制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第21話


 「うん、ぴったりや。思うた通り、よう似合うてるやんか。」

「そうか…そうやなぁ。確かにサイズは、ぴったりやと思うけど、ええんかなぁ?」

「お父ちゃん自身がええと言うてるんやから、かまへんに決まってるやんか。それに、若い時のスーツなんか二度と着られへんのやし、このまま貰っといたらええねん。」

「いや、それはなんぼなんでも……」

「ええねんって…ほら、こっちも着てみ?」


 「ふんふん…こっちもええやん。よっしゃ2着ゲットや。良かったな。」

「お前、簡単に言うけど……」

「かまへんって。」「なぁ、お父ちゃん2着貰うで~聞こえた~?」

「聞こえたで~~サイズが合うんやったら、持って行け~」

「なっ、気にせんでもええって。」

「先生は仕事中やのに……見るぐらい、見てもらってからでないと、具合が悪いんとちゃうんかなぁ?」

「はい、行くで。」

「お前はええかも知れんけど、俺にも親が居てるんやし、気も使いよるんやど……」

「あのなぁ、それも前もって『勝手な事して失礼やけど、無駄にせんためにも了解して下さいね』と、おばちゃんには話をして在るんやで…せやからあんたは、いらん心配をせんでもええんや。」

「え~っ、お前、そんなんいつの間に?」

「いつの間に? あんたの家なんか毎日行ってるのに今頃なに言うてるんや。」

「お前、俺が居て無い時でも………」

「マサかて、うちが居らんでも来るやんか。」

「それは先生が居てるからやないか。」

「うちかて、おばちゃんとは友達なんや。それに今の話なんか、この前の日曜日の事なんやで? あんたは仕事やったけど、おっちゃんも居てはったんや。」「うちは、うちの家とマサの家の…2軒分の料理を作って、それをマサの家まで持って行って3人で食べたんや…なんにも知らんかったんか?」

「…うん…まったく知らんかった。」

「…まぁ、マサは知ってて当たり前と思われてるんかも判らんけどな。」

「…うん、それはそうかも知れへん。せやけど親父は…駐車場の時もそうやったけど気を使いよるはずやで?」

「うん。おっちゃんはマサと同じように気を使うてはった…けど『あんたの服はどないしても昌幸は着らへんやろ? 先生と夕子ちゃんが、こう言うてくれてるんや、あんたはいらん心配せんとき』って、おばちゃんに説得されて…後はいつもの通りや。」

「…黙ってうなづいとったんやな。」

「せや…とにかく、これで先輩の結婚式はなんの問題も無くなったやんか。」「後は小物やけど、これは、うちが揃えたるわ…マサの財布で。」

「お前、そんなんばっかりやないか。せやけど、小物ってなんやねん?」

「小物って言い方が悪かったけどな……カッターシャツは自前のが必要やろ? それから…ネクタイやタイピンなんかも気に入ったやつが在ってもええやんか?」

「ネクタイはともかくも、タイピンこそ借りてもええんとちゃうんか?」

「マサのおっちゃんの事は、詳しくは知らんけどな、お父ちゃんの場合はタイピンとか、そう云う類のモンは全部……阪神タイガースバージョンなんや。嫌いや無いけど、やめといて。」

「そ、そうなんか…確かにタイガースの話はようしてはるけど、俺があんまり興味が無いもんやから…けど、そこまでマニアックやったんか?」

「あのなぁ、優勝が掛かってる試合で、センターの池田が落球しただけで、池田って云う名前を嫌いになるおっさんやで。」

「わ、わかった、覚えとくわ。」

「よっしゃ、今日のうちに揃えてしまうで。昼からは買い物や。」

「昼からやな。ほんで、今日の昼御飯は何を食べさせてくれるんや?」

「あんた、うちの話、ちゃんと聞いてるか?先週はマサの家族の面倒まで見たんやで。あんたが居て無かったんは仕事やから仕方ないやろ? 今日は休みが合うたんや…うちは贅沢を言う女とは違う。お好み焼で辛抱しといたるやん……この幸せ者!」

「世間一般の幸せってどんなモンなんやろ?…解らんようになったきたわ。」

「不幸やと思うてるんか?」

「いや、そんな事…ぜんぜん思うてへん。」

「それを幸せって言うんや。」


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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第22話


 「まだまだ暑いけど、もう9月に入った…となると、夕子の誕生日もすぐや。ええか、お前は俺より酒には強いと思うけど、なめたらアカンぞ。最初って云うのはとにかく効くんやからな。」

「あんたは、未だに効きっぱなしやんか。」

「おいおい、確かにそうかも知れんけど、あの誕生日みたいな効き方は、あの日あの時だけや。今では先生が言うてたように、一杯目のビールはもしかしたら旨いのかも知れへんと思い掛けてるんや。」

「なに、ややこしい言い方してるねん? それって旨いとは思わんって事やろ。」「それに大ビン1本を空に出来たら、調子ええ方やないか。」「お母ちゃんが言うとったで、仮にも居酒屋に来るお客さんで、あんたより弱い人は見た事がないって。」

「それは俺も聞いたけど、軽くショックやったど。」「先生ほど強くはならんでもええんやけど…もうちょっと飲めんと付き合いも出来へん。先輩の結婚式でも、乾杯の一気飲みで終わってしもうたからなぁ。後は飲み食いも出来んまま、家まで帰って来るのがやっとやった。」「せやけどな…二日酔いは今のところ、誕生日の後が最初で最後や。」

「なぁ、その辺にしといてくれるか。聞いてる方が調子悪うなってくるわ。」「ビール1本で、どないして二日酔いになれるねん? あんたには、あの焼酎のロック1杯が決め手やったんや。」

「そんなん、酒を飲んだ事の無いお前に判るわけ無いやろ?」

「判るんや、うちには…飲まんでもな。」

「…と、とにかく、誕生日に何か欲しいモンって言うても、ジャージぐらいしか無いんやろ? お前の誕生日には、好きなだけ俺が飲み食いさせたるわ…プレゼント代わりや。」

「確かにこれと云って欲しいモンは無いけども、自分の店で自分の作ったモンを食べさせてもろてもなぁ……いっそマサも無料でええから、気分良く祝うてくれたらええんと違うんか?」

「う~ん……そうかも知れんけど、俺もなんて言うんか…気持ちの問題やからなぁ。ほんまに、なんにもないんか?」

「なんにも無いなぁ…強いて言えば……」

「ジャージやろ?」

「外出用のよそいきやで。」

「元々、そう云うジャンルがジャージには無いと思うで。お前、上下がそろてたらスーツやと勘違いしてないか?」

「ここで『えっ違うんか?』ってマサやったら言うところやけどな。さすがにそれは思うてへんわ。」「ただ、外出用のよそいきは実際に存在するんやで。」

「お前だけとは言わんけど、極めて珍しい、少数民族やど。」

「相変わらず、ややこしい言い方する奴っちゃなぁ……」

「いや、お前ほどや無いけど、俺自信もちょっとは含まれてるように思うからや。」

「アホっ…あんたこそドップリやないか。制服と柔道着を混ぜるんは反則やで。」

「なんで反則やねんジャージを混ぜたら3種類やど。お前は、ジャージの1種類だけやないか。」

「アホな事言うたらアカンで…制服と柔道着に種類が在るか? うちが何着のジャージを持ってると思うてるんや? 同じモンは1着も無いんやで。一緒にはせえへんけど、スーツかてそうやないか。何着持っててもスーツはスーツやろ。」

「…ちょ、ちょっと待て。お前が優勢にみえるけど、根本的な間違いが在るやないか? ええか、俺がもし女やったら、二十歳にもなったら『ビシッ』とスーツかワンピースでも着て…パンプスで『カッカッカッ』と歩くに違いないと思うんや…なっ、カッコええやろ?」「お前、そう云う風には思わへんか?」


「ふ~ん…なるほど、判ったわ。」「マサは、うちにそう云う格好をさせたいんやな?」

「…えっ……うん…実は……そ、そうや。」

「見てみたいんか?」

「…うん……見てみたい。」

「似合うと思うてるんか…?」

「絶対似合うやろ…無茶苦茶カッコええはずやと思うてる。」

「あのなぁ…かかとの高い靴ってスパイクと逆やろ? せやけど、履くんやったら、うちはピンヒールしか履きたく無いんや。あんなモン履いたら走られへんやないか。」

「もう、走る必要も…飛ぶ必要も無いんとちゃうんか?」

「それは…、うちかて四六時中ジャージはまずいと思うてるんや。お母ちゃんにも『色気も必要な商売なんやで』と言われてる事やしな。」「…古い順に、パジャマ、部屋着、普段着、仕事着、外出用…って確かに、こんな女は珍しいかも知れへんなぁ………」

「珍しいどころか…少数過ぎて、民族とは呼べんと思うで。」

「おもろいやないか…ちょっとだけ腕を上げたな?」「とにかく、マサの為にと思たら、シャクにも障るけど…まぁ、そのうち…考えてみるぐらいはかまへんかもな。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第23話


 「とうとう夕子も飲める日が来たな。これからは、みんな一緒に飲める分けや。」

「マサ、あんたの場合、飲めるとは言わへん…舐めるや。」

「お前かて、今これから、飲んでみんと判らんやないか?」

「それはそうやけど、あんたより強いのは、飲まんでも判ってるんや。」「ただ、誕生日は今日やけども、金曜日やからな…マサのような事にならんために、今日のところは様子を見ながらにしとくわ。いけそうやったら、明日の土曜日に、ちょっと頑張ってみるつもりやねん。」

「そうやな、その方がええわ。」「日曜は俺も休みやからな、俺も明日に、ちょっと頑張ってみる事にして、今日はいつものビール1本にしとくわ。」

「うん、うちもその方がええと思う。とにかく、お父ちゃんが来るまでは、これでも食べて腹ごしらえをして待っとき。飲むのはそれからや。」

「昌幸くん、これも食べたらええわ…昼の残りやけど天麩羅の盛り合わせ。」

「えっ、これはまた豪華な代物ですやん…ええんですか?」

「かまへんよ。盛り合わせって言うたら、聞こえはええけど、ほんまのところは寄せ集めなんや。二度揚げも出来んから常連さんのサービス品にしか使われへん。遠慮せんと食べたらええで。」

「もう、夕子は…いくら昌幸くんとは云え、なんでもかんでも…ほんまに。」

「いえ、俺には十分ですわ。量も多いし、先生と一緒につまみます。」

「その先生ですけどなぁ…6時を過ぎた頃になるそうですわ。もうすぐですけど、今日だけは待ってあげてや。」

「待つもなにも、餌さえ与えといたら、マサにとって酒は『おあずけ』にはならへん。」

「ほんまに夕子は、『おあずけ』なんて、言い方がヒド過ぎですわ…なぁ?」

「い、いえっ…でも、どうせフォローするんやったら…そこは『餌さえ…』の方が正しいように思うんですけど………」



 「夕子ごめんやで、またせたなぁ…なんや、餌を前にしておあずけをくらっとたんか?」

「まるで話を聞いてたような、見事なフリやけど、食べる方は始まってる…待ってたのは飲む方だけやで。」

「それや。待たせてしもうたけど、なんと云うても、夕子の二十歳の誕生日や…まずはみんなで乾杯して祝うたろやないか。」


 「ふ~、美味しいやん。なるほど、マサの言うてた『これがビールか?』は名言やったんや。」「けど、これは美味しいで。」

「夕子、無理して言うてないか?」

「アホっ。無理する理由も無いやろ。」「マサこそ、これを半年掛かって、旨いと思わんと云う事は一生、旨いとは思わんのとちゃうか?」

「いや、1年間は保証期間のはずやから。」

「アホっ、相変わらず、なに訳のわからん事言うてるんや…」「…んっ……唐揚げに無茶苦茶合うやんか。甘いモンは元々好きや無いけど、これはもう、ジュースなんか飲んでる場合や無くなったわ。」

「ええんかどうかは別として、夕子は間違い無く、私ら夫婦の子供ですなぁ…遺伝子は正直ですわ。突然変異なんか滅多な事では起きへんのですなぁ。」

「そうやな、後はアルコールに対しての反応と抵抗力がどうかやなぁ?」

「うん、うちもそれを気にして、今日は様子を見る程度にするつもりやったんやけど…今のところ何の反応も感じられへん。」

「おい夕子、俺の経験から言うとな、急に来るんや…調子に乗ってたら気を失うど。」

「あんたに、その紅ショウガより赤い顔で言われても、何の説得力も無いやろ…まだビールも半分残ってるし……」

「半分、飲んだと云う事やないか。」

「アホっ、偉そうに言わんとき。」「よっしゃ、いくら何でもこのままでは終わられへん。マサは焼酎のロックにチャレンジしたけど、実は匂いにクセが在るやろ。うちはウィスキーの匂いが好きやったんや…お父ちゃんの角瓶飲んでもええやろ?」

「もちろんや。自分で口に合うように調節したらええ…参考までに言うとくと、10%がベストやと思うで。」

「10%やな…まずはそれでいってみよか。」「角瓶が40%と云う事は……まぁ…こんなもんやろ……」

「えっ、俺の焼酎はロックやったけど、濃いと思うたわ…それが原因やったんとちゃうんかなぁ?」

「絶対に違うやろ。最終的には体に入ったアルコール量の問題やからな。昌幸、今のお前にはビール1本が限度やと思うで。」

「はぁ、けど夕子、俺にも味見におんなじ物を一寸だけでええから作って欲しいわ。」

「よっしゃ、ちょっと待ちや…」「うわ~、これはビールなんかと比べモンにならんほど美味しいで。」


 「はい、マサの場合まずはこれだけにしとき。」

「うん、ほんまや、ええ香りやなぁ……」

「マサ、明日は仕事やで…それと最初のビール1本の範囲で正気を保つんやで。」

「わ、判ってるわ…だいぶ効いて来たからなぁ。もう2度と気を失うたりはせえへん。」

「学習機能が身に付いて来たようやなぁ。よっしゃ…うち、次は日本酒にいってみるわ。1杯目はやっぱり冷やな。」

「おいおい、2杯目の燗も予定に入ってるんか?」「俺はボチボチ限界やど。」

「予定では、最後は焼酎も味見して終わりなんや。」「せやけど、あんたは、ほんまにその辺にしときや。顔色が赤から青へ変りかけてるわ。うち、長年お客さんの様子を見て来たから判るんや。」

「冷…酒や無うて、水をくれるか……」


 「はい……これも学習機能か?」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第24話


 「最近は季節の変わり目になったら、決まって風邪をひきよる。お母んもそろそろ年なんかなぁ。」

「そんなん世間ではよう在る話やろ…あんたとうちの家族が異常なんや。」

「まぁ熱が出たと云うても、1日寝たら治りよるんやけど、実際、お母んに寝込まれたら一番困るからなぁ…のんびりさせたりたいけど、どうしても無理しよるんや。」

「せやから、うちが来たんやないか。」

「やっぱりそうか。せやけどお母ん、熱も下がったから起きて買い物に行きよったで。」

「それこそやっぱりや…きのうは熱も在ったし、無理やり寝かせたんやけど、もっと早よう来たら良かったなぁ。昭和一桁は無理しよるんや。」「ちょっとどいて、おっちゃん居てるやろ?」

「そら、休みやからな………」

「おっちゃん、きのうから言うてたやんか。うちが来るから、おばちゃんに無理させたらアカンって。」

「あっ、夕子ちゃん…言うたんやけどな。俺の言う事なんか聞きよらへんのや。」

「もう、役に立たんおっちゃんやなぁ…『あんたは黙っといたらええ』と言われて、ほんまに黙っとったんやろ。」

「せや…ごめんな夕子ちゃん。」

「しゃーないなぁ……」

「ちょっと、ちょっと待ってくれるか…ここは俺の家で間違い無いよなぁ?」

「なに眠たい事言うてるんや。ほんまに役に立たん男ばっかりやで。」

「いや、せやから…今、お前が喋っとった相手は俺の親父やろ?」

「アホっ! 決まってるやろ。他のおっさんが居てたら怖いわ…アホっ。」

「また、最初と最後に……」

「アホっ。アホっ。アホっ。」「これで、全文『アホっ』や…アホっ。」

「……ま、まいった。」「ほんならお前、きのうから手伝いに来てくれてたんか?」

「前にも言うたやろ。1日1回は来てるんや…せやないと、おばちゃんが熱出してるのんも判らんやないか。きのうは店と行ったり来たりしながら、嫌がるおばちゃんに無理やり寝ててもろたんや。」

「そうやったんか。ほな、きのうの晩御飯もお母んが作るはずの無い『粕汁』のような気がしたんは気のせいや無かったんやな。」

「そこで気付かんかい…アホっ。」「だいたい、おばちゃんが寝てたら、あんたら父と子には会話ちゅうモンが無いんか?」

「そう言われたら、無いかも知れんけど…とにかく『粕汁』はごっつい旨かったわ。酔いも回らんかったし。」

「あれだけ煮詰めたら、奈良漬よりも酔わへんわ。あったまると思うておばちゃんの為に作ったんや。」
「言うとくけどな、きのうは炊事だけや無うて、洗濯もうちがやったんや。」

「えっ、ほんまにか…何から何まで悪かったなぁ。有難うやで。」

「なんや、ガラにも無く感謝してるんか?」

「そらそうやろ。当たり前やないか。」

「そうか、それやったらな…下から2段目の引き出しのエロ本コレクションやけどなぁ、とりあえずは見逃して、そのままにしといたったからな。それこそ、感謝するんやで……アホっ。」


「・・・・・・」

「いまさら、恥ずかしがらんでもええやないか…アホっ。」

「いや、せやから………」

「言い訳もせんでええ…取りあえず必要なんやろ? アホっ。」

「いや、その…必要って事は………」

「いらんのやったら、捨てたらええやないか? どないしたろかとは思うたんやけど、あんなモンでも800円も1000円も出して買うたんやから、可哀そうに思うて見逃したる事にしたんや…アホっ。」

「そんなとこまで見たんか・・・なぁ、一言一言、最後に『アホっ』を付けるんはやめてくれるか。めり込むようにトゲが刺さって来るんやけど…」


「なにせ、チタン製やからなぁ…ドスケベ。」

「あ、アホに戻してもろてもええやろか?」

「うちは、どっちでもかまへんで。」

「出来る事なら、どっちも付けへんようにして欲しいんやけど……なぁ、俺って仕事にせよ、練習せよ、終わったらまっすぐ帰って来てるんは知ってるやろ?」

「酒が飲まれへんからやろ?」

「それも在る…それも在るけど、他の誘いも在るんやで………」

「他の誘いなぁ……飛田か? それとも、トルコ風呂か?」

「そんな…ズバリ言わんでもええやんか?」

「ズバリもへったくれも在るか…行きたかったら行って来たらええやないか。」

「えっ、行ってもええんか?」

「ええけど、帰ってくんなよ。」

「なぁ、素直にアカンって言うてくれた方が精神的には優しいんやけど………」

「ようするに、行きたいんやろ?」

「…そんな事言うて無いやろ。」

「けど、興味は在りまくるんやろ?」

「そら、興味ぐらい無い方がおかしいと思わんか?」

「おかしいと思うから、エロ本を残しといたったやないか。」「なんに使うんかは知らんけど…必要なんやろ? このアホ、ボケ、カス、ドスケベが………」


「…ううっ……」


 「ああ、夕子ちゃん来てくれてたんか?」

「おばちゃん、お帰り。ちょうど良かった……マサにイジメられてたとこなんや。」 


 「・・・・・・」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第25話


 「夕子、お客さんには大人気の、あの一口素麺やけどな、あんたの言う通り、去年の夏だけにしといたら良かったなぁ。」

「言いたい事は判るけど、もう遅いわ。今はほとんどのお客さんが注文しはるのに…『なんか物足らん、もうちょっと食べたい』ってお客さんを狙うたんは大正解やったんやけどな。儲からん訳やないけど、手間と忙しいのを考えたら…割が合わへんわ。」

「その通りやね。いまさら遅いのも、割りが合わへんのも…」「夕子らのお陰も在って、昼時のお客さんは若い人がほとんどやから、まさに『もうちょっと食べたい』は的を射てましたなぁ。」

「学校も卒業して、これからは益々やってみたいアイデアも在るんやけど、これ以上忙しく成るのはちょっと…いくらなんでも、二人では大変過ぎるわ。」

「今は、夕子が作った料理が味付けも含めて人気なんやし、若い人が喜ぶようなモンをどんどん試したらええのとちゃいますか…それでほんまに、手が回らん時には誰かアルバイトでも考えたら宜しいやんか。」

「お母ちゃんも元はアルバイトから始めた訳やもんなぁ…けどお母ちゃん、一番人気の看板料理は『洋子の土手焼き』やで。これはお母ちゃんが生きてる間はずっと変わらへんと思うで。」

「それは、長生きせんとあきませんなぁ。」


 「聞こえてたで、まだまだ長生きしてや。隠居には早すぎるからな。」

「ええタイミングで来るやんか。北村さんはお母ちゃんのファンかも知れへんけど、山本さんはうちのファンやろ?」

「いやいや、俺は森川さんに初めて連れて来てもろた時にママに一目惚れして以来、ママ一筋や…浮気なんかせえへんで。」

「山ちゃんはそうやろな。俺は、もう何年も前から、若女将にぞっこんやで…え~っと、ビールと土手焼き二つや。」

「俺は、プラス唐揚げ大盛りで。」

「なっ、そうやろ? 普段の注文から考えて言うてるのに、うちの予想は逆やった訳かいな? なんか、山本さんには裏切られた気分やわ。」

「え~裏切ったりなんかしてへんで。一番はママやと云うだけで、二番は若女将の単独指名やのに。」

「そら、二人しか居て無いんやからな…もうええ、山本さんにこっそりサービスするんも、もう終わりや。」

「おい山ちゃん、そんな事してもうといて、ママに投票しとったら選挙違反どころか、詐欺やないか?」

「北さん、ちょっと待って下さいよ。若女将もそんなデタラメ言うたらアカンやんか。」

「それこそ冗談やんか。ちょうど献立の話をしてる最中やったんや。」

「ほう、ほんならまた、新しい献立が増えるんかいな? それは楽しみや。」

「いや、それはまだ…アイデアは色々在るんやけど。こう見えて忙しいんやで。」

「それは、よう判る。森川さんに次いで俺の定年も、そろそろ近いけどな、確かに、お客さん全体が若返ったわ。若女将や昌幸の後輩も最近は飲める歳になって来てくれたりしてるそうやないか。」

「まだまだ数は少ないけど、少しずつ増えてきたわ。マサは特別やけど、不思議なもんで、女の子の方がお酒に強いんやで。」

「平均で言うたらアカンで。若女将一人で平均が上がってしまうからなぁ。」

「あのなぁ、オイルショックで、トイレットペーパーが無くなったんと同じくらい、訳の判らん事言うのはやめてや。」

「ほんまに、あれは何やったんやろな? 俺も未だに判らんわ。」「けど、おもろいやないか。使わせてもらうで。」

「そのおもろい話のお礼に俺が、北さんに変って、酒豪に一杯奢らせてもらいますわ…若女将なにがええんや?」

「いや~嬉しいやんか。一番好きなウィスキーにさせてもらうわ。」

「山ちゃん、ほんまは裏切った穴埋めとちゃうやろな?」

「北さん、せやからそれは……あっ…」


 「今晩は、今日はええメンバーの処へ来ましたわ。」

「今、若女将に一杯進めたところや。昌幸のビールも奢らせてもらうわ。」

「えっ、そんなんええんですか?」

「誰も飯を奢るとは言うてへん……お前の場合、ビールやったら1本で済むやないか。」

「それはその通りやな…けど、マサあんた来る予定や無かったのに、どないしたん?」

「いや、お母んが出かけとって飯が無かったもんやから…いづみやを覗いたけど、閉店前で何にも残って無かったんや。」

 「マサ、あんた今…『いづみや』って言うたやろ?」

「えっ、言うたけど…どないしたんや?」

「ええか、今は『イズミヤ』とカタカナで書く上に、『づ』が『ズ』に変ったんやで。」

「ほ、ほんまか……って、なんで判ったんや……判るわけが無いやろ?」

「ほな、知ってたんか?」

「いや、それは正直知らんかったけど…」

「あんたの事はなんでも判るんや。」

「いや、それでも…今のはアカンやろ。」「喋ってるのに、ひらがなもカタカナも判るはずが無いやないか?」


 「…超能力や。」

 「………怖っ。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第26話


 「あっ先生どうも…夕子、居てますか?」

「居てるけどな、機嫌は最悪やど……分かってると思うけど……」「ほんまに、情けない奴っちゃなぁ。」

「はい……俺も気分は最悪なんですけど、なんとか起きてきました。」

「俺やったら、今日の夕子には絶対近づかへんけど、そこがお前の辛いとこやなぁ。」「ええか、絶好調でも勝たれへんのに、くれぐれも用心するんやど。」

「そ、それほどですか? まいったなぁ……覚悟決めて来たのに、帰りたくなるような事言わんといて下さい。」

「せやな、悪かった。せい一杯頑張ってこい……もしもの時には骨は拾うたる。」

「はい。その時はお願いします。」


 「こらッ。二人ともええ加減にしときや。いつも言うてるやろ…二人で勝手に遊びやがって。なに、漫才始めとんねん。アホっ。」

「ああ夕子、待たせたなぁ……」

「待たせたやあるかい。取りあえず上がっといで。お父ちゃんこそ、やたらと仕掛けたらアカンで…ほんまに。」

「えっ、そんな事……」

「そんな事もなんも…何が『俺やったら、今日の夕子には近づかへん』や……しっかり聞いてたんや。」

「そうやったかな? 俺はお前と違うて、そんな昔の事は忘れるようにしてるんや。」

 「…マサいくで。」

「なぁ夕子……」

「もう、からんだれへん。」「…マサも早よおいでや。」


 「あんた、お父ちゃんとしょうも無い話が出来るくらいやから、復活したんやな?」

「絶好調には程遠いけど、なんとか大丈夫そうや。待たせて悪かったなぁ……」

「アホっ、もうとっくに諦めたわ。」「何時やと思うてるねん…ほんまに……」

「え~っと、まだ昼をちょっと過ぎたところのはずやで。」

「その時計つぶれてるわ。時計を買うてからもう1回来たらどうや?」

「いや~それは解釈の違いやろ? まだ3時前や、今すぐ出かけたらええやんか。」

「あのなぁ、久しぶりに休みが合うたから、涼みがてらにキャンプ場で川遊びとバーベキューやと言い出したんはマサの方やで。真っ暗な中で、晩ご飯のつもりやったんか。」

「なぁ、今からでも映画ぐらい行けるやないか。頑張って起きて来たんやど。」

「アホっ、頑張らんでええようにしたら良かっただけの話やろ。」「酒も飲まれへんのに、陸上部の後輩が来てくれると聞いたとたん、鼻の下を伸ばしてやなぁ、呼んでも無いのに来やがって、このアホが………」

「別に、鼻の下は伸ばしてへんけど、久しぶりやし、楽しそうや…と思うて……」

「せやな、楽しそうやったわ。」「あんたの好きな伊藤ちゃんも来とったしな。」

「いや、別にすきって事は無いし…なんでそう思うんや?」

「それは……胸が…大きい…やんか。」

「えっ、それはやな……それやったら夕子とは…あっ、ゴメン。」

「ええよ、否定出来へんから。」「お母ちゃんが言うてたんや『男は死ぬまで、大きな胸に騒ぎよる生き物や』って。典型例がお父ちゃんらしいから、あんたも絶対そのはずや。」

「いや、その辺は……俺の場合は先生とは違うと思うんやけど…」

「ほんなら、良文と肩車までして、壁の向こうに居てる、今田のお姉ちゃんのどこが見たかったんや?」

「なぁお前、俺にいつも『しょうも無い事をよう覚えてるなぁ』って言うてるくせに、こんなしょうも無い事…早よ忘れてくれや。」

「どこがしょうも無い事やねん。一番、忘れられへん出来事やろ。」

「いや、それは違う。一番なんかとんでもないで、ベストテンは全部…夕子、お前の武勇伝のはずや。俺なんか、その後、時々登場する程度やないか。」

「もうええ……あんたがいらん事思い出す前に、この話はやめとこか。」

「ほんなら昨日の話も、もうこの辺でやめといてくれたらええやないか。」

「何がやめといてや…やめとき言うてるのに嬉しそうに注いでもろて…命がけで飲んだんが、ビール3本やないか。」

「まだ続くんかいな…ちゃんと家まで一人で帰ったやないか。」

「アホっ! そんなん当たり前やろ。」

「なぁ、そんな事言うてる間に時間は過ぎて行くんやで…映画でも観に行こうや。」

「映画、映画って…なぁ、なんか心当たりでも在るんか?」

「やっとたどり着いたで…俺が心当たりも無しに映画に誘うはずが無いやろ?」

「マサは観たい映画が在るんか?」

「007や。前作も一緒に行ったん覚えてるやろ? タイトルは忘れたけど、何年ぶりかの新作らしいで。」

「黄金銃を持つ男…3年前や。」

「……そ、それや。ほんで今度は…」

「私を愛したスパイや…アホっ。」

「アホって…夕子お前、相変わらず凄いやないか。何でも分かってるんやなぁ。」

「やかましいわ……何が心当たりや、3年前のタイトルも覚えて無いくせに。」「うちは今回の新作を元々楽しみにしてたんや。それを、二日酔いの埋め合わせに…急に思いつきやがって……」「楽しみにしとった自分に腹が立つわ…アホっ!」

「なぁ、3年前の事はすぐに思い出されへんかったけど、今度の新作は違うんやで。」「実は俺も楽しみにしとったからな…ほら、ちゃんと前売りチケットを買うて在るんや。」

「…それを早よ言わんかいな……行くで。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第27話


 「毎年の事かも知れんけど、いつになったら涼しく成るんや。ホンマ、ええ加減にして欲しいわ。」

「あんたこそ、毎年の事やで…この時期になったら、必ず同じ事言うてるわ。」

「そう言われたら、そんな気もする…この時期、お前の誕生日と運動会が終わらんと涼しく成らへんと記憶に刻まれてるんや。」

「マサは、運動会の為に一年間を生きてるような子供やったからな、この時期には特に敏感なんかも知れへんなぁ。」
 
「そうやった。体の芯から燃えて来る感じが好きやったんや…今はお前の誕生日しか無いけど、これは忘れる事がないからな。」

「それやけどなぁ…うちの誕生日に、頼んでも無い高島屋の商品券が届いたんやけど、よそいきのジャージを何着か買えと云うふうに解釈しといたらええんか?」

「あのなぁ…ジャージを何着も買うために、わざわざ商品券を贈る奴なんか居てるはず無いやろ?」

「ほんなら、何のために送って来たんや?腹いっぱい酒を飲めって事でも無さそうやし…不思議な事もあるもんや。」

「あのなぁ、不思議と違う買い物は思いつかへんのんか?」

「あれだけの金額やからなぁ…タコ焼きやったら、いくつ食えるんか……想像もつかへんなぁ? あんたは何か食べたいモンでも在るんか?」

「あのなぁ…夏のボーナスを吐き出したのに、タコ焼きを喰われたらたまらんやろ?」

「なんや、タコ焼きも喰うたらアカンのんかいな?」

「た、食べてもええよ……」「ええけど、おつりで喰え……おつりで。」

「せやから、何を買うたおつりやねん?」

「婚約指輪の代わりやとは言わんけど、給料の3倍が相場らしいやないか…俺は先生のスーツを貰ったりしたけどやなぁ、お前も友達の結婚式に呼ばれてるんやろ?」

「これを衣装代にしろって言うんか?」

「まさか、なんぼお前でもジャージで行く訳にはいかんやろ?」

「それは当たり前や…せやけど、一日だけやったら貸衣装もあるし、お母ちゃんの着物って云う手も在るんやで。」

「着物だけはやめとけ。」「忘れたんか? 成人式でおばちゃんに綺麗に着せてもろたんは良かったけど…3歩目で草履が脱げたまま、しばらく素足になったんも気が付かへんかったやないか。」

「あんた、そんな昔のしょ~も無い事、いつまでも覚えとらんで、早よ忘れや。」

「今年の話やで?」

「半年以上は大昔やと…なんかのニュースで見た覚えが在るんや………」

「お前も困った時のリアクションは俺や先生と基本的に変らへんようやな…安心したで。」

「アホな事言わんといて…あんたらと一緒にされたらええ迷惑やわ。」「あんたとお父ちゃんに限っては、実の親子と思えるほど似てるけどな、うちは、あんたらのような単細胞の生き物とは違うんや。」

「単細胞って…そんなムキにならんでもええやないか。」「それに俺かて、厳密に言うたら先生とはあちこち違うはずやで。」

「いいや。あんたとお父ちゃんは、子供の頃から今までの人生、やってきた事、すべてがコピーのようにそっくりやないか。」「違うとしたら納豆の好き嫌いだけやと思うで。」

「そう言われて気が付いたけどな、確かにお前を一緒にしたらアカンわ。俺と先生は似とっても、お前だけはやってきた事が違い過ぎる…似てるなんてとんでも無い話や。どうも失礼しました。」

「アホっ、やかましいわ。」

「いや、お前の実績を考えたら、俺や先生なんか足元にも及ばへん……そんな達人が、似たような言い訳をした事実を…素直に喜んどく事にするわ。」

「ややこしい言い方で話を戻しよったなぁ……うちも話を戻すけど、あれだけの金額、本気で言うてるんか?」

「言うてるも何も…もう、夕子の手元に在るやないか……」

「うち、そんなん使われへんで。」「スーツやワンピースでも10着やそこら買えるんとちゃうか?」

「買うたらええやないか。」「俺の気持ちとしては、婚約指輪の代わりなんやから…靴やコートなんかも揃えてくれたらええんや……お前の口から『そのうち、考えてみるぐらいはええかな』って聞いてから1年…全く考えた形跡も感じられへんやないか。」「期待を込めた贈り物なんやど……」

「わかった…けど、買い物には一緒に行ってもらうで。」

「えっ…そんなん喜んで行くけど……」

「言うとくけど、あんたの好みや意見は受け付けへんからな。」

「ほんなら、なんの為に俺は………」

「アホっ、荷物持ちに決まってるやろ。」


制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第28話


 「お母ちゃん、年末か年始かは決まってないんやけど、うちとマサの後輩で店を貸し切る事って出来るやろか?」

「それは構いませんけど、日曜日とは違いますのんか?」

「せやねん。やっぱり、みんな土曜日が都合ええみたいなんや。具合悪いやろか?」

「今までは無かった事ですけど、常連さんには前もってお知らせ出来るんやから、構いませんで。これからは夕子の時代やって…いつも言うてる通りですから。」

「ほんま、有難う。みんな喜ぶわ。」

「それで、何人ぐらいの集まりに成るんですやろ?」

「せやなぁ、30人以上には成ると思うで。」

「それは大変ですやんか。席は無理やりでもなんとか成るかもしれませんけど…料理が用意出来ますやろか? 私には想像もつきませんわ。あんたが段取りせんとあきませんで。」

「うん、人数が決まったら計算してみる。」

「男女の差は在っても、全員が体育会系の集まりですやろ? おそらく家の鍋なんかも使わんと間に合わんと思いますわ。」

「そうかもなぁ…男女は半々くらいに成ると思うけど、とにかくメニューも全部、まかせといて。」

「それは、任せるしか在りませんけど、早いうちから段取りを考えといた方がよろしいやろね。前日や次の日の営業まで影響するんやないかと私は思いますわ。」

「そうか、さすがお母ちゃんや。当日だけや無うて、前日や次の日まで考えるんや…仕込みが間に合わんでも困るしなぁ。」

「仕込みだけやあらへんで。何を考えてるんかは知りませんけど、食材かて用意出来る物は用意しとかんと、その日になって慌てても遅いし、さっきも言うたように、鍋や器まで頭に入れとくんやで。」

「うん、わかった…それから、もしも忙しいて、手が足らんとなった時には、うちの後輩を呼んで手伝わせるわ。」

「あんた、自分の事を思い出しみなはれ。夕子の後輩やで…臨床実験が必要なんばっかりとちゃうんかいな?」

「絶対にそうやな…せや、タイミングによるけど、マサのおばちゃんに頼んでみるわ。」

「最高の助っ人ですわ。それでも間に合わん時には、お義母さんも控えてはる…夕子、人手には心配いりませんわ。」

「それだけ揃うたら心強いけど、お婆ちゃんの場合は年始で無いと…年末は製麺所の手伝いを休む分けにはいかへんしなぁ。」

「そんなん、ほんまの年末だけの話ですやんか。前もって頼んだら大丈夫ですわ。」

「そうか、せやなぁ…今日、マサが来るはずやから、あいつに後輩の段取りを早ようまとめるように言うてみるわ。うちは、高木か伊藤ちゃんにまとめさせる。」



 「マサあんた、お父ちゃんまで誘うて来たんはかまへんけど、飲み過ぎて忘れたらアカンで。明日のうちに、ちゃんと後輩の予定をまとめときや。」

「心配せんでもええ。今の俺はなぁ、ビール2本までやったら、酒より記憶の方が残る量が多いんや。」

「おいおい、偉そうに言う内容や無いけど、昌幸お前、3本までは飲めるように成ったと言うとったやないか?」

「先生ちゃいますねん。どう言うたらええのんか、3本飲めるんですけど…その場合、記憶は残らんで酒だけが残るんですわ。」

「………2本までにしとけ。」

「ほんでも、許容量が1本から2本で、限界量は3本になったんですよ…成長率で言うたら、200~300%ですやんか。」

「おおっ、それは凄いやないか。さすが昌幸やな…でかしたぞ。」

「有難うございます。先生、頑張った甲斐が在りました。」

「はい、そこまで……勝手に漫才を始めたらアカンって、いつも言うてるやろ。」

「おい、究極の下戸やと言われた俺がここまで成長したんやど、お前も一言ぐらい…」

「あのなぁ、酒は残らんと、記憶だけが残るのは…結局ビール1本までなんやろ? どこに成長があるねん?」

「……そ、それは…物は云いようやないか。」「強くは成ったけど、飲める量は増えてへんと云うか……」

「物は云いようか…もうええ、エロ本コレクションも数は増えてへんようやし…なっ…」

「ちょっと待て…お、お前………」

「3回も場所を変えたけど無駄やったなぁ。」

「お前、いつもチェックしてるんか?」

「数は増えてへんけど、新しいのと古いのを入れ替えてるんまで判ってる。」「決まって、月末と月の初めやけどな。」

「…う、うそやろ………」

「あれ以来、あんたの部屋の掃除や洗濯物の整理なんかはうちが担当してるんや。あんなモン、母親に見つかる方が恥ずかしいやろ? うちの愛情やと思うて感謝するんやで。」

「…これはなんの言い訳も出来へんなぁ。夕子もそのへんにしといたれ。どうや…3本目のやけ酒、手伝うたろか?」

「あの、楽しそうなところ悪いんやけどな、新しいのと入れ替えた、古いヤツの行方やけど…お父ちゃんの部屋で見つかったで。」

「なぁ、夕子………」「な、なんで…ここで言うの?」「こそっと…言うて…」

「…先生、残念ながら俺の場合…朝まで付き合うたりは出来ませんからね。」

「…とりあえず、3本目を………」

「昌幸くん、無理したらアカンで…そのへんでやめときや。」

「…はい。これを食べたら帰ります。」


 「・・・・・・」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第29話


 「いや~凄いやろとは思うてたけど、ビックリしたなぁ……」「あいつら人間に見えるけど、違う生き物やないやろか?」

「私は、夕子以上に驚いてますわ。あんたと昌幸くんだけでも凄いと思うてましたから。それが、あんたが15人、昌幸くんが20人集まったら、ああ成るんですなぁ……」

「まぁ、あんだけ盛り上がって、みんな喜んで帰ってくれたから、大成功やで。」「大変やけど、これから年に1,2回は在りそうやから、次はもうちょっと余裕をもって仕込みをせんとアカンわ。」

「常連さんだけの飲み会は何回もしてきましたけど、グループや団体の貸し切りは、初めての事でしたから、いよいよ夕子との世代交代が加速して来たように思えますわ。」

「お母ちゃん、そんな言い方したら、寂しい聞こえるやんか。まだまだ、お客さんの数ではお母ちゃんのお客さんが圧倒的に多いんやから……」

「全体数からみたらそうかも知れませんけどなぁ、とにかく昨日の迫力は凄かったですわ。ただし、あんたも言うてたように、お酒は断然、女子チームの勝ちのようやね。」

「ほんまや。マサほど弱いのも珍しいけど、ほとんどが付き合い程度しか飲まれへん男ばっかりや。あれぐらいやったら、うち一人でも飲めそうやわ。」

「あんたは特別や…ほとんど特異体質そのものやんか。」「もしかしたら…突然変異は起きてたんかも知れませんなぁ。」

「お母ちゃん、そんな事は無いと思うで。うち判ったんや…お母ちゃんって自分を過小評価するクセがあるやろ? 毎日見てて思うんやけど、お母ちゃんの酒の強さはうちか、それ以上やと思うんや。」

「何を言うてるの。あんたとは違うて、一升瓶を空にしたら、とてもシラフでは居てられへん…ちょっとぐらい酔うてしまうやんか。」

「ちょっとやろ? 2本飲んだら?」

「そんなに飲む事は少ないですけど…真っすぐ歩ける限度とちゃいますか?」

「ほら…なっ。飲む事も在るし、飲んだとしても真っすぐ歩けると云う事やろ?」「3本いった事も在るんとちゃうか?」

「いや、流石にそんな覚えは在りませんけど…もしかしたらその辺が記憶の限界なんかも知れませんわ。」

「なぁ、それって、飲んだ事は在るかも知れへんけど、記憶には残って無いって云う意味なんか?」

「せやから、記憶に無いって言うてますやないの。記憶に無いんやから、答える事も出来へんに決まってますやんか。そう言う夕子…あんたはどうなんや、記憶がないほど飲んだ事は、これまでに無いんですか?」

「まだ、キャリアが1年ちょっとやから、なんとも言えんけど、今のところは記憶を無くすどころか、気分が『ハイ』には成っても『これは酔うたな』と思うた事も無いわ。」

「ほれ、みなはれ。あんたは昨日の飲み会にしても、何でもござれのチャンポンで…それこそ日本酒にしたら、2升以上は軽く飲んでるはずやと思いますよ。」「親が酒飲みやから、突然変異とは言わんだけで、間違い無く特異体質ですわ。」

「うちが特異体質やとしたら、お母ちゃんも特異体質に間違い無いで。」

「そんなはずは在りません。私は、至って普通の…平均より、ちょっと強い程度やと思うてますんやで? 夕子と一緒にされたらええ迷惑ですわ。」

「なぁ、お母ちゃん…それはもう、過小評価とか控えめとか言うレベルや無うて、逆に厚かましいと云うか、勘違いも甚だしいで。」

「もう、分からん子やなぁ…あんたは私一人で生んだんと違うんやで。」「あんたが、お父さんの遺伝子にかたよってるって事は、ダーウィンやメンデルが証明してるやんか。」

「ふ~っ…まったく意味不明やけど、お父ちゃんなんか、うちとお母ちゃんの足元にも及ばへんと云う事実は、大岡越前でもひっくり返されへんと思うで。」

「……さぁ、日曜日やと云うのに、わざわざ片づけモンに出て来ましたんやで、喋ってんと早よ終わらせんかいな。」

「……まぁええわ。ほんまに早よ片づけんと…買い物も出来るモンは済ませて仕込みに掛からんと、明日の開店に間に合わへん。」

「ほんまに根こそぎ食べ尽くしたって感じやもんね。残ってる食材は調味料だけですわ。」

「とにかくお母ちゃんは、ずっと何か作ってたもんなぁ…有難かったけど、大変やったやろ?」

「それは…まぁ、仕事やさかい…けど、あんたは相手もしながら、料理も作って…」

「うちかて、それが仕事やんか?」

「最後まで聞かんかいな。それで、あれだけ飲めるんが凄いと言うてるんやないの。」

「食べるんも、せんど食べたで。」

「ほんま怖いわ。あんた、それで今日…当たり前のように何とも無いんやろ?」

「喉が渇いたんと、トイレに行くんで、普段より早起きしたぐらいや。」

「昌幸くんは心配ないんやろか…あの子にしたら頑張っとったで。」「あんたが、面白がって後輩の子にけしかけるもんやから、調子に乗ってしもうたんですやろ? あの子の下戸も在る意味で特異体質なんやから、ええ加減にしといてあげんと……」

「あいつ、伊藤ちゃんのお酌で、脳みそに落雷したらしいわ。」「ビールだけでも大変やのに、熱燗を3杯ほど飲んだらしいんや…その後、最後まで焦点が合わんかったと伊藤ちゃんが責任感じて心配してたわ。」

「お猪口とはいえ3杯は…ちょっと、あの子には危険過ぎますわ。あんたは心配な事あらへんのか?」


「……朝一番に覗いてみたけど息はしとった…命には別条なさそうやと思う……」


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弘と書いてひろむと読みます

Author:弘と書いてひろむと読みます
主人公の夕子と昌幸は作者と同級生と云う設定。          ディープな町、西成区花園町の世界を御堪能下さい。

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