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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第11話

 「この頃は昼も忙しいなぁ…… 店としては有難いんやけど…うちが手伝えるのは、週に1回か、たまに2回がええとこや…。」     「お母ちゃん、一人では…大変やろ…?」

 「夕子のお陰で忙しくなったんも在りますけど、お昼時は季節も関係してるからねぇ……夏が近づくとお弁当が傷みやすいから… お客さんも増えますんや…仕方がない事なんやから…気にせんとき。」

「子供の頃にも聞いた覚えが在るわ…けど、今は冷蔵庫も冷房も当たり前になったのに、それでも影響が在るんやなぁ…。」

「そうやねぇ…夕子が言う事も分かりますけど、最近のお客さんの話を聞いてたら…仕事が忙しいもんやから、お昼に外へ出るのが…息抜きになるって云う人も居てるみたいですよ。」

  「なるほど、それは…分かる気がするなぁ……。」

 「それはそうと、専門学校には、夏休みなんか在りませんのやろ…?」

「そうやねん。 」                                                                        「半月近くは在るんやけど…まぁ、長いお盆休みって感じやなぁ。お盆は、お母ちゃんかて何日か休むんやろ…?」

「そうやねぇ…この辺りで働いてはるお客さんも、休みの人が多いですから、毎年、お盆と正月は息抜きさせてもらってますけども……3,4日ほど休みましょか?」

 「うちも、夏休みの間は…毎日手伝えるから、その間はお母ちゃんに…ノンビリさせてあげるわ。」

「ノンビリって…なぁ夕子、料理はまだまだ、お父さんと昌幸くんで実験してからで無いと……お店では使えませんで。」

 「実験……って?」「……その、実験で使うてる人型モルモットなんやけど…生意気に最近…文句を言いよるんや。」

  「私のとこへも助けを求めて来ましたで…。」

   「え~っ…ホンマ~?なんて言うてた…?」

 「食べさせるんは、自分自身で臨床実験をしてからにして欲しいと……【口頭の嘆願書】が届きましたわ。」

  「口頭の嘆願書なぁ……」「人型モルモットは、2体居てるんやけど…どっちが…?」

   「ひねた方が喋って…若い方は横でうなづいてましたけど……。」

  「そうか…わかった。」「なぁ…それって今週に入ってからの事やろ…?」

   「昌幸くんの非番の日やったから……火曜日でしたわ。」

  「そうか……自信作の改良版やったのに…改良し過ぎたんかも分からんなぁ………。」

 「なぁ夕子、あんたの手つきと段取りだけを見とったら、包丁さばきは勿論………」                               「最後の洗いモンや片づけまで、職人そのものなんやけど……加減ってもんを…覚えんとあきませんで…。」

「それなぁ…この間も先生に怒られたんや…チョロチョロとした、トロ臭い火加減を見てるだけで…イライラしてくるんや。」       「せやのに、包丁持ったら、細かい細工でもへっちゃらなんやで……絶対、先生より上手い自信が在るわ。」              「バランの、早切り大会とか在ったら…国体でも優勝出来るのになぁ……。」

 「あんた、そんなとこは…お父ちゃんとソックリやんか…… 昌幸くんと3人…人種的には共通してますなぁ…。」           「それも長所に違いは無いんですけど、火加減、さじ加減、ころあい加減と…いろんな加減を覚えん事には料理は作れませんで。」 「夕子の場合は、ころあい加減が一番…必要かも知れませんなぁ。」

「なるほど、ころあい加減なぁ…うち的には、考えた事も無い発想やったわ。」                                     「小さい頃から、全力で勝負してきた事しか思い出されへん……犬のウンコまで踏んで………。」

   「あれには泣かされましたで……」

   「せやろなぁ…うちが親でも泣くわ。」

 「それを聞いてホッとしましたわ。 お父さんは泣くどころか…『やっぱり親子や~』って、大笑いしてはったから……。」               「夕子の子供が、もしも同じ事をした時には…是非、泣いてちょうだい……お願いやで。」

「ん~~~父親を、マサやと仮定した場合…かなりの確率で危険やなぁ……。」                                「せやけど、3代続けてそんな奴が生まれてきたら、在る意味…世界的にも凄い事やで。」

  「私には、現段階の2代続けてだけでも…十分、凄い事やと思えますけどなぁ…?」

 「うち、マサにも言われるんやけど…思い出せば思い出すほど…ほんまにロクな事して来てへんなぁ……。」                    「お父ちゃんは置いといても…お母ちゃんには、迷惑の掛け通しやったんや…。」

「迷惑と思うた事なんか…1度も在りませんで…。」「その代り…恥ずかしいとは、数えきれんほど思いましたけどな……。」

「……ご、ごめん。」「せやけど、目からウロコやったわ……ころあい加減を心掛けて、今まで以上に本気で頑張るから…。」

「私も、本気で期待してます。」「それからね、言うときますけど…心配なんか全くしてませんのやで。」                    「夕子は、ひとつ何かを掴んだら…後は、放っといても一流になれると知ってますから。」

  「有難う…。 お母ちゃんに、そう言われたら…ほんまに嬉しいわ。」

   「あとは………」

   「あとは……?」

 「もうちょっと、女らしさも…この仕事には必要やと思いませんか?べっぴん度は…申し分無いんですけどねぇ……。」

「うん…それについては、けっこう落ち込んだり、悩んだりしてる最中なんやけど…こればっかりはなぁ……」                「お母ちゃんのスカートでも…はいてみよか…?」

 「…それは……もうちょっと…色が白うなってから、に…した方がよろしいのと違うやろか…?」

  「…せ、せやな……長い目で応援してや……。」

 「お父さんの面倒見てるくらいやさかい…心配せんでも大丈夫やで。」

   「わかった……説得力は十分やったわ。」

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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第12話

   「お早うございます。」

  「昌幸か、まぁ上がらんかい。」

   「はい……お邪魔します。」

 「お前ら、毎週休みが合う分けでも無いのに、たまには…デートにでも行って来んかい。」

  「出かけたりせんでも、しょっちゅう逢ってデートしてますから。」

  「マサ、うちは…生れてこの方、あんたとデートなんかした事無いで。」

   「夕子、いつの間に………。」

 「しょうも無い事喋ってるんが…聞こえたからに決まってるやろ……アホっ…。」

  「アホっ…って、子供の頃から、ずっと一緒に行動して来たやないか…?」

「あんた、子供の頃から、それをずっと…デートやと思うてたんか…?」                                       「なんぼうちでも、デートで…犬のウンコは踏んだりせえへんやろ…ドアホっ!」

「そんな極端な話を持ち出さんでもええやないか…ほんなら、お前は、二人で映画や買い物に行ったり…祭りや、縁日に行ったりしたんを…1回もデートやと思うた事は無いって言うんか…?」

  「在る分け無いやないか……アホっ!」

「ほんまに、アホアホって、昔から……昔の話はもうええわ…今は、仮にも婚約中やど…どない考えてもデートやないか…?」

  「仮、仮、仮、仮婚約中や!正確に言うてくれるか…知らん人が聞いて、勘違いされたら困るんや。」

「お前の話こそ、誰も知らん話や。 それに、内緒にしとけと云うたんも…お前やないか。」                          「世間で言う…俺が、怪獣に襲われた日の事やで……。」

「……取りあえず、うちの部屋へ上がる事にしょうか…お父ちゃん、そのダンボみたいな耳…早よ収納して。」

 「俺と、昌幸の漫才も中々やと思うけど…お前ら2人……おもろいやないか…また、頼むで……。」



「ほんで今日、俺の胃袋は…何を食べさせられるんや…?もしかしたら、先生も道ずれにする気なんか…?」

「あのなぁ、まずいモンを作る気は無いんや…ど~いう分けか途中から、手順と量がおかしな事に成ってしまうだけの事や…。」

 「それを自分で確かめてから、食べさせて欲しいんやで…俺も…先生も。」

 「お母ちゃんから聞いた。」「自分自身で臨床実験をやるように伝えてくれと、嘆願したらしいなぁ…?」

  「あっ…もう、耳に入ってましたか…?」

 「もう…心配はいらん……これからは…加減の出来る女に、生まれ変わる事にしたんや。」

「なぁ夕子……【夕子】って言葉を…他の言葉に置き換えたら…【加減の出来ん女】やど…意味が分かって言うてるんか…?」

 「ええか…生まれ変わっても、マサに対しての【手加減】だけは…この加減には含まれへん事を…覚えときや……。」

   「…し、しっかり…刻み込みました…。」

 「よっしゃ~ ほんなら、まだ転生中やから、今日は…久しぶりに、お好み焼きでも…食べに連れて行ったるわ。」

   「ほ、ほんまか…?」

  「この流れで、嘘はないやろ~~財布は、あんたなんやし……。」

 「…それは、連れて行ったるとは…言わへんやろ…普通……?…」

  「なんか、文句でも…?」

  「文句は無いけど…せめて、ジャンケンするとか………。」

 「マサ、あんた…かよわい乙女を…喰いモンにする気なんか…?」

 「お前、かよわいの意味、根本的に間違うてるど…ええ加減に……。」

  「お父ちゃん!助けて~~ マサが…マサが~~!」

   「おいこらっ、夕子…なにを言う………。」

  「…辛抱せい… 痛いのは最初だけや~~~」

    「あのアホ親父………。」

  「お父ちゃん!どう云うつもりや…⁉」

「ど~云うつもりもなんも…なかなかの名演技やった…けど…マサには、無理に決まってるやないか。」                    「まして俺が居てるのに…今の場面…お母ちゃんでも…心配なんかせえへんわ。」

 「ほんなら、マサ以外やったら…助けに来てくれたんやろなぁ…?」

  「マサ以外やったらか…?」

  「せや、すぐに助けて………?…」

「当たり前やないか…相手が生きてるうちに助けたらんと… 娘を犯罪者には出来へんやないか…。」                     「お前、自分を分かって無いんと…違うやろなぁ…?」

  「……うち、普通の家庭に生まれたかったわ………。」

「せやけど、もしも…実際にお前が他の奴に襲われるような事が在ったら、俺は手加減出来ても、昌幸は殺しかねんぞ。」      「せやから、お前はほんまに気を付けんとアカンのや…これは覚えとけよ…自分だけは、大丈夫と思うのは危険な事なんや。」

  「…もう…お父ちゃん……中途半端に真面目な事いわんといて…。」

   「先生、俺かて今は警察官です……手加減は、せえへんけど…殺す手前でやめますわ。」

    「マサ、降りて来たんか…?」

「そんなもん、いつまでも一人で待ってられへんやないか……親子漫才が始まったから…もっと間近で聞きにきたんや…。」    「でも、先生の言う事は最もですけど、夕子だけは…大丈夫やと思いますわ。俺が仮に襲うんやったら、もっと…女ら……」

  「昌幸!それ以上は危険…や………」

   「…らしい………痛っ!」

   「もっとなんや!アホっ!」

 「夕子の場合は、確かに心配なさそうやなぁ…昌幸、お前の方が心配や……しっかりせい…大丈夫か…?」

  「せんせ~ぼ、僕…生きてますか…?」

  「しゃべったらアカン……危険な状態や………。」

「アホっ!うちを放っといて、二人で遊ばんといて。 ほら、さっさとせんかいな…お好み焼食べに行くんやろ…?」

 「……せやったな。」「先生、良かったら…帰りになんか買うてきましょか…?」

  「野口やろ…?ほな、焼きそばと焼うどんのチャンポン大盛りや…慌てへんけど…早い方が嬉しい。」

   「ややこしい言い方せんでも、先に焼いてもろて届けるやんか…マサが………。」

   「……はい、お、俺が届けますわ。」

 「お前らの力関係は、どうやら…死ぬまで変らんみたいやなぁ…。」

   「そんなん、当たり前やんか!」

  「えっ、どう云う事なんですか…?」

「二人同時に……まぁ、息は合うてるようやけど、内容は全く違うみたいやなぁ……。」                             「ええか昌幸、女は…子供が出来たら一気に…さらに強く成るんや……。」                                        「…今で、これやと云う事は……答えは、おのずと出てるやないか…。」

  「今より強くなられたら…俺は………?…。」

  「それでも、一緒になりたいんやろ…?覚悟するしかないやないか…。」

「アホっ!ええ加減にしいや…二人で、遊んだらアカンって言うてるやろ……とにかく、決めつけんといて!」               「早よ! お好み焼きや!……だいたい、娘が嫁に行くのを…喜ぶ父親なんか可笑しいやんか…?」 

 「アホっ!誰が喜ぶねん…昌幸以外やったら反対するわ………。」「…ほい…早よ行って、買うて来てくれ。」 

  「先生、俺…心の師と………」

  「マサは黙っとき!ほな、うちはマサ以外とは…結婚したらアカンのんか…?」

「アカン事はない……俺はな… お前がアカンのとちゃうんか?昌幸でないと……さぁ、早よ行って来てくれ…腹ペコなんや。」

  「……な、なにをアホな事を……もうええ……マサ行くで。」

  「芳月のアイスクリームも忘れんなよ~~~。」

   「やかましいわ……常識やないか………。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第13話

「なぁ…お母ちゃん、年末か年始かは決まってないんやけど、うちとマサとの後輩で、店を貸し切る事って出来るやろか…?」

  「それは構いませんけど、日曜日とは違いますのんか…?」

 「そうやねん…。やっぱり、みんな土曜日が都合ええみたいなんや…具合悪いやろか…?」

「今までは無かった事ですけど…常連さんには、前もってお知らせが出来るんやから…構いませんで。」                 「これからは、夕子の時代やって…いつも言うてる通りですから…。」

  「ほんま~!有難う!……みんな喜ぶわ。」

 「それで、何人ぐらいの集まりに成る予定なんですか…?」

 「せやなぁ…30人…以上には成ると思うんやけど…。」

「それは大変ですやんか…… 席は、無理やりでもなんとか成るかもしれませんけど…料理が用意出来ますやろか…?」         「私には想像もつきませんわ… あんたが、段取りせんとあきませんで。」

   「うん、人数が決まったら…計算してみる。」

「男女の差は在っても、全員が体育会系の集まりですやろ…?」                                         「おそらく、家の鍋なんかも使わんと…間に合わんと思いますわ…。」                                         「それとは別に…なぁ夕子、たまには昌幸くん連れておいでや……長いこと来てないやんか。」

「そうなんやけど…私はお店に入ってるし…社会人なんやから、お客さんとして来たらええんやけどな……。」                     「何と言うても…まだ酒が飲まれへんもんやから… 今が一番、中途半端なんや。」

 「お酒は仕方ないけど、御飯だけでもええんか… あの食べっぷりが好きやのに…。」

「お母ちゃんも、結局は…マサのファンに成りきってしもうたなぁ……。」                                       「あのアホ、うちの予想をはるかに超える人気モンやったんや…。」

  「予想通りやった…の間違いと…ちゃうのんか…?」

「み~んな、そう言うんや…うちの評価だけが低いと云うのが不思議でたまらんわ。」                               「まぁ、あいつ誕生日が4月で早いから…半年もしたら飲めるようになる… そうなったら来るなって言うても…来よるわ。」     「もちろん、御飯ぐらいは食べに来るように言うとくけど…お母ちゃんが…『あの食べっぷりが好き…』って…言うてた事を知ったら…明日にでも飛んできよると思うわ。」

 「是非、お願いしますわ……けど私は、夕子の食べっぷりも大好きなんやで……。」                             「その隅っこに、二人並んで食べてる姿が見られんようになって……実のところ…寂しいんですわ。」

  「そうやなぁ…これからは、滅多に無いやろなぁ……。」                                              「マサと二人、あそこに座って……お母ちゃんには、数えきれんほどご馳走になったなぁ……。」                      「うちの場合、あんまり思い出に浸るようなタイプや無いんやけど……ほんま懐かしいわ。」

「今から思うと…『あっ』という間でしたけど…ほんまに、二人の成長が嬉しくて…楽しみでしたんや……。」                      「…その楽しみは……思い通り…立派に育ってくれました…。」

  「いややわ~~ お母ちゃん…しんみりして来るやんか……。」

「夕子は、しんみりせんでも宜しい…あんたは、懐かしいだけかも知れんけどなぁ…なんべんもハラハラドキドキさせられて…。」   「…いやって云うほど、恥ずかしい思いもさせられて………」                                           「そんな苦労から、解放されると思うだけで…そら感慨深いもんが在りますんや…。」

  「お母ちゃん…うちが今、結構…ハラハラドキドキしてるんやけど……。」

 「ふふふっ……これが、自分の子供の事となると…そんなモンや在りませんで~~。」                             「藤川さんとこも、大変やったと思いますわ…きっと。」「けど、あんたを超えるためには、昌幸くんが…5人は必要やからね。」

  「お母ちゃん…なんぼなんでも…それは無いやろ…?」

 「やっぱりなぁ…5人では足りませんやろか…?…7…8………。」

  「なぁ……うちの実績って、そんなに凄い……?」

「今日の仕込みは…ほとんど終わりました……けど、そんな事は…どないでも出来ます………。」                      「この際やから…お店休んで、一つずつ思い出してみよか…?明日の朝までには終わると…思いますけど……?」

 「お母ちゃん…もしかして……うちを生んだ事を…後悔してるんと違うやろなぁ…?」

「そんなん思うた事も在りませんわ…けど、そうは云うても、お父さんと一緒になった時点で…少しは覚悟してました……。」 
「妊娠して、だんだん大きくなるお腹を見てたら…ふと恐竜の卵に見える時が在りましてなぁ…出て来たんは…怪獣でしたわ。」

  「…それって、後悔してるようにしか聞こえへんやんか…。」

「思うた事も無いって言うたやろ…。期待や楽しみの方が…ずっとずっと大きいんやで。その期待と楽しみが…【希望】やんか。」    「夕子あんたは…私とお父さんの【希望】そのものなんやから、あんたこそ…後悔するような事をしたら…その時こそ私とお父さんが悔やんで涙する時なんやで…覚えといてや。」

「うん…『ズン』と来たわ。」「もし、うちが将来…もっと凄い怪獣を生んだとしても、それは希望になってくれるんやな…?」

  「そんなん知らん… それは、あんたら夫婦の問題やんか。」                                          「私らにとっては、可愛いだけの孫なんやから…甘やかすだけ甘やかして…猫可愛がりするに決まってるやんか。」

  「お母ちゃんって…うちなんか、足元にも及ばんような怪獣やったんとちゃうか…?」

 「アホな事言わんといて……私は、あんたとは違うて…ままごとや、お人形遊びが好きな…可憐な女の子でしたんや…。」

「どうも怪しいんや…今となっては、お母ちゃんは、お祖父ちゃんもお婆ちゃんも亡くなって、確かめようが無いからなぁ。」       「お父ちゃんに聞いても、あやふやに誤魔化しよるんは…お母ちゃんが強く口止めしてるからやと…うちは睨んでる……。」

「もう、しょうも無い事考えんと…この頃は料理の腕も格段に進歩してきたんやから…そっちの方に力を注いだらええやんか。」

 「お父ちゃんの遺伝子だけで、うちみたいなんが生まれるかなぁ…突然変異でもあるまいし……。」

「何を言うてるの、そのまんまや…世間では、私と夕子を見比べた上で【突然変異】と呼ばれてるのは周知の事実やんか…。」

 「そんな周知の事実…聞いたことも無いわ…… そもそも…突然変異なんか…実際には起こらへんやろ…。」

  「起きましたんや…それが…。」

「もしもの話やけど、うちとマサの子供に…もしもの突然変異が起きたら…うわっ~考えただけでも…恐ろしいもんがあるで。」

「せやから、そんな事…あんたら夫婦だけの問題やって言いましたやろ… 私らには、ただ可愛らしいだけの…孫ですわ……。」

  「うちの場合……マサと結婚なんかしたら…アカン気がしてきたわ…。」

「心にも無い事言わんとき…素直になったらええんや。」                                                「幸せって云うのは【普通と平凡】って事なんやで……夕子もええ加減…気付いたらどうや…。」

  「…気付く前に…気になる事を思いついたわ………うちとマサが【普通と平凡】やろか……?」

  「……!?……?…!…」

  「…そない…素直に詰まらんでも………。」

「…確かに、あんたらは…普通でも平凡でも無いですけど……ええですか……。」                                「背伸びをせんと…特別な事を…望まんのやったら…あんたらが一緒になるのは…普通で平凡な事とちゃいますか。」

    「………………」 

  「そない素直に詰まらんでも………気持ちは決まってるくせに……。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第14話

 「マサ、非番の日に昼御飯を食べに来てくれた…って、お母ちゃん喜んどったわ。」                               「せやけど…まさか、うちが居て無い時を…選んで来た分けやないやろなぁ…?」

「アホな事を…そんなはず無いやろ……酒も飲めんのに、夜に行ってもと思うて…昼御飯にしたんやないか。」

  「判ってるよ…さすがに、ええ食べっぷりや云うて感心しとったで。」

「やっぱり、おばちゃんの釜めしは最高やったわ… けど、最近は出汁や味付けも夕子がしたりする事も在るそうやなぁ。」  
     「上達の早さが凄いと…褒めとったで。」

 「忘れたんか…加減の出来る女へ変身すると、言うたはずやで……。」                                   「幼虫からサナギの期間は、ほ~~んの少しだけ…迷惑も掛けたかも知れんけど……無事に孵化して…変身は完了したんや。」

 「ほ~っ…サナギの期間って、普通はじっとして大人しいモンやと思うけど、さすがに夕子や…暴れまくってくれたなぁ…。」  
  「もうちょっと孵化に時間が掛かってたら…俺か先生のどっちか死んでたど…絶対。」

 「じっとしてたら、孵化もして無かったんやから…華麗な孵化に貢献出来たと…喜んどいたらええねん。」

 「あのなぁ…華麗な孵化と聞いて連想するんは、普通はアゲハ蝶とかやろ…?」                                「せやけど、お前の場合は【ミヤマクワガタ】か【マイマイカブリ】やないか………あれっ? ゆ、夕子…ど~したんや…?」

 「アホっ!殴られるんを予想して言うのはやめてくれるか… 子供の頃からの悪い癖やで…。」                               「それになぁ、アゲハ蝶より…ミヤマクワガタの方が好きなんや…そこでは怒られへんやろ。」

  「しもた~!お前の嫌いな…マイマイカブリだけにしといたら良かったなぁ…。」

  「……なんで、うちがマイマイカブリを嫌いやと…?確かに好きや無いけど。」

「お前、カタツムリもエスカルゴも嫌いやろ?…そんなお前が嫌いなモンを…食べる虫やで……。」                    「見た眼は真っ黒で…細長い手足…そっくりなんやけどな…痛っ!ここやったんか~~今のは効いたど…。」

「やかましいわ!真っ黒で細長い手足で悪かったなぁ…そのマイマイカブリに嫁に来てくれと言うたんは…あんたやで。」       「今更、あれは嘘やったと言うつもりなんか…?」「それやったら、うちも……。」

 「違う~~それだけは違う……『それやったら、うちも…』って…?…。」                                      「お、おまえこそ…『嘘でもええから』とは言うたけど…ほんまに嘘やったんか…?」

  「いいや……それは違う…嘘なんか言うてへんで。」

   「…ゆ、夕子~~~ 俺、素直に喜ぶで………。」

 「あんた、さっき…『しもた~!マイマイカブリだけにしとったら…』って、言うたやろ…?」                         「どない考えても、怒られるために言うてるやんか…うちの言うた通り、あんたは…うちに怒られて喜んでるんや…わかるやろ?」

 「ど~なんかなぁ…?そう言われたら、怒られるのは計算に入ってたけど……。」                               「う~ん思いついたら黙ってられへん性格やって…お前も知ってるやないか… わざわざ怒られるつもりとは…違うと思うで。」

「ほんなら『真っ黒で細長い手足』って云う部分は…うちの受け答えに関係なく、思いついた時点で言うのは決まってたんか…?」

  「うん……絶対言うてた…。」

   「2回殴られても…?」

 「そうやねん…そこがポイントや…思いついた時点で…体を張る覚悟が必要やねん。」

 「とてつもなく、ど~しようも無い奴っちゃなぁ…… それで、覚悟って…簡単に出来るんか…?」

「子供の頃から…長い間に身に付いた能力なんやろなぁ…覚悟は…結構簡単に…思いついた瞬間…同時に誕生してるんや…。」   「けど今日でもそうや…お前の怒るタイミングが読み切られへん。ここを間違うと…恐怖と悪夢は急激に膨張しよるんや…。」

 「あんたの場合…ほんまに子供の頃から進歩してへんなぁ… そのまんま大人になっとるやんか…。」

「夕子の事にはそうなんや…どう云う分けかお前と居てると…気持ちも性格も…考え方まで…子供の頃に戻ってしまう…。」

「それは~あんたほどや無いけど、うちにも当てはまるで。 誰と居るより安心出来るし、楽しいと思う…せやけど………。」

 「それは嬉しいけど…夕子、さっきの一撃はきつかったでホンマ…… なぁ『せやけど』の続きは…?」

  「………女って事も…忘れてしまうんや…。」

  「……な、なるほど………せやけど………。」

 「どないしたんや…?あんたこそ、『せやけど』の続きは…?」
 「うん……せやけど…夕子お前……嫁に来てくれるって云うたのは…嘘や無いって…言うてくれたよなぁ…?」             「あそこは、本気にしといてええんやろ…?」

 「うん、嘘や無いで…本気にしといてもかまへんよ…。」                                               「ただし、条件付きなんを忘れたらアカンで。 その件については、オリンピックの出場を決めたら…改めて相談においで。」

「よっしゃ…絶対に決めてみせたる…待っとってくれ…それまでに…女やと云う事も…思い出しといてくれたら嬉しいわ…。」

  「なんもかんも……あせる事はない………心配せんでも、あんた以外は訪ねてけぇへんわ。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第15話

  「お父ちゃん、マサがアホのくせに血迷うたんか…車を買いよるらしいんや。」

   「お前、もうちょっと他の言い方でけへんのか…?」                                               「昌幸の事となると特にやけど…ほんまにアホが血迷うたんやったら…そんな奴に、車の運転やらしたらアカンやろ…。」

 「いや、運転は心配ないねん。」                                                             「あいつ、運動能力は並はずれてるし、ハンドル持ったら意外なほど【ビビり】やから…安全運転間違い無しなんや。」

  「ほんなら、ええやないか……なにがアホで、血迷うてるんや…?」

  「駐車場はど~するつもりや、って聞いたら…それが問題で…買われへんって言いよるんや。」

  「……なぁ、買いたいけど…あきらめたって話なんか…?」                                            「たしかに藤川さんとこには…今更、駐車場は作られへんと思うけど…お前、何が言いたいんや…?」

 「うちは、いっぺん買うと決めたんやったら…『スパッ』と、買うたらええやないかって言うたんや…。」                     「ほんなら、あいつ…『考えて見たら、この辺は電車、地下鉄、バスと、ごっつい便利やし…難波や梅田もすぐそこや。』         「車なんか慌てんでもええ』…って言いよるねん。」

   「その通りやないか…。」

  「いややわ~~お父ちゃんまで…そんな事言うたらアカンやんか。」

 「お前、声の調子まで普段と違うてるやないか…結局、なんの話やねん…。」


  「車を欲しがってるのは…夕子やって事ですやろ…?」

   「お母ちゃん聞いてたんか…?」

 「うち見たいな大邸宅…どこに居てても聞こえますわ。」「ほんで、この大邸宅の庭に…用事があるんですやろ…?」

  「やっぱりお母ちゃんや…話が早いわ。」

 「え~っ、ほな夕子お前、うちの前栽を…駐車場代わりにするつもりなんか…?」

「骨接ぎの看板を、移動する場所まで考えて在るんやで…これ以上は無い…と云うほどの解決策やと思うんやけど…?」

 「思うんやけどって…看板だけはちゃんと、骨接ぎや無うて【青田鍼灸整骨院】と…正確に言うてくれるか…。」              「ま…まぁ、それはええわ…ほんで昌幸はなんて言うてるんや…?」

  「そんな事、出来る分け無いやろ~ 俺の親かて困りよるわ~って…。」

   「うん、普通やな…… ほんでお前は…?」

   「うちに、まかしとき!って……。」

  「…それもお前らしいな… ほんで相談に来た分けかいな…?お母さんはどう思う…?」

 「…そんなん… 私に振られても…………。」                                                     「かまへんと云えば、かまへんけど…逆に藤川さんの方が…それでもええと言うてくれんと……なぁ、お父さん…?」

  「それやったら…うちが説得済みなんや。」「よっしゃ~~これで解決や!」

   「お前、ほんまもんの怪獣やなぁ…。」

  「何とでも言うて……今度の土日はトヨタの日なんや…。」

   「買う車も決まってるんか…?」

 「大体はな…あいつ一人では、センスの欠けらも無いし……第一あいつの好みは…【うちの好み】なんやから。」

「なぁ夕子…あんたこの頃は、将来の事も受け入れて、色々と話をしてるのはよろしいけどなぁ…あんたの話を聞いてると、あんたが嫁に行くんや無うて…昌幸くんが、あんたの婿に来るみたいに聞こえますんや……」そこは間違うたらあきませんで。」

 「そんなん間違いようがあらへん…ただ名字が変わるだけの事やんか。」                            「力関係は、なんにも変る事がないんやから…その件についても…マサのおばちゃんとは…認識統一で…解決済みなんや。」

 「…戦後、女と靴下が強くなったと言いますけど…お父さん、あんた一人で夕子を生んだんとちゃいますか…?」

 「アホな事を言うな。俺がど~やって一人で生むんや…今の話なんか…完全にお前の遺伝子やないか…。」

 「お母ちゃんの遺伝子については、うちも興味が在るんやけど…この話の続きはまた今度や。」                        「さぁ、お母ちゃん…買い物と店の準備に掛かるで~!」

 「夕子また…あんた、なんか在ったら…すぐに慌てるんやから…今日はこれ以上、何が在るんや…?」

 「今日中に答えは出しとくから、仕事から帰ったら、店に来るように言うて在るんや。」                            「最近は、練習もきついみたいで、疲れて帰って来よるから…ちょっと元気の出る、特別メニューでも作ったるつもりなんや。」

  「あんた…4年も待たんと、トヨタの日に籍も入れたらどうですねん…。」

 「それはアカン。 お母ちゃんに言われた通り、過ぎた期待はしてへん…けど…うちはちょっと、ちょっとやけどな……。」       「実は、オリンピック選手の女房に憧れてるんや…けど、あいつの性格を考えたら…人参なしでも走る馬とは考えられへん。」

  「夕子あんた…いつから人参になりましたんや…?」

 「見た眼はゴボウやけどな……せやけど、これだけは確かやで……。」                                       「マサは、誰の為でも無く…うちの為にオリンピックに行って…金色の土産を持って帰ってきよる……絶対や。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第16話

  「おい夕子、暇やったら…手伝うてくれてもええやないか…。」

 「勝手に決めたらアカン。 こんだけ寒むいのに、うちみたいな南方系民族は…コタツでみかん食べるのに忙しいんや。」

  「お前ほんまに…人に言われたら怒るくせに…都合のええ時だけは……。」

 「都合で言うてるんや無いで~ 興味が在るか無いか…好きか嫌いかの問題や。」

 「ええか…俺は慌てて買う必要も無いやろって、言うてるのに…。」                                           「なんでも手伝うから、一旦決めたもんは変えるなって…お前が進めたから車を買うたんやで…。」

 「一番必要な、駐車場の獲得を手伝うたったやないか…もう忘れたんか…?」

「有難う…それは忘れて無いで…ちゃうやんか…それはそうやけど、なんでも手伝うって言うのは…それとは別と違うんか?」

 「別もなにも、何でも手伝うとは言うてへんやろ。」                                                  「一人でしんどかったら、運転も代わったる…出かける時は、気分が向いたら弁当も作ったる…パンクしたら、放っとく分けにもいかんから、タイヤ交換も手伝うたる…それぐらいやったはずやで……誰も、洗車まで手伝うなんか言うてへんやろ。」

  「なんでやねん。 なんでも手伝うって…あの時には言うてたやん。」

 「今、言うた以外の事については…『気が向いたら』や……覚えとき。」

 「おいおい……ほな、今日の洗車は気が向かへんと云う事かいな…?」

「気が向くも何も…どこが汚れてるんかも解らんぐらい綺麗な車を、こんな寒い日に洗う奴の気持ちは、南方系民族には理解出来へんと言うてるんや。」「とにかく…車なんか動いたらええやないか…。」

「どこが綺麗やねん…?ドロドロやないか……おまけに鳥のフンだらけやし…あれが綺麗に見える奴の方がおかしいやろ…?」

  「嘘やん……買うた時にはピカピカやったやんか…もう、汚したんか…?」

   「お前、完全に動く気なしやろ…。」

  「せやから、コタツでみかん食べるのに忙しいと言うたやんか。」

 「せっかくの休みに、早起きまでして来たんやど…やる気無くすやないか……ちょっと…俺にもみかん一つくれるか…?」

   「マサ、あんたは…やめとき。」

    「な…なんでやねん…?」

  「いっぺんコタツに入ったら…外に出るの厭になるで~~。」

   「もう…10分前から成りかけてるわ…。」

  「アカン…!ほな、尚更や…。」「早よ! 覚悟決めて…洗といで。」

 「お前の悪魔度…料理の実力を遙かに上回ってるみたいやなぁ…。」

   「車は誰の車や…?」

  「えっ、それは俺の名義やから………。」

   「駐車場は…?」

   「それは…先生の………。」

  「洗い終わったら…出かけるんか…?出かけへんのんか…?」

  「えっ…!どっか…行く気あるんか…?」

 「気が向いたらやけど…そら、洗車までして誘われたら…普通は気も向くわなぁ…。」

「…おっと……早起きしたから…まだこんな時間やしなぁ…ワックスまで掛けたいし…頑張ってくるわ…待っといてくれ…。」

     (ほんま、しゃ~ない奴っちゃなぁ…よっしゃ…ほな、うちも……)



  「おい夕子、またせた……ん…?」「先生、夕子知りませんか…?」

 「なんや昌幸、知らんのんか…?出て行ったけど…だいぶ前やど…。」

 「え~~っ…やられたかな…?そんな奴とは違うんやけど……。」                                       「あっ先生…お礼は前にも言いましたけど、親父なんかも気を使ってますんで…改めて駐車場の件は…有難うございました。」

 「おいおい、改めてって…何を今更やないか…気にすんな、俺はそんな…ケツの穴の小さい男とは違うで。」

  「えっ!先生……ケツの穴大きいんですか…?」

   「アホっ!そ、そんな意味とちゃうやろ…⁉」

  「毎日…トイレで大変でしょうね…?」

 「大変やあるか!アホっ… ほんまに子供のころから…お前だけは……分かるやろ…?」

  「はい…トイレットペーパーが…大量に必要ですよね…?」

   「アホっ、違うちゅうねん…。」

  「あんたら楽しそうやけど…家の前で…漫才するんはやめてくれるか…。」

   「おおっ夕子~~何処に行ってたんや…?」

「マサが、うちに騙されたと思う前に帰ったるつもりで頑張ったんやけど……」                                   「…そんな心配は、必要なかったみたいやなぁ……さぁ行くで。」

   「ゆ、夕子、それ……?」

   「弁当や。」

   「……!…💛……!…。」

  「なんも言わんでええ…気が向いたんや。」

 「なぁ、今日のこれは… デートとは言わへんのか…?」

 「人に言わへんのやったら…好きなように思うとったらええ。」

  「デートや。 デートや。 デ~~トや~~!」

   「行くんか…?行かへんのか…?」

    「どちらを御希望でしょうか…?」

  「紅葉はどうやろ…?ちょっと遅いかもわからんけど……。」

  「枝に一枚でも残ってたら…俺は全然かまへんで~。」

 「お前らも、俺の事は放っといて、二人の世界に入っとるやないか…早よ、何処へでも行ってこい…あほらしい…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第17話

 「早いもんやなぁ…。 年末は忙しいから…余計にそう思うんやろうけど、あっという間に…もう正月が来てしまうやんか。」      「なぁ、お母ちゃん…明日から学校も冬休みやから…残りわずかやけど、気合い入れて頑張るから…期待しとってや。」

「はい… もう、すっかり一人前になって…こんな早いとは思うて無かったですわ。」「それで、なにか考えてますのんか…?」

 「和風が店の路線やから…そこには、こだわるつもりなんやけど………。」                                   「唐揚げ、ハンバーグ、豚カツを…みんな和風味で作ってみようと思うてるんや…。」

 「なるほど、それやったらクリスマスにも…合いそうですなぁ……。」                                       「これからは、あんたら若い人らの感覚が必要です…さっそく明日から…作って見たらよろしいわ。」



 「お父ちゃん、今から店に行くんやけど… 実は…ちょっと新しいメニューを作ってみるつもりなんや…。」                  「せやから…なぁ、今日の昼御飯は…店に来て食べてくれへんか…?」

  「えっ、お前…学校は…?」

 「もう、やっぱり…酔うてたから覚えて無いやないか。 言うたはずやで…うちは、今日から冬休みなんや…って…。」

  「そ、そうやったかなぁ……?…。」「…それで、人体実験の…モルモットになれと言うんやな…?」

  「来んでもええ!ほな…行って来るわ。」

 「あの~~~是非…ご馳走になりたいんですけど…何時に行けば…?」

  「アホっ…!素直に言え…素直に……。」

  「なんでって……これが素直にした結果やないか……知ってるくせに…。」

 「ふ~~っ… うちの周りに居てる男どもは…なんで、こんな奴ばっかりなんや…。」

 「アホっ、俺と昌幸の二人だけや無いか…?なにを大袈裟な事言うてるんや…。」

  「二人で十分やろ!こんな奴…何人も居ったらたまらんわ。」

  「スマン……男に限らんかったら…お前を入れて3人やったわ。」

 「やかましいわ!…ほんで、どっちにするんや…?うちは…忙しいんやで。」

「行く行く~この頃は、モルモットにされてた頃が嘘のように腕をあげたからな…それに、麺類とちゃうだけでも有難いんや。」

  「ほんまにアホ親父が… スッと言えスッと…。」「来るんやったら…昼の忙しい時間を避けておいでや。」

   「よっしゃ~~遅めの昼御飯でいくわ。」

 「それがええわ。 3品あるから…お腹へらして来るんやで…… ほな、行ってくるわ。」


 「ふ~っ… 昼間は、いっとき集中やから…夜とは違う忙しさが在るなぁ……。」                                 「…後は、お父ちゃんの味見やけど…電話して呼んでもええやろか…?」

「やめといた方がええと思いますよ。 お父さんにも、お客さんの都合が在るから…お父さんにまかせといたらええやんか。」      「早よ来て欲しいのは分かりますけど…あんたの悪いとこやで…慌てなさんな…。」

  「せやな… 結構、自信作なもんやから…。」

 「大丈夫…きっと美味しいはずです。」「作ってるところから見てましたけど…申し分無いと思いますわ。」               「あとは、モルモットの口に合うのは間違いないから…もっと、いろんな人に食べてもろうた方が…ええんと違いますか…?」

 「それはそうかも知れんけど、まだまだ【臨床実験】をしてからで無いと…今までが今までだけに……。」                   「人が食べられる物なんか、モルモットも嫌がる物なんか…自信を持たれへんねん。」

「横で見てるだけでも、美味しいのは間違いが無いと…言うてますやんか…おまけに…これは、自信作なんですやろ…?」

  「自分では自信作でも、お客さんに出すとなると…勇気が必要やんか…。」

「夕子の気持ちは分かります…でも、これからは自分の腕と舌を信じて…夕子が美味しいと思うた物は、遠慮せんと多めに作って、心安いお客さんから…試食してもろうて、意見や感想を聞いたら宜しいねん。」

  「わかった、そうする………けど…とにかく、今日…お父ちゃんが、美味しいと言うてくれたらの話や…。」



  「お父ちゃん、何してたんや…?」

  「ごめん。 お客さんのタイミングが悪うて…どないしようも無かったんや… おかげで、腹ペコで死にそうや…。」

  「腹ペコは好都合や… まずは、この唐揚げから食べてみてくれるか…。」

  「…う…旨い…。」「これは一見、普通の唐揚げやけど、なるほど和風味か…?タレが掛かってるんか…?」

 「そう…タレとダシの間やなぁ…唐揚げ専用に甘めの和風だしを作ったんや…中々いけると思わへんか…?」

 「中々どころか…俺には初めての味わいや…なんで今まで無かったんや…と、思うほど旨いやないか…。」

「それは素直に嬉しいわ。 全部食べてええんやけど…ちょっと置いといて…次はこれとこれも、一緒に出すから食べてみて。」

  「ふたつ一緒に… 見た感じ…ど~見ても、ハンバーグとカツとじ…のようやけど…和風なんやな…?」

 「せやねん……ハンバーグの大根おろしは…見ても分かるやろ…?」                                            「そこにたっぷりの生姜と、柚子のきいた…ポン酢醤油で食べてもらうつもりなんや。」                        「カツとじの方は、そのまま御飯に乗せたら、カツ丼やないかと言われたら…その通りなんやけど……。」               「洋風の豚カツとは、もちろん違うし…実は、特製の味噌仕立てにして在るんや…。」

「お前、ほんま…イキイキしてるなぁ…情熱が伝わって来たわ。」                                                                               「ん…?生姜が最高や…これは、俺限定の大量投入やろか…?」

  「うん…その通りやで…喜ぶと思うたんやけど…多過ぎた…?」

 「いや、俺には最高やけど…生姜なんかはクセが在るから…お客さんの好みで入れられるようにした方がええと思うで。」      「俺的には、ニンニクも在りやと思うけど…どうや…?」

 「和風やから、ニンニクは考えて無かったけど…面白いかも知れんなぁ…いっぺん試してみるわ。」                         「お客さんの好みで…って云うのは、その通りやと思う…有難う。」

 「…うん……ほんで……こっちのカツとじは…文句の付けようが無いわ…。」                                          「御飯にも合うし、この濃い味が…酒にも合うやろ…?まぁ…まだ仕事中やしなぁ…御飯くれるか…?」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第18話

 「おい夕子、年が明けて…俺も4月には二十歳や。」                                               「俺は気にして無かったんやけど、この正月に…親父とお母んが言うには…『お前も今や社会人や…4月には二十歳にもなる…夏のボーナスで、婚約指輪ぐらいは買うたらんと…夕子ちゃんが可哀そうや。』って、言いよるんやけど…お前の意見は…?」

  「マサ、あんた…アホやろ…?」

    「えっ…?……?…」

 「驚かんでもええ。 もう一つは…無駄な事をやらん間に言うてくれて…有難うや。」

  「え~~~っ?…?…?…」

 「その頭の中の…クエッションマークをまず白紙に戻すんや……… 戻ったか…?」

   「…?…?…?…」

 「ん~どうも… まだまだ数が多いようやなぁ………。」「マサ!思考停止や!」

  「…ハッ…!…も、戻った…と、思う……。」

 「ええか…?まず、婚約指輪を買う話を…渡す相手に相談してどないするねん…アホっ。」                         「この前の、車を買う時とは訳が違うやろ…?『指輪の駐車場所を契約に来ました。』とでも言うつもりやったんか…?」

  「そ、それ…ええやんか……使わして……。」

 「使わんでええ!アホっ!」「それに、プロポーズの時に…密かに渡すと云う設定が…うちの好みなんや。」

   「そ、それやったら………。」

 「アホっ、もう遅いわ……もはや…手遅れなんや……。」                                              「ええか、高校も卒業してへんうちに、ストレート勝負してきといてやで……すでに、順番もタイミングも…バラバラなんや。」

  「それを言われると…やなぁ………なんとも……。」

   「けど、全然…それで良かったんやで…。」

   「えっ…!なんで…? ほんまにか……?」

 「ほんまやで。」「好みやとは云うても、映画のような場面は…うちとマサには似合わんやないか…。」                     「それに…『もう一つは無駄な事をやらん間に……』って、言うたやろ…覚えて無いんか…?」

「頭の中で…『あんた、アホやろ…?』の一言が…繰り返し鳴り響いてる間に…かすかに聞こえたような気もするけど……。」

 「いつものマサに戻ったみたいやな… ほな、ズバリ言うけど…婚約指輪自体…まったくいらん… 全然欲し無い。」            「せやから…無駄な事をやらん間で良かったって…言うたんや…。」

  「夕子お前…矢印型の尻尾以外に…チンチンまで生えたんとちゃうやろなぁ…?」

  「いつ見たんや…?うちの秘密を?」

    「やっぱり……な……。」

  「こらっ!見たんかい…!?…。」

  「み、見てません…けど~~ 真実を明らかにする為にも…いっぺん………痛っ!痛い…って……。」

  「…せやろなぁ…うちの手も痛かったわ…。」

   「お前、加減の出来る女に………。」

 「アホっ!…『あんたへの手加減は含まれへん。』って言うたんまで…忘れたんか…?」

  「うっ…今……いま思い出した……。」

「それは、良かった…うちも安心したわ…なぁマサ、あんたが…なんかの間違いで、オリンピックに行けたとしたら……。」

 「間違わんでも…行くつもりなんやけど……ここは、お前にも覚えといて欲しい処やで……。」

「覚えてるよ…決まったその時、結婚指輪だけ…買うてくれたらそれでええ………」                              「うちが、身に付ける貴金属は…生涯、それ一つで十分や。」

  「これって、喜んでええんやろか…?俺…今、嬉しいもんなぁ…喜んでええはずや…そうやろ…?」

 「好きなように取ったらええけど、うちは…無理して言うてるんや無いで。」                                   「身に付けるモンなんか大嫌いなんや… 首に巻くのも、耳にぶら下げるのも…絶対にお断りや… ルビー…? ダイヤモンド…?」          「あんなもん、ただの石や無いか…アホらしい… こんなモンを、うちが喜ぶはずが無いやないか…。」

   「男前や~ まったくもって…お前らしい考え方やで。」                                            「まぁ俺も…石に高い金を払う奴の気が知れんとは思うけどな…そうなると、お前が欲しい物って…いったい何やねん…?」    「車は欲しがったけど…ただ、汚れてても…走ったらええって云うタイプやったしなぁ……。」

 「アホっ、それも当たり前やないか。」「ええか、車は便利やし…必要やろ…?」                                 「せやけど、人や物を積んで走る以外に、何を期待するねん…綺麗な必要が無いやんか。」

  「いや、ほんまにお前らしいけど……まぁ、そうは言うても…欲しい物は…なんにも無いんか…?」

  「ん~~ 強いて言えば…ジャージやな。」

 「ちょ、ちょっと待て…それは可笑しいやろ…⁉ いくらお前が…特殊やとしてもやなぁ……。」                          「19歳の女性が…婚約や結婚の記念みたいな話をしてる時に…【ジャージ】は無いやろ……?」                  「まぁ確かに…365日ジャージやもんなぁ…… 当たり前過ぎて気にして無かったけど…専門学校にもそれで行ってるんか…?」

  「アホな事言わんといて… たまには…ジーパンぐらいはくわ…。」

   「たまの…ジーパン以外は…?」

  「ジャージに決まってるやんか…… 他に持って無いしなぁ…せやから外出用に…新しいジャージが欲しいんや。」

 「外出用のジャージって…… お前、在る意味、小学校の時が一番女らしかったのかも知れんなぁ…。」               「やってる事は、悪魔や怪獣より凄かったけど…女の子の服も、わずかながら見覚えが在るわ。」

  「しょ~も無い事、思い出さんでもええ…… あんたかて、柔道着とジャージ以外のモン…あんまり見覚えが無いで。」

   「失礼な事言うたらアカンど……制服が在るやないか…制服が…。」

   「何が失礼や…。 制服は仕事用やんか…。」

「お前のジャージは、通学から仕事まで…オールマイティやないか…俺は少なくとも区別は出来てるんや…お前とは全く違う。」

  「……せやから~ 新しいジャージは…色合いの違う物を…買うたら…ええ…やんか…。」

   「お前の場合、根本的な部分に…問題が在ると思うで…俺は…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第19話

  「記念すべき二十歳の誕生日は…休みを取る事にしたからな。」

   「アホか…。なに乙女チックな事を言うてるんや。」

 「いやいや、俺もそんな考え方は、持ち合わせて無いんやけどな…そうしといたら…安心して飲めるやないか…。」

  「それがアホやって、言うてるんや… あんた、昼間から飲むつもりなんか…?」

「そんな分け無いやないか…ええか、お前がまだ飲まれへんから…先生が、付き合うてくれる約束まで出来てるんやで。」

「せやから、お父ちゃんかて仕事が終わってからの事や…あんたも、帰って来てからでええやんか…なんの為に休むんや…?」

   「……そうか。」

  「気が付くのが遅過ぎるわ。ほんまにアホな奴っちゃなぁ……。」

 「いや…けど心配はいらん。」「勤務の都合上、連休になったんや…休みを取る必要は…無かったって事か……。」

「ふ~ん…それやったら、まぁええやないか。」「あんたは、普段から休むような事も無いんやし、二日酔いを予定して休むより、二十歳の誕生日の方が休みやすいやろ…たまにはのんびりしたら…?」
 
  「う、うん…せやなぁ……そうするけど…稽古は2日も休まんで済みそうやなぁ……。」

   「もう……ほんま、アホなんか…真面目なんか…ややこしい奴っちゃで。」

 「まぁ酒とは…初対戦やからな。俺には強敵なんか、どうなんか…とにかく、これで安心して飲めるわ。」

「せやな、うちも早よ飲みたいわ。」「小さい頃から酒飲みとは付き合うてきたけど、無茶苦茶…美味しそうに飲みはるんや。」    「時たま、難儀な人も居てるけど…お酒が人を楽しくさせるんは…間違いないわ。」

「俺もそう思う…けど、下戸の親父が、忘年会とかで飲み過ぎて、次の日、辛そうなんを見てるから…その辺には気を付けるわ。」

  「相手がお父ちゃんだけに、乗せられたら終わりや…あんたの場合、気を付けても無駄かも知れんで。」

  「誕生日は誕生日でも…二十歳の誕生日やからなぁ… ほんま、めでたい事やと思えるなぁ…。」

 「よっしゃ…記念すべき最初の一杯は…うちが注いだるわ。」「はい…マサ……おめでとう。」「お父ちゃんも…はい………。」

   「………ふ~っ……。」

   「マサ、どうや……?」

 「なんとも、想像してた味ともちょっと違うような……ど~表現したらええんやろ…?」                              「人の話を聞いてたら、もっと苦いもんかと…思うてたんやけど…『これがビールか』としか…言いようが無いわ。」

 「うん、まぁそうやろなぁ。 俺も最初は、そう思うたような気がするわ…。」                                     「しか~~し……これがクソ暑い夏になる頃には、こんな旨いもんは無いと、思えるようになってる…はずなんや…。」        「おい夕子、あの唐揚げを頼むわ…いまや大好物になってしもたんや。」                                   「昌幸も好きなモンを遠慮せんと食べたらええ…お前が酒を飲んで金を払うんは、明日からや。気にせんと、じゃんじゃんいけ。」

「はい、有難うございます。 今日も、トレーニングと稽古はしっかりしてきたんで…思いっきり腹ペコですわ。」               「なぁ、食べるもんは夕子に任せるから…適当に出してくれるか…?」

「まかしとき。とにかく、あんたも大好きな唐揚げは…前もって、大量に準備出来てるからな……。」                    「これから食べといてくれたら、後はあんたの好きなもんを…適当かつ順序よく出したるわ。」

   「うん…ほんで焼酎も…ちょびっと味見をしてみたいんやけど…ええかなぁ…?」

「もちろんや…良かったら、日本酒も…試してみたらええんやで…。」                                            「うちには、酒の味は分からんけど…食べるモンとは相性が在るみたいやからな……。」                    「その辺は、お父ちゃんと相談したら……そうやお父ちゃんは…ビール以外はウィスキーやったなぁ……。」

 「おいおい、いきなりチャンポンは…効き目が強過ぎるんとちゃうか…?」「明日は休みらしいけど…ほどほどにしとけよ。」

  「はい、飲む方は無理はしません…食べるんは任しといて下さい。」



  「なぁ、マサ………」「…アカン、気を失うてるみたいやで……どうする…?」

 「これは俺でもきついけど、担いで行くしか無さそうやなぁ…まぁ、すぐそこやから…担ぐ時だけ手伝うてくれ。」             「それにしても、食べるんは凄い量を食べよったけど…酒は、ほとんど飲んで無いやろ…?」

 「うん、そうやねん……最初のビールがコップで2杯やろ…?ほんで焼酎が…ロックで1杯と…2杯目が…それや…。」

   「…こいつ、完全に下戸やな………。」

 「そうですなぁ…それもかなりなレベルですわ。」「はっきり言うて…酔うてる間が無かったですもん。」                  「物凄い食べっぷりで、ときたまコップに口を付ける程度で……箸が止まったら…体の機能も止まってましたわ。」

 「うん…お母ちゃんの言う通りやと思う…その後、うちと一瞬目が合うたんやけど、体に続いて…頭も停止しよった。」

「まぁ、一息ついてからにしなはれ…担ぐんはお父さんでも…夕子も一緒に行って、藤川さんに一言…状況を説明しとくんやで。」

 「うん、分かった。」「せやけど、うちはどうなんやろ…?マサよりは飲めんと、女将は務まらんと思うんやけど…?」

  「あんたは、血統から考えても…それこそ、突然変異でも無い限り…絶対飲めるはずですわ。」

   「そう云えば、マサの家で…お酒の類を見た事が無いもんなぁ… うちの家とは大違いや。」

 「せやなぁ、藤川の兄ちゃん…元々大人しい人やけど、酒を飲んでるところを…見た記憶が無いわ…。」 

   「お父さん…そろそろ………。」

  「せやな…家まで送り届けたろか…。」

 「なぁ、これでも明日は…二日酔いになるんやろか…?」

 「この量で二日酔いになるくらいやったら…昌幸の天敵は…夕子だけでは無くなるで。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第20話

  「あっ、おばちゃんお早う… マサ、大丈夫やろか…?」

「夕子ちゃん、昨日は迷惑掛けて…ほんまにゴメンやで。」                                             「お祝いとご馳走までしてもろうた上に、最後は先生に担がれて帰って来るなんて…何を考えてるんや…あのアホ息子は…。」

  「そんなん、何にも迷惑と違うけど…どうなん…?マサは、もう起きてるのん…?」

  「ピクリともせえへんわ…夕子ちゃん、行って…起こしたってくれるか…?」

  「ピクリともって…何時間寝てるんや…。」

 「初めてや云うのに、いちびって無茶飲みしたんやろ…?体はごっついけど、お酒が強いはず無いんやから……。」

  「夕べも言うた通り、無茶飲みなんかして無いんやけど…なぁ、おばちゃんは…お酒を飲めるんか…?」

  「飲めるもなんも、奈良漬でも…目が回りそうになりますわ。」

  「そ、そうやったんや…… 今まで、知らんかったんが不思議なくらいやわ…。」

「マサ~~なぁ、マサって……。」「ほんまにピクリともせえへん。これは殴ったり…蹴ったりもしにくいしなぁ……。」             「クソっ…こそばしてもアカンか………。」


「うっ、う~~っ…ハッ…ハッ~~夕子…か…?俺は生きてるんか…?天国と地獄を…行ったり来たりする…夢を見てたど。」

「ふ~まぁ……12時間以上…寝てたんは間違いないからな。」                                          「死んだように寝てたと云う意味では…夢の内容と一致するわ…… ほんで、どうなんや…大丈夫か…?」

 「大丈夫やとは思うけど…とにかく経験した事の無い気分や……これが噂の、二日酔いって奴やろか…?」

「二日酔いの噂なんか…聞いた事も無いし……うちも経験が無いから…断言は出来へんけどな……。」                          「…病気もした事が無いあんたが、気分が悪いとなると…それを二日酔いと…言うんとちゃうか…?」

  「とにかく、教えて欲しい事が、二つ在るんやけど……教えてくれるか…?」

 「そら在るやろなぁ~~ 一つ目は…?帰って来た記憶が…無いんやろ…?」

「そこや…。 おそらく、先生に迷惑掛けたと思うんやけど…どんな内容かを聞いてから…謝りに行かんと仕方ないやろ…。」

「それやったら、大した事は無いわ…… ここまで担いで帰って来ただけや…これは、お父ちゃんにしか出来へんからな。」

「うん、申し訳ない…それは記憶の無い俺にも想像出来る…。」「しっかり食べて、腹いっぱいになったんは…覚えてるんや。」    「ほんで、もう食べられへんと思うた処からの記憶が、ぷっつりと無い…その後はさっきまで…天国と地獄を行ったり来たりや。」

 「飲んだ記憶は残ってるんか…?」

  「いや、ビールを2杯と…焼酎のロックをおかわりしたとこまでしか…記憶が無い。」

 「それはそうやろ、その通りなんやから… あんたが飲んだのは、合計でその…3杯だけや。」

  「……おかわりした焼酎は…?」

  「ほとんど手つかずで…最後はお父ちゃんの…胃袋へおさまったわ。」

  「なるほど、それも一緒に謝っとくわ……ちょっと待っとてくれ。」

  「どないしたんや…?」

  「いま気が付いたんやけど…膀胱が破裂しそうなんや…。」

   「…黙って、早よ行き…。」

   「お前が聞いたんや……。」

  「ふ~~アカン…下を向いたら地面が歪んで見えるやないか……これも二日酔いの症状やろか…?」

「多分そうやろ…お父ちゃんもおんなじ事言いよるから…ただ、お父ちゃんがそれを言うのは…ボトル1本空けた時の話や…。」

  「そ、そうか……俺も、そのくらい飲めるように成るんやろか…?」

「あんたが、真似したら死ぬと思うで。お父ちゃんと、お母ちゃんの話によると…あんたは、本物の下戸らしいわ。」             「せやから、鍛えても強くなる事は無いそうや…さっき、おばちゃんの話を聞いて、うちも確信したわ…。」

  「えっ、お母んが…なんて…?」

  「奈良漬でも…眼が回るそうや…。」

 「そう言えば食べへんなぁ……家で酒の話なんかした事も無いし、家系なんやろか…?」

「せやな、藤川家の遺伝子かも…でも、そんなん…しゃ~ないやんか。」「ほんで、もう一つの教えて欲しい事ってなんや…?」

「それや…!俺…天国と地獄をウロウロしてたのに、さっき起こされた時は…三途の川を渡りかけた途中で…気が付いて戻って来たんや…お前、なんか…心当たりが在るんとちゃうやろなぁ…?」

「う~ん…心当たりなぁ……心に当たるかどうかは判らんけどな、どないしても起きへんもんやから……。」                「とりあえず、鼻と口を塞いでみたんや……あんた状況に合わせて、上手い事…夢を見るんやなぁ…?」

  「アホっ! 上手い事やあるか…殺人未遂の現行犯で逮捕したろか…?」


 「おうおう、逮捕出来るもんならやってみんかい。これでどうや…もっとか…?」

   「まいった……ストップや…ストップ…!」

 「二日酔いで、頭を振られたら効くやろ…?お父ちゃんで実験済みなんや。」

  「俺…やっぱり…お前がええ死に方したら…厭やわ。」