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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第1話

(あらすじ)

このお話は【夕子、西成区、花園町在住。】と云う、私が書いた物語のタイトル通り青春編で在ります。

 前作では小学3年生だった主人公【夕子】(青田夕子)とその幼馴染のやんちゃ坊主【マサ】こと(藤川昌幸)が高校を卒業する処から4年後までを綴った物語で、母親の営む【居酒屋洋子】を継ぐ決心をした夕子と、警察官の採用試験合格を決め、今後は柔道でオリンピック出場を目指す昌幸との【恋のゆくえ】を含むやり取りを主軸として、二人を取り巻く様々な人々、特に夕子の父親【青田三郎】、母親【洋子】との軽妙な駆け引きなど、多くの人々が織りなす【浪速の人情コメディー】となって居ります。

 物語は、コテコテの大阪弁で語られる『会話』ばかりで進んでいきますが、幼稚園から小学校、中学校は勿論、高校まで同じ学校へ進学し、卒業を間近に控えた二人が在る約束をする場面から始まり、それぞれの後輩とのやり取りや、バレンタインデー騒動などを経て卒業し、それぞれの道に進み精進しながら、人々との交流を深めつつ、二人はお互いに大人へと成長して行きます。

 二十歳に成って初めて飲んだお酒の味、初めてのデート等々…そして、ごくありふれた日常の出来事を、これでもかと云うほどの『ノリと突っ込み』で、それぞれのキャラクターが演じてくれる中、2人は青春を大いに満喫かつ謳歌して行きます。

 こうして、次期オリンピック出場を目指す【昌幸】と応援しているのか、足を引っ張っているのか…微妙な【夕子】との4年間は過ぎて行くのでした。  悪い人なんて、何処にも出てこない、大阪の下町に繰り広げられる人情コメディーをお楽しみ下さい。 

 

    「うちは夕子やで…。」

  「そ、それは知ってる。 どっちか言うたら知り過ぎてる…と思う。」  
  
 「ふ~ん…知ってて言うてるんやな…?」                                                        「ほんなら、うちらの住んでる日本には…クリスマスが無いのは忘れとったんか…?」

 「忘れるか~! ここ数年…これはひょっとしたらと思える場面は、あちこちで見かける気はする…。」                    「俺とお前の周辺…と、言うより…青田家と藤川家には存在してないはずや。」

  「ほ~、せやのにバレンタインって…なにを眠たい事言うてるんや…?」

 「ちゃうやん… 俺は、ただ…もうすぐ高校も卒業やし、お互いの進路も決まったしやなぁ…記念にいっぺんぐらい…」

   「いっぺんぐらい…なんや…?」

 「お前からは毎年、ぎょうさんチョコレートはもろてるけど…。」                                          「おかげで家ではえらいモテモテやとも思われてるけど…。」

  「けど…けど…って何やねん…? 子供の頃から言うてるやろ…最後からしゃべり。」

 「…せやから、いっぺんぐらい夕子からのチョコレートも、在ってええんとちゃうかな~~と思うたんやないか…。」

  「あのなぁ、バレンタインデーの意味くらい、うちでも知ってる…マサかてそうやろ…?」

   「それは……せやからこそ……いや、せやから……と、云う訳でも……。」

 「1番の理由はそれや!」                                                                「2番目も3番目もそれや…うちはおそらく、死ぬまでチョコレートを買う事は無いと思う。」

   「なぁ、今は特別…本命やのうても渡したりするんが…流行りなんやで。」

   「そんなもん流行らんでもええし。だいたい…世間と、うちとは違うんや。」

  「そ~云うお前は、女やのに毎年…何十個ももろうて、俺にくれるやないか。」

    「それこそ、けったいな世の中や。」                                                      「せやけど…『憧れています』とか言うて、持って来てくれるもん…返す分けにも、ましてや捨てる分けはいかへんやろ…?」

  「まぁ、おかげさんで、うちの家では家族ぐるみで喜んでるけどな。」                                       「お母んなんか…『夕子ちゃんには内緒にせなアカンで…』とか言うたりしよって…困ったもんや。」

    「ほんま! 困ったもんや!」

     「…せ、せやな…。」

 「とにかく、うちは、甘いものなんか大嫌いやのに毎年毎年…バレンタインデーが近づいて来るだけで憂鬱なんや。」

   「まぁ、夕子みたいな奴自体が…たしかに珍しいわなぁ…。」

 「けど、うちが言うのもなんやけど…マサかて中々なもんとちゃうんか? 幾つかもらえるやろ…?」                      「うちのクラスでも、後輩の子らの中でも…カッコええって評判やで…?」

 「そこや…俺には、夕子って彼女が居ていると、みんな知ってるもんやから……痛っ~~!…」                      「お前…久しぶりに本気で蹴ったやろ? 狙いすましたようにスネやないか…う~っ…」

 「ええか、あんたには彼女なんか、そもそも…居て無いんや。」                                          「それに…うちが言うのはおかしな話やけど…あんだけ、しょっちゅう『夕子が…』『夕子は…』って言うとったら、誰でもマサが好きなんは『夕子』って言う奴やと思うやろ…アホっ!」

  「そ、そんなに言うてるか~?」 「言うてたとしても…妹って事も在るやん…?」

   「あんたは18年間、一人っ子や。」

 「それは、お前もやないか、それに、俺が一人っ子やと…知らん奴かて居てる。」                                「結局は、なんと云うても、夕子…お前が超有名人やからやないか…いつも一緒に居てるし、それが原因やで。」

 「最後はうちのせいにする気かいな…?」「そろそろ、スネの痛いのも治まった頃とちゃうんか…?」

 「ちょっと待ってくれ…もう一発くろうたら…練習にも影響が出るやないか。」 「さっきのは…ほんまに痛かったど。」

 「それは、ゴメン……」「けど覚えときや…うちはマサが今更、何を言うても、何を思うても…もう慣れてる。」                   「人が噂するのにも慣れてるんや。」「せやから、それはもうええ…せやけど、うちに彼氏は居て無い…これが事実や。」

 「なんや、ややこしい言い方やなぁ…せやけど、要するに俺がお前を彼女って思うてる事も、人がそう噂するのも…夕子は厭や無いって事なんやろ…? これって事実上の…彼女って云う事とちゃうんか…?」

  「いや…それは…違うはずやけど……?…」「と、とにかく…人前でこの話はしたらアカンで。」

   「……お前、噂も気にならへんって言うたとこやないか…?」

    「きが…気が変わったんや!」

 「ちょっと考えてみぃ…ええか、俺の身の回りで…お前の周りでもそうや…。」                                 「俺とお前は、ただ仲がええだけで、付き合うたりはして無いと…思てる人間…誰か居てるか…? 居てへんやろ?」

    「……うち一人だけやろなぁ。」

  「逆になんでやねん…? 教えてくれ…?」

  「なんでもや! 絶対に認められへん…。」

 「……世間では、俺がお前を追いかけ回してるように思われてるけど…高校受験の時、俺は柔道で推薦入学が決まってたんやで。」「それを私立は学費が高いとか、遠いから交通費まで高いとか言うて…願書まで、自分が行くついでにもろうて来たんは夕子、お前やないか…。」「後から考えてみたら、俺の場合…特待生やから私立でも学費なんかいらんかったんや。」           「せやけどまぁ…、お前の特訓のお陰で合格したんは感謝してるんやけどな。」

  「ちっこい時から、しょうも無い事はよう覚えてるんやなぁ…」「感謝の気持ちだけ、覚えといたらええねん。」

   「しょうも無い事とは違うやろ…?」

 「ほな、あんた…うちと幼稚園から高校まで、ず~~と一緒やったんが…厭やと言うんやな…?」

   「……そんな事言うてないやん。」

  「ほな、良かったんか? 悪かったんか?」

    「…良かったけど……。」

   「それで、ええやないか…。」

    「……うん。」

 「だいたい、うちみたいにええ女がまったくモテへんのは…マサみたいなイカツイ奴がいつもそばに居てるからやで…。」

  「いや~~~~~ それは…それこそ俺のせいや無うて、別の理由が………」

   「ほ~~っ…どんな理由や…?」

 「気にする必要もない…どんな理由にしても…心配せんでもええって、子供の頃から…俺が責任をもって……」

   「アホっ! それが心配なんや!」

  「…そんだけ大きな声で言わんでも……。」

「なんや、近所でも…店の常連さんから、お父ちゃんやお母ちゃんまで…既成事実みたいに言いよる…ほんま、かなわんわ。」

 「そうは言うても…なぁ、よう聞いてくれよ…?もう、俺には他の選択肢なんか考えられへん。」 「警察官には採用されたし、今年のモントリオールはさすがに今の実力では無理やったけど、次のモスクワには実力で行って見せる…。」                    「お前、俺に愛情で表現する事があるとしたら、『頑張ったのにオリンピック予選で落ちた時と、事故かなんかで死にかけてる時だけや…』って言うてやろ? 覚えてるか…?」

  「あんたほどや無いけど、それは覚えてるで…せやから…?」

 「せやから…!」 「オリンピック代表になれたら…その時は観念して、俺の嫁はんになってくれ。」

  「あ…アホっ! いきなり、なに言うてるんや? 冗談はやめときや…。」

   「俺は、いたって真面目や!」

  「あ、アホっ…… これって、直球ど真ん中のプロポーズやないか…?」

    「うん、せやで。」

 「せやで…って、高校の卒業もこれからや言うてるのに…なに…アホな…事を……⁉…」

 「卒業はまだでも、その先は決まってるやないか。後は結果が付いてくるかどうかやろ…?」                        「お前が『うん』って言うてくれるのと…言うてくれへんのとでは、俺の気合の入り方が違うてくる…それは分かるやろ…?」

   「そんなん、うちには関係……関係…在るやろなぁ……あんたの場合……。」

 「なっ…と云う事は…道が決まった以上、勝負は始まってるんや… 嘘でもええから、『うん、わかった』と言うてくれ。」

 「…道が決まった以上…勝負は始まってる……説得力は在るやないか。」                                    「いやいや、そうは言うても…こればっかりは……。」

   「せやから、嘘でもええからって言うてるやないか。」

  「なぁ、嘘でもええから……って、嘘やないやろなぁ……?」

   「嘘や無い…たのむわ。」

   「オリンピック代表やな…?」

    「そうや!」

   「モスクワって…それは…もう決まってるんか…?」

 「そんなもん、早ようから決まってるで、工事や準備に時間が掛かるやろ…その次もモスクワまでには決まるはずや。」

   「代表になれた時だけやな…?」

    「そうやで…。」

   「落ちた時には…あきらめるんやな…?」

    「俺からは2度と言わへん!」

  「そ、その時は…約束やから、愛情をもって慰めたるわ…うん!」

 「うん、その時は頼むわ。 けど、お前が『うん』と言うてくれたら…落ちた時の心配なんか…必要ない!」

「妙な気迫が………なぁ、それって、返事と…事と次第によっては…マサの嫁はんになるって事なんか…?」

   「そう云う事に…なるかも知れんなぁ…。」

  「…けど、嘘でもええから…言うて欲しいんやろ…?」

   「嘘でもええ…言うてくれ。」

   「代表になれた時だけ………」

     「早よ、言え!」

  「うん、わかった。」 「……あっ、今のは……」

   「ありがとう…しっかり聞いた!」

    「せやから、今のは……」

「夕子がこう云う場面で、嘘を言うはずが無いのは判ってる…俺の人生で、一番気合の入った4年間になることは間違い無い。」

   「そうか……… まぁ、せいぜい頑張ったら、ええんとちゃう…?」

    「もう、お前は俺の嫁はんや……。」

 「誰か…悪い夢やと………まぁ、夫婦漫才が無くなっただけでも、今日のところは良しとしとこか……。」

 昭和51年、夕子と昌幸が18歳で迎えたバレンタインも間近な早春の出来事。

 まさか4年後、オリンピック・モスクワ大会を、日本が…ボイコットによる不参加を表明する事など、知る由もない2人の物語…【制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)】はこうして始まります。

 2月に入ったばかりですが、昌幸は警察官、夕子は料理の専門学校へと、それぞれ採用や合格が決まっていた。夕子に誘われるままに名門府立高校へ進学した昌幸。大学受験に苦しむ友達をしり目に、明るい将来を信じて疑わない二人なのでした。


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制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第2話

  「青田先輩、本当に料理学校なんですか…? 勿体ないですやん。」 「誰に聞いても、同じ事言うと思いますわ……。」

   「有難う…ほんでも、なんにも勿体ない事なんか無いで。」

 「え~っ…総体記録作ったんですよ。」 「進学なんか…より取り見取りやったのに…私らかて自慢できたのに…。」

  「先生や、監督にも色々言われたけど、実はなぁ…うちは中距離なんか…大嫌いなんや。」

    「え~~っ… 嘘ですよね…?」

 「まったくの、一から十までほんまや。」「現役が終わったから言うけど、性格は完全に短距離向きやねん。」                  「短距離では、トップになられへんかっただけの事や。」

 「性格の話は、先輩の場合よう分かります。」 「けど短距離でも、うちらみたいな公立レベルやったら無敵でしたやんか…。」  
 「弱小とはいえ、校内では男子を混ぜても…断トツやったし。」

 「いや、全然アカン。短距離では、ええとこまではいっても最後までは残られへん。」                              「せやから、中距離と高跳びをやってたんや……そんな訳やから、ほんまに何の未練も無いんや。」

「先輩らしいと云うのか…男前やわ~~」「青田先輩って何を言うても、何をやってもカッコええです。憧れます…ほんまに。」

  「有難う…それでなぁ、ちょっと気になってるのが… もうすぐバレンタインやけど……。」

 「はい、もうすぐバレンタインデーですけど、とうとう先輩も卒業やと云う事なので…。」                                「今年は特別に…それぞれが、手作りの大作で勝負することに…全員一致で決まりました。」

    「全員…一致?」

   「はい、全員一致。」

    「手作りの大作?」

 「はい、手作りの大作… そんなん一人だけ、買うた物なんか渡せませんやんか…。」                            「そんな訳で、今年は勝負が掛かってますから… どれが1位か… 3位ぐらいまでの順位をみんなに発表したって下さい。」             「まぁ、1位争いは、私と伊藤さんやと思いますけど…… なんと云うても気合の入り方が違いますから。」

   「…そう…そうなんか?」「それは…せやな、楽しみにしとくわ……。」

 「はい。今年は特に…陸上部以外からもスゴイと思います。大きなカバンか何か用意しといた方がええと思いますよ…。」

  「そ、そうか…わかった。 大きなカバンなぁ……有難う、考えとくわ。」    
          ( 体育会系の奴って、男も女も、多かれ少なかれ、マサみたいな奴ばっかりやなぁ。)(夕子)


  「藤川先輩、警察官になっても頑張って下さい……ずっと応援させてもらいますので。」

   「おう、有難う…頑張るで。」

「けど…うちみたいな弱小高校でも、先輩の場合、あちこちから推薦来てましたのに…進学は考えへんかったのですか…?」

    「考えたで。」

  「それやったら…オリンピックを目標としてる先輩には、進学した方が良かったんと違いますか…?」

 「夕子みたいに陸上やったら、進学したかもわからんけど…警察やったら柔道は続けられる。」                         「オリンピックにも行くつもりや…けど、それは最終目標とは違う。」                                        「俺の最終目標のために…警察官は…必須条件なんや。」

  「…?…はぁ… そう云えば青田先輩も、僕らから思うたら勿体ない話ですわ。」

 「そこが…あいつらしいところや。 あいつには中距離や長距離なんかは向いてへん…おそらく大嫌いなはずや。」

 「え~っ⁉…これは先輩の言う事でも信用できませんわ。 インターハイ優勝したんですよ…高校記録なんですよ…?」

  「あいつはなぁ…勝負は早ければ早いほどええってタイプなんや。」                                      「性格そのものが短距離向きやねん。 短距離で勝てるんやったら…短距離やってたはずや。」

 「話を聞いたら、青田先輩の場合…分かる気がします。」                                                  「ほんまカッコええ、男前な性格って云うのか…みんなの憧れですわ。」                                           「あっ、もちろん藤川先輩にも憧れてますけど…二人はほんまお似合いですわ。」

  「……『恐竜と怪獣』とか言う奴も…居てるらしいけどなぁ…?」

   「ぼ、僕とは違いますよ…うなずける話やとは思え……」  
                  
 「思えるんやな…まぁええ。」 「…ちょっと…どころか、かなり判る気もする…。」                                 「なにせ…小学生の頃の、あいつのあだ名は【キングギドラ】や……痛っ!…⁉…」

「こらマサ、なにしょうも無い事言うてるねん…着替え終わったらさっさと帰るんや…うちの上履き拾うて早よ帰っておいで。」

   「ゆ、夕子~~~」

  「青田先輩…お疲れ様でした~。 藤川先輩を引き留めてすみません。」

 「なっ、俺は別としても、あいつの怪獣は分かるやろ…? 上履きだけやない…何回、靴を投げつけられて来たことか…。」

  「はい、この距離で上履き投げて、ストライクですもん…すごいです。」

   「もう片方も投げて欲しいんか……?」

    「ちょ、ちょっと待て…すぐ行く。」

  「ほんま、しょうも無い事ばっかり言うて……ちゃんと練習してるんか…?」

 「してる、してる~。」 「とにかく、練習はばっちりなんや…けど、この2月に入ってから、3年生で学校に来てる奴なんか、俺と お前を含めて数人だけやから…つい後輩と、あれこれ話し込んでしまうんや。」

 「それは、うちもやけど…あんたの場合は、ろくな事言わへんからなぁ……。」                                    「とことん、お父ちゃんに似て来たように思えて…なんか腹が立つんや。」

 「それは今更、どないしようも無いやろ。 先生のように成りとうてやって来たんやから、俺にとっては…むしろ褒め言葉や。」

  「ええとこだけ似とったらな…⁉… 悪いとこまでそっくりやから具合悪いんや…。」 

   「先生に悪いとこなんか無いやろ…?」

 「これやから困るんや… 在りまくる…って事は無いよ…確かに……しょうも無い事が好き過ぎる、言い過ぎる……」               「なんと云うてもやり過ぎる…これが諸悪の根源なんやけど…死ぬまで治らへんやろなぁ…二人とも…。」

  「楽しかったらええって云う性格の事やったら…死んでも治らんと思うで…。」

 「…死んだら治れよ…せめて……」「まぁ…死んでからまで、面倒は見てられへん…生きてる間に治らん事も判ってる…。」   「無理に治す必要も無いけど…あんたら二人は度が過ぎるんや……なぁ、あしたはど~するんや? 部活に出て来るんか…?」

 「うん。車の免許だけは4月までに取っとかんとアカンけど…他に予定が無い時は出て来るつもりや。」             「柔道部は引退するけど、柔道を引退する分けとは違うからな…自分自身のトレーニングがわりや。」                    「昼から出て来て、部活の時間までにランニングとウエイトトレーニングを…サーキット3本仕立てで終わらせとくんや。」

 「気合バッチリ過ぎへんか…? なぁ、4年間も在るんやから…適当に息抜きも必要やと思うで……?」

  「アホっ!…4年しか無いんや……息なんか抜いてられるはずが無いやろ。」

   「そうか… まぁ、せいぜい……ほどほどに……」  
 「うちは、出来るだけお母ちゃんの手伝いをするつもりやから、週に1回くらいやと思うわ。」                           「次に来るのは…バレンタインデーに  なると思うけど…今年は特に憂鬱なんや…。」

   「特に…?」

  「すごい事になるみたいなんや…。」

 「それって…俺と、俺の家族は…楽しみにしとったらええって事やろ…?」

「うん、ただ…今年はちゃんと吟味して、1位から3位までを決めて報告してや。 なんでも勝負が掛かってるらしい…頼むで。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第3話

   「お父ちゃん起きて……!…。」

  「……うん? あっ、居眠りしとったみたいやなぁ。」 「今、帰ってきたんか…?」

 「そうやけど、こんな季節に風邪ひく…はずは無いけどなぁ… けど、気は付けや…いつまでも若こう無いし。」

 「アホな事言うな。 まだ40半ばやないか、中年と呼ばれるようには成ったけど…心配いらんわ。」

  「けど、どないしたんや…? お婆ちゃんは? 晩御飯は…?」

 「お婆ちゃんなぁ…昔からの友達のお見舞いに行ったきり、まだ戻って来んのや。」                                  「急な話やったんやけど、大した事は無さそうやから、夕方には戻る、と言うて出て行ったんやけどなぁ…俺もお客さんが途切れて…その後、転寝をしたみたいやなぁ…。」

 「ふ~ん…そういう事か… うちは今から【洋子】やけど…どないする、一緒に行くか…?」 「晩御飯、困るやろ?」

 「そうやなぁ…お婆ちゃんは鍵も持ってるし、居場所も分かるはずしやなぁ…ちょっと起き手紙しといて…行こか!」

 「うちはもう出かけるから、来るんやったら…早めにおいでや。」

   「よっしゃ。 もうちょっと待って…6時までには行くから。」



「お母ちゃん、今日は部活へ行ってたからこの時間やけど、学校が始まるまでは出来るだけ昼も、買い物も…何でも手伝うから。」

 「有難う。 嬉しいけど…専門学校とは云え、学生の間は、いらん気を使わんでもええんやで。」                             「夕子は、ほんまに子供の頃から…いらん気を使う子やったから……。」

 「後を継ぐと決めたんやから、学校も手伝いも全部が勉強なんやで。」                                        「マサが本気で頑張りよるんや。うちかて本気で頑張らんと… お母ちゃんこそ…気を使わんといて。」

 「夕子、あんたの気持ちは分かりました。 遠慮せんと手伝うてもらいますわ。」                                       「昌幸くんに負けんように頑張って、一人前の女将になって頂だいや。」                                「けど、一人前と云うても…居酒屋の女将と、オリンピック選手とでは…つり合いが取れへんのとちゃいますか…?」

   「その時は……… お母ちゃん、何が言いたいんや…? なんか………?」

  「せやから、オリンピックなんか出られても、出られんでも… こだわって負担を掛け過ぎたら…あきませんで。」

 「それは分かってるつもりや……。」 「…お母ちゃん有難う。 けど…なんでそんな話を…? わざわざ…? 今……?」

   「いえ… 別になにも在りませんけど……。」

    「……入ってもええか…?」

 「お父ちゃん…… もう入ってるやん…。」 「うちらの話…聞いてたんか…?」

  「い、いいや…… なんにも聞いてないで。」

 「大丈夫ですか~お父さん…? どないしたんです…こんな時間に…?」

「ゴメン、お母ちゃんに言うの忘れてた…うちが誘ったんや… けど、お母ちゃん、お婆ちゃんの事は知らんかったんか…?」

 「知らんわけ無いやろ、一緒に居てたのに… それよりお前の言うように、オリンピックだけに確執し……あっ…!」

  「あんた…アホやろ……⁉」

  「ええよ、聞かれて困る話とは違うし…。」

 「そうやろ…夕子は人間が出来てる。」 「オリンピックだけに、こだわり過ぎたらアカン事は、十分に分かってるんや。」

  「ふ~~ぅん……なるほど…… あの、あほんだら… そう云う事か……。」

   「…お父さん、あんたのせいやで。」

    「えっ…?」

  「お父ちゃん。 マサから聞いた話を…聞いたまま言うて…!」

   「さ、さぁ… なんの事やろ…?」

   「誤魔化しても…おそいで!」

   「…うちは、知りませんで……。」


「毎度~~ さむいさむい…ママ~お湯割りと土手焼きや…。」「なんや~? 若女将にサブちゃんまで居てるやないか…?」 
  「外も寒いけど… ここの空気も寒いようやなぁ…? ちがうか~?」

   「はい、ええとこへ来てくれましたわ…。」

  「ちょっと待って。 森川のおっちゃん…うちになんか言いたい事ない…?」

 「うっ、え~~~っ…どう答えたら正解なんや…? 若女将は、ど~言う答えを期待してるんやろか…?」

  「期待はして無い。 せやから、みんなの顔色を気にせんと…そのまま、素直に言うて。」

   「それは…やっぱり、昌幸の……。」

   「なぁ、今日はおっちゃん一人…?」

  「うん…定年してからは、一人が多いのは…若女将も知ってるやないか。」

 「ふ~ん、それやったらしゃ~ない…。 なぁ? ここに居てるメンバーは、みんな…マサから何か聞いてるやろ…?」

 「…うん。聞いてるけどなぁ… わしら、若女将のファンクラブ会員やけど…昌幸も応援してるもんやから……。」

「森川さん、ここまで来たら…俺が言いますわ… もう、ど~しようも無い……相手は夕子や…誤魔化す事は…不可能やろ。」   「…それに、どっちみち時間の問題や…悪い話とも違うしな。」「うん…ええか、昌幸の話というのは…ズバリ!『オリンピックの代表に選ばれたらと云う条件付きやけど、昌幸のプロポーズを……夕子が受けた。』…と云う話や。」

   「…!!!……?……⁉………」

 「みなまで言うな…⁉ お前の気持ちはよう解ってる…。すでに勝負は始まってるんやろ…?」                     「自分が応援したら昌幸の気合も入る…って…『すごい愛情を感じました。』と云う、昌幸の言葉に…みんな感動したんや~。」

 「みんな……すごい愛情……感動って……?…」 「……なぁ、…なぁ……みんなって…誰と誰…と、誰…?」

 「みんな云うたら、みんなやないか…。」 「花園町や、萩之茶屋界隈は当たり前として…せやなぁ~~~?」             「ざっと、半径2キロ以内で知らん奴は居てへんやろ。 なんせ、お前ら有名人やから…。」

 「…あっ…あかん………なんや眼がかすんで来たわ…… なぁ、お父ちゃんは当然…マサから直接聞いたんやろ…?」

   「うん、そうや。」

    「俺もやで…。」

  「…おっちゃんも…… ほな、お母ちゃんは……?」

 「私も昌幸くんからですわ。 なんや昼を済ませて…『いまから部活です。』って、言いながら入って来て………。」

   「…この店に…!? ……誰が居てたん…?」

 「居てたも何も、隣のお店は勿論ですけど…薬局とその隣の雀荘までは聞こえたんとちゃうやろか……。」                      「勝ちゃんと、茂さんなんか……聞き直しに来はったから……。」

   「…あ……あの ハ虫類……そんな大きな声で………⁉…」

    「…選手宣誓みたいでしたわ。」

   「宣誓って……あのアホ………どアホ…が…。」

   「それはそれは…爽やかで、カッコ良かったで。」

 「ほんで、うちが…『代表に選ばれたら結婚したるから、気合入れて頑張りや!』って、言うた事になってるんやな…?」           「さらに、それを聞いたマサが…『愛情を感じました。』って、言うてると…云う訳やねんな……?」

 「ちょっと違う…『すごい愛情』って云うとった……そこに…聞いた者みんな…感動させられたんや…。」

   「わしも、その一人や…。」

  「はい…わても、そう聞きましたで…。」

  「お婆ちゃん……いつの間に……?」

 「昌幸ちゃん、製麺所まで挨拶に来てくれてなぁ…よっぽど嬉しかったんやろなぁ…。」                                  「製麺所中で拍手喝采や……梅乃さんなんか、涙ぐんではったわ…。」

   「…たまらんなぁ……」

 「お義母さん、お帰り。」 「桜井さんはどうでしたんや…? 晩御飯は…?」

「なんの心配も要りませんわ。 話し相手に呼んだやないかと思うほど元気で…気が付いたら、えらい長話をしてましたんや。」    「晩御飯なぁ…まだですねんけど、ここら辺のモンを適当に盛り付けてくれたら嬉しいですわ。」                       「それから、冷でええから2合ほど……森川さん、久しぶりでっけど、若いもんが湯割りなんか飲んで……。」

   「若いって、一つか二つぐらいしか変りませんやんか…。」

  「ほんなら、私も若いと云うことですわなぁ…歳の一つや二つに…こだわってたら…あきまへんで~。」

 「もう、かないませんわ…どっちがこだわってますねん。」                                 「まぁ、とにかく若女将が飲めるようになるまで、お互いに元気で頑張りましょうや。」

 「それは楽しみですけど、まだまだ老けこむ歳や在りませんがな….…後、たかが2年ですやろ…?」                          「わても、70までは製麺所で働くつもりやさかい…夕子と飲むのなんか…もうすぐですわ~。」

   「2年か…うちは、4年後が怖いわ…」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第4話

    「マサ~~ 居てるか~~?」

  「夕子~~来る頃やと思うてたで……」 「10数えたら上がって来てくれ~。」

  「マサあんたなぁ………」 「ま、マサ…⁉ なにしてるんや……その格好?」

   「…夕子…… 早いやないか、まだ、ちょっと…準備が………」


  「アホっ! うちが…10数えると思うたんか…! 数える分け無いやろ…アホっ!」

 「いや、数えへんとは思うたけど、何かを予感させる一言やろ…?」                                                 「それからなぁ、そろそろ…文章の最初と最後に…『アホっ』って付けるの…やめた方がええと思うで…。」

   「アホっ! うるさいわ…アホっ!」

  「さすが夕子や…乗ってくれるから好きやねん。」

  「あんた、その格好もそうやけど…とにかく、1回笑わそうと必死みたいやなぁ…?」

 「そら4年間、大事にせなアカン命と体なんやから……笑わしたら勝ちと云うルールが在る以上はなぁ…。」

 「無い!」 「そんなルールなんか無いって…子供の頃からも…何べんも言うて来たはずや。」

「せやけど、よう考えてみ…このルールで勝ってるんは、いつも俺やねんから……喧嘩で勝った事は一回も無いけどな…。」

 「…あんた時々、卑怯やで。」                                                                  「その目障りなモン、ほんまに笑うてしまう前に脱いでくれるか。 …どこで借りてきたんや? 剣道部か、警察道場か…?」

  「剣道部や…警察道場は、なにが在っても持ち出されへん。」                                              「夕子お前、これより…最初と最後に『アホっ』って云うとこで笑うてたんと違うんか…? 乗ってくれたやないか…。」

「ううん…10数えるのが『何かを予感させる一言やろ』って…あそこでちょっとウケてしもうたんや。」                      「笑らわしたら勝ちと云うルールなんかは無いにしても…今日も負けや。」                                       「…なぁ脱ぐのに、そんな時間が掛かるもん10秒では始めから無理やんか…。」

 「せやから、お前も言うように…俺かてお前が10数えるなんか思うてへん。」                                    「ようするに…数はいくつでもええ… それやったら、10しか無いやろ……ふ~こんなもん夏は着てられへんで……」                「痛っ!……痛っ! 痛いって…… お、お前、防具脱ぐの待っとたんか………待ってくれ………痛っ、痛いって……まいった………ほんま痛いって……夕子!……お前ええ加減に……勘弁してくれ~!……って………。」

   「………こいつ………。」

  「…………あっ…!…………」

 「…………なぁマサ…その重たい体、早よどけんと…誰が見ても、押し倒してるようにしか見えへんで…。」

  「…どいたら、もう暴れへんか…?」

 「…このアホが……」 「正直に教えたる… あと、一発で終わりにしたる…。」

 「あと…一発…あといっぱつ…まだ殴る事には間違いないんか……あと一発…ほんまやな…?」

  「あと一発や……嘘は言わへん。」

  「…はよ…終わらせてくれ……。」

  「…眼をつむって…じっとしとき…。」

 「…め、眼を…? 俺も男や…動けへん…!…」

   「いくで…!」

   「うっ…!」

「なっ…? どうせ眼はつむるんや…始めからつむって、じっとしといた方が変な処へ当たらんで済むんや…観念しい…!」

  「うん…なぁ、ちょっとは手加減……うっ………」 「……ゆ、夕子………⁉…」

 「うちの…ファーストキスや……。」 「でも、ええか……へんな勘違いしたらアカンで……。」                        「今後一切、この件については、完全忘却、他言無用…再発防止システム無期限稼働中…非常停止装置故障中修理不可や…。」                       「ええか、あんたから、ちょっとでも変な事してきたら……」

   「……はぁ、はぁ……してきたら…?」

 「仮・仮・仮・仮契約中の婚約は…破棄する………覚えときや。」

 「わか…った。」 「ほんなら、仮、仮…仮契約でもなんでもええけど、婚約中って云うのは…それでええんやな…?」

  「あんたが、ここまで広めてしもうた話は、今更どないしょうも無い。」                                           「ただし、完全忘却、他言無用や。ええか、今日の内容がちょっとでも漏れたら………」

   「そんな心配いらんと思うけど…… ちょっとでも、漏れたら…?」

   「その日を限りに…音信不通や。」

    「……音信…普通……⁉…」

     「心配いらんのやろ…?」

   「いらん…全然いらん…絶対や…。」

  「例外は認めへんで…これも絶対や…。」

  「……うん。」 「稼働システムを止める装置まで、故障してて…修理も出来へんのやろ…?」                        「何があっても、情報漏洩をする訳にはいかんやないか………」                                                   「それにしても、あの長台詞…昨日から考えとった訳とは違うんやろな?」

   「アホっ! あんたとは違うわ! アホっ!」

「見事に、最初と最後に付けてくれたけど、そのアホの俺やけど…警察予備軍としての俺は、お前の傷害の現行犯を見逃したるつもりや…せやけど、この顔見ただけで…お前に殴られたって事は、誰が見ても判る事実やないか……」                       「今日、明日中にこの辺一帯、半径2キロくらいには…知らん人が居らんほど広まると思うで…。」

 「えっ…マサ~~どないしたん…? あちこち腫れて……」                                              「ここと、ここは、青タンになるやろなぁ…警察官になるって云うのに喧嘩なんかしとったらアカンやんか。」                              「これからは、何が在っても…気を付けるんやで~~。」

 「お前の矢印型のシッポ……もはや、生命反応無しの【ステンレス製】に変更されたみたいやなぁ……。」                  「…せやけど、これが喧嘩やったら…新聞に乗る程の事件になってると思うで…。」

   「……辛抱したんやろ…?」

    「えっ…?」

  「マサがこんな目に合うぐらいやったら、相手はどんな目に…って言いたいんやろ…?」

   「……?…?……」

 「今までのマサやったら…新聞も在ったかも分からん…けど、辛抱したんやろ…?」                               「なっ?…『俺は警察官や、こんなところで暴力は出来へん。我慢するんや…』って殴られても、辛抱したんやろ…?」  
  「えらい!」

   「……俺の方から、婚約解消してもええかなぁ…?」

   「ええで! そうするか…?」

 「しません! ほんの冗談や……分かってるくせに……。」 「お前…俺の性格を弄び過ぎや…ちょっと加減してくれ…。」            「夕子の場合、ほんまに人格が悪過ぎると思うで……ステンレス製のシッポに…トゲはチタン製やろ…?」

   「おもろいやないか… 腕、あげたようやなぁ……。」                                                「…誰の人格が悪いって…? 昼からは部活に行くんやろ…? 練習中の怪我と云う事でも…かめへんのやで~~」

    「…俺…お前が…ええ死に方したら嫌やわ………。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第5話

   「オッス、入ります。」 「藤川先輩、今日もお願いします。」

    「おう、宮田か…早いやないか?」

 「はい、自分は最後の授業が自習でしたので、先輩が居てはる事を期待して…先輩、もう、いつものトレーニングは…?」

  「終わった……お前らとの練習も在るから、ダウンとは云わんけど…最後の仕上げや。」

  「体中の関節と筋を柔らかくって…先輩の口癖ですもんね。」

   「俺も、師匠からの受け売りやけどな…。」

 「いや、すごいです。 自分ら頑張っても中々そこまでは…あっ先輩、そこでちょっと…動かんといて下さい。」

   「えっ、ここで…?」

  「怒ったらあきませんよ…ずばり、白クマの敷物みたいですわ。」

  「ふん、うまい事言うやないか……」 「よっしゃ~終わりや。」

   「せ、先輩…その顔……?」

   「ああ、これか…ちょっとな。」

 「ちょっと…や無いですやんか…?」 「先輩が…きのう帰られてからですよね…?… なんて言うか…?…❕」                「あ~~っ…い、今…すべてが眼の前に映し出されたような感覚ですわ… これって、当たってるんとちゃいますか…?」

  「当たってそうやなぁ… なんでそう思うたか教えてくれるか…?」

 「そ、それはですね、きのうの練習までは何事も無かった。 その後…今日、学校へ来るまでの間ですよね…?」

   「まぁ、そうなるわなぁ……。」

 「それしか在りませんやんか。 ほんで、きのうの帰りは、青田先輩と一緒に帰りはったと、北島から聞いてます…。」         「…ねっ⁈ これって、仮に相手が暴力団でも…事務所の一つや二つ潰せる戦力ですやんか。」

  「アホっ! なにを訳の分からん事を……。」

 「いや~まぁ…これは冗談…ですけど…事実でもある、たとえ話ですわ…。」                                 「…とにかくですね…新聞やニュースが、何も騒いで無いと云う事は…『恐竜と怪獣』のコンビは……痛っ…すみません……。」

  「いや、かまへん。」 「続けてくれ…もう怒れへんから…。」

 「はぁ…で、この危険な二人は…町や住人に、危害を加えること無く…家まで帰りついたと推測されますよね…?」

  「新聞やニュースが騒いでないのが…それを裏付けてる…と、言いたいんやな…?」

   「先輩…もう、怒れへんってい言いましたよね…?」

   「……怒ってへんがな。」

  「…ほな、ここまで来たら………。」

   「ここまで来たら…?」

 「はい……家に帰ってから…先輩に、この傷を負わせる事が出来るのは…青田先輩しか考えられません…。」            「そうなると、思い当たるのは…前日に、先輩が合う人、合う人に喋りまくってた特大ニュース…これしか無いでしょ…?」          「逆に相手から『あの噂ほんまですか…?』って聞かれたら、ごっつい嬉しそうな顔で『どこで聞いたんや~地獄耳やなぁ…噂の広まるのって早いなぁ…まいったなぁ…』とか言うてましたやん。」「聞いてる自分らも『あれっ…ほんまかいな…?』とは思うてたんですわ。」「ほら、先輩…正直に言うてみなはれ… 楽になりますよ…?」

   「アホっ! やかましいわ!」

  「痛っ……」 「もう、怒れへんっていいましたやんか。」

「怒ってへん…。」「けどなぁ…細かいやり取りは別として、夕子は、ほんまに『うん、分かった』って言うてくれたんや…。」

  「先輩…その~細かいやり取りが…大事なんと違いますか…?」

 「…とにかく今日は、今のうちに帰る事にするわ…。」 「みんなには…急用が出来た…と、でも言うといてくれるか……。」

   「は…はい。 お疲れさまでした。」       
          (今…口止めなんかされへんかったよなぁ………うん! されて無い…!)


   「オッス!入ります。」 「オッス!」 「オッス!」 

  「お~い…みんな。」 「北島も…みんなや、集まってくれるか……。」



   「昌幸、ちゃんとこっち向いて食べんかいな。 行儀の悪い…お父さんも一言、言うたって下さい。」

 「…普段はそんな事無いから、おかしいとは思うてたんや… なぁ、昌幸…その顔どないしたんや…?」                       「練習ではそんな事にはならへんやろ…まさか喧嘩とは違うんやろな…?」

   「…うん、…いや…もちろん違うで……。」

 「いやや~ほんまやんか……青たん作って… せやけどお父さん、まさか喧嘩は無いわ……。」                         「昌幸がこんな顔になるような喧嘩やったら…お父さん、今頃…のんびりと御飯なんか食べてられへん。」                           「もうすぐ警察官になると云うのに…この子かて分かってるはずやで…なぁ…?」

   「う、うん。 当たり前やないか……」

  「お父さんは、あない言うてるけど、練習なんやろ…?」

   「…うん。そう………。」

 「アホか、試合やったらまだしも……今の時期、後輩との練習で、こんなふうに成る分け無いやないか…なぁ…?」

  「…う、うん…親父の言う通りや……。」

「ほんなら…なぁ、正直に言うて。 あんたは大丈夫でも、あんたの場合、色々と心配なんや…ほんまに喧嘩とは違うんやな…?」

  「違う…たとえ喧嘩しても、俺かて、お母んの言う通り、警察官になるんやから……。」

 「それは解るで、解かるけど…警察官に成ったから云うて、殴られても我慢出来るような奴や無いから……」                  「俺も、お母さんも心配してるんやないか…なぁ、正直に言うて安心させてくれ。」

  「こ、これは…その……安心してくれ……。」

   「あっ! お父さん…解ったわ…!」

 「えっ、急に大きな声出したらビックリするやないか……」 「ほんで、ほんまに分かったんか…?」

   「…あの~なぁ、お母ん……」

 「…ふふふっ……あんたは黙とったらええ。」                                                        「朝から夕子ちゃんが来てたんやけど…ろくに挨拶もせんと……おかしいとは思いましたんや…なるほどなぁ……」

   「なぁ…お母ん………。」

  「あんたは黙っとたらええんや…。」 「私が勝手に気付いただけや…怒られたんやろ……?」

    「……うん…まぁ……。」

「うっ…ふふふっ…理由まで分かりましたで。」 「あんたの勝手な思い込みやったんやろ…? そんな事やと思うてましたわ。」      「せやのに、あちこちで…誰かれ無しに言いふらして。 そら、夕子ちゃんで無うても怒りますわ。」

「昌幸、ほんなら…お前が言うとった今世紀最大のニュースって嘘やったんか?俺…会社中で言いふらしてしもうたやないか。」

  「いや、お父さん、嘘とは違いますわ。 この子は、こう云う話で嘘はつかれんはずです。」

「そう、そうやで、嘘なんか全然…細かいやり取りは別として…夕子は、ほんまに『うん、分かった』って言うてくれたんや。」

  「その、細かいやり取りが大事なんやろ……このアホ息子!」

 「おいおい… ほんで夕子ちゃんとは大丈夫なんやろなぁ…? 俺はそれが心配や……。」

   「…それは………大丈…夫……と…」

  「それは心配無いと思いますよ。」                                                           「こんな顔になってたにしては、昼も…帰って来た時も…顔は隠すようにしてましたけど、逆に調子は良さそうでしたから…。」       「…殴られたけど、ええ事も在ったんやないやろかって…そんな気がしますわ……なぁ、図星やろ…?」

   「…う…うん、いや…俺、風呂行ってくるから……」                                                (お母んも中々、するどいやないか…ほんまに結婚出来たとしても、【女尊男卑】にグループ分けされるんとちゃうやろか…)

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第6話

   「なぁ、藤川先輩が怪獣に襲われた話…知ってるやろ…?」

  「まさか~知らん人は居て無いと思うで。 もはや…うちの学校だけの話でも無いし…。」

 「せやろなぁ…10人以上から電話掛かって来たもんなぁ……私も、20人くらいには電話したもん。」

 「私もそうやったわ……。 あの藤川先輩が…まさか……⁉」                                             「最初に聞いた時は、『怪獣ってほんまに居てたんや。』って思うたぐらいや… すぐに青田先輩の事やって分かったけど。」

   「あ…アキちゃん………。」

  「なぁ、良子はそう思わへんかった…?」

   「だから…アキちゃん…って……。」

  「あの藤川先輩がやで……怪獣でも無かったら…誰が…?」

   「怪獣でも無かったら…?」

  「うわっ…かいじゅ……」 「青田先輩、お早うございます。」

   「お早う…ええよ…予想は出来てた。」

    「先輩…あの~~~」

  「かまへんって…」「今まででも怒った事なんか無いやろ…?」

   「はい、それは確かに…けど……」

  「もう、あきらめてる…相手があのアホや。」「恐竜って言い始めたんも…元々は…うちやしなぁ。」

   「えっ、そうなんですか…?」

「元々はあいつ一人が、恐竜や怪獣やって言うてたんやけど…そのうち、うちのあだ名は【キングギドラ】に落ち着いたんや。」  「うちも勝手にあいつの事を『ハ虫類の脳みそ』とか言うてたら、最初は『可哀そうや…』って言うてたお父ちゃんが、『夕子お前は、キングギドラやから怪獣やろ…? ハ虫類を大きしたら恐竜やないか。』って…ほんま、ええ家族と、友達に恵まれたわ…。」

 「…恐竜と怪獣のルーツが判りました……。」「予想はついてました……素晴らしい家族とお友達やと思います……。」

  「…………先輩、これ……高木さんや、伊藤さんほどや無いかも知れませんけど…気合入れて作りました。」

  「私も…右に同じです。」

  「ありがとう……。」「うわっ! これはまた凄いやんか~~ 二人とも、大きさと迫力で勝負って感じやなぁ…?」

   「はい、その通りです…判ってもらえて嬉しいです。」

「右に同じです… とにかくなんの技術も無いので…全財産を掛けて購入したチョコレートが…この形になったと思って下さい。」

  「こ…これ、一気に食べたら…命に関わりそうやなぁ…心して食べるわ……。」

 「はい…卒業してからもよろしくお願いします。 二十歳の誕生日には、お店に直行しますので。」

   「全面的に…右に同じです。」

 「それは、楽しみやなぁ…あんたらは後輩やから…当然、うちも飲める歳になってる…鍛えとくわ…。」

 「そんなん、ちょっとぐらい…あっ!先輩、ルールや規則には厳しいですもんね。 ご主人も警察官やのに失礼しました。」

   「あ…アキちゃん…って…もう……相も変わらず…。」

   「あっ…未来の、やった。」

  「せやから、アキちゃん…そう云う問題やのうて…ほんまに……この子だけは…先輩、聞き流して下さい…。」

 「良子こそ、気を使わんでもええよ…アキらしいやんか…それに、あんたらには…何を言われてもかまへんし…。」           「ただ、恐竜との話は…オリンピックを【生贄】にした、仮、仮、仮、仮契約やからな。 それだけは覚えといてや。」

  「えっ!【生贄】ですか…? それってもしかしたら…契約は成立して無いって事と……。」

   「アキちゃん! あんたええ加減に…早よ行くで、今日の先輩は忙しいんやで。」

   「失礼しました……後でまた覗いて下さい。」

   「うん、ありがと………。」 (今の二人も…間違いなく体育会系や。) 
             (しかしこれは…ごっついなぁ…これ食べて恐竜が鼻血なんか出したら…⁈…  
                               …おもろいけど、気持ち悪いやろなぁ…アカン考えんとこ。)


  「先輩、お疲れ様でした~。卒業式までにもまた、来てくれますよね…?」

  「うん、週一くらいは来るつもりやで…。」

  「すごい数ですけど、とにかく1位~3位までは発表しに来て下さい……お願いします。」

 「……うん、わかった。 ほな、みんな有難うやで…お疲れさま…。」 (ほんまに…みんな…有難う……)


  「うわ~っと…これは想像をはるかに超えてるやないか…どないして持って帰るつもりやねん…?」

   「はい…これ…!」

  「…でっかい風呂敷やなぁ~~見た事もないサイズやで。」

  「お婆ちゃんに相談したら、箪笥の奥から出してくれたんや。」

 「こんなもん担いだら、風呂敷から足が生えたみたいに成ってしまうやないか…。」

   「うちやったらな。」

  「ちょっと待て…これ全部、俺に持たせるつもりやないやろなぁ…?」

  「そんなん当たり前やないか……あんた風に言うたら…おお当たりや…。」

   「ふむふむ、なるほど……って…どっちの当たり前…?」

   「マサが一人で持つ方の当たり前。」

 「お前、今年はすごい事になるって判ってたんやろ…? カバンぐらい用意しとかんと。」

   「後輩にもそう言われたんやけどな…。」

   「それこそ当たり前やないか…。」

 「アホっ! なんぼ貰える事は予想出来ても、それを見越して袋やカバンを用意する分けにはいかんやろ。」                      「風呂敷やったら、シューズケースにでも入るやないか…アホっ!」

 「いつもながら、最初と最後に……今は、そんな事言うてる場合や無さそうやな……。」                              「………これでなんとか……おう、ずっしりや。 このままガード下へ持って行ったら、すぐに売れるど…ゴメン、冗談や…。」

 「風呂敷で顔が見えへんから云うて、うちが怒る前に謝るくらいやったら…始めから言わんといたらどうやねん……。」

 「…………なぁ、…物心ついてからずっと思うてる事なんやけど、なんで…なんでも判るんや…?」

 「今のマサの一言で、うちの言うた事が正解やって判ったやろ…?」                                        「必ず正解してる訳でも無いけどな…あんたは、いつもその場で答えを教えてくれるんや。」                           「後はそのデータを積み重ねたら…予想の的中確率も上がっていくと云う寸法や…。」

   「……!…?………」

  「感心しながら、悩んでもしゃ~ないで。」

   「い、今は、黙ってたやないか…?」

   「ほら…今、判ったやんか………。」

  「……お、お前には、一生勝たれへんのやろか…せやろなぁ…。」

 「ええか、いま本気で…力勝負の喧嘩をしたら…絶対マサの勝ちやんか…? なぁ、衝撃の事実教えたろか…?」   
   「あんたは、うちに負けて…喜んでる。」

    「えっ…?… え~~~っ!?…」

  「そうは思わへんか…? ちょっと…思い当たった顔しとったで…。」

 「…いや、これはちょっと……そ…そうかも…全部は否定出来んような……。」

「よ~~~~う…考えてみ…? 全部とは違うても…ほとんどやと思うで…?」「心の中でいくら葛藤しても…答えは一緒や…。」        「せやから、力ずくの喧嘩でも、死ぬまで…うちの方が強いんや。」

 「まだ葛藤中で…答えはまだやった…けど、答えは一緒なんやな……確かに、どんな喧嘩でも…勝てる気がせえへん。」

 「なっ! 絶対マサの方が強いのに……。」「せやから…人に自慢する訳にはいかんけど…うちには判ってる事がある…。」      「うちを命がけで守ってくれるんは、お父ちゃんと、お母ちゃんと、マサ…あんただけや…親以外にも居てるって凄い事やで。」

   「そんなん、嫁はんや家族を守るんは当たり前やないか…。」

    「そこやねん…うちはまだ嫁はんとちゃうやろ…?」                                                  「せやのにマサ、あんたは子供の頃から……うちが、嫁はんに成るもんやと思いこんでるやないか。」

   「……思うてたら…アカンのか……?…厭や…って言うんか…?」

 「かまへんよ……時々…『うちも、そう思うてるんとちゃうやろか…?』って…考える事があるんやから。」

 「ほんまか…?」「ゆ…夕子、今やったら…夢かどうか確かめるために、もう一発殴ってもかまへんで。」

「あのなぁ、考える事は在っても…答えは出てへん。」「それに、あんたの…そんなややこしい性格が…時々めんどくさいんや!」

   「…今後、気を付けます…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇) 第7話

   「そうか…まさかとは思うたけど、噂はほんまやったんや…。」

    「まぁ、まだまだ先の事やから……。」

 「そうやな、おなじ結婚するんでも、オリンピックへ行って…約束果たしてから一緒に成りたいもんなぁ…。」         「応援するから頑張ってもろうてや……ほな、ご馳走さま…。」

   「有難うございました…… ふ~っ…。」

  「今日は、もう店じまいですわ…。」「夕子も一息ついて…それから片づけたらよろしいやんか…。」

   「まだ、早いけど……せやなぁ……。」

  「そうやで…もう、お客さん来はっても…食べてもらう物が在りませんやんか…。」

   「うん、…暖簾入れとくわ。」

  「判ってると思うけど…夕子のお陰やねぇ…。」

   「…うちとマサのやろ…?」

  「この1週間は、異常ですわ……入りきれへんお客さんの方が、多かったんと違うやろか…?」

 「忙しいのはええんやけど、複雑なモンが在って…素直には喜ばれへんわ。」                                 「どうや…?うちは付き合われへんけど、お母ちゃん一杯飲んだら…?」

 「そうやねぇ…忙し過ぎて、進めてくれるお客さんも…居てへんかったからねぇ……。」                            「けど、よろしいわ…一人で飲むんは好きや無いし。」

 「明日は休みやのに、ちょっと待っとってや…。」「あと2年…実際には1年ちょっとや…うちが飲めるようになったら、なんぼでも付き合うたるから………あっ、お父ちゃん…まだこんな時間やけど……そう………せやねん………うん………待ってるわ。」

   「お父さんなんて…?」

  「あと、20秒で来る……はずや…。」



  「さむいやないか~~待たせたなぁ…。」

  「遅いやんか……3分も掛かってるで…?」

 「食べるモンも残ってないんやろ…3分あったら…ちょうど、チキンラーメンが出来る頃やないか…。」

 「ほんまに、マサとおんなじ頭の構造やなぁ…あいつやったら、そこが、カップヌードルに変るだけや。」

 「年代の違いやね。」「お父さん、何にする?寒いけどビールにするんか…ウィスキーのお湯割りでも作りましょうか…?」

  「お前は……?」

 「私は……最初はビールにしますわ…。」「…ほんでも、夕子や無いけど…ほんまに何してましたんや?…はい……」

 「うん…。」「お前もほい……もう、寝るつもりで着替えたところへ電話が掛かってきたんや……ふ~~旨いなぁ……。」

   「はい…。」「ほんまに……こんな時間から寝るつもりで……?…」

 「なぁ、うちのアイデアで実現したのに…2人だけの世界にハマるんはやめてや…。」

 「あぁ…これは、すまん…すまん…。」                                                                「けど、ほんまに一緒に飲める時が楽しみやなぁ…片づけは3人でやるから、まぁ、ここに来てお茶でもどうや…?」

 「勿論、そのつもりやで…でも、その前に…はい、お待ちかねの一品やで…。」

  「えっ?チキンラーメン……お前は…?」

   「カップヌードルやで。」

   「なるほど……よう出来た話や…。」

 「あとは、わずかですけど…この残りモンも、片づけて下さいね……無理には、食べんでもよろしいけど……。」

 「なぁ、お母ちゃん…お父ちゃんなぁ、さっきの電話で『明日は休みや…もう食べるモンも残ってない…店も、もう閉めたんで、お母ちゃんの相手をしに来いってことやろ』…って、うちの声聞いただけで…こう言うたんやで。」

  「それは…明日が休みで、この一週間の忙しさを考えたら……。」

 「あんた…ええカッコはやめとき。夕子のために、私が種明かしをしますわ…お父さんは、元々来るつもりでしたんや。」

   「えっ、そうなんか…?」「土曜日やから…?」

「全部をひっくるめてですわ…この一週間は忙しくて、お父さんが覗いた時も、まだお客さんが一杯で入れませんでしたやろ…。」   「この土曜日に来えへんかったら、一週間飛んでしまいますやんか。」

  「それは、うちもそう思うたから…せなのに、なんで着替えてたんや…?」

   「嘘に決まってますやんか…なぁ…?」

  「ほんま、お前には…かなわんなぁ…。」

 「夕子の声聞いただけで『こう言うた。』って処で分かりましたわ…。」                                        「お父さんの考えは…今週はとにかく忙しい、おまけに明日が休みと云う事は…料理はそろそろ無くなる頃や…でも、行ってもええのか…どうなんか…と、思うてる処に夕子の電話や。」                                               「決め手は……夕子は、20秒って言うてるのに…3分掛かりましたやろ…?」                               「…待ってましたと…思われるのが恥ずかしかった…これが正解ですわ…。」

  「す…すご……大当たり…みたいやなぁ…?」

  「うん、細かいとこまでな……全部、当たってる…ズバリ大当たりや。」

  「さすが、お母ちゃん…役者が違うわ。」「これを、てのひらの上に乗ってる…って云うんやろか…?」

  「夕子と、昌幸くんの場合は…これ以上やと…私には思えますけど…?」

   「それは、俺でも…そう思う。」

  「あのなぁ、文鳥やインコやったら…手の上に乗っても可愛らしいけど…ハ虫類はマニアック過ぎるわ。」

「乗せる方かて怪獣やないか…ゴメン。」「お前のその…瞬間的な反応…ど~にかならんか…?俺でも、ちょっとビビったわ。」         「お前、今…光線の出そうな眼でにらんでたけど…ええか、イメージを変えるためには…自己改革も必要やど。」

「あのなぁ、うちはお父ちゃんとマサ以外には…可憐とは言わんけど…しとやかとも言えんけど…おまけに、大人しい事も無いし、色白どころか真っ黒やしなぁ…。」「おまけに、洗濯板みたいな体にスポーツ刈りに近い髪型って……お母ちゃん、もうアカン……うちに、女としてのええとこって在るんやろか…?」

  「そんなん…一杯在るはずですわ…。」「…なぁ、お父さん…?」

「あ、当たり前やないか。」「料理をしてる処は見た事ない…けど…この春からは料理学校に通う事やし…え~っと、ほんで…。」   「クラブを辞めたと云うことは…色もちょっとは白くなるやろ…?せやっ!…クラブや、足は速いで~~ほぼ無敵や~!」

  「お父ちゃん、もうええ…。」「よ~判った…うちは、足が速いだけの女やったんや…。」

   「お父さん、もうちょっとなんとか……。」

   「洋子、女のお前が…なんとか……。」

 「なぁ……二人の世界に入られるのも寂しいけど…親子3人で遊ぶんも…やめとこ…。」                               「いつまでも、うちには…マサしか居て無いと…思わす作戦に付き合うてられへんわ。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第8話

   「マサ、チョコレートのベスト3…決まったか~?」

  「うん、だいたいはな…後は、お前の意見も含めて…夕子が、自分で決めたらどうや…?」

  「食べて無いうちが、どうやって決めたらええんや…?」

  「ほぼ一週間、家族ぐるみで食べたけど…まだ残ってる。」                                             「それで…『これは』って奴は、食べんと置いて在るんや……それを夕子が見て決めてくれ…いや、決めんとアカンやろ…?」     「凄いのが在るんやで……食べんでも、見て決めたらんと、全部が手作りやのに…くれた相手に悪いやないか。」

「たしかに…その通りや。」                                                                       「見せてもらうわ…あのソフトボールか砲丸か…みたいなヤツは…?どないしたんや…食べたんか…?」

 「在る意味、あれが一番すごいかもしれん……実は、本物の砲丸で型を取って作ってたんや…。」                           「残してあるから…見たら、お前にも判るはずや。」

   「嘘やろ…なんで判るんや…?」

 「粘土か何かで型を取ったんやろなぁ、銀紙はがしたら…メーカー名のエバニューのロゴ(Ever new)がはっきり入っとった。」   「けど、とにかく、あれは一気には無理や。かなりの確率で命に関わるど…第一、口のサイズから考えても噛み付きも出来へん。」

「第一印象は、うちもそう思うた……あれ一個で、胃袋満タンや…無理やり食べたら、あんたも言う通り…命に関りそうや…。」

 「せやな…けど、ほんまに色々と凄いのが在ったんやで…どうせ、全部は食べ切れへんしなぁ…ほれ、これや…。」

  「うわ~~全部でいくつ在ったんや…?」

 「83個や…」「だんだんペースも落ちて来て、全部を見るだけでも…苦労したで。」

  「そうか、せやろなぁ…」「それで、これが予選を勝ち残った面々なんか…?」

  「どれも、大作ばっかりや。」「せやけど、一位は…誰が選んでも断トツやと思うけどな。」

 「これやろ…?やっぱり高木か…これは立派な売りモンに出来るなぁ。」「凄過ぎるやないか…ど~やって作ったんやろ…?」

 「完璧なスパイクシューズや……最初見た時はビックリしたで~。」                                           「サイズは小さいから、本物で型は取らへんしなぁ……箱はほら、この靴箱にスポンジと綿に包んで入ってたんや。」

  「へぇ~~踵からのラインがよう出来てるけど、なんと云うても…スパイクと紐やで。」

  「なっ…!一位は、これしか無いやろ…?」

 「うん…。このトロフィーも、よう出来てるんやけど…。」                                                    「これも、やっぱり伊藤ちゃんか……気合の入り方が違うとは聞いてたけど、ここまで来たら…逆に怖いわ。」

 「どうや、自分で見て決めたらんとアカンと云うのが分かるやろ…?これで、一位と二位は決まったやないか。」

 「ほんまや、マサの言う通りやったわ…3位も砲丸しかないやろ……みんな凄いけど、ここは力技の勝ちやで…。」

 「実はなぁ、ここに残ってない物の8割は力技やった。 そのまた8割は、なんぼ考えても何か判らんモンばっかりやった。」      「なんとか、無理やり解釈しても…ナマコなんか、ウミウシなんか、ひょっとしたら…ウンコかも知れへんモンまであったど。」

  「アホっ!せやけど、まさかとは思うけどな、一人か二人…思い当たる奴が居てるんが…恐ろしいわ。」

   「ウンコやとしてもか…?」

 「アホっ!あんたや在るまいし、体育会系とは云うても女の子やで……いや、あんたの言う通りやわ…。」                 「一人か二人やけどな…色合いが色合いだけに、思いついたら…やってしまいそうな奴が居てるんや…。」

  「俺には、その一人か二人の気持ち…ごっつい分かるけどなぁ…。」

   「マサ…それは、あんたやからや。」

  「夕子お前、子供の頃の事、忘れたんとちゃうやろなぁ…?」

   「なんやねん、子供の頃の話って…?」

  「お前の場合、お前と遊んだら…親に怒られる奴まで居てたんやど…忘れたんか…?」

   「…もうええ、その辺でやめとき…。」

    「思い出したみたいやなぁ…?」

    「やめときって、言うてるやろ…。」

   「理由も、思い出したんか…?」

    「理由?……か…?」

    「思い出したけど…認めたくない…?」

   「マサ~!ええ加減にしとかんと……!」

  「俺の予想も、お前ほどや無いにしても、結構当たるもんやなぁ…?」

 「このアホが…ほんなら、うちの予想も言うけど…マサあんた、この話、何が在っても喋らんと気がすまへんのやろ…?」

   「さすが夕子……俺の事を、良く御存じで…。」

 「やっぱりな…なぁ今やったら、好きなだけ喋ってもええから…今後一切、人前で思い出したり、喋ったりしたら………」

    「…喋ったりしたら…?」

  「その日を境に、永久絶縁や…覚えときや!」

   「今、辛抱して…後で喋ったら…?」

  「アホか!それもおんなじ…永久絶縁に決まってるやろ…この、どアホっ!」

 「ほな今、喋らして頂く事に…ねっ、ウンコの夕子さん…?」「おっと、今やったら好きなだけ喋ってもええんやろ…?」

  「ちょこまかと逃げやがって…このウンコ野郎が……!」

 「ウンコ野郎は、夕子お前の事や。」「ビー玉の勝負でいざとなったら、ウンコを踏んででも勝負に徹するし…喧嘩になったらその靴で平気に蹴りは入れるわ、逃げたらもう一回、ウンコ付けてから投げつけるわ…缶けりなんか、お前が鬼になったら…人が蹴られへんように…缶に、ウンコ付けまくっとったやないか。」

  「…頭の芯がクラクラして来たわ…まだまだ続くんか…?」

 「いや、言いだしたら、なんぼでも在るんやけど…この辺にしとく…。」                                             「なっ、こんな事しとったら、そらあの子と遊んだらアカンって…言われても仕方ないやろ。 思い出したか…?」

 「思い出しとう無かったけどな…。」「しかし、マサの場合は…いらん事ほど、よう覚えてるみたいやなぁ…。」              「今の話に出て来た奴…遊んだらアカンとまで言われた奴…この世に生きてたら問題やろ…?」                         「今でも生きてるんか、そいつ…?」

   「元気なんや、これが…。」

  「いまでも、あちこちで…迷惑掛けとるんとちゃうんか…?」

 「こいつの場合…小さい時ほど、理性の欠けらも感じられへん奴やったそうなんや…。」                                「けど、年齢と共に改善はされて来たみたいでなぁ…今では、何処へ行っても人気者らしいで。」

   「当然、男の子やろ…?」

  「残念な事に、女の子やったんや…。」

 「そんな奴、人気者って云うても…彼氏なんか…居てる訳ないんやろなぁ…?」

  「それが、人も羨むような……ゴメン……その眼…やめてくれるか…?」

 「ええか、『好きなだけ喋ってもええ…』とは言うたけどなぁ…好きなように喋ってもええ…とは言うてへんやろ…どアホっ!」

 

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第9話

 「とうとう卒業ですね…青田先輩、有難うございました。」「 ほんまに、これからも仲良くして下さい…お願いします。」

 「私もお願いします。」「先輩は、私らみんなの憧れなんです……並んで歩くだけでも…嬉しいんです。」                  「先輩が彼氏やったらええのに…って、思うてるのは…私だけや無いはずですわ。」

  「有難う……もしかしたら…うちは、男より…女にモテるタイプなんやろか…?」

   「もしかしたらって…もしかせんでも、絶対そうです。」

    「アキちゃん…あんただけは…また………。」

 「あっ……ついつい…」「…でも、羨ましい話ですよ…先輩には最高の彼氏が居てる事ですし…。」                        「彼氏は一人で十分やし、その上、彼女が何人も居てるなんて…目茶苦茶カッコええですやん。」

 「だから~~アキちゃん…って……。」「先輩、いつもの事で、すみません……いつものように聞き流して下さい。」

 「いや、かまへんけど…」「なぁ、マサ…藤川って評判ええんか…?『カッコええ』とかは聞いた事は在るんやけども……。」

 「そんなん、無茶苦茶カッコええですやん。」                                                            「え~っと、この中でも、浅井さんと横田、大塚の3人は好きって云うか…大ファンって云うか……。」

 「ストップ!」「もぅ~~なに言うてるねん……先輩、勘違いせんといて下さいね。」「アキ、あんただけは…ほんまに……。」       「アキの暴走を止めるんは…良子の管轄やろ…後輩まかせにせんと、しっかり頼むわ~~。」

  「まぁ、誰がどう思うててもかまへんし、勘違いもせえへんけど…あいつ、そこそこ人気が在るんやな…?」

   「それは………なぁ…!?……」

 「……仮にですけど…もし、青田先輩の存在が無かったら…バレンタインデーは…かなり危険な事になると思いますよ。」

 「間違いないですね……危険かどうかは別としても…キャリーバッグぐらいは、必要やと思います。」

   「えっ…それって、冗談やろ…?なんぼなんでも、そこまでは……⁉…」

    「いえ、青田先輩の手前…控えめに言うてるつもりですけど……。」

   「嘘やろ…⁈ ほんまに…? あいつ…そんなにモテるんか…?」

「断トツですわ…この周辺の学校、特に女子高なんか大騒ぎで…藤川先輩の試合って…応援団は女の子ばっかりですやん。」     「横田と大塚なんかも、応援に……は…必ず………。」

  「はい、先輩ストップです…そこまで。」

  「あんたら練習サボってと違うやろなぁ…?」

 「いや多分……日曜の試合とかだけやったはずやと…そ、それに、何試合も前の事は記憶が曖昧やし……。」

 「はい、それもストップです……何試合もって云うのはちょっと…具合が……」「それに、高木キャプテンも一緒に……。」

 「わ~~~~っ!」                                                                      「横田の、練習メニューは見直した方が良さそうやなぁ…と、考えてたところなんや……なっ、もう終わりにしよ…。」

   「あんたら、ほんまに……?」

 「いや~~1回も応援に行ってない女子の方が珍しい…と言うか…ど~~言うたらええのか………。」                           「でも…そもそも…青田先輩はどうして…応援に行かないんですか…?」

  「そんなもん、勝つのが判ってるからに決まってるやないか。」

「え~っ、それは調子が悪い時も在るやろうし、やってみるまでは…第一、応援って力になる事を先輩も知ってはりますやんか。」   「もしも負けたら…『応援に行っといたら良かったのに…』って後悔しませんか…?」

 「全然…!」「もしも負けた時は『アホッ!』…って云うたらしまいやんか。」                                   「けど、なるほど…うちが応援に行ってないのを知ってると云う事は……これって、たしかに試合に行かんと判らん事やわなぁ。」

  「はい……うちの生徒だけでも、50人前後は…いつも行ってるはずですよ…。」

  「そうそう… ほんで会場に入ったら、とにかく最初に青田先輩を探すんですわ。」

   「えっ、ほんまかいな……?」

 「それは、先輩が居てたら困る…って事は無いんですけど、居てない事が判ると、ちょっとでもええ席で応援せんと…ねっ。」

  「だいたい、学校別に別れて陣取るからね…。」「一番大きいのは、○○学園の応援団です。 いっつもですわ。」

 「ちょっと待って、もうええわ……なんや気持ちが悪うなってきた…。」                                        「ほんなら…あいつが、チョコレートの一つも貰われへんのは全部…うちのせいやと云うんか…?」

 「…………」「…!……」「……❕……」「…………」「……‼…」「………⁉…」「……………」「………!…」

 「いま…半分ぐらいがうなづいて、半分ぐらいが首を斜めに……」「高木、あんた…首が斜めに動いとったけど…?」

「あ~っ、一つも無いかどうかは不明ですけど…うちの【学校内では絶対にゼロ】のはずです…と、云う意味の【首斜め】です。」

  「…説得力があるのか無いのか………ほな、あいつのファンやと言うてくれる…浅井は…?」

 「う~~~っ… はい!打ち首覚悟で、正直に報告させて頂きます…。」                                      「青田先輩が居て無かったら…『遠慮なく渡すに決まってるやんか…』と、云う意味の『直首』です。」

「もうええ……疲れて来たわ…。」「マサの話は…もうこの辺で…終わりにしとこ………せっかくの機会やから…ちょっと…。」                 「…なぁ…うちの噂はどうなんや…?後輩の男子らは…うちの事をどない言うてるんや…?」

 「完璧な校内の一番星です…!男らしくてカッコええって…絶大な人気ですよ。」                               「誰に聞いても…男女の区別無く、答えは同じはずです……もちろん、藤川先輩でもかないませんわ。」

「うわっ~~ 今のは、一斉にうなづいとったけど…『男らしくて…』と云う部分に…反応したとは思わんようにしとくわ…。」       「自慢や無いけど…同級生にモテたりした事は…子供の頃から一度もない……。」                               「…なぁ…後輩と云う事は別にして…彼女になって欲しいとか云う話は聞いた事、無いんか…?」                                 「おいおい…今も一斉にうなづいたようやけど…うちの…気のせいなんか~?」

  「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

   「なんで、一人もうなづかへんねん…?今のは…ピクリとも動かんかったやないか…?…」

「それは…… 私らは、女やからチョコレートも渡せますけど、男子は、あの藤川先輩の事を考えたら…とても告白なんて…。」

 「そうか、やっぱりなぁ… あいつがチョコをもらわれへんのは、確かにうちのせいかも知れん…それは認めるとしても…。」       「うちが生まれてから今まで…男の子から、一度も告白とか…言われた事が無いんも…確実にあいつのせいやったんや…。」

  「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

「おい、またもや全員、ピクリとも動かへんのは…なんでやねん…?」「なぁ高木…陸上女子代表として説明してくれるか…?」

  「……ちょ…ちょっと……高木キャプテン…なにしてるんですか…?」

 「……い、いや、青田先輩から離れとかんと……」「私も今後、陸上部を引っ張っていかんとアカン体やから………。」

  「おい高木……どんな事を喋るつもりやねん…?」

  「え~っと…いろんな要素が考えられますが、私がまず……まず真っ先に思うのは………」

   「…真っ先に、思うのは…?」 

  「…青田先輩のスパイク…白いですけど……裸足になっても、真っ白なスパイク履いてますよね…?」

  「高木…なんや勿体つけて……日焼けの話をしてるんか……?」

 「はい…。更には…ランパンと競技用のハイカットショーツとで出来た二重の日焼け………。」                       「小学生でも…あんな黒い子は見たことが無いほどですけど……え~と、ここからは、良子が言い始めたんですけどね……。」

「ちょ、ちょっと待ってや…勿体つけてると思うたら…」「…あれは……あれは、青田先輩…陰口で言うたんやないですからね。」

  「…ここまで来たら…何を聞いても怒らへんから……勿体つけんと…早よしゃべり…。」

 「はい…くれぐれも言うときますけど……私とちゃいますよ…良子がですよ…。」                               「良子が…心を込めて、しみじみと『…あの黒さ、脂肪ゼロの筋肉と筋だらけの足…マサイ族や~~。』って…良子が……。」

 「ちょっと、ちょっと…良子、良子って、卑怯やんか……みんな一緒に爆笑しとったくせに……。」                      「ほらっ…!伊藤ちゃんなんか、今も、唇かんでこらえてるやんか…。」「そ、そうや…青田先輩…続きがあるんですよ…。」        「高木さんこそ、その後…『いやいや、青田先輩の場合…なんと云うても上半身こそ…真骨頂やで…!』って……。」

「アカン…!良子ゴメン…私が悪かった……踏み込んだらアカン領域ってあるやろ…なにより…そろそろ帰る時間やろ…?」

「もう踏み込んでる…ここまで来たら…それは聞こえへん。」「青田先輩に、隠し事は通用せえへん…私の覚悟は整うた…。」    「…では、改めまして…青田先輩もご存じの通り…陸上部の日焼けって、ランニングシャツだけや無うて、競技用セパレートやスポーツブラの日焼けって…当然ながら、みんな当たり前の事ですよね…?」

  「良子、アカンて……二人だけの秘密って…約束したやんか…。」

 「もう遅い……あんたも覚悟を整えとき……。」「青田先輩も当然…セパレートとスポーツブラで出来た…二重の日焼けが在るはずですよね…?せやけど在る時、高木さんが…シャワールームで見たものは……!?…」

 「…アカンて……今日の良子は、いつもの【アキ】より…アカン……今日は逆に【アキ】が良子を止めてえな……。」

   「キャプテンと云うのは忘れてええから、一年で押さえとき…。」

  「…悪い予感しかせえへんけど…聞くしかない……良子、高木が見たものは…?」

 「どう見ても、スポーツブラだけで出来た、二重の日焼け跡…その心は…?」

 「……その……」「…ゴクっ…」「…………」「……心……」「………」「……は……」「………?……」「…………」

   「…アカン…うちの人生…今日までや………。」

 「あっ、あれか~~~?!なんや~あんなもん…なんにも大した事やあらへんやんか。」                           「高木も、なんも心配する事なんかあらへん……ただ…前と後ろを間違うただけや…誰でもする事やんか…?」

 「………」「…!……」「……❕……」「………」「……‼…」「………⁉…」「…え~~っ…」「……!…」「…うそ…」

 「………嘘やろ?」「今…全員が……首を横に…? 嘘やん…誰でも1回ぐらいは……えっ……1回も無いんか…?」

  「……無……」「…!……」「……❕……」「…………」「……‼…」「………⁉…」「……な………」「………!…」

 「………もうええ…何回、うなづくつもりやねん……見てる眼がしんどいわ……」                               「確かに、競技用セパレートは間違いようが無いし…普通のブラジャーも間違いにくいかも知れんけど………。」            「せやけど、スポーツブラに関しては…前も後ろも…見わけが付かへんやないか……?」「…なぁ…みんな……?」

 「付くでしょ…普通…。」「それに…『普通のブラジャーも間違いにくいかも…』って言いましたよね…?」                   「あの~~青田先輩…『かも』って事は…普通のブラジャーは使わないんですか…?」

 「えっ?…伊藤ちゃんやったら、まぁ必要かも知れんけど…他のみんなかて、うちとそんなに変らんから…いらんやろ…?」   

 「いります!普通…絶対に必要でしょ…?本気で言うてるんですか…?」                                   「先輩には、何べんも驚かされて来ましたけど…卒業式に衝撃の事実が明らかになりましたわ……。」

  「そ、それって… まさか先輩…もしかして、ブラジャー持ってないんですか…?」

 「え~~っ…そんなんもん……せ、せやから365日、スポーツブラやんか…。」「高木は持ってるんか…嘘やろ……?」

  「持ってますよ!当たり前ですやん。」「まぁ…私の場合…高校に入る前からくらいですけど…ね。」

 「と、言う事は…中学生の時から…? 嘘や…高木でも……?福田は……絶対にいらんはずや……なぁ…?」

 「…残念ながら、私も…正直、あんまり必要は無いんですけど…去年、入学してからは……高木先輩と同じです。」

 「せやから、スポーツブラやろ…?うちも、スポーツブラは中学の時から…当たり前に……。」                       「えっ…?違う……?嘘やん……ほんま…に…?」「…なぁ…誰かなんとか言うて………高木…助けてくれ……。」

   「先輩、この頃では…小学生から使ってる子も…珍しく無いんですよ…。」

「確かに居てたよ…今田の…そんな事はど~でもええねん…でもそれは、特殊な…ホルスタインとかの仲間とちゃうんか…?」

 「…今田さんとか言う人には内緒にしときますけど…牛やないんやから…ほな、先輩は何の仲間なんですか…?」

  「うちは、その…スペアリブとか……骨付きカルビとか……。」

   「…意味が判りませんわ。」

  「スポーツブラにもサイズは在りますよね…?先輩の場合は……?」

「うちか…?うちはやなぁ…その手の話は興味がないし…好きでもないし…まぁ指定さえ無かったら…中学当時のままでも…。」

「先輩、そろそろ気がついて下さい。」「先輩って、美人かって聞かれたら、物凄い美人ですけど、暗い処では表情も判らんほど黒いし…そのゴツゴツした体にその髪型では、初めて会うた人は、カッコええ男前としか見えないと思いませんか…?」

 「……確かに…学校以外のトイレでは、男やと思うて睨まれる事も多いわ……。」                               「その代り、混んでる時は男子トイレに行っても…バレへんから便利なんやで…ええ事もあるんや…。」

   「それが出来るんは、地球上で…青田先輩だけです!」

  「元々、なんで告白された事が無いのかって云う話やったんですよ……あっ、すみません…。」

   「……ようするに、男らしいけど…女としては、魅力の欠けらも無いと……?」

 「…………」「………」「…………」「…………」「………」「…………」「……………」「…………」「…………」

   (うわ~~これはマズイ…) 「おいっ……いや……欠けらぐらいは…なぁ……?」 

 「……はい……」「……そ…」「……!?……」「……えぇ……」「…………」「……もち……」「…!!……」「…………」

  「…青田先輩………これからも、根性と勇気で頑張って下さい。」

 「うん…有難う………。」「みんなも、高木キャプテンの言う事を守って、怪我だけはせんように…気を付けて頑張るんやで。」   「そして今日、気が付いたんやけど…これからは、紫外線対策もした方が…日焼けは皮膚ガンの原因やとも言うし…なぁ…。」

制服と割烹着(夕子と昌幸・青春篇)  第10話

  「お父ちゃん…ちょっとこっちへ来て、これ食べてみて…。」

 「え~~っ、今度は大丈夫やろな…?この前の奴は危なかったど……。」

 「危ない分け無いやんか……味は別として、食べられるモンしか出してへんやろ。」

 「味は別やとしたらアカン…そこは重視して欲しいんや…そこが問題やと思うで……⁈…」                            「…う……わっ……これ、これはアカンやろ………始めからアウトやんけ。」

  「…始めからアウトはひどいやろ~ せめて一口でも…食べてからにしてえなぁ……。」

 「その一口が無理やろ…?せやからアウトなんや。」                                                「見た眼だけでも怖いのに、台所に充満してるこの匂いが…俺に食べたら危険やと…教えてくれてるやないか…。」                 「労働者にとって、いかに休日が大切か…ちょっとは考えてもらわんと…。」

  「なにを大袈裟な事を…ちょっと、焦がしただけやんか……早よ食べて意見を……。」

  「ちょっとでも、大袈裟でも無いやろ…?食べてみんでも……それが俺の意見や…。」

 「何を眠たい事…言うてるんや…マサが、非番やったら食べさせるんやけど、今日は、はお父ちゃんしか居てないやんか。」      「せっかく作ったんやで…早よっ!」

 「せやから、せっかく…作らんでもええんや…。」                                                      「昌幸もたいがい、えらい目に合されてるみたいやけど…そのうち、どっちか…死ぬ日が来るど。」

 「アホな事言わんといてや……お父ちゃんとマサが死ぬようなモン、お客さんに出されへんやないか…。」

 「夕子、お前…だいそれた事を考えたらアカンぞ……そんな事したら、大阪の食文化が…根底から崩れてしまうやないか。」

 「やかましいわ!なにが、大阪の食文化やねん…アホっ。」                                              「こないして、眼と鼻を押さえて食べたらええんや……観念して食べんかい…このくそ親父が………。」

 「こ、殺される~~」「……あっ、これはアカン…だいたい、なんて云う料理やねん…?」「なにが入ってるんや…?」

 「これか…? これはやなぁ…筑前煮が煮詰まり過ぎて、途中からきんぴらへと華麗なる変身をとげた……と云う……。」          「今日しか、味わう事の出来へん…貴重な一品なんや…なっ、生きてるやないか…。」

 「2時間後に死んだら、ど~するつもりや?だいたいやなぁ…なんで、無事に完成したモンを食べさせてくれへんのや~?」

 「そこやねん…… 無事に完成したら、自分でも食べるんやけど、中々…無事に完成してくれへんのや………。」

   「…自分で、食べた事は…在るんか…?」

   「……ない。」

  「お前、料理学校に通いながら、努力の順番…間違うてるんとちゃうやろなぁ…?」

   「努力の…順番ってなんやねん…?」

 「俺に、詳しい事は分からんけど…普通は、技術と味付けとを並行して習うんとちゃうんか…?」 

「う~ん…どうやろか?とにかく、まだまだ基礎的な事ばっかりやからなぁ…それに味付けも…技術の内やないのんか…?」

 「それは、そうやなぁ。」「でも、お前が器用なんは…よう知ってる…それこそ、包丁さばきなんか、最初はど~なる事やと思うたのに、今やお母さんが驚くほど上手いやないか。」                                                     「それやのに、味付けときたら…幼稚園レベルや…これって、不思議やと思わへんか…?バランスがおかしいやろ…?」

 「それで、努力の順番ってか…?自分でも、おかしいとは思うけど、理由は分からへん。」                         「あえて言うなら、包丁を持ってる時は楽しいけど、包丁を置いたとたん…ど~云う分けか緊張感が緩むんや。」

  「それが理由やろ…。一言で言うたら…性格に問題が在るんや。」

   「えっ、そうやろか…?」

 「それしか無いんとちゃうんか…?昌幸やお母さんはどない言うてるんや?」

「マサはこの前、『今回は自信作やで』って、食べさせたら、よっぽど嬉しかったんか…涙流しながら食べて、眼、どころか唇まで 腫らして…『もうちょっと辛さを押さえたら、ばっちりや。』って、言うてくれたから、お父ちゃんと都合が合う時に、二人に食べさしたるつもりなんや。」

 「なぁ夕子、一週間ほど前なんやけど…昌幸の奴、真っ赤な眼と腫れた唇で、ここへ来てなぁ『先生、巻き込んですみません』…って言うて帰りよったんやけど…今の話と合わせて…なんか関連が在るんとちゃうか…?」

  「それは無いわ。泣いて喜ぶほどやのに…マサが素直なんは、お父ちゃんもよう知ってるやんか。」

   「……ほ、ほんなら、お母さんは…なんて言うてるんや…?」

「マサと、お父ちゃん以外には『食べさせたらアカン』って…他は、まぁ『ボチボチ頑張ったらええやん』と、それぐらいやで。」

「今のところは、週一の日曜日だけやから持ち堪えてるけど『ボチボチ頑張る』んも、ほんまにボチボチにしといてくれるか。」

 「あっ、そうや…この【変身・筑前煮スペシャル・きんぴらバージョン】はちょっと失敗やったけど、今日の晩御飯はマサと一緒にその【自信作】を食べさせたるわ……あいつ、今日は…夕方には帰って来よるんや。」

「いや~残念やけど、今日は茂ちゃんらと飲みに行く予定が……それに『変身…なんとか』の失敗は【ちょっと】や無いで…。」

 「あっ、それやったら…今から材料買いに行くついでに、断っといたるから…心配いらんで。」                        「ほんで……マサとこにも寄って、おばちゃんに伝言たのんどいたら…一石二鳥やんか。」 「ほな、行ってくるわ~。」

   「…行ってらっしゃい………。」「…昌幸、一生恨むからな…。」