奴やから、あんな流れに成っただけの事ですわ。」

「それはまぁ、そうやろな。洋子もあんな事どうでもええんやろけど『ええ加減にしなはれ、恥ずかしい』と…俺も一言だけ怒られたわ。」「ただ、俺の経験から言うとくけど、怖がって、素直に謝ってるから大丈夫なんや…ええか、堂々としたり、開き直ったりしたら、夫婦関係は上手い事いかへんと思うで。」

「おおっ……それは、うちの親父からも学ぶ処がありますわ、さすが先生、ものごっつい勉強になりました。」

「とにかく、お互い無事で何よりや。けど、小遣いの件は絶対に許してくれそうに無いから、今度こそ気合を入れて禁煙するつもりなんや。」

「先生それこそ、これで禁煙が成功したら、かえって良かったぐらいですやんか。」

「せや、考えようによってはその通りや。小遣い確保のためにも失敗は出来へん。」

「先生、俺…きのうの今日やから、寄ったんですけど、どうです一杯?」

「奢ってくれるんか?」

「天下無敵の無一文でしょ? 当たり前ですやんか。」「良かったら、一度帰って、またすぐに来ますけど……」

「飲んだら余計に煙草が吸いたくなるんやけどなぁ…お前の誘いも断りにくいわ。」

「判りました…すぐ着替えてきますわ。」



 「おやおや~なぁお母ちゃん、勇気が在るんか、アホなんか…バイリンガルな無修正コンビの登場やで。」

「おいおい、そんな言い方は無いやろ。堅い絆のコンビと言うてくれるか。」

「お母ちゃん…固い絆らしいで」

「アホに決まってますやんか。無一文のくせに…昌幸くんに甘えて来ましたんやろ?」

「あっ、せやから、俺の方から先生を誘って来たんですわ。」

「そうやとは思いますけど、昌幸くんにそんな迷惑を掛ける分けにはいきませんやろ? 自分の分だけで……いえ、今日は私がご馳走したげるわ。」「きのう、とばっちりを受けて、可哀そうな目に合わせたお詫びに。」

「いえいえ、そんな訳には。」

「おい昌幸、こう云う時は甘えとったらええんや。素直なんが取り柄のくせに。」

「その通りやで、今日の分はこの人の小遣いから差し引くだけの事ですから。」

「ちょっと待って…どう云う意味や?」

「聞いた通りやんか。いつになるんか知りませんけど…次に渡す小遣いは、今日の分を引いた金額やと云う事ですわ。」

「いや、せやから…根本的にこれからは小遣い制に変更されるって事なんか?」

「何を言うてるんや…変更されたんや。」

「…された…?………?」

「先生…見つめられても、俺にはど~する事も出来ませんわ……」

「なっマサ…うちの方が優しい女に思えてきたやろ? はい、唐揚げのおかわりと豚平焼きやで。今日は出汁巻きはいらんのか?」

「…なぁ、昌幸……ちょっとは遠慮して食べてくれるか……」

「アホっ、なに、せこい事言うてるんや。」「昌幸くん、気にせんと思いっきり食べや。とことん懲りて、悔い改めたらええねん。」



 「なんや荒れ模様の現場に来てしもたみたいやで…山ちゃん、おもろいモンが見れそうやから、久しぶりに森川さんも誘うたろか。」

「大賛成…すぐ呼んできますわ。」

「いらっしゃい。ほな北村さん、土手焼きだけ3つ用意しとくで…3人揃うたらビール抜いて、うちが相手したるからな。お父ちゃんとお母ちゃんのやり取りをのんびりと楽しんでや。」

「おい昌幸、この場面で、お前の役割は何やねん? サブちゃんと同罪なんか、オブザーバーなんか…どっちや?」

「いや~今現在はオブザーバーの立場で見守ってる処ですわ。」

「こらっ、偉そうに言うな。北さん、夕べまではこいつも、キツイ取り調べを受けてたんやで…別件やけど。」

「そう別件です。その件はもう終わってますねん。後は、この人が悔い改めて…せや北村さん、サブちゃん禁煙中やから覚えといて下さいね。森川さんや山本さんにも協力をしてもらわんと…噂をすればですわ。」


 「噂をされてたんか? 俺はサブちゃんの噂を聞き付けて来たんやけどな。」

「森川さんも山ちゃんも、先に言うとくで、サブちゃん禁煙中らしいから、協力したってや。この店の灰皿、サブの隣にしか無いよってな…たのむで。」

「ようそんな事を…このおっさんら、俺が現役の警官やったら発砲してるど。」

「おい現役、元があんな事言うてるけど放っといてええんか?」


「オブザーバーに話しかけるのはおやめ下さい。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第35話


 「そろそろ冷え込んできたなぁ…おばちゃん、季節の変わり目やけど、今年は風邪なんかひいたらアカンで。」

「もう、ビビらさんといてや。注意はしとっても、一般人は夕子ちゃんや昌幸のようにはいかへんのやで。」

「おばちゃん、一般人とは言われへんかも知れんけどな…マサとうちとでは、風邪をひかへん理由が違うんやで。」

「昌幸は達者で、夕子ちゃんは違う理由やって言うのんか?」

「もう、分かってるくせに…逆に決まってるやんか。うちはほんまの健康体で……」

「ほな、昌幸は…あれかいな?」

「他にないやんか……もう、厭やわ~『昔の人は、間違うた事を言わへん』って言うやろ? マサが風邪ひくはず無いやんか。」

「もう、ほんまにこの子は…生んだ母親の目の前で何を言うんや。分かってても、素直に認められへん事も在るやないの。」

「えっ、『親の顔が見てみたいわ』と、ずっと思うてたんやけど、こんな近くに居てたとは知らんかったやんか。」

「言うとくけどなぁ、昌幸の場合は、ほとんどがお父さんの遺伝子で構成されてるから…顔が見たいんやったら、奥でテレビ見てるおっちゃんを見て行かんとアカンで。」

「え~っ、マサが母親似って事はこの界隈では常識やで~~」

「おい夕子、俺には先生と勝手に漫才を始めたら怒るくせに、お前はなんやねん…放っといたら終わる気配も無いやないか。」

「なんやマサ、聞いてたんか?」

「当たり前やないか…聞こえるように喋っといて、今更何を言うてるねん。」「だいたいお前は何をしに来たんや?」

「マサこそ、何を言うてるんや…おばちゃんと漫才しに来たに決まってるやろ。」

「おい、お前…俺を起こしに来たんとは違うんか?」

「アホっ…見事に起きて来たやないか。」「まぁ、その様子やと二日酔いの心配は無さそうやな?」

「当然やろ…今日の事を考えて昨日は2本しか飲まへんかったんや。」

「よっしゃ。ほな、うちは店で弁当作ったるから、マサは車を洗うて待っとくんやで。」

「えっ、そう云う予定になってるんか?」

「そうでもしとかんと、弁当が出来るまで、またお父ちゃんとしょうも無い相談か漫才になってまうやないか。」「玄関先…整骨院の看板の下に洗車セットを用意してあるから、しっかり作業に励むんやで。」

「わかった…ほんで今日こそ、ちゃんと枝に付いてる紅葉を見に行くつもりなんやな?」

「その通りや。」「あっ…それから、猫が居てるか確かめて、居てたら気を付けて洗車するんやで。」

「結局、居付いてしもうたなぁ…可愛らしいし、放っとかれへんかったんやろ?」

「親にはぐれたんか、まだほんの子猫やったからなぁ…ダシをとった『イリコ』をあげたら、なついてしもうたんや。」

「もはや完全に夕子の飼い猫やな…名前、付けたんか?」

「つけたで…『アルフォンヌ・スタインベック・シュッツトガルト3世』や、首に迷子ふだ代わりのプレートまでぶら下がってるから確かめといてや。」

「ちょっと待ってくれ。猫の首に…鈴や無うてプレートやな? そこまではええ、名前はなんやて?」

「もう、やっぱり聞いてへんかったんか?『アルフォンヌ・スタインベック・シュッツトガルト3世』や…忘れた時にはプレートで確認するんやで。」

「い、いや、聞いてたけど覚えられへんかっただけや。けど最後は聞こえた…なんで『3世』やねん?」


「雰囲気や。」

「…わ、わかった、ええ名前や。けど、呼ぶのが大変そうやなぁ?」

「全然…『アル~』で、飛んで来るで。」

「…『アル』…やな?」「…ほんなら、ボチボチ洗車班は任務に向けて出発するわ。」



 「おう昌幸、朝から洗車係か?」

「あっ、お早うございます。終わらせてから挨拶にと思うてたんですわ。」

「なるほど、夕子は弁当の担当か…その間に終わらせんと怒られる訳や。」

「その通りですわ。洗車セットまで用意済みでしたからね…とにかく、まずは終わらせんと。」「それより先生、禁煙はもう大丈夫なんですか? 小遣いをもろたんやから、もう後戻りは許されませんよ。」

「判ってる…大丈夫や。」「峠は越えたと思うで、夢に出て来る回数が減ってきたからな。」

「へぇ~夢にまで見るような辛さと云う事ですか?」

「そら、25年以上も吸うてきた分けやからなぁ…お前に言うた通り、一度覚えたらやめるんは大変なんや。」

「いや、ほんまに先生のお陰で…手を出さんで正解でしたわ。」

「せやな。後は…麻雀は付き合いも在るからやめられへんけど、パチンコはあれ以来行って無いんや。煙草を思い出すからな。」

「なんや、ええ流れですやんか。」

「そうや、物は考えようでな。お前こそ、ど~なんや? あれ以来…相変わらずか?」

「はい…あの無修正もすんなり返してくれましたからねぇ……」

「そうそう、結局そう云うとこは理解あるタイプなんや…洋子も夕子もな。」

「…『必要なんやろ?このスケベ』の一言が無かったら、もっとええんやけど……」

「お前の苦悩は分かるんやけど、こればっかりはなぁ…まさか、父親の俺が『ええ加減にやらしたれ』とは言われへんやろ?」

「はい…せやから必要なんですわ………」


 「あんたらの行動は予想通りやったけど、洗車が終わってる処を見ると…お父ちゃんの方が出て来て始まった漫才みたいやな。」

「…ふ~っ、急に出て来るその癖、なんとかならんか………」

「あんたらのリアクションがおもろい間は無理やな……さぁ、出かけるで。」

「あ…うん、よっしゃ…行こか。」「今日こそは、綺麗な紅葉が期待できるはずやで。」

「当たり前や。夏休みのアサガオや在るまいし、2年続けて失敗したんや…3年目も失敗したら、あんたと一緒になってまうやろ。」

「…お前の場合、俺が忘れたいと思てる順番通りに覚えてるみたいやな?」

「ええか、古い話はポイントを押さえとったらええんや。けど、新しい話は別やで…最後にお父ちゃんに言うてた『せやから必要…』なモンってなにや?」


「・・・・・・」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第36話


 「なぁ、夕子…たのむわ~」

「やかましいわ。アカン言うてるやろ。」

「一回だけでええんや………」

「アホっ! 1回やってしもたら癖になるやないか…アカンもんはアカンねん。」

「そんな事言わんと…ほんまに1回だけやって約束するから、なっ、お願い。」

「お願いされても…あんたの後輩との忘年会が優先やろ? 去年もやってるし、今年もするつもりで連絡してあるのに……」

「いや、せやから、それはそれで俺の後輩らも楽しみにしてる事やしな……」

「せやろ? せやからアカンって言うてるんや。商売とは云え、あの子らから儲けるつもりも無いし、2回も続けて呼べるかいな、タダと云う訳にはいかんのやから。」

「あっ、ほな…タダやったらどうやろ?」

「タダって…ど~するつもりなんや?」


「勝手に決めてもアカンかも知れんけど…たぶん大丈夫や。」「警察仲間の方は年上も多いし、本気で花嫁募集中の人も居てる…女性陸上部隊の料金は男性警官部隊が支払うと云う条件でどうや?」

「ほ~ほ~、それがほんまに可能やったら、あいつらの場合、喜んで来よると思うで。」

「そうか。断言はでけへんけど、100%を超える確率で即決するはずや。」

「言うとくけど、普通の女の子と思うたらアカンで。」「あんたは知ってるやろうけど、飲むのも喰うのも、普通の男以上やからな。」

「だから、ええんやないか。こっちも柔道や剣道やってる奴ばっかりやからな、普通の女の子より、好みも話も合いやすいんや…飲み食いも含めてな。」

「なるほど、ええ感じやないか…あんた、伊藤ちゃんの『お酌』が目当てで必死になってるんとちゃうやろな?」

「そ、そんな事は…ちょとだけしか無い。」


「正直やから、堪忍しといたるわ。」



 「この冬は『粕汁』で勝負ですか?」

「勝負って事も無いけど、寒い冬になるみたいやしなぁ、自慢の粕汁を鍋焼きの器で出すつもりなんや。思いっきり具沢山で、酒も飲める『粕汁鍋』や…おでんより人気者になるかも知れんと思うてるんやで。」

「そうですなぁ…けど、おでんより人気が出たりしたら、今よりもっと仕込みが大変になりますんやで。」

「そうかも知れんけどな…『おでん』と云うたら一品やけど、実は何種類もの具材の集まりやんか。」

「たしかにその通りですけど…普通はメニューが増えると、無駄も増えるって云うのが当たり前なんやで。」

「粕汁とやったら大根やチクワみたいに重なる具材も在るし、おまけに食べる人によっては意外と片寄るやろ?」

「はい、それもその通りですけど。」

「なっ…案外、おでんと粕汁の2種類が在る事で無駄を無くせるように思えるねん。問題は、仕込み量のバランスやねん。」

「たしかに、もっともな話ですけど、そこが一番、肝心で難しいところですやんか?」

「そうなんやけど、そこで役に立つんが、うちとマサとの…後輩や同僚やんか。」

「あんた色々、戦略的な考えを持ってますんやなぁ…感心しますわ。」

「いや、2回も飲み会が続くんは、うちや無うてマサの戦略やねん。」「けど、そうなるとや…大変とは云え、いくら仕込んでも食べ尽くすと云う、あの伝説集団で2回もテストが出来るんや、これを利用せん分けにはいかへんやんか。」


「あの子らほんまに普通や無いで。」「確かに、私の中では伝説的やけど、あの集団でテストしてもテストの結果は使えますんか?」


「大丈夫や。食べる量は無茶苦茶やけど、言い換えたら、なんぼでも食べるんやから、どんどん食べてもろうたら、総体的なバランスも判るし、最初に無くなるんはどれで、次はどれやって分かるやんか。」

「前回は断トツで唐揚げでしたなぁ…2位も和風ハンバーグやし、それは年齢の問題も在るやんか。お店にはいろんな年の人も来はるんやさかいに……」

「そんでええやん。1位と2位は今回もそうやと思うで。でも、こんどのテストはおでんと粕汁のテストなんや。」「食べる量はアテに出来んでも、食べる傾向は30人以上も集まったらアテに出来ると思うんやけど? しかも2回出来るんやで。」


「なるほど、順位の問題とは違いますもんね。傾向が分かったら無駄は減らせますわ。」

「まぁ、やってみる価値は在ると思うで。色々在るようで、冬の居酒屋メニューと言えばおでんしか無いイメージが在るけど、それより人気の一品が出来たら、店としてもええ感じやんか。」

「ほんま、しっかりした女将になってきましたなぁ……」

「後は、色気だけってか?」

「もう、それが決まり文句やったのは…今は昔の話ですわ。」「これからは美人女将で評判の店に成りますわ……きっと……今までも、これからも。」


「はいはい………」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第37話


 「青田先輩、今日も宜しくお願いします。無料で飲み食いが出来ると聞いて…とびっきりのメンバーを揃えて来ました。」

「どこがやねん? この前と一緒やないか…誰か入れ替わってるんか?」

「いえ、元々が精鋭部隊ですので、一人も欠ける事無く、見事に2回続けて同じ面々が揃ったと云う意味です。」

「アホっ…めんどくさい奴っちゃなぁ。」「あんたら、ええ加減に体育会系から脱皮せんとアカンで。準備のために早めに集まってくれたんは感謝するけど、この時間に全員が揃って集まる必要は無いやろ? 高木…あんたの号令か?」

「はい。でも手分けして、伊藤ちゃんとアキには手伝うてもらいました。」

「部活の系列…そのまんまやないか。」

「染みついた習慣ですから…今のところ、誰ひとり嫁に行く予定も無いので、招集には困らないと思います。」

「誰ひとりって…現役の頃みたいにパンダ柄の日焼けも無くなったんやから、ちょっとは色気の在る話は無いんか?」

「先輩に色気の話で説教されるんは、思いっきり抵抗が在るんですけど、まぁ、最近はメッキリ女らしくなったと評判やから…」

「アキちゃんって…あんただけは成人しても全く変わらへん子やなぁ『評判やから…』や無いやろ『評判通り…』や。」

「あのなぁ、おもろいけど…そんなとこまで系列を守らんでもええやろ。」

「いや、こっちは系列や無うて伝統と言うてください。」

「アホっ…アキちゃん、もうええやろ。」

「まぁ、アキと伊藤の漫才コンビは健在やと云う事で…とにかく私らみんな、青田先輩にずっと憧れてきましたんで、先輩より先に嫁に行くような裏切り者は『今のところ』は居て無いと云う事ですわ。」

「…『今のところ』な。今日の相手は、ほとんどが本気で彼女や嫁さん募集中らしいからな、体育会系どうし、ええ相手が見つかるかも分からんで。」

「実はちょっと期待してますねん。この前の柔道部との飲み会は2年連続やったし、楽しかったんですけど、元々知ってる同窓生ですしね。今回は初めての出会いと…年上の人って処に惹かれるものが在るんですわ。」

「なるほどなぁ。せやけど、それは高木…あんただけと違うんか?」

「ち、違いますよ…私以外の全員ですわ。」

「高木さん、ズルいで~アキちゃん…今やったら何を言うてもかめへんで~」

「え~御指名を受けましたので……」

「ちょっと待ってや…なぁ、アキ…」

「はいっ。元キャプテンと云う事は忘れて、押さえときや。」

「なんでいつも、こうなるんや…?」

「え~っ、高木元キャプテンから招集が掛かり、系列に準じて連絡をしましたが、その時の主将命令がこれです…『今回は同窓生とは違い、年上かつ初めての出会いに期待しています。全員、私に協力するように…以上』…なにか反論は?」


「違うやん。みんなの期待を代弁しただけやんか。なっ…みんな、おんなじ事を考えとったやろ?」

「めっそ~もない。」

「あんたら全員、裏切りモンやなぁ…」

「ようするに高木は、うちより先に嫁に行くはずの無い……『今のところ』居てない裏切り者第1号の座をねらっとった訳やな。」

「いやいや、違いますって…そんな大それた事、私が考えると思うんですか?」


「証言その1、『青田先輩の場合、藤川先輩がオリンピックへ出場したら結婚や。私らも、それから相手を探しとったら行き遅れる。今から準備して丁度ええんや』と、ハッキリ聞いたと言う人から…聞きました。」

「証言その2、『ハッキリ聞いた』と、言っている人に言いました。」

「証言その3、今…聞きました。」

「証言その4、下級生一同…右に同じです。」


「もうええ。いつものパターンや…あんたら体育会系は勿論やけど、大阪の人間やもんなぁ…2人寄ったら漫才が始まると云うぐらいや、こんだけ集まったらお笑い劇場になっとるやないか。」

「ノリは私ら関西人の命ですから…これぐらいは、何の仕込みも準備も必要なしですわ。」

「…せやから、もうええ。」「もうちょっとで警官部隊の登場や。ええか、いつもの通り、カウンター全席とこっち半分が陸上部の控室やからな…カウンターに出来上がった料理くらいはスポンサーに運んだってや。」



 「おっ、準備万端やないか…」「さぁ、みなさん入って下さい。陸上部隊は準備が出来てるようですわ。」

  (アホっ…自衛隊とは違うんやで)
「あっ皆さん、お待ちしてました…いつも藤川がお世話になって居ります。」

「いえ、こちらこそ。若女将のお陰で実現出来た待望の飲み会ですから…楽しみにして来ました。」「こちらには、若女将の事を知らん奴は居てませんので、後輩の方々を紹介してもらっていいですか?」

「はい、任せといて下さい。」「でも用心は必要ですよ…とびきりの精鋭部隊ですから。」



 「マサ、大丈夫か? 伊藤ちゃん小西さんに取られてしもうたみたいやな?」

「うん、お陰で大丈夫や。ビールしか飲んで無いからな。」「しかし、お前は特別やとしても、みんな凄いなぁ…なんで、あれだけ飲めるんや? 食べるだけやったら負けへん自信も在るんやけど。」

「あんたは、未だに2本~3本が意識の境目やもんなぁ…ここが限度やって事やで。」

「せやな、これ以上は強くならんと思うわ。」

「それにしても、伊藤ちゃんは小西さんと結構ええ雰囲気やで…気に成るやろ?」

「アホな事を…それに、小西さんやったら、伊藤ちゃんにしても申し分ない相手やで。」

「まぁな、確かに美男美女やし似合いとも言えるわ…それに比べて、高木は苦労してるみたいやで。」

「そうか…俺には、気合いが空回りしてるように見えるけどな……」

「鋭いやないか…あんた、うちらが準備してる時から話を聞いてたんと違うやろな?」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第38話


 「さぁ、ここからの1年間が正念場や。高校を卒業してから1回も負けて無い…連勝記録更新中やからな。」

「よう頑張ってるなぁ…ここまで来たら、何が在っても行くんやで。うちも覚悟は決めたつもりやけど、予選で負けたら……」

「愛情を持って、慰めてくれるんやろ?」

「せや…慰めるだけで終わるからな。」

「判ってる…それでかまへん。」「絶対、大丈夫や。」

「自信が在るのは分かってる。けど、無理やり大きなプレッシャーを掛けるつもりなんか無いんやで。」

「大丈夫や。それぐらいで丁度ええ。」

「モスクワの次も決まったんやろ?」

「そんなん去年のうちに決まってるで…ロサンゼルスや。」

「その時でもまだ、27歳やで…」

「俺には次のモスクワしか無い。次の事なんか考えかけたら自分に負けてしまうんや…俺はそんなに強い人間とは思うて無い。」

「そうか、よう分かった。」「けど、もしもの時は…泣いて頼むんやったら、ロサンゼルスまで待ったってもええんやで。」


「有難う、その時が来たら考える。」「せやけど…今の俺に、もしもの時は無い。ええか、自分のためやと思うと甘えが出るんや。ハッキリ言うとくけどな、オリンピックはお前のために行くんや。それが俺にとって最高の結果を運んで来ると信じてるからや。」


「マサ、ちょっとアブナイ気持ちにさせるやないか…その辺にしといてくれるか…」

「ほんならお前も、俺に迷いが出んように、今まで通り厳しい姿勢を崩さんといてくれ。」

「わかった。けど、これでまたちょっとマサの事…好きに成ってしもうたやないか。」

「久しぶりに聞くセリフやな? 今、何点まで来てるんか聞いてもええか?」

「せやなぁ…よっしゃ大盤振る舞いの41点でどないや?」

「やっぱりな…2点から始まって一旦は0点まで落ちた事を考えたら、20年掛かって、大幅に増えたと解釈しとくわ。けど、なんで41点なんか教えてくれるか?」

「欠点は脱出したと云うことや。」

「さすが夕子や…厳しい姿勢は崩さへんわ。」



 「先生、ちょっとええですか?」

「おう昌幸、どないしたんや? またお前…懲りもせんとロクでもない話を持って来たんと違うやろなぁ?」
 
「はぁ…ちょっとした耳より情報が在るんですけど、なんでロクでもない話やと分かるんですか?」

「お前が平日に休みで、絶対に夕子が居て無い時を狙って来たんや…だいたいの予想は付くやないか。」

「さすが先生、実は……若い女の子に人気の混浴露天風呂が在るそうなんですわ。」


「・・・詳しく教えてもらう必要が在りそうやな…それで?」

「先生、自分で『絶対夕子が居て無い』と言うてるのに、後ろを振り向くって…よっぽどおばちゃんが怖いみたいですね?」

「そうなんや…お前が夕子を怖がるんも相当なモンやろうけどな、俺にしたら夕子の3倍は恐ろしい存在なんや。」

「そ、それは恐ろしいですね。夕子が3人の部屋とライオンの檻やったら、迷わずライオンの檻に入りますもんね。」

「当然やな…ライオンやったら、何かの間違いで勝てるかも分からんもんな。」

「はい、可能性の在る方を選びますわ。」


「…そろそろ本題に入ろか…」「勿論、何かの具体策を考えて来たんやろな?」

「いや、それは話を聞いてもろてから、2人で知恵を絞らんと………」



 「なるほど、夜中になって周辺の水商売や風俗のお姉ちゃんが集まって来るんか?」

「しかも、どっさり来るらしいですよ。昼の間もポツポツとは来るそうですけどね。」

「夜や。夜しかない…後は、どないしたら俺とお前の2人だけでその露天風呂にたどり着けるかと云う事や・・・」

「先生、何かええ手を思いつきませんか?」

「ちょっと待て…慌てたらアカン。」「だいたい、お前かて一つぐらい考えてこんかい。」

「いや~っ、事が重大過ぎて。バレたら今度こそ命に関わりますから………」

「2度と日の出は見られへんな…それだけは間違いないで。ええか、絶対や、絶対にバレたらアカンど。」

「はい…せやけど、どない考えても泊りがけでないと無理やと思いませんか?」


「一番の問題はそこやな。俺とお前が泊まりがけで…しかも誰もが納得する理由が必要なんや。しかし、ほんまに温泉なんか? トルコ風呂は有名やけど、温泉が在るとは知らんかったで。」

「そうなんですわ、意外と知られて無いみたいで、俺も知りませんでした。」「それで、おススメは一泊して夜中にお姉ちゃんと友達になってですね、情報を収集した上で気に入った子を次の日に指名したら…最高のサービスに在り付けるらしいんですわ。」

「なるほど、せやけど信用出来る情報なんやろな? 出所は確かなんか?」


「先生もよく御存じの、辻先輩ですから。」


「わかった…間違い無い。」「ほんで、お前はどうやねん……そろそろ経験をしたいと思うてる分けなんか?」

「いやぁ~それは…一人では行く勇気も無いし、なんて言うか…先生しだいですわ。」


「これは、じっくり作戦を練らんとアカンやないか…」

「先生、お願いしますわ………」


「よし、急がず慌てず、しかし近いうちの実現を目指して作戦を立てる事にするで。これを『雄琴温泉シャンゼリゼ作戦』と名付けるからな……よし、雄琴へ行くぞ!」

「…行くぞ!」



 「オリンピックは、うちの為に行ってくれるらしいけど…その『行くぞ!』は誰の為に行くんや?」

「う、うわ~っ…な、なんで…なんで夕子がここに? 嘘やろ~」

「ほんまに、なんでやねん? 昌幸、裏切るつもりは無いけどな。作戦本部…解散や。」


「……今度もまた、超能力か?」

「アホっ! 虫の知らせや!」


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弘と書いてひろむと読みます

Author:弘と書いてひろむと読みます
主人公の夕子と昌幸は作者と同級生と云う設定。          ディープな町、西成区花園町の世界を御堪能下さい。

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