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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第21話

   「うん、ぴったりや。 思うた通り…よう似合うてるやんか。」

  「そうか…そうやなぁ……確かにサイズは、ぴったりやと思うけど…ええんかなぁ…?」

「お父ちゃん自身が、ええと言うてるんやから…かまへんに決まってるやんか。」                                「それに、若い時のスーツなんか、二度と着られへんのやし…このまま貰っといたらええねん。」

  「いや、それはなんぼなんでも……借りるだけやったら…まだしも……。」

 「ええねんって…ほら、こっちも着てみ…?」「ふんふん…こっちもええやん。 よっしゃ…2着ゲットや…良かったな。」

   「お前、簡単に言うけど………。」

 「かまへんって…!なぁ、お父ちゃん…2着貰うで~~聞こえた~?」

  「聞こえたで~~サイズが合うんやったら…持って行け~。」

  「なっ!気にせんでもええって。」

 「先生は仕事中やのに……見るぐらい、見てもらってからでないと…具合が悪いんとちゃうんかなぁ…?」

   「はい、行くで~~。」

  「お前はええかも知れんけど、俺にも親が居てるんやし…気も使いよるんやど……。」

「あのなぁ…心配せんでも、『勝手な事して失礼やけど、無駄にせんためにも了解して下さいね。』と、前もってやなぁ…。」      「ちゃんと…おばちゃんには、話をして在るんや… せやからあんたは、いらん心配を…せんでもええんや。」

   「え~っ、お前…そんなんいつの間に…?」

  「いつの間に…?あんたの家なんか、毎日行ってるのに…今頃なに言うてるんや。」

   「お前、俺が居て無い時でも………?…。」

   「マサかて、うちが居らんでも来るやんか。」

   「それは…先生が居てるからやないか。」

「うちかて、おばちゃんとは友達なんや。それに今の話なんか…この前の日曜日の事なんやで…?」                   「あんたは仕事やったけど…おっちゃんも居てはったんや。」「うちは、うちの家とマサの家の…2軒分の料理を作ってやで…。」  「それを、マサの家まで持って行って…3人で食べたんや…なんにも知らんかったんか…?」

   「…うん…まったく知らんかった…。」

  「…まぁ、マサは知ってて当たり前と…思われてるんかも判らんけどな。」

 「…うん、それはそうかも知れへん。せやけど親父は…駐車場の時もそうやったけど…気を使いよるはずやで…?」

「うん… おっちゃんは、マサと同じように気を使うてはった…けど『あんたの服はどないしても昌幸は着らへんやろ…?先生と夕子ちゃんが、こう言うてくれてるんや…あんたはいらん心配せんとき。』って、おばちゃんに説得されて…後はいつもの通りや。」

  「…黙って…うなづいとったんやな…。」

「せや…とにかく、これで先輩の結婚式は…なんの問題も無くなったやんか。」                                  「後は小物やけど、これは…うちが揃えたるわ…マサの財布で…。」

  「お前、そんなんばっかりやないか……せやけど…小物ってなんやねん…?」

「小物って言い方が悪かったかもなぁ… カッターシャツはやっぱり…自前のが必要やろ…?」                          「それから…ネクタイやタイピンなんかも…気に入ったやつが在ってもええやんか…?」

  「ネクタイはともかくも、タイピンこそ…借りてもええんとちゃうんか…?」

「マサのおっちゃんの事は、詳しくは知らんけどな…お父ちゃんの場合は、タイピンとか…そう云う類のモンは全部……。」    「…阪神タイガースバージョンなんや… 嫌いや無いけど…やめといて。」

「そ、そうなんか…確かに、タイガースの話はようしてはるけども……。」                                       「俺が、あんまり興味が無いもんやから…けど、そこまでマニアックやったんか…?」

「あのなぁ、優勝が掛かってる試合で、センターの池田が落球しただけで…池田って云う名前を…嫌いになるおっさんやで。」

  「…わ、わかった…覚えとくわ…。」

 「よっしゃ…今日のうちに揃えてしまうで。昼からは…買い物や。」

 「昼からやな…?ほんで、今日の昼御飯は…何を食べさせてくれるんや…?」

「あんた、うちの話…ちゃんと聞いてるか…?先週は、マサの家族の面倒まで見たんやで…。」                             「あんたが居て無かったんは…仕事やから仕方ないやろ…?」                                            「今日は休みが合うたんや…うちは贅沢を言う女とは違う……お好み焼で辛抱しといたるやん……この幸せ者!」

 「世間一般の幸せって、どんなモンなんやろ…? 解らんようになったきたわ…。」

  「不幸やと思うてるんか…?」

 「いや、そんな事…ぜんぜん思うてへん。」

  「それを…幸せって言うんや!」

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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第22話

 「まだまだ暑いけど、もう9月に入った…となると、夕子の誕生日も…もうすぐや…。」                                   「ええか、お前は俺より酒には強いと思うけど…なめたらアカンぞ……最初って云うのは…とにかく効くんやからな。」

  「あんたは、未だに…効きっぱなしやんか。」

「おいおい、確かにそうかも知れんけど、あの誕生日みたいな効き方は、あの日…あの時だけや。」                    「今では、先生が言うてたように、一杯目のビールは…もしかしたら、旨いのかも知れへんと…思い掛けてるんや。」

「なに、ややこしい言い方してるねん…?それって、旨いとは思わんって事やろ。」                                「それに、大ビン1本を空に出来たら…調子ええ方やないか。」                                              「お母ちゃんが言うとったで、仮にも居酒屋に来るお客さんで…あんたより弱い人は…見た事がないって。」

「それは俺も聞いたけど…軽くショックやったど。」                                                   「先生ほど、強くはならんでもええんやけど…もうちょっと飲めんと、付き合いも出来へん。」                       「先輩の結婚式でも、乾杯の一気飲みで…心拍数はMAXや…後は飲み食いも出来んまま…家まで帰って来るのが精一杯や…。」 「せやけどなぁ、ちゃんとは帰って来た訳やし…… 二日酔いは今のところ、誕生日の後が…最初で最後なんやで…。」

「なぁ、その辺にしといてくれるか… 聞いてる方が調子悪うなってくるわ。」                                 「だいたい、ビール1本で…どないして二日酔いになれるねん…?あんたには、あの焼酎のロック1杯が…決め手やったんや。」

 「そんなん、酒を飲んだ事の無いお前に…判るわけ無いやろ…?」

  「判るんや、うちには…飲まんでもな。」

「…と、とにかく、誕生日に何か欲しいモンって言うても、ジャージぐらいしか無いんやろ…?」                         「お前の誕生日には、好きなだけ俺が飲み食いさせたるわ… せめてもの…プレゼント代わりや。」

「確かに、これと云って欲しいモンは無いけども…自分の店で、自分の作ったモンを…食べさせてもろてもなぁ……。」        「いっそ、マサも無料でええから…気分良く、祝うてくれたらええんと違うんか…?」

 「う~ん……そうかも知れんけど、俺もなんて言うんか…気持ちの問題やからなぁ……ほんまに、なんにもないんか…?」

  「なんにも無いなぁ…強いて言えば………。」

  「ジャージやろ…?」

  「外出用のよそいきやで…。」

 「元々、そう云うジャンルが…ジャージには無いと思うで……お前、上下がそろてたら…スーツやと勘違いしてないか…?」

「ここで…『えっ違うんか…?』って、マサやったら…言うところやけどな。」                                     「さすがにそれは思うてへん… ただ、外出用のよそいきは…実際に存在するんや…。」

  「お前だけとは言わんけど、極めて珍しい…少数民族やと思うけど…俺は…。」

   「相変わらず、ややこしい言い方する奴っちゃなぁ……。」

  「いや、お前ほどや無いけど…俺自信も、ちょっとは含まれてるように思うからや。」

 「アホっ…あんたこそドップリやないか……制服と、柔道着を混ぜるんは…反則やで。」

 「なんで反則やねん…! ジャージを混ぜたら3種類やど……お前は、ジャージの…1種類だけやないか。」

「アホな事言うたらアカンで…制服と柔道着に種類が在るか?うちが何着のジャージを…持ってると思うてるんや…?」       「同じモンは1着も無いんやで。一緒にはせえへんけど…スーツかてそうやないか…… 何着持ってても…スーツはスーツやろ。」

「…ちょ、ちょっと待て……お前が優勢にみえるけど、根本的な間違いが在るやないか…?」                        「ええか、俺がもし女やったとして…二十歳にもなったら…『ビシッ』とスーツかワンピースでも着て、パンプスで『カッカッカッ』 と歩くに違いないと思うんや…なっ、カッコええやろ…?お前は…そう云う風には思わへんのか…?」

 「ふ~ん…なるほどな…判ったわ…。」「マサは、うちにそう云う格好を…させたい訳なんや…?」

  「…えっ………うん…実は……そ、そうなんや…。」

  「見てみたいんか…?」

  「…うん!……見てみたい。」

  「似合うと、思うてるんか…?」

 「絶対似合うやろ…無茶苦茶カッコええ…はずやと思うてる…。」

「あのなぁ…かかとの高い靴って…スパイクと逆やろ…?」                                             「せやけど、履くんやったら…うちはピンヒールしか履きたく無いんや……あんなモン履いたら…走られへんやないか。」

  「もう、走る必要も……飛ぶ必要も…無いんとちゃうんか…?」

「それは~うちかて、四六時中ジャージは…まずいと思うてるんや。」                                         「お母ちゃんにも…『少しくらいは…色気も必要な商売なんやで。』と、言われてる事やしなぁ…。」                   「…新しい順に、外出用、仕事着、普段着、部屋着、パジャマ…って確かに、こんな女は…珍しいかも知れへんなぁ………。」

  「珍しいどころか…少数過ぎて、民族とは呼べんと思うで…。」

「おもろいやないか…ちょっとだけ…腕を上げたようやなぁ…?」                                          「とにかく、マサの為にと思たら、シャクにも障るけど… まぁ、そのうち…考えてみるぐらいは…かまへんかもなぁ…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第23話

  「とうとう夕子も…飲める日がやって来たなぁ……これからは、みんなで一緒に飲める分けや…。」

  「マサ、あんたの場合…飲めるとは言わへん… 舐めるや…。」

  「お前かて、今これから…飲んでみんと判らんやないか…?」

「それはそうやけど、あんたより強いのは…飲まんでも判ってるんや。」                                    「ただ、誕生日は今日やけど…金曜日やからな…マサのような事にならんためにも…今日のところは様子を見ながらにしとくわ。」 「それで…いけそうやと感じたら、明日の土曜日… もうちょっと…頑張ってみるつもりやねん。」

「そうやな…その方がええわ。うまい具合に、日曜日は俺も非番やしなぁ…。」                                  「俺も、明日はちょっと頑張ってみてもええけど…今日は、いつものビール1本くらいで様子を見る事にしとくわ…。」

 「その方がええと思う。 とにかく、お父ちゃんが来るまでは…これでも食べて待っとき…うちが飲むのも…それからや…。」

  「昌幸くん、これも食べたらよろしいわ……昼の残りやけど、天麩羅の盛り合わせ…。」

   「えっ…。 これはまた豪華な代物ですやん…ええんですか…?」

「かまへんよ…盛り合わせって言うたら、聞こえはええけど…ほんまのところは寄せ集めなんや。」                          「二度揚げも出来んから、常連さんのサービス品にしか使われへん… 遠慮せんと食べたらええんやで。」

 「もう、夕子は… いくら昌幸くんとは云え、なんでもかんでも…ほんまに…。」

  「いえ、俺には十分ですわ。 量も多いし…先生と一緒につまみます。」

「その先生ですけどなぁ…6時を過ぎた頃になるそうですわ。もうすぐですけど…今日だけは待ってあげてや…。」

 「待つもなにも、【餌】さえ与えといたら…マサにとって、酒は【おあずけ】には…ならへん。」

 「…ほんまに夕子は…【おあずけ】なんて…言い方がヒド過ぎですわ…なぁ…?」

「い、いえっ…でも、どうせフォローするんやったら…そこは【餌さえ…】の方が正しいように思うんですけど……僕は…。」



  「夕子御免やで~~ 待たせたなぁ… なんや、餌を前にして…お預けをくらっとたんか…?」

 「まるで話を聞いてたような、見事なフリやけど、食べる方は始まってる…待ってたのは飲む方だけやで。」

「それや~!…やっと来たんや…俺がどんだけこの日が来るのを…どれだけ…待ち望んで… まぁ、このくらいにしとこか…。」   「とにかく、今日は…夕子の二十歳の誕生日や。」                                                   「まずは、みんなで乾杯しかないやろ~~ ほれ…夕子…… 昌幸もや…洋子も…。」

「ふ~っ…なるほど、マサの一言…『これがビールか…?』は…名言やったんや…。」                           「なんとも…表現に困るシロモノかも知れへんなぁ……… せやけど、これは美味しいで…… そうか……これがビールか…。」

 「夕子…無理して言うてないか…?ほんまに美味しいんか…ホンマにか…?」

「アホっ… うちが無理する理由なんか…ど~考えても無いやんか…。」                                      「マサこそ…これを半年経っても、旨いと思わんと云う事は、一生旨いとは…思わんのとちゃうか…?」

  「いや、たしか… 半年では無く、保証期間は…1年間のはずやから…。」

「相変わらず、なに…訳のわからん事言うてるんや……んっ……唐揚げに… 無茶苦茶合うやんか。」                 「甘いモンは元々好きや無いけど、これはもう…ジュースなんか…飲んでる場合や無くなったわ… うち、目覚めたかも……。」

「ええんかどうかは別として、夕子は間違い無く…私ら夫婦の子供ですなぁ…ホンマ…遺伝子は正直ですわ。」              「やっぱり、突然変異なんか…滅多な事では起きへんのですなぁ…。」

 「そうやな、後は…アルコールに対しての【反応と抵抗力】がどう出るか…それが問題やな…?」

「うん、うちもそれを気にして…今日は、様子を見る程度にするつもりやったんやけど…今のところ…何の反応も感じられへん。」

 「おい夕子、俺の経験から言うとな…急に来るんや…調子に乗ってたら…気を失うかもしれんで…。」

「あんたに、その紅ショウガより赤い顔で言われても…何の説得力も感じへんわ……。」                            「なにより、まだビールも…半分以上残ってるやないか…。」

   「半分…ちかく…飲んだと云う事やないか…。」

「アホっ…!なにを偉そうに言うてるんや。」「それにしてもや… いくら何でも、このままでは終わられへん。」                  「マサは、焼酎のロックにチャレンジしたけど…実は匂いに、微妙なクセが在るからなぁ……。」                       「実は、子供の頃から…… うちはウィスキーの匂いが好きやったんや… お父ちゃんの角瓶…飲んでもええやろ…?」

 「もちろんや…自分で口に合うように調節したらええ… 参考までに言うとくと…10~12%が…ベストやと思うで。」

 「11%…やな…? まずは…それでいってみよか…。」「角瓶が40%と云う事は……まぁ…こんなもんやろ……。」

  「えっ…!俺の焼酎はロックやったけど、濃いと思うたんや… それが原因やったんとちゃうんかなぁ…?」

「絶対に、違うやろ。」                                                                    「最終的には、体に入ったアルコール量の問題やからな……昌幸、今のお前にはビール1本が…限度やと思うで。」

 「はぁ…。 けど夕子…俺にも味見程度に…おんなじ物を、一寸だけでええから…作って欲しいんやけど……?」

「よっしゃ、ちょっと待っときや~~。」「うわ~っ!これは、ビールなんかとは…比べモンにならんほど美味しいで。」           「………はい…。 マサの場合…まずはこれだけにしとき。」

   「うん、ほんまや…… ええ香りやなぁ……。」

「マサ、明日は仕事やで…その水割りと、ビール1本の範囲で…抑えるんやで… 明日の晩…再チャレンジしたらええから…。」

 「わ、判ってるわ…だいぶ効いて来たからなぁ……もう2度と…気を失うたりはせえへん…つもり…や……。」

「学習機能が身に付いて来たようやなぁ。」「よっしゃ…うち、次は日本酒にいってみるわ… 1杯目は…やっぱり冷やな…。」

  「おいおい、2杯目の燗も…予定に入ってるんか…?」「俺は…ボチボチ限界やど…。」

「予定では、最後は焼酎もちょっとぐらいは…味見して終わるつもりなんや。」                                  「せやけど、あんたの場合…ほんまにその辺にしといた方がええと思うで… 顔色が、赤から青へ変りかけてるわ。」          「うち、長年…お客さんの様子を見て来たから判るんや…。」

  「…冷………酒や無うて、水をくれるか……。」

   「…はい…………これも学習機能か…?」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第24話

  「最近は…季節の変わり目になったら、決まって風邪をひきよる…お母んも、そろそろ年なんかなぁ…。」

  「そんなん、世間ではよう在る話やろ…あんたと、うちの家族が異常なんや。」

「まぁ、熱が出たと云うても…いつも、1日寝たら治りよる…。」                                            「実際のところ、お母んに寝込まれたら一番困るからなぁ…のんびりさせてやりたいけど…どうしても無理しよるんや…。」

   「せやから…うちが来たんやないか…。」

  「やっぱりそうか。せやけどお母ん、熱も下がったから言うて…起きて買い物に行きよったで…。」

「それこそやっぱりや…きのうは熱も在ったし、無理やり寝かせたんやけど…もっと早よう来たら良かったなぁ。」                「昭和一桁は無理しよるんや……ちょっとどいて…おっちゃん居てるんやろ…?」

   「…そら、休みやからな………。」

 「おっちゃん、きのうから言うてたやんか……うちが来るから、おばちゃんに…無理させたらアカンって…。」

  「あっ、夕子ちゃん……言うたんやけどな。 俺の言う事なんか聞きよらへんのや…。」

 「もう、役に立たんおっちゃんやなぁ…『あんたは黙っといたらええ』と、言われて…ほんまに黙っとったんやろ…。」

  「…せやねん…ごめんな夕子ちゃん。」

 「ほんま…しゃーないなぁ………次の時はしっかりしてや…。」

「ち…ちょっと……ちょっと待ってくれるか…ここは…俺の家で…間違い無いよなぁ…?」

 「なに眠たい事言うてるんや…ほんまに、役に立たん男ばっかりやで…。」

 「いや、せやから…今、お前が喋っとった相手は…俺の親父で…間違いないよなぁ…?」

  「アホっ!決まってるやろ!他のおっさんが居てたら怖いわ…アホっ!」

  「また、最初と最後に……。」

  「アホっ! アホっ! アホっ!」「これで…全文『アホっ』や…アホっ!」

 「……ま、まいった。」「…ほんならお前、きのうから手伝いに来てくれてたんか…?」

「前にも言うたやろ…1日1回は来てるんや…せやないと、おばちゃんが…熱出してるのんも判らんやないか。」                「きのうは、店と行ったり来たりしながら…嫌がるおばちゃんに、無理やり寝ててもろたんや。」

 「そうやったんか…ほな、きのうの晩御飯も…お母んが作るはずの無い【粕汁】の存在は…そのせいやったんやな…。」

「そこで気付かんかい…アホっ。」「だいたい、おばちゃんが寝てたら…あんたら父と子には…会話ちゅうモンが無いんか…?」

 「そう言われたら、無いかも知れんけど…とにかく【粕汁】は…ごっつい旨かったわ。 酔いも回らんかったし…。」

「あれだけ煮詰めたら、奈良漬よりも酔わへんわ… あったまると思うて…おばちゃんの為に作ったんや。」                  「ついでに言うとくけどなぁ…きのうは炊事だけや無うて、洗濯もうちがやったんや。」

  「えっ、ほんまにか…何から何まで悪かったなぁ……有難うやで。」

  「なんや、ガラにも無く感謝してるんか…?」


   「そらそうやろ… 当たり前やないか…。」

「そうか、それやったらな…下から2段目の引き出しの【エロ本コレクション】やけどなぁ……。」                          「とりあえずは見逃して…そのままにしといたったからな。 それこそ、感謝するんやで……アホっ。」

  「……あ…あれ…………。」

  「いまさら、恥ずかしがらんでもええやないか…アホっ。」

   「い、いや…せやから………。」

  「言い訳もせんでええ…取りあえず必要なんやろ…?アホっ。」

  「いや、その…必要って事は………。」

「いらんのやったら、捨てたらええやないか…?」「どないしたろか…とは、2秒くらいは考えたんやけど……。」               「あんなモンでも…800円も1000円も出して買うたんやから…可哀そうに思うて、見逃したる事にしたんや…アホっ。」

「そんなとこまで見たんか… なぁ、一言一言、最後に『アホっ』を付けるんは…ひとまず…やめといてくれるか…。」                「効果音と共に、鋭いトゲが…めり込むように刺さって来るんやけど……。」

  「ホ~~っ… なにせ、チタン製やからなぁ…ドスケベ!」

  「…あ…アホに戻してもろてもええやろか…?」

  「うちは、どっちでもかまへんで。」

「出来る事なら、どっちも付けへんようにして欲しいんやけど……。」                                         「なぁ、俺って仕事にせよ、練習せよ、終わったら…まっすぐ帰って来てるんは…知ってるやろ…?」

  「酒が、飲まれへんからやろ…?」

 「それも在る、それも在るけど……他の誘いも在るんやで………。」

  「他の誘いなぁ……飛田か?それとも…トルコ風呂か…?」

  「そ、そんな…ズバリ言わんでもええやんか…?」

 「ズバリもへったくれも在るか……行きたかったら…行って来たらええやないか。」

  「えっ、行ってもええんか…?」

  「ええけど…帰ってくんなよ。」

  「なぁ、素直にアカンって言うてくれた方が…精神的には優しいんやけど………。」

  「ようするに、行きたいんやろ…?」

  「…そんな事…言うて無いやろ。」

  「けど、興味は在りまくるんやろ…?」

 「そら、興味ぐらい…無い方がおかしいと思わんか…?」

「おかしいと思うから…エロ本を残しといたったやないか。」                                               「なんに使うんかは知らんけど…必要なんやろ…?このアホ、ボケ、カス、ドスケベが………。」

   「…うっ…ううっ………」

  「…ああ、夕子ちゃん…来ててくれてたんか…?」

「…おばちゃん…無理したらアカンやんか…でもまぁ、お帰り……ちょうど良かった……マサに、イジメられてたとこなんや。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第25話

「夕子、お客さんには大人気の、あの一口素麺やけどな…あんたの言う通り、去年の夏だけにしといたら良かったなぁ…。」

「言いたい事は判るけど、もう遅いわ…今はほとんどのお客さんが注文しはるのに…『なんか物足らん、もうちょっと食べたい』 と言うお客さんを狙うたんは…大正解やった…でも、儲からん訳やないけど、手間と忙しいのを考えたら…割が合わへんわ。」

「確かに…いまさら遅いのも、割りが合わへんのも……どっちもその通りですわ……。」                           「夕子らのお陰で、昼時のお客さんは若い人がほとんどやから、まさに『もうちょっと食べたい』は…的を射てましたなぁ。」

「学校も卒業したし…これからは、益々やってみたいアイデアも在るんやけど……。」                             「これ以上忙しく成るのは…ちょっと…いくらなんでも、二人では大変過ぎるわ~~。」

「今は、夕子が作った料理が…味付けも含めて人気なんやし、若い人が喜ぶようなモンをどんどん試したらええですやんか…。」  「それでほんまに、手が回らん時には…誰かアルバイトでも考えたら宜しいやんか。」

「お母ちゃんも…元はアルバイトから始めた訳やもんなぁ……。」                                       「けどお母ちゃん、一番の看板料理は『洋子の土手焼き』やで…これはお母ちゃんが生きてる間は…永遠に変わらへんと思うで。」

  「それは、長生きせんとあきませんなぁ…。」

 「聞こえてたで、まだまだ長生きしてや……隠居には早すぎるからな。」

 「ええタイミングで来るやんか。 北村さんは、お母ちゃんのファンかも知れへんけど…山本さんは、うちのファンやろ…?」

「いやいや、俺は森川さんに初めて連れて来てもろて、ママに一目惚れして以来…ママ一筋や…浮気なんかせえへんで。」

 「山ちゃんはそうやろな。 俺は、もう何年も前から…若女将にぞっこんやで……え~っと、ビールと土手焼き二つや。」

   「俺は、プラス…唐揚げ大盛りで。」

  「なっ、【唐揚げの大盛り】…そうやろ?」                                                     「普段の注文から考えて言うてるのに、うちの予想は逆やった訳かいな?なんか、山本さんには…裏切られた気分やわ。」

 「え~裏切ったりなんかしてへんで。 一番はママやと云うだけで…二番は、若女将の単独指名やのに。」

 「そら、二人しか居て無いんやからな……もうええ、山本さんに…こっそりサービスするんも…もう終わりや。」

  「おい山ちゃん、そんな事してもうといて、ママに投票しとったら選挙違反どころか…詐欺やないか…?」

  「北さん、ちょっと待って下さいよ。 若女将も…そんなデタラメ言うたらアカンやんか。」

   「それこそ冗談やんか。ちょうど、献立の話をしてる最中やったんや。」

  「ほう、ほんならまた…新しい献立が増えるんかいな…?それは楽しみや。」

 「いや、それはまだ…アイデアは色々在るんやけど… こう見えて忙しいんやで。」

「それは、よう判る。 森川さんに次いで俺の定年も…そろそろ近いけどな… 確かに、お客さん全体が若返ったわ。」           「若女将や昌幸の後輩も…最近は飲める歳になって、来てくれたりしてるそうやないか…。」

「まだまだ数は少ないけど、少しずつ増えてきたわ…マサは特別やけど、不思議なもんで…女の子の方がお酒に強いんやで。」

  「平均で言うたらアカンで…… 若女将一人で…平均が上がってしまうからなぁ…。」

 「あのなぁ、オイルショックで、トイレットペーパーが無くなったんと同じくらい…訳の判らん事言うのはやめてや。」

  「ほんまに、あれは何やったんやろな…?俺も未だに判らんわ。」「けど、おもろいやないか…使わせてもらうで。」

 「そのおもろい話のお礼に、俺が北さんに変って…酒豪に一杯奢らせてもらいますわ…若女将なにがええんや…?」

  「いや~嬉しいやんか。 一番好きな、ウィスキーにさせてもらうわ。」

  「山ちゃん、ほんまは裏切った…穴埋めとちゃうやろな…?」

  「北さん、せやからそれは……あっ……昌幸…こっちへおいでや…。」

  「今晩は、今日は…ええメンバーの処へ来ましたわ。」

  「今、若女将に一杯進めたところや……昌幸のビールも奢らせてもらうわ。」

   「えっ、そんな事してもろても…ええんですか…?」

 「誰も、飯を奢るとは言うてへん……お前の場合、ビールやったら…1本で済むやないか…。」

 「それはその通りやな…けど、マサあんた…来る予定や無かったのに、どないしたん…?」

「いや、お母んが出かけとって…飯が無かったもんやから…【いづみや】を覗いたけど、閉店前で何にも残って無かったんや。」

  「マサ、あんた今…『いづみや』って言うたやろ…?」

  「えっ、言うたけど…どないしたんや…?」

  「ええか、今は【イズミヤ】とカタカナで書く上に…『づ』が『ズ』に変ったんやで…。」

 「ほ、ほんまか……って、なんで判ったんや……『づ』でも『ズ』でも…判るわけが無いやろ…?」

  「ほな、知ってたんか…?」

  「いや、それは正直知らんかったけど……。」

  「あんたの事は…なんでも判るんや。」

 「い、いや…それでも…今のはアカンやろ… 喋ってるのに、ひらがなもカタカナも…判るはずが無いやないか…?」

   「不思議か…?……超能力や。」

    「………怖っ。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第26話

   「あっ、先生どうも…夕子、居てますか…?」

  「居てるけどな、機嫌は最悪やど……分かってると思うけど……。」「ほんまに、情けない奴っちゃなぁ…。」

  「はい……俺も、気分は最悪なんですけど…なんとか起きてきました。」

「俺やったら、今日の夕子には…絶対近づかへんけど……そこがお前の辛いとこやなぁ…。」                       「ええか、絶好調でも勝たれへんのに、くれぐれも用心するんやど…なんか在っても…今日の夕子では…助けられへん……。」

 「そ、それほどですか…?まいったなぁ……覚悟決めて来たのに、帰りたくなるような事言わんといて下さい。」

  「せやな、悪かった。精一杯頑張ってこい……もしもの時には…骨だけは拾うたる。」

   「はい……その時はお願いします。」

 「こらッ!二人ともええ加減にしときや…いつも言うてるやろ……二人で、勝手に遊びやがって……。」                   「なに、漫才始めとんねん…アホっ。」

  「ああ夕子、待たせたなぁ………。」

「待たせたやあるかい!取りあえず上がっといで…お父ちゃんこそ、やたらと退屈しのぎに仕掛けとったらアカンで…ほんまに。」

   「えっ、そんな事……。」

 「そんな事もなんも…何が…『俺やったら、今日の夕子には近づかへん』や……しっかり聞いてたんや。」

  「そうやったかな…?俺は、お前と違うて……そんな昔の事は…忘れるようにしてるんや。」

   「…マサいくで。」

   「なぁ夕子……。」

  「もう、からんだれへん。」「…マサも早よおいでや。」


 「あんた、お父ちゃんと…しょうも無い漫才が出来るくらいやから…復活したんやろな…?」

  「絶好調には程遠いけど、なんとか大丈夫そうや。 待たせて悪かったなぁ……。」

  「アホっ、もうとっくに諦めたわ!何時やと思うてるねん……ほんまに……。」

   「え~っと、まだ昼をちょっとだけ…過ぎたところのはずやで。」

  「その時計つぶれてるわ。 時計を買うてから…もう1回出直して来たらどうや…?」

  「いや~それは解釈の違いやろ…?まだ3時前や、今すぐ出かけたらええやんか。」

「あのなぁ、久しぶりに休みが合うたから…涼みがてら、キャンプ場で…川遊びとバーベキューやと言い出したんは…マサの方やで……こんな時間から出かけて……真っ暗な中、晩ご飯を楽しむつもりやったんか…?」

 「…バーベキューは無理でも…なぁ、今からでも…映画ぐらい行けるやないか……頑張って起きて来たんやど。」

「アホっ…!頑張らんでええようにしたら、良かっただけの話やろが。」                                     「酒も飲まれへんくせに、陸上部の後輩が来てくれると聞いたとたん…鼻の下を伸ばしてやなぁ……。」                        「そもそも…呼んでも無いのに来やがって、このアホが………。」

 「別に、鼻の下を伸ばしたつもりは無いけど…久しぶりやし、楽しそうや…と思うて……。」

「たしかに…楽しそうやったわ。」「あんたの大好きな…伊藤ちゃんも来とったしなぁ。」                           「つもりもないのに…あれだけ伸びるんやったら…うちのお父ちゃん以上かもわからん…師匠を超えたと喜んどいたらええわ…。」

「いや、そんな技は教えてもらった事もないし……それに、伊藤ちゃんを特別に好きって事も無いのに…なんでそう思うんや…?」

  「…そ、それは……胸が…大きい…から…やんか。」

 「えっ、それはやな……違う… まさか夕子…ヤキモチか…?お前の場合…そんなはずが……?……。」

「ある訳ないやろ…半分以上は冗談や…呼びもせんのに来て、酔いつぶれたんに腹が立ってるんと…あんたの目が、伊藤ちゃんの胸に釘付けやったんが…ちょっと…気に食わんかっただけや…ヤキモチとは違う。」                           「酔いが回ってからは、他の子には見向きもせんと…目がやらしいんや!目が!この…どアホっ!無い物ねだりしやがって!」

「前々から予想はついとったけど…お前の唯一のウィークポイントって……洗濯板…あっ…ゴメン…命だけは勘弁して…。」

 「ええよ、否定出来へんから…。」「お母ちゃんが言うてたんや『男は死ぬまで、大きな胸に騒ぎよる生き物や』って…。」      「典型例がお父ちゃんらしいから、あんたも絶対そのはずや…騒ぐだけやったら見逃したる…… けど、無いもんは無いんや!」

「わ、解ってる…つもりやで…無いもんは…いや、だから…その辺は……俺の場合は先生とは…ちょっと違うと思うんやけど…。」

 「ホ~~っ…ほんなら、良文と肩車までして…壁の向こうに居てる、今田のお姉ちゃんの…どこが見たかったんや…?」

「…なぁお前、俺には…『しょうも無い事を…よう覚えてるなぁ~』って、いつも言うてるくせにやで………。」                「…こんな、たわいもない…極々…ただただ…しょうも無い事こそ… 早よ忘れてくれへんかなぁ……。」

「どこがしょうも無い事やねん… 物凄い印象に残る【事件】やったやないか…何が在っても忘れられへん…出来事のひとつや。」   「思い出す度……身も毛もよだつ…【石鹸忘れた事件】の、ほぼ直後やったやから、尚更なんや………。」             「あの二つは…ワンセットになってるからな……」                                                   「うちの中では、死ぬまでどころか…生まれ変わっても覚えてる事件として…【人生の記憶大辞典】の…見開きに登録された…数少ない事件の中の一つなんや…事件の主役は…ほとんど…マサ、あんたやけどな…。」    
           
「いや、それは違う…おかしいやないか…黙って聞いとったら、俺のお株を奪うような…訳の分からん事を言いやがって……。」  「なにが、物凄い印象に残るや…なにが、見開きに登録された…数少ない事件やねん……」                        「俺の周辺で起きた事件のベストテンは全部…夕子、お前の武勇伝しか無いやないか……俺なんか…その合間、合間に…時々登場する程度やと…誰に聞いても判る話や……。」

 「もうええ……あんたが、ちょっと思い出し掛けてる【いらん事】を、もっと思い出す前に…この話はやめとこか……。」

  「ほ、ほんなら昨日の話も…もうこの辺で、やめといてくれたらええやないか…。」

「何がやめといてや…やめときぃ言うてるのに…嬉しそうに注いでもろて…命がけで飲んだんが…ビール3本やないか…。」

  「まだ続くんかいな……ちゃんと家まで…一人で帰ったやないか…。」

  「アホっ!そんなん当たり前やろ。」

 「なぁ、そんな事言うてる間に…時間は過ぎて行くんやで…映画でも観に行こうや…。」

  「映画、映画って…なぁ、なんか心当たりでも在るんか…?」

 「やっとたどり着いたで…俺が、心当たりも無しに…映画に誘うはずが無いやろ…?」

  「ほな、マサは観たい映画が在るんか…?」

  「【007】や…!前作も一緒に行ったん覚えてるやろ…?タイトルは忘れたけど、何年ぶりかの新作らしいで。」

  「【黄金銃を持つ男】…3年前や。」

  「……そ、それや。 ほんで今度は…………。」

   「【私を愛したスパイ】や…アホっ…。」

「ここでアホは無いやろ……そ、それにしても…夕子お前、相変わらず凄いやないか…何でも分かってるんやなぁ…。」

「やかましいわ……何が心当たりや、3年前のタイトルも覚えて無いくせに…うちは今回の新作を、元々楽しみにしてたんや。」 「それを、二日酔いの埋め合わせに…急に思いつきやがって……」「楽しみにしとった…自分に腹が立つわ…アホっ!」

「…なぁ、3年前の事は…すぐに思い出されへんかったけど…今度の新作は違うんやで。」                             「実は俺も楽しみにしとったからな……ほら、ちゃんと…前売りチケットを買うて在るんや…。」

   「…それを早よ言わんかいな……行くで。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第27話

 「まだまだ暑いなぁ…毎年の事かも知れんけど、いつになったら涼しく成るんや…ホンマ、ええ加減にして欲しいわ。」

 「あんたこそ、毎年の事やで…この時期になったら…必ず同じ事言うてる…ホンマ、ええ加減にして欲しいわ…。」

「そ、そう言われたら…そんな気もする……。」                                                    「この時期、お前の誕生日と、運動会が終わらん事には…涼しくは成らん…と…記憶にしっかりと刻まれてるんや…。」

「あんたも【人生の記憶大辞典】の有難みと…使い道が解って来たみたいやなぁ…。」                           「とにかくマサは、運動会の為に一年間を生きてるような子供やったからな…この時期だけは…特に敏感なんかも知れへんなぁ。」 
「そうやった…体の芯から燃えて来よる、あの…独特の感じが好きやったんや…お前にだけは、勝った事が無いけどなぁ……。」 「そして今、9月と言えばお前の誕生日しか残って無いけど…これは、運動会と違うて…これからも無くなる事がないからな…。」

「それやけどなぁ…うちの誕生日に、頼んだ覚えの無い…高島屋の商品券が届いたんや……マサ、あんたの名前で……。」   「あんたと、ネズミ小僧の関係は知らんけどな【外出用のジャージ】と【礼服用のジャージ】と【パーティー用のジャージ】…。」    「…すぐには、もう思いつけへんけど…買える限りのジャージでも買うとけ…と…解釈しといたらええんか……?」

  「あのなぁ…ジャージを何着も買うために、わざわざ商品券を贈る奴なんか…居てるはず無いやろ…?」

「ほんなら、何のために送って来たんや…?腹いっぱい、酒を飲めって事でも無さそうやし…不思議な事もあるもんや…。」

  「あのなぁ、不思議な事とは違う…買い物は思いつかへんのんか…?」

「あれだけの金額やから…タコ焼きやったら…いくつ食えるんか…想像もつかへんしなぁ…?そうか…あんた、もしかしたら…?」 「元手はマサでも…高級料理でも食べたいんやろ…うちの財布で…ほれ、言うてみ…何が食べたいんや…?食べさせたるで~」

 「あのなぁ…高級料理もいらんけど……夏のボーナスを吐き出したのに…タコ焼きを喰われたら…たまらんやろ~~?」

   「なんや、タコ焼きも喰うたらアカンのんかいな…?」

 「た、食べてもええよ……ええけど、おつりで喰え……おつりで…。」

  「せやから、何を買うたおつりやねん…?」

「今になって…もう、婚約指輪の代わりやとは言わんけど…そうやとしたら、給料の3ヶ月分が相場なんやと聞いた…。」      「俺は…先生のスーツを貰ったりしたけども…お前も、近々…友達の結婚式に呼ばれてるらしいやないか…?」

  「ほんで…これを衣装代にしろって…言うんか…?」

 「まさか、いくらお前でも…披露宴にジャージで行く訳には…いかんやろ…?」

 「それは当たり前や…せやけど、一日だけやったら貸衣装もあるし、お母ちゃんの着物って…云う手も在るんやで…?」

「着物だけはやめとけ!忘れたんか…?」「成人式で、おばちゃんに…綺麗に着せてもろたんは良かったんやけど………。」   「歩き始めてすぐ…3歩目で草履が脱げたまま…しばらくは素足になったんも…気が付かへんかったやないか。」

 「あんた、そんな気の遠くなるほど大昔の…取るに足らん、くだらん話を……サッサと忘れた方が…身の為やと思うで…。」

 「今年の話や。」「…俺の記憶…… せや…【人生の記憶大辞典】によると…たしか…1月……15…日…やったような…。」

  「半年以上は大昔やと……なんかのニュースで見た覚えが在るんや………。」

 「お前も、困った時のリアクションは…俺や先生と、基本的に変らへんようやな…安心したで。」

「アホな事言わんといて…あんたらと一緒にされたらええ迷惑やわ。」                                      「あんたとお父ちゃんに限っては、実の親子と思えるほど似てるけどな…うちは、あんたらのような単細胞生物とは違うんや。」

「単細胞生物って…そんなムキにならんでもええやないか…それに俺かて、厳密に言うたら先生とは…あちこち違うはずやで。」

「いいや…あんたとお父ちゃんは、子供の頃から今までの人生…やってきた事すべてが…コピーのようにそっくりやないか。」  「あえて違う処を探したとしても…納豆の好き嫌いと…酒が飲めるかどうか…それだけやと思うで…。」

「そう言われて気が付いたけどな、確かにお前を…俺や先生と一緒にしたらアカン……恐れ多い話やったわ。」            「俺と先生は、確かに似てる処も多いかも知れへん…せやけど、お前だけは…これまでにやってきた実績が…違い過ぎる……。」「とても、とても…単細胞生物と比べるなんて…とんでも無い話や……お前の悪事を働く細胞は…億単位や…間違いない…。」

   「アホっ!やかましいわ!」

「いや、そんなお前の実績を考えたら…俺や先生なんか足元にも及ばへん……。」                             「そんな達人が、俺たちと…変わらん言い訳をした事実を…素直に喜んで…【人生の記憶大辞典】に追加記入しとく事にするわ。」

 「ややこしい言い方で…話を戻しよったなぁ…。」「ほな、うちも話を戻すけど、あれだけの金額…本気で言うてるんか…?」

  「言うてるも何も… もう、夕子の手元に在るやないか……。」

 「正直な話…うち、こんなに使われへんで……スーツやワンピースでも…10着やそこら買えるんとちゃうやろか…?」

「買うたらええやないか…俺の気持ちとしては、婚約指輪の代わりなんやから…靴やコートなんかも揃えてくれたらええんや。」  「お前の口から…『そのうち、考えてみるぐらいはええかな』って聞いてから1年…考えた形跡すら感じられへんやないか…。」    「…俺としては……なんて言うんか……期待を込めた贈り物なんやど……。」

  「わかった……けど、買い物には一緒に行ってもらうで…。」

   「えっ…そんなん喜んで行くけど……ええん………」

  「言うとくけど、あんたの好みや意見は…受け付けへんで。」

   「ほんなら…なんの為に俺は………。」

   「アホっ!荷物持ちに決まってるやろ!」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第28話

 「お母ちゃん、年末か年始かは決まってないんやけど…うちとマサの後輩で、店を貸し切る事って出来るやろか…?」
           
   「それは構いませんけど、日曜日とは違いますのんか…?」

 「せやねん……やっぱり、みんな土曜日が都合ええみたいなんや…具合悪いやろか…?」

「今までは、無かった事ですけど…常連さんには、前もってお知らせ出来るんやから…構いませんで。」                         「これからは夕子の時代やって…いつも言うてる通りですから。」 

  「ほんま…!有難う…みんな喜ぶわ~。」

  「それで、何人ぐらいの…集まりに成るんですやろ…?」

  「せやなぁ……30人以上には、成ると思うで…。」

 「それは大変ですやんか…席は、無理やりでも…なんとか成るかもしれませんけど、料理が用意出来ますやろか…?」                 「私には、想像もつきませんわ……あんたが、段取りせんとあきませんで。」

  「うん、人数が決まったら計算してみる。」

「男女の差は在っても、全員が…体育会系の集まりですやろ…?」                                        「おそらく、家の鍋なんかも…使わんと間に合わんと思いますわ。」

 「そうかもなぁ…男女は半々くらいに成ると思うけど、とにかくメニューは全部…うちにまかせといて。」

「それは…任せるしか在りませんけど、とにかく…段取りは、早いうちから考えといた方がええと思いますわ…。」                「お店的には、前日や次の日の営業まで影響するんやないかと…私は、そこが気になってますねん。」

「そうか、さすがお母ちゃんや。当日だけや無うて…前日や次の日まで考える訳や…仕込みが間に合わんでも困るしなぁ…。」

「仕込みだけやあらへんで。何を考えてるんかは知りませんけど、食材かて用意出来る物は…前もって用意しとくんですわ…。」  「その日になってから、慌てても間に合わんし… さっきも言うたように…鍋や器まで頭に入れとくんやで。」

 「うん、わかった……それから、もしもの場合…手が足らんとなった時には…うちの後輩を呼んで手伝わせるわ。」

 「あんた、自分の事を思い出しみなはれ。夕子の後輩やで…臨床実験が必要な子…ばっかりと違うんかいな…?」

「絶対にそうやな…危険極まりない奴らやわ…そうなるとや…タイミングにもよるけど、マサのおばちゃんに頼んでみるわ。」

 「最高の助っ人ですわ。 それでも間に合わん時には…お義母さんも控えてはる。」「夕子…人手には心配いりませんわ。」

「それだけ揃うたら心強いけど…お婆ちゃんの場合は、年始で無いと……。」                                  「年末は、製麺所の手伝いを…休む分けにはいかへんしなぁ…。」

 「そんなん、ほんまの年末だけの話ですやんか……前もって頼んどいたら、大丈夫ですわ。」

 「そうか、せやなぁ…今日、マサが来るはずやから…あいつに後輩の段取りを…早ようまとめるように言うてみるわ。」        「うちの方は…高木か伊藤ちゃんにまとめさせるわ。」



 「マサあんた、お父ちゃんまで誘うて来たんはかまへんけど…飲み過ぎて…忘れたらアカンで。」                        「明日のうちに、ちゃんと後輩の予定をまとめとくんやで。」

 「心配せんでもええ。 今の俺はなぁ、ビール2本までやったら…酒より記憶の方が…残る量が多いんや。」

 「おいおい、偉そうに言う内容や無いけど… 昌幸お前、3本までは飲めるように成ったと…言うとったやないか…?」

「先生、ちゃいますねん…。」                                                                「 どう言うたらええのんか…3本飲めるんですけど…その場合、記憶は残らんで…酒だけが残るんですわ。」

   「………2本までにしとけ。」

 「ほんでも、許容量が1本から2本に…限界量は3本になったんですよ…成長率で言うたら、200~300%ですやんか。」

 「おおっ、それは凄いやないか~~ さすが昌幸やな…でかしたぞ! いつも言うてる通り…努力は裏切らへんのや…!」

  「はい! 有難うございます。 先生、頑張った甲斐が在りました~~ これからもご指導…よろしくお願い致します。」

  「STOPや! はい、そこまでにしといて… 勝手に漫才を始めたらアカンって…いつも言うてるやろ。」

 「漫才は別としても…究極の下戸やと言われた俺が、ここまで成長したんやど…お前も一言ぐらい……みと…め………。」

「…めへん!あのなぁ…酒は残らんと、記憶だけが残るのは… 結局ビール1本までなんやろ…?どこに成長があるねん…?」

「……そ、それは…物は云いようやないか…強くは無いけど……飲める量は…増えた気がしない事も…在ったり無かったり…。」

「相変わらずややこしい奴ちゃなぁ…物は云いようか…もうええ、エロ本コレクションも【数】は増えてへんようやし…なっ?!」

  「ち、ちょ…ちょっと待て……お、お前………??」

  「3回も場所を変えたけど…無駄やったなぁ。」

   「お前、いつもチェックしてるんか…?」

 「数は増えてへんけど、新しいのと古いのを…入れ替えてるんまで判ってる。」「…決まって、月末と月の初めやけどな。」

  「…う、うそやろ………。」

「あれ以来、あんたの部屋の掃除や洗濯物の整理なんかは…うちが担当してるんや。」                            「あんなモン、母親に見つかる方が恥ずかしいやろ…?うちの愛情やと思うて…感謝するんやで。」

 「これはなんの言い訳も出来へんなぁ…夕子もそのへんにしといたれ。」「どうや、3本目のやけ酒…手伝うたろか…?」

「あの、楽しそうなところ…悪いんやけどなぁ………」                                                 「新しいのと入れ替えた、古いヤツの行方やけど……お父ちゃんの部屋で見つかったで~。」

   「……そうですか…………。」

「……⁉……なぁ、夕子………な、なんで…ここで言うの…? こう云う事は…小さい声で…こそっと…2人だけの時に…言うて…」

「……先生、残念ながら…俺の場合……朝まで付き合うたりは…出来ない事を…前もって…お伝えをしておきますので……。」

  「…まぁ…昌幸…とにかく…は……とりあえず、3本目を…………。」

 「昌幸くん…?…無理したらアカンで……そのへんでやめときや……わかるやろ~~?」

  「…はい。これを食べたら帰ります…。」「その包丁…よく切れそうですね~~~」

   「…ま…昌幸……まぁ…慌てんでも………落ち着け……」

 「…先生こそ……落ち着いて…3本目は任せますので……お母さん、夕子も…ご馳走さまでした……。」

  「……うちは…知らんで~~~」      
   
              (…夕子……俺は恨むで~~~) ( 三郎 )

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第29話

 「いや~凄いやろとは思うてたけど、ビックリしたなぁ……あいつら人間に見えるけど、違う生き物やないやろか…?」

「私は、夕子以上に驚いてますわ……あんたと昌幸くんだけでも凄いと思うてましたから…。」                        「それが、あんたが15人…昌幸くんが20人集まったら…ああ成るんですなぁ……。」

「まぁ、あんだけ盛り上がって、みんな喜んで帰ってくれたから…大成功や。」                                  「大変やけど、これから年に1回いや…2回は在りそうやから、次はもうちょっと余裕をもって…仕込みをせんとアカンわ。」

「常連さんだけの飲み会は、何回もしてきましたけど…グループや団体の貸し切りは、初めての事でしたからなぁ……。」       「…いよいよ……夕子との世代交代が…加速して来たように思えますわ。」

「お母ちゃん、そんな言い方したら…寂しい聞こえるやんか。」                                               「まだまだ、お客さんの数では…お母ちゃんのお客さんの方が…圧倒的に多いんやから……。」

「全体数からみたら…そうかも知れませんけどなぁ、とにかく昨日の迫力は凄かったですわ。」                        「それにしても、あんたが言うてたように……お酒は断然…女子チームの圧勝みたいやね…。」

「ほんまや。マサほど弱いのも珍しいけど、ほとんどが…付き合い程度しか飲まれへん男ばっかりや…。」                   「あれぐらいやったら…うち一人でも飲めそうやわ。」

「あんたは特別や…普通の人と比べたらあきませんわ… ほとんど…特異体質そのものやないですか…。」                「もしかしたら、ホンマに【突然変異】は起きてたんかも知れませんなぁ…。」

「お母ちゃん、そんな事は無いと思うで……うち判ったんや…お母ちゃんって…自分を過小評価するクセがあるやろ…?」       「毎日見てて思うんやけど、お母ちゃんの酒の強さは…うちどころか…絶対それ以上やとしか思われへん…。」

「何を言うてるの…あんたとは違うて、一升瓶を空にしたら…とてもシラフでは……ちょっとくらいは酔うてしまいますわ…。」

 「ちょっとやろ…? 2本飲んだら…?」

 「そんなに飲む事は少ないですけど、ギリギリ…真っすぐ歩けるかどうかの…限界とちゃいますやろか…?」

「ほら…なっ。 飲む事も在るし…飲んだとしても真っすぐ歩けると云う事やろ…?」「3本いった事も在るんと違うのん…?」

 「いや、流石にそんな覚えは在りませんけど……もしかしたら…その辺が記憶の限界なんかも知れませんわ…。」

 「なぁ、それって…飲んだ事は在るかも知れへんけど、記憶には残って無いって…云う意味なんか…?」

「せやから、記憶に無いって言うてますやないの…記憶に無いんやから、答える事も出来へんに…決まってますやんか…。」     「そう言う夕子…あんたはどうなんや…? 記憶がないほど飲んだ事は…これまでに無いんですか…?」

「まだ、キャリアが1年ちょっとやから…なんとも言えんけども……。」                                       「今のところは、記憶を無くすどころか…気分が【ハイ】には成っても…『これは酔うたな…』と…思うた事も無いわ。」

「ほれ、みなはれ。 あんたは昨日の飲み会にしても、何でもござれのチャンポンで……日本酒に換算したとすると…やねぇ……」   「…それこそ…2升以上は、間違いなく飲んでるはずやと思いますよ。」                                    「親が酒飲みやから、突然変異とは言えないかも知れませんけど……間違い無く…特異体質ですわ。」

 「うちが特異体質やとしたら、お母ちゃんも間違いなく……特異体質や…あえて言えば…【真・特異体質】と違うやろか…。」

「そんなはずは在りません。 私は、至って普通の……平均より、ちょっと強い程度やと思うてますんやで…?」            「夕子と一緒にされたら、ええ迷惑ですわ……夕子こそ、あえて言えば…【特異体質・改】と違いますのんか…?…。」

「なぁ、お母ちゃん…今のは中々面白かったけど、中身は意味不明や……。」                          「それはもう、過小評価とか控えめとか言うレベルや無うて……逆に厚かましいと云うか…勘違いも甚だしいで。」

「もう、分からん子やなぁ… あんたは…私一人で生んだんと違うんやで。」                                   「あんたが、お父さんの遺伝子にかたよってるって事は…ダーウィンやメンデルが証明してるやんか。」

「ふ~っ…これまた、まったく意味不明やけど…母と娘でも漫才が出来そうな事だけは…はっきりしたわ…。」              「でも、お父ちゃんの場合…うちとお母ちゃんの足元にも及ばへんと云う事は…大岡越前でもひっくり返されへん…事実やで。」

「……さぁ、日曜日やと云うのに、わざわざ片づけモンに出て来ましたんや…漫才はこの辺にして…早よ終わらせましょか…。」

「…せやな……まぁええわ……。」                                                           「ほんまに早よ片づけんと…買い物に行って、仕込みに掛からん事には…明日の開店に間に合わへん。」

  「ほんまに…根こそぎ食べ尽くしたって感じやもんね……残ってる食材は…調味料だけですわ。」

 「とにかくお母ちゃんは…ずっと何か作ってたもんなぁ……有難かったけど、大変やったやろ…?」

  「それは…まぁ、仕事やさかい……けど、あんたは相手もしながら、料理も作って……」

  「うちかて、それが仕事やんか…?」

 「最後まで聞かんかいな……それで、あれだけ飲めるんが…凄いと言うてるんやないの。」

  「凄い…かもなぁ……食べるんも…せんど食べたし…。」

 「ほんま怖いわ。 あんた…それで今日、当たり前のように…何とも無いんやろ…?」

  「喉が渇いたんと、トイレに行くんで…普段より早起きしたぐらいや。」

「昌幸くんは、心配ないんやろか…? あの子にしたら、たいがい頑張っとったで…。」                              「あんたが、面白がって後輩の子にけしかけるもんやから…調子に乗ってしもうたんですやろ…?」                       「あの子の下戸も、在る意味で特異体質なんやから…ええ加減にしといてあげんと……。」

「あいつ、伊藤ちゃんのお酌で…脳みそに落雷したらしいんや。」                                         「ビールだけでも大変やのに、熱燗を3杯ほど飲んだと言うとったわ……お猪口でやけど……3杯……。」                「あいつにしたら、決死の覚悟や…その後、最後まで焦点が合わんかったと…伊藤ちゃんが責任感じて…心配してたわ。」

  「お猪口とはいえ、3杯は……ちょっと、あの子には危険過ぎますわ…あんたは心配な事あらへんのか…?」

  「朝一番に覗いてみたけど、息はしとった……命には別条なさそうや…。」