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夕子、西成区花園町在住。 第66話    (ただいま~おとうちゃん…)

 「ただいま~お父ちゃん、どないしたんや…?」 「お父ちゃん…って…。」

   「…おう、夕子か…お帰り…。」

  「ボーっとして…どないしたんや…?」

    「いや…ちょっとな…。」

  「まさか、調子が悪いって事は…うち以上に無いわなぁ…。」

 「…無いな…怪我以外で医者に掛かった覚えが無い……なぁ夕子、お前今日あたり…お母ちゃんとこへ行くか…?」

 「いかへん……なに言うてるんや、金曜日やで…今週は火曜日も行ったけど、基本は土曜日や…あしたやんか。」         「あしたはマサも一緒に…和風クリスマスの予定なんや…お父ちゃんの嫌いな…けど、なんでそんな事…聞くんや…?」

 「いや、別になんでも無いんやけど…俺は今日、ちょっと顔を出しに行くつもりなんや…それで…なっ…?」

 「明日から冬休みに入るから…年末年始の営業日は…出来るだけ手伝うつもりやけど……。」                              「…お母ちゃんに…なにか……?……」

 「心配いらん…別に、なんにも無いんやけど……。」                                               「…どっちか言うたら、ええ話や……なっ、せやから…いらん心配せんでもええ……。」

  「…うん。 わかった…。」 「…絶対に、しょうも無い事…言うたり、したりせんといてや……。」

 「心配すんな…お父ちゃんにしたら、ちょっと…ええ事が在ってなぁ…それの報告がてらに、行くつもりなんや。」

  「…⁉…」 「…それって…もしかして……。」 「…ほんまにぃ…?」

    「ほんま…や…。」



    「…うわっ!」

   「いらっしゃい……。」

  「びっくりするやないか…いきなり…開いたら……いつから自動扉になったんや…?」

 「お客さんも引けて、一息ついてたら…かすかに【赤いランプの終列車】…が聞こえて来たんよ…。」                    「こっそり覗いて見たら…サブちゃんが近づいてくるもんやから……。」

   「…ばっちりやった訳やな…?」

  「こんだけ上手い事、決まるとは思うて無かったけど…大成功…。」

 「この頃何かと、心臓に悪い事が続いてるんや…。」 「ええ加減にしといてくれるか…頼んどくで、ほんまに…。」

 「…はい、まぁ一杯…私にも注いで…心臓に悪い事なぁ…それは、ほとんどサブちゃんの自業自得やんか…。」           「ええ加減にしといて欲しいのは、こっちの方…。」 「一番そう思うてるのは夕子かも知れませんなぁ…。」

  「またぁ~『ドキッ』って、だけや無うて…『グサッ』…も在るんや……。」

 「なるほどねぇ…今日はもう店じまいですわ…これを先ず片づけてくれませんやろか…?…」

 「おう、旨そうやないか…食べるモンなんか何でもかまへん。」 「そっちの南蛮漬け…は…アカンか…?」

 「もう、一枚だけでっせ……今日の分は売り切れて…ここに在るのは、元々明日の分なんやから…。」 「…はい…。」

   「うん、御免やで…。」  「ちょっと酸っぱいなぁ……。」

  「せやから、明日の分や…言うてますやろ! ほんまにぃ…。」

   「…今のは、『ドキッ』…の方やったど…。」

  「もう、たいそうに…。」  「あっ、暖簾しもうといて下さいな……お願い……。」


  「よっしゃ、入れといたで……ほんでやけどなぁ…おい、聞こえてるか…?」

   「…聞こえてますで………ええ報告が在るんですやろ…?」

 「なんでもお見通しやなぁ…いつもながらビックリするわ…。」                                          「せやけど、今日はまだ…何にも言うて無いやないか………なんで判るんや……?」

  「なんと言うても、鼻歌…歌いながら来るくらいやからね……。」

    「そうか……ほんま…か…?」

  「もう、嘘に決まってますやんか……電話が在りますんやで、今は……。」

   「えっ……ほんなら…?…」

  「言うたらあきませんで…私が言うた事は…内緒にしといてや……。」

   「うん… ほんで内容も聞いたんか…?」

 「いいえ、聞いてません…。」 「よっぽど、嬉しかったんですやろ……。」                                   「弾んだ声で…『今日、お父ちゃんが、ええ事が在った報告に行くそうや…楽しみにしといてや。』…って、それだけ言うて切られましたわ…。」

 「…そ、そうか………。」                                                                  「それでな…お前の事やから…もう判ってるとは思うけど…あれが…もう、あれのお客さんは居て無いようになったんや。」

  「はい… もう、それしか在りませんわなぁ……後は、私……ですか……。」

 「ホッとした…って言うのが本心や……それで報告を、なっ…。」                                        「せやから、お前にプレッシャーを掛けるつもりで来た訳や無い……気持ちの整理が付いたらでかまへんから……。」

   「…はい……堪忍やで、サブちゃん……実は………。」

  「解かってるつもりや…無理もないわ……俺の方こそ、堪忍してくれ。」

   「…いえ、なんて言うたらええんやろか……?」

  「この前の…『きたない手でさわらんとき。』…がすべてを物語ってるんやろ…?」

    「…サブちゃん…。」

 「うん……今日のところは、そろそろ帰るわ……。」                                                 「明日は、夕子と昌幸が…和風クリスマスをここでやるらしいなぁ…楽しみにしとったで……頼んどくわ…。」

   「はい…まかしといて…。」

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夕子、西成区花園町在住。 第67話      (夕子先生、お願い…)

   「夕子先生、お願いします。」  「これは…ほんの気持ちですので……。」

    「マサ~~ 男前!」

  「ひょっとして…お前、芳月のアイスクリームが…唯一のウイークポイントや無いやろなぁ…?」

    「…かも…知れへん。」

  「今…8点まで記憶が在るんやけど……その後ど~なってる…?」

  「あんたの場合…しょうも無い事やって……0点にまで落ちてたからなぁ……。」

   「…⁉…レイテン…?……」

  「…8点まで覚えてるんやな……記録更新…2桁の10点で、どないや…?」

   「…早よ食べて、宿題やろか……。」

 「なんや…不服そうやなぁ……なんぼ頑張っても、15点にはならへんで……。」

    「……14点!」

 「しゃ~ないなぁ…14点や……アイスクリームに負けた……さぁ、宿題片づけるで~~。」

 「よっしゃ…って、素直に喜ばれへんもんが……」 「なぁ、0点に落ちた原因…聞いてもええか…?」

   「あんた…判ってへんのんか…?」

 「あっ…いや、判ってるつもりなんやけど……なんて言うか、一応…今後の参考に…なんて…思うたもんやから…。」

  「ほな…マサ、あんたは何が原因やと思うてるんや…?…言うてみ…?…」

  「え~~~っと……それはやっぱり…お風呂関係かな~~なんて…?…」

   「なにが…『かな~』やねん、アホっ! 他にないやろ……宿題や、宿題!」

     「…はい。」



   「お母ちゃん、マサ連れて来たで…。」

    「今晩は…お邪魔します。」

  「はい、昌幸くん、いらっしゃい…。」 「いつもの事やけど、遠慮したらアカンよ…。」

  「あっ、はい…今日はごっつい楽しみにして来ました…有難うございます。」

 「はい、もうすぐ出来上がりますよってね……夕子、釜めし以外に用意してあるもん…昌幸くんに出してあげて。」

   「…うわ~~すごいやんか~。」  「マサ、びっくりしいなや…ほれ……。」

    「うっ…うわ~~~。」

     「ほれ……。」

     「…うわ~~~。」

   「まだまだ…ほい……。」

   「…え~~~っ……。」

 「お母ちゃん、有難う……けど、うちでも…気いつかうやんか…大好物のオンパレードや…。」                      「マサ…『なんか言いたいんやけど、思いつかへん。』…って顔に書いてあるで…。」

    「……わん…!…。」

  「アホっ… 精一杯でそれかいな…。」

 「せやから、遠慮なんかせんでもええから、お腹一杯食べてくれたらええんよ……夕子も、変に気い使わんときや。」

   「うん、思いっきり食べさせてもらうわ……マサ、頑張って残さんと食べるんやで。」

   「…うん、これを盆と正月が一緒に…って言うんやろな…?」

    「マサ…気持ちは判るけど… クリスマスや…。」

    「……にゃん!……。」


 「も~アカン…… いつもの事やけど、今日は特別や~これ以上食べたら死んでしまうわ…。」                        「お母ちゃん、もうちょっとのとこで食べられへん…堪忍してくれる……?…」                                                     「アカンのやったら、ハ虫類に食いだめさせるけど……?」

    「…絶対 …無理…。」

 「そんなん、無理に食べる事なんか………」                                                         「なんや、ほんまにちょっとしか残ってへんやないの…しっかり食べてくれたんやなぁ…。」

 「…頑張って、頑張って…ここまで食べたんや……もう、一口も食べられへん…お母ちゃん、わかって……。」

 「はい、はい…せやから元々、全部食べられるとは思うてませんでした…。」                                      「こんだけ食べただけでも…驚いてますんやで…。」 「喜んでもらえたら、嬉しいですわ…二人とも有難う。」

  「…ほんなん、ほくのほうこそ……。」

 「アカン…マサ、故障しよった……今日は土曜日や…うちはこの後お店の手伝い…。」                           「マサ、あんたは帰って、お風呂行って、プロレスやろ…落ち着くまで居ててもええから……」                        「なぁ、お母ちゃん、かまへんやろ…?」

  「そんなん、昌幸くんの都合で…いつまで居ててもかまへんよ。」

    「…はひ、あひがとう……。」

 「アカン……まだ壊れてるわ…そこでのんびりしとり…。」                                                  「もう、そろそろ公務員軍団の来店や…お母ちゃん、今日も頑張るで~~。」

   「…夕子、気合い入ってますなぁ……。」

 「そら、こんだけご馳走になったんやから……役に立たん奴の分まで……。」


    「…ママ~かまへんか~~?」

  「はいっ! 公務員軍団の御一行様…いらっしゃい! この若女将が…待っとったで~~。」

夕子、西成区花園町在住。 第68話      (おい、夕子…あっ…)

「おい、夕子…あっ、昨日はほんまに有難う…お父んやお母んからも、ちゃんとお礼を言うように言われて来たんや。」       「おばちゃんにも、『むちゃくちゃ美味しかったです。有難うございました。』…って言うといてや…頼むで~。」

   「判ってる……それより、『おい、夕子』の続きは…?」

    「…そうや…おい、夕子………」

  「続きや…って言うてるのに…『おい、夕子…』から…始まるんかいな…?」

 「リズムってもんが在るやないか…ここからやないと…続くもんも続かへん。」

 「……ごめん…わかった。」 「しょ~もない事を…こねくり回して、長々と喋るつもりやな…?」

 「おい、夕子…もちろんお前の協力が在ったからやけど、冬休みの宿題は昨日で終わらせた…と云う事は、3学期が始まるまで、俺たちを悩ませるモンは何ひとつ無い…。」                                                      「しか~も…その間には正月まであるんや……けど、ここからが問題なんや…ええか…?」

   「ええか…も、なんも、当たり前の事やんか…?」

 「せやから、ここからが問題やって言うてるやないか…これは小学校に入った…2年前から思うてた事なんや…。」         「そして去年、それは確信に変った…それから一年、俺の長い長い戦いが………」                                  「…この一年が…報われる時がやって来るんや…『じぃ~~ん』…………。」

 「なぁマサ…自分で、『じぃ~~ん』…って言うのもおかしいけど…でもまぁ…何をたくらんで来たんか…気にはなる…。」      「ただ…あんた、このパターンに磨きを掛けて、来年さらにパワーアップしようと思うてるやろ…?」

   「…うん……ちょっとだけな…。」

「…取り敢えず…今は、来年の事を考えるんはやめとくわ……ほんで、あんたの苦労が報われるんは何やねん…?」

 「それや!」 「冬休みは嬉しい……けどこの年末に、小遣いが残ってる奴が居てたら国宝モンや。」                  「なんぼ甘えた声で頼んでも、もうすぐ正月が控えてるからな……追加融資もまず無理やろ…?……。」

   「…うん、たしかにそうやな……ほんで…?」

「なっ…そう、ほんでや…元旦になったら、俺ら子供は金持ちや…けど、そのお年玉を使える処があるか…?無いやろ…?」    「近所の店はみんな休みや…長いとこは6日ぐらいまで休みよる……店が開くころには学校も始まるんや…。」

 「なぁマサ…しょうも無いとは言わへん。」 「たしかにそうや…けど、あんたこんな事、一年間ずっと考えとったんか…?」

    「すごいやろ~~~。」

   「…すごいよ……在る意味で……。」

  「…そ、それで完成したんが…これや~!」

    「……何…?…」

  「ふっ……聞いて驚け! 見て叫べ!これが噂の…【正月限定、役立つ子供の味方マップ】や…!」

    「……………」

 「なぁ、もうちょっと喰い付いてくれてもええんとちゃうか…?」                                           「せめて…『誰も噂なんかしてへん。』…くらいの事は…期待してた…まぁ、ええ………」                            「内容を見てみい…さすがに元旦は別として、2日は太陽マートが一日だけやけど店を開けよる。その入口には、わたがしとタコ焼きや、3日は、ちょっと遠いけど天下茶屋駅前のプラモデル屋が開いて…近いとこでは花園市場のカステラと駄菓子の店が開くんや…4日になったら、もう………」

  「…もうええ!…アホ!」  「…それを完成させるのに、一年掛かったって事やねんな…?」

  「…い、一年は大袈裟やけど…2か月は掛かったど……せやから、もうちょっとやなぁ……。」

   「もうちょっと…なんやねん…?」

 「もうちょっと付き合うてくれても…まだほんの一部なんやで…鶴見橋や梅南みたいに。映画館が在る処は元旦から開く店も多い……なんと云うても初詣での神社周辺や…………なぁ、この情熱が詰まった作品に感動して言葉も出えへん……って事は無さそうやなぁ……?」

   「…あほらしいて、言葉もでえへんわ…アホっ!」

 「お前、『アホっ』って、死ぬまでに何回言うつもりや…? すでに俺には“27893回”言うてるんやど…」

   「あっ……アホっ…!」

   「…“27894回目”~~~。」

 「…あ……あかん…… 笑うてしもうた~うちの…うちの負けや~~。」

   「勝った~~~!…」

  「その勝ち負けとはちゃうやろ! ええ加減にしときや…アホっ!」

   「…“278………忘れた……。」

 「…さ……最後は…天然やからなぁ…たまらんわ~~~」                                              「…芸では無い事が判ってるからな……あ…アカン……ほんまに負けや………あ~~しんど………。」

  「嬉しいんやけど、喜ばれへんやないか……けど、ほんまに頑張って調べたんやど…。」

  「わかった…よっしゃ! 年が明けたら自転車で回ろか…付き合うたるわ…。」

    「やった~、これで報われるわ……。」

 「うん、ちょっと見せてみ…色分けまでして綺麗やんか。」                                            「…なぁ、色とりどりの店や日付は…マサ、あんたやろけど…この土台になってる地図…お父ちゃんやろ…?」

   「え~っ…なんで判るねん…?」

 「マサにしたら、上手過ぎるのんと…地図の中心がうちの家や……いかにも、お父ちゃんらしいわ…。」

    「…あっ、ほんまや……。」

  「…ほんまに……あんたら二人が…親子やないやろなぁ……。」

 

夕子、西成区花園町在住。 第69話     (夕子ら、よっぽど…)

 「夕子ら、よっぽど嬉しかったみたいやな……ごっつい喜んでたで……俺が言うのもなんやけど、有難うな。」

  「それは良かったですわ……はい、もう暖簾もしもうたし……。」

   「おう……お前も飲むやろ…?」

 「はい…。 注いで下さい…。」 「ふ~~っ…もう残り少ないけど…やっぱり年末は忙しいですわ…。」                 「だからと言って…夕子に毎日は手伝わされへんし…。」 「そうは言うても…おとといかて、二人とも『もう動けません…。』って言う程食べたのに、夕子は手伝うてくれましたんや…昌幸くんは、しばらく休んで先に帰りましたけど。」                           「夕子は…ええと言うても、やっぱり気になりますわ…。」

 「夕子の事は、流れに任せといたらええと思う…。」                                                     「昌幸は、その後うちに寄って…報告とお礼を言うて行きよった……ほんまに喜んどったわ…。」

 「流れにですか…?…そうかもねぇ……それにしても、昌幸ちゃんは…ほんまに…ええ子ですなぁ……。」

 「せや…なんやかんや言うて、天然記念物みたいな奴や…どんな事が在っても憎まれへん…大人の俺でも大好きや。」

   「…おとな、やからとちゃいますか…?」

 「…かも知れへんな…。」 「友達にも人気はあるやろうけど…確かに、大人には絶対に嫌われへんと思う…。」           「夕子が言うように、あんなええ奴は見た事が無い………。」                                                     「子供の中の子供と云うのんか……あれが本来、子供のあるべき姿と云うか……。」

 「そうですなぁ…素直で…ほんま、よう気が付くし……なにより、元気は有り余ってますわなぁ……。」

  「元気と素直さは…ちょっと、余りすぎや……。」

  「可愛いぃて、しゃ~ないんですやろ……?」

 「…うん…当然、夕子の次やで…。」 「あいつやったら、ええ警官に成れる……ほんまや…絶対、間違いない…。」         「逆に、あんな奴しか…警察官には、成ったらアカンねん……心底そう思うわ…。」

  「…あんたや、昌幸くんみたいな人ばっかりとは…違うんですか…?」

   「………そうやったら…今も警官やってるはずや……。」

  「……ビール空やねぇ……」  「ウィスキーの水割り…作ったげるわ……。」

  「昌幸には…俺みたいな事に捲き込まれんといて欲しいけどな……。」

   「…それって、ややこしい人らとの付き合いですか…?」

 「いや…あいつらとは、ややこしい事には成らへん…それこそ単純明快なんや…。」                            「最近は、変な奴もおるらしいけど……ようは、筋が通ってたら…ええんやから……。」

   「…筋の通らん事が…?」

 「組織や…役職や…見栄や、言うてなぁ……最後は…恩を売るんやそうや…訳が判らんかったわ……。」

   「……もう一杯…いく……?」

    「……ええか…?……」

  「もちろんや……すぐ作る………」  「…はい……。」

 「…全国大会の予選や………名前は言われへんけど、勝ったらアカン相手が居ったんや…。」

    「……そうでしたんか……。」

  「お前には、迷惑掛けたけど…スマン事したなぁ…。」

 「…もう、なんやのん………そんな事を…そんな…あんたには当たり前の事を…今まで内緒にしてましたんか…?」         「あほらし………。」 「…なぁ! わざと負けてから…辞めたんや無いやろね…?」

 「それこそ、当たり前やないか! 明日が試合や云う時に言われて……その場で辞めてきたんや。」                     「…後は、お前に報告して……この通りや…。」

   「アホっ!……カッコええやんか…!…。」

 「…アホなんか……どっちやねん…?…カッコええんか…?…。」

 「カッコええよ…サブちゃん…。」                                                                 「私にしたら、理由みたいなもん…何でも良かったんですけど……そんな理由やとは…思うてませんでしたわ…。」

   「どんな理由やと思うてたんや……?」

 「そんなもん……人に言われへんような…事に、違い無いやろと……。」

    「……たとえば…?」

 「はい…その時、真っ先に思うたんは…『おまわりさん…喧嘩や~早よ来て~!』…とか言われて…行ったんはええけど、そのうち敵も味方も無茶苦茶になって…集まって来た野次馬をはじめ、ヤクザも一般人も…最後は止めに入った同僚の警察官まで巻き込んで…大立ち回りの末、3人ほど病院送りにして…辞表を書くしか責任の取りようが無かったんやないかと……。」

 「あ…あのなぁ~ 一番、俺の事を知ってるお前の言う事だけに……。」                                     「まぁ、似たような事も在ったけどな… 誰にも言うなよ、知らん奴が聞いたら本気にしよるやないか……。」

   「せやから、人に言われへんような事やって…言うてますやんか……。」

 「…た、たしかに…人には言いにくい話やけど…他にはなんか…もうちょっと、マシな事は考えへんかったんか…?」

 「もう、ちゃんと聞いてましたんか…?」                                                          「せやから、『真っ先に思うたんは…』って言いましたやろ…?」                                             「これや無かったら…次に思うたんは…マージャンで珍しく大勝ちしたんは良かったけど…警官のくせに博打で金儲けしとるとか言われて…最初は冗談半分やったのに、そのうち敵も味方も無茶苦茶になって…集まって来た野次馬をはじめ、ヤクザも一般人も…最後は止めに入った同僚の警察官まで巻き込んで、大立ち回りの末、3人ほど病院送りにして…辞表を書くしか責任の取りようが無かったんやないかと……。」

 「ど…どこが違うねん! キッカケ以外は一緒やないか……俺のイメージ…ど~なっとんねん…?…ほんまに…。」

 「イメージも、シメジも…そのまんまですやんか…。」 「…素直に、この2つしか思いつきませんでしたわ…。」

   「…ひとつしかやろ……?」

  「…そ~云う…解釈も在りますやろか……?」

  「頭から決めつけとるやないか…。」

   「…29日に帰りますわ……。」

  「えっ…! 今、なんて…?…お前の話なんか…? ほんまにか…?」

 「…はい…今…決めました。」 「お店は28日までで…片づけして…元々、おせちは店で作るつもりでしたけど…。」          「はい…家に戻るんは、29日… 29日に帰りますわ…。」 「夕子には私から言いますから…それまでは……。」

    「…うん。 わかった。」

夕子、西成区花園町在住。 第70話     (お~い夕子、暇や…)

    「お~い夕子~~暇や~遊んでくれ~~。」

 「せやから、いつも言うてるやろ…うちは忙しいんや…けど、せっかく来たんやから、昼までやったら付き合うたるで~。」

   「そらみぃ…お前かて暇で、俺が来るのん待っとったやろ…?… えっ、昼まで…?」

 「そうや…! 昼からは…お母ちゃんの手伝いや。」                                                「お店開けるんも今日までやから…4時頃までには森川のおっちゃんらが集まって、飲み納め会をする予定なんや。」

 「そうなんか……お父んも、仕事は今日までや云うとった…帰ってくるんも早いそうや…。」                        「ようするに、いよいよ今年も終わりやと云うこっちゃ…けど、こづかいも…底をついたから…この3,4日が長いんや…。」

   「…その3,4日を待つから……尚更、あのマップの有難味が上がるんとちゃうのんか…?」

    「ゆ…夕子~~~判ってくれたんか~~?」

   「判らへん! 社交辞令って云う奴や…アホっ!」

  「え~~~っ? そんなん…日本語で言うてくれんと……。」

  「日本語や! もうええ…うちが悪かった…ちょっと喜ばしたろ~…って思うただけや…。」                       「お父ちゃんも…仕事は一応、明日までやけど…特別な予約以外は断って、餅つきの準備とか…色々と在るそうや。」         「あんたは、家の手伝いも、なにも無いんやろ…邪魔せんように…お父ちゃんに付き合うたったらええんとちゃうか…?」

   「…⁉…‼……そ、そうか…かまへんかなぁ…? 俺は嬉しいけど…。」

 「マサ、あんた…眼ぇ…キラキラやで… かまへんに決まってるやんか…。」 「お父ちゃん、マサの事大好きやから…」              「昼から、『先生、何か手伝う事無いですか…?』…とか言うて来たら…泣いて喜ぶと思うで…。」

   「夕子~~有難う……ほな!…」

    「……って、帰るんか…?」

   「…うん、昼から出直して来る!…」

  「え~~マサ… 別に、ええけど…午前中は…ど~するねん…? アホっ!」


   「お母ちゃん、手伝いに来たで…。」

 「はい、有難う……けど、そんなに手伝うてもらう事も無いんよ…。」                                       「ちょっと…買い物して来て欲しいモンは在るんやけどね…それくらいやわ…。」

  「あっ、ほんなら買い物行ってくるし…何を買うて来たらええのんや…?」

  「慌てんでもよろしい…お母ちゃんも一寸休憩しますわ…。」 「買う物は後で…書いたモン渡しますよって。」

   「うん、わかった…………。」

    「なぁ… お母……」  
 
     「なぁ…ゆうこ……」    

  「えっ、お母ちゃん…なんか……?」

   「…夕子こそ……なんです…?」

 「うちのは、大した事や無い……けど、マサって実は…うちより、お父ちゃんの方が好きなんやなぁって……。」

   「ふふっ… 何が在ったかは知りませんけど、お父さんに…焼き餅ですか…?」

  「違うわ~~ そんなんとちゃうけど…そうや、お母ちゃんは何が言いたかったん…?」

   「わ…私も、たいした事や………あした……今日で……。」

   「お母ちゃん… あした…今日って…?」

「今年も、今日でお店は終わりです…夕子には、よう手伝うてもろうて…有難う。 感謝してます…来年も頼みますね…。」

  「お母ちゃん…今さら、わざわざ……そんな事……どないしたん…?」

    「あした…帰ります…。」

    「…えっ…⁉……」

 「あした、帰ります。」                                                                     「夕子…御免やったね…もう、大丈夫…気持ちの整理はきっちりつきました。」 「夕子と…お父さんの処へ帰ります…。」

  「…お母ちゃん……そんな…急に……お母ちゃん…ほんまなんか…? お父ちゃんは…?」

 「お父さんは、もう…知ってます…。」                                                               「夕子には、私から言いたかったんで…黙っててもらいましたんよ……二つ合わせて…堪忍やで…。」

   「…ううん… そんな事はかまへん……けど…いつ…?」

 「おとといです…お父さん、いつもの通り閉店前に来はって…その時です…。」                               「急にふっきれましたんよ… お父さん…ちょっと酔うてはったけど、昌幸くんの話から、警察官の話になって…それから……」    「…そうです…辞めた理由を初めて聞きました……ほんなら、ほんなら…なんか、急にふっきれたんですわ……。」

   「…そうか…そうなんや…。」

 「はい……もしかしたら昌幸くんの…おかげかも知れませんで…。」

 「そ、それはアカン!…いや、アカン事もないんか……でも、なんか厭や…なぁ、別の理由にしといて…。」

 「…まぁ、理由はひとつだけでは無いですからねぇ…なんと云うても、夕子…あんたが一番の理由です……それだけは…はっきりしてます……とにかく私も…すっきりせんと、帰るのは厭でしたから…私自身も、ふっきれて喜んでますねん。」             「年が明けても、モヤモヤしてる間は…いつまでも帰れなかったと思います……」                               「それが、年内にふっきれたんやから…夕子かて…喜んでくれますやろ…?」

 「…あたりまえ… そんなん、当たり前やんか… ど~言うたらええのんか…言い方も判らんほど嬉しいわ…。」           「そう…あたりまえ…メチャクチャ嬉しい!」                                                          「けど…せやけど…話を聞いてたら…お父ちゃんの逆転満塁ホームラン…そんな気がする!」

  「そうやね…💛…それが正解かも知れませんなぁ…。」

   「…うち、買い物に行って来るわ~。」

  「ちょっと待ち!」  「……お願いやで………はい、これ……。」

夕子、西成区花園町在住。 第71話     (今年も御贔屓頂き…)

  「今年もこの洋子を御贔屓下さいまして…本当に有難うございました。 来年も引き続き宜しくお願い致します。」

 「よっしゃ~うちの出番やで~~。」 「みんな、この寒いのに…最初はビールやろ…?」                          「…はいっ……おっちゃんも、はい……慌てたらアカン………順番や……はいっ……」  

  「ありがとう、若女将…。」 「…よっしゃ~~ 堅苦しい事は抜きにして…思いっきりいこか~~。」

   「賛成~~ はい…お疲れさんでした~~。」

   「…まぁ、来年もよろしく…お疲れさんでした~。」

  「はい、こちらこそ…よろしくお願いします……ママも、若女将もよろしく頼んどきます…。」

  「ほんま…若女将も大活躍やったなぁ~ 来年はもっと活躍しそうやしなぁ…。」 

  「ほんまや、年々役に立つようになって来る訳やからなぁ……当然、来年も楽しみや。」

   「…ほんまやで……ただ、一緒に飲まれへんのが…残念やけど……。」

 「藤島さん、それは…10年後の楽しみに置いときましょ……。」                                          「今日は、若女将のお酌で…大いに盛り上がったらええですやんか…。」

 「その通りや……せやけど、今日は…あんまり遅くまでは…ママにも迷惑や。」                                  「もちろん、飲み過ぎたら…若女将にも怒られる……。」                                                     「楽しく飲んで…若女将の帰宅時間頃には解散や……続きは、来年のお楽しみと、云う事で…ええやろ…?」

 「勿論ですわ………」                                                                   「それまでに…飲む方は、若女将に怒られん程度に…食べる方は、何一つ残さんように…若い西島くん達も頑張ってや~。」

  「山本さん、言われんでも…とっくに頑張ってますから…心配無用ですわ~。」


   「こんにちは… あっ、森川さん…いつもすんません…。」

  「おう…サブちゃん…ん…? 若旦那も一緒やないか…どないしたんや?」

   「いや~~ 今日は、俺と昌幸も混ぜてもらえませんか…?」

    「そら、もちろん…大歓迎や…なっ…?」

  「もちろんですわ~ ここ詰めますから…先輩、そこへ座って下さい。」

  「…あぁ、山ちゃんも…みなさんも、すみませんなぁ……昌幸もここへ座れ。」

    「はい…有難うございます。」

  「んっ…遠慮せんと何でも食べや…若旦那…。」

   「森川のおっちゃん…2回目やで…。」

     「…えっ…?…」

  「若旦那、若旦那って……2回目やで…うちの汚点やって言うてるやんか…ほんまに…。」

 「い、一回目も…聞き逃して無かったんやなぁ…。」                                                「けど、今日の若女将…迫力が無いと言うか…なんやニコニコして機嫌が良さそうや…ほんまは、好きな人が勢揃いして…嬉しいんやろ…?」

 「それは……マサは別にして、当たってる…。」                                                  「せやねん…めちゃくちゃ嬉しいんやで……ほんまに……なっ、お父ちゃん…!…」

  「えっ、夕子……それって…⁉………」 (…洋子…?)

 (…はい……) (夕子…ホンマに喜んでくれてる…よかった…)  
「はい…全部、残さんと食べて下さいね……。」                                                          「残ってもしかたないし…昌幸くんも何でも食べてよ…ジュースも、勝手に飲んでかまへんし……。」

    「あっ…はい、有難うございます。」

 「なぁ、お父ちゃんとマサは…なんで…? どないしたん…?」                                               「やっぱり、うちが居らんと……二人だけでは寂しかったんやろ…?」

  「そんな事、全然ないんやけど…先生が行こか~って……繰り返して言うもんやから…。」

   「昌幸、ここは…そ~云う事にしとかんかい……アホっ…判るやろ…?」

「…そ、そ~やで…昼からお前の言うた通り…『先生、何か手伝う事無いですか?』…って行ったら、ほんまに喜んでくれて…。」  「買い物やら…餅つき道具を出しては運び…出しては洗うたりと…次から次へと忙しいてなぁ……ほんまに寂しかったんやど…。」

   「昌幸~~! お前だけは…ホンマに…いつもいつも…なんでやねん…?」

   「えっ、せやけど…先生…その通り…………」

    「……その通りや、けど………」

 「も~~ええ!」  「ようするに…二人で忙しく、色々とやってた訳や…。」                                  「それで…良かったやんか……これからも、二人仲良うやっていったらええねん。」

   「昌幸… いや、もうええ…今日は有難う助かったわ。」

   「はい…あさっての餅つきも…命の限り、頑張ります。」

   「…命は掛けんでもええけどな……うん、頼んどくわ…。」

 「もう、ええ加減…そのくらいににして……来たからには二人だけやのうて、皆で盛り上がらんと…。」    
 「ほら、昌幸くんもしっかり食べて……サブちゃん、あんたは…閉店後の片づけが出来る程度にしとくんやで…。」

   「ん…、わ、判ってるがな……。」

 「夕子は夕子で、今日は若女将を忘れて…好きなもん、お腹一杯食べたらええのに…。」

 「ええねん、十分や……マサや、誰が何と言おうと…今日のうちは機嫌がええ……絶好調~や‼」

 「…やっぱりなぁ、どうもそんな感じやと思うてたんや……けど、なんでそんなに機嫌がええんや…?絶好調なんや…?」

   「おっちゃん…今日は何日や…?」

  「そら、仕事納めで飲んでるんや……28日やないか…?」

   「うん…そうやろ~~ ほな、あしたは…?」

    「…?…29…にち……。」

  「せやねん! …29日やねん! 森川のおっちゃん…大好き!」

  「…⁈…そ、それは嬉しい……ありがとう……。」



    「ふ~~っ、片付いたなぁ…。」
 「はい、有難う… 助かりました。」                                                            「これで今年の営業は終わりました…あしたからは、サブちゃん…あんたの奥さんと、夕子の母親に戻って…それについては…年が明けて、お店が開いても…もう、変りません……この一年、迷惑かけましたなぁ~。」

  「いや、それは……俺の…もうええやないか……お前もそう思うやろ…?」

   「…はい。」

  「……ほな、今日のところは…帰るわ、おやすみ…。」

 「はい…あした…。」 「さ、サブちゃん…ちょっと待って……。」

   「…⁉………!💛!………。」

  「サブちゃん…おやすみ…。」

    「…うん…おやすみ…。」

夕子、西成区花園町在住。 第72話    (お義母さん、本当に…)

  「お義母さん、本当に迷惑を掛けました…わがままを許して下さい。」

「三郎みたいなモンの面倒をみれるんは…あんたの他に居てる訳が無い…わてから見たら、あんたは国宝級の嫁でっせ…。」  「何があっても…謝って謝って…なんべん頭を下げてでも、付いて行くように…言うて聞かせますよってに…これからもよろしゅうに…。」

    「はい…お義母さん、お願いします。」

    「おいおい、横で聞いてたら……。」

 「お母ちゃん! こんな朝早ようから帰って来てくれたんか…?」 「もっぺん戻ったりしたら厭やで……。」

     「な、なぁ……俺の話……。」

「そんな事しますかいな…もう何処へも行きません…だいたい荷物なんか、着るもんぐらいやのに…朝も昼も在りませんわ…。」  「夕べ、お店の片づけを済ませてから…ちょこっと身の回りのもん、まとめただけですわ…。」

    「なぁ… そろそろ俺の話を……。」

 「あんたは、黙って…洋子さんに付いて行ったらよろしいねん。」                                          「ほな、わては出かける時間やさかいに……行ってきますよってな…。」

   「えっ、おばあちゃん…まだ仕事なん…? あっ、そうか…。」

 「年末になるたびに…製麺所にだけは勤めたらアカンと思いますわ…。」                                   「大みそかも何時に帰れるんか…想像もつきませんわ……わてが帰るまでは年越しそばも…【おあずけ】でっせ…。」

  「そうなんや……大晦日、今年は寝んと待ってるわ…行ってらっしゃい。」



  「お母ちゃん、なんか手伝う事……なぁ、お母ちゃんの予定は…? それを先に聞いとかんと…なぁ…?」

 「もう…夕子の悪い癖…慌てなさんなっていつも言うてますやろ…。」                                       「やる事は決まってます……何と言うても、おせち料理…や。」

  「わ~~っ、手伝える事が在ったら、なんでも言うてや…?…」

  「取りあえず、一息ついて……必要なもんと、必要で無いもんとを整理してから…です…。」

   「うんうん…それで、整理したら…?」

    「それは……買い物やんか…。」

    「行く~~~。」

   「なぁ…俺もなんか、参加できる事は無いんやろか…?」

  「お父ちゃん…今日まで仕事や言うとったやんか……もう、予約は無いのんか…?」

   「午前中に一件、昼からも一件……それだけや。」

    「…中~~途半端やなぁ…。」

 「それは、客商売やからしかた無いやないか…まぁ、明日の餅つき…ぬかりないように準備しとくわ。」

  「お父さんは、それで十分ですやんか……数は少ない云うても、仕事も入ってるんやし…。」

   「そうやで……それに、いざとなったら…マサが居てるやんか。」

 「…昌幸なぁ…」 「きのうは、ほんまに役に立ったんやで…よう手伝うてくれたんや。」                            「おかげでほとんど準備は終わってしもうてる…たしかに忙しいくらいやった…けども…。」

「嘘をつかれへん奴に、急にアドリブを期待するお父ちゃんが悪いんや…きのうの事やったら、悪いのはマサとちゃうで。」

   「それは…そう言われてみると…確かにそうやなぁ…。」

「マサの事やから、あしたの餅つきも…『俺がおらんと話にならん。』くらいに思うてるはずやで…在る意味楽しみやけど…。」

 「そら、二臼分は藤川さんとこからの頼まれモンやしなぁ……昌幸の手伝いにも気合は入るやろ~。」

 「ん~~っ! 何をやっても、何をしてても楽しいわ~~ 正月…いや別に正月なんか、ど~でもええくらいや…。」           「お母ちゃん、有難う! このあいだ、お母ちゃんと話した時…これはもしかしたら時間が掛かりそうやと、思うたんや…せやから…。」 「…せやから、一番…有難うって言いたいのは…お父ちゃんにや!」 「そうや! お父ちゃんの逆転満塁ホームランやったんや!」

   「えっ…ほんまか…?…そうなんか…?」

  「…はい、その通りやと思います。」 「ほんまに…ふっきれて帰って来ましたんや。」

   「そ、そうか!…ほな今晩…楽しみに……。」 

「アホっ! ゆ…夕子の前でっせ~ いややわ~~ なぁ…?お父さん、なにを言うてはるんやろか…?ほ…ほんまに……。」

「お母ちゃん…嬉しそうやんか…ほんまに厭やったら…うち今晩、寝んと起きてるか…お母ちゃんと寝てもかまへんで…?」

  「…せ、せやから…いつも言うてますやろ……夕子はいらん気を使わんでもええって……。」

夕子、西成区花園町在住。  ― 最終話 ―

   「よっしゃ~夕子…用意はええか~?」                                                      「お前の事や~~もう、起きてるんは判ってる……周りは包囲されてる…早よう出てこい。」

「あのアホが…あのなぁ…なんぼなんでも早すぎるやろ……何を考えてるねん……アホっ…!ちょっと待っとき……。」
   「マサあんた…ゆうべ寝たんか…?」

 「8時間半…ばっちりや……7時に寝て、3時半に起きた。」  「着替えは枕元やろ…で、いま到着やないか…。」

   「…まぁ、入り……寒いわ…。」

「ちょっと早いかな~~とは…思うたんやけど……」                                                  「先生に…『明日は早いぞ、頑張って…起きて来い。』…って言われたもんやから……」                            「…晩御飯食べたら……牛になってもええつもりで寝たんや。」

 「牛になったら良かったのに…アホっ……みんなも、もうすぐ起きてくるやろ…しばらく、おとなしゅうしとき。」

 「そんな事言いながら…夕子もちゃんと着替えてるやないか…。」                                          「お前かて、おばちゃんも帰って来た事やし…嬉しいて早起きしたんやろ…?」                                       「ネタはあがってるんや…さっさと全てを白状したらどうや…楽になるで…。」  
        
 「また、しょうもない映画でも観よったな…?」                                                    「アホっ…嬉しいのは否定せえへんけど…うちには、マサがこれくらいに早起きして来る事は…元々、予想が出来てたんや…。」

   「…な…?…?……」

  「なんでやろ…?って…? 答えは、【マサやから】…に決まってるやろ…アホっ!」

  「なぁ、お前の場合、一年の最初のセリフも…最後のセリフも、『アホっ!』…と、ちゃうやろな…?」

   「…あんたに対しての限定やったら…そうかも知れへん。」

 「…今年の正月のことは…もう、忘れたけど………」                                                「お前の場合、『アホっ!』って云う単語が無かったら…ごっつい、文章が短かなると思うで…。」

  「アホっ! あんたさえ居て無かったら…『アホっ!』…と云う言葉自体がいらんのや…アホっ!」

 「…『アホっ!』で始まって…『アホっ!』で終わる…さすが夕子…見事や…けど、それはアカン………」                 「漫才が…出来へんようになるやないか…。」

  「…昌幸も見事や……これは、昌幸の言う方に軍配が上がったみたいやなぁ…夕子の負けや。」

   「お父ちゃん……勝手に、勝ち負けを決めんといてや~~~。」

    「…あっ先生、おはようございます。」

 「お父ちゃん、なんの勝ち負けやねん…? 『アホっ!』…についての事だけなんか…?」                         「…漫才の事やとしても…【夫婦漫才】の事まで踏み込んで来るんやったら…断固講義させてもらうで~~。」

 「…ん~~ 細かい事は、ちょっと置いとこか………」                                                 「とにかく、『アホっ!』が無い大阪なんか、考えられへんやないか……なぁ、昌幸…?」

  「…はい! もちろんです。」                                                                「使い過ぎる夕子がオカシイだけで…『アホっ!』は…大阪の文化です! いらんはずが無いですよね…⁈」

 (ボチボチ調子に乗ってきよったなぁ…)                                                        「うん、確かに…【アホのマサ】がおらんでも…無かったら困るわなぁ…使用頻度が変わるだけや…。」                  「そうなんや…『アホっ!』って単語は…【アホのマサ】の為だけに在るんとは違う… 漫才だけやのうて、日常生活にも必要なんや…!」

 「なぁ、夕子…【アホっ!】以外に、【アホのマサ】が…いつの間にか、しかも自然に出現してるように思うんやけど…気のせいか~?」

 「自然に出現した事が…不自然やと気が付いたわけやろ…?」                                           「その少しの進歩を…【気のせい】にせんと…大事にしたらどうや…?」

  「お前ら…なんにも考えんと、一直線に夫婦漫才を目指したらどうや…?…」


 「みんな早起きやねぇ……えらい盛り上がって……私は、お父さんを加えた【トリオ】がええように思えますけど…?」

   「あっ、おばちゃんも…お早うございます。」

  「はい…昌幸くんも、夕子もおはよう……今日は頑張ってもらわんとあかんよ。」

   「はい、わかってます。」 「そうか…【トリオ】も、ええですか…?」

 「お母ちゃんまで、いらん事言うたら…益々ややこしぃなるやんか……とにかく今日は…まかせといて…頑張るわ。」


   「よっしゃ~! 簡単やけど、おにぎりで腹ごしらえも済んだし…ぼちぼち掛かろか…。」

 「うん、まだ暗いうちやけど…気合い入れていくで~~マサは…?」 「漫才も…【トリオ】の事も思い出したらアカンで!」

 「あほ…思い出すやないか……」                                                            「心配いらん…気合は、十分すぎるくらいや…。」 「…なにより俺が居らんと…話に無らんやろ。」

   「…それも予想通りや……。」


「よ~頑張った……おせちの方も順調そうやし、これで正月の準備は整うたな…昌幸も流石にちょっと疲れたやろ…?」

  「はい…いえ、ちょうどええトレーニングになりました。」

 「無理すんな…仕上げは手伝うたけど、藤川家の2臼は…自分でついたやないか…。」                              「多少はふらついとったけど、大したもんや。」

「ほんまや…マサが、『やらして下さい』って、言うた時は無理やと思うたけど…やっぱり、さすがは男の子やと見直したわ。」    「マサ…カッコ良かった……あっ、勘違いしたらアカンで…思うたんは、ほんのちょっと…ほんの一瞬だけやからな、一瞬…わかってるやろ…?」

「なんか言う前に、そんだけ言われたら…ホメられてるとは思いながらも…なんぼ俺でも、素直には喜ばれへんやないか…。」

 「昌幸、お前のとりえや…素直に喜んだらええ…『俺がついたんやぞ』って、胸を張って持って帰ったらええんや。」

 「はい、そうします。 先生、有難うございました。」                                                    「とりあえず、今日はつきたてを、いくつか持って帰ります……残りはまた…。」

  「うん、そうしたらええ。 残りは冷えて形が落ち着いたら、明日にでも…俺が届けたる。」

  「えっ…はい、お願いします。 今日はこれで一旦…失礼します…。」

   「一旦、うん…いつでも来たらええ……夕子も待ってるわ…たぶん…。」

   「うちは別に待ってへんで……来るなとは言わんけど…。」

    「…有難うございました……また来ます。」



  「さて、昼からは…久しぶりに3人で出かけるか…?」 「…あぁ…昌幸が来るんやったか…?…。」

  「ほんま…? 賛成や、さんせ~~。」                                                        「マサの事なんか…この際ど~でもええ…帰ってから、【ボール投げて…取ってこさせる遊び】にでも付き合うたるから…。」   「なぁ、どこに行く…? お母ちゃんが戻るまで置いといた動物園か? 瓢箪池でボートもか…?」

 「もう、また夕子の悪い癖やで…慌てたらアカン。」                                                  「それに、あんたら2人…どんな事して遊んでますんや…冗談やとは解ってますけど……な、なんにしても…私は、あんたらとは違うて、こんな季節にボートなんか乗ったら…風邪ひいてしまいますわ…。」

 「お前が風邪ひいた記憶も…俺には無いけどな……。」                                              「まぁ、動物園とボートは春休みに置いといて……夕子、俺が出かけよかって言うのは…年末年始の買い物や。」           「餅とおせち以外にも必要なモンがあるやろ…? 正月は5,6日ぐらいからしか店も開かんしなぁ…。」

 「そうか……とにかく、うちは…3人で出かけられたら、行くとこなんか何処でもええねん……」                         「せやけど、なぁデパートか?…難波?…天王寺…?」

   「せやから、慌てなさんなって……。」

    「…ごめん 嬉しすぎて…。」

 「天王寺やな。」 「行きは地下鉄…帰りはぶらぶらと歩いて帰ろやないか……串カツでも食べて…どうや…?」

    「やった~~~!」

   「決まりましたなぁ…。」



   「わ~っ、何処に行ってもすごい人やなぁ…。」

   「せやなぁ、 さすが、年末って感じや。」

  「普段から、人出の多いところですよって…尚更ですわ…。」 「ちょ…ちょっと、お父さん……?」

    「……⁉……」
 
  「…ちょっと、あんた…って……。」


  「ご家族でお買いものですか…?」

 「はい、カミさんと娘の夕子です……年内は御世話に成りました……また来年も、ご贔屓にお願いします。」

 「奥さんも戻りはって……ちょっと羨ましいですけど、良かったですわ…。」 (…ほんまに羨ましいわ……)

  「はぁ…なんもかんも、上手い事治まって…ほんま良かったです…。」

 「責任感じてましたから…正直、ホっとしました……ほんま良かったと思うてます。」                              「一言、奥さんと娘さんに挨拶してもよろしいやろか…?」

  「…はぁ、それは勿論……洋子、琴美さんや…… 一言挨拶を……。」

 「琴美です……今更やとは思いますけど、御主人には助けてもらいまして……。」                                 「お陰で奥さんや、娘さんにまで迷惑かけてしもうて………」

  「…いえ……こちらこそ、贔屓にして頂いて…今後とも、宜しくお願い致します。」

「はい、それは…先生ってほんま型物やから…最初の1回だけで、後は指圧以外…何にもしてくれませんでした…。」        「あくまでも仕事やからって……あんな事、他の男の人には無理ですわ…ホントに感謝してますねん。」                           「……それでは失礼いたします…。」

   「……⁉……はい、失礼いたします…。」

   「こ、琴美さん…そ、そんな………」

  「はい…先生も、娘さんも…失礼いたします……良いお年を……。」

   「…こと……」 「…いや……よう………」

     「…あんた~~!」

  「ち…ちがうで~~ うそやで~~ 今のは、全部うそやで~~ 何かの間違い…勘違い………」

 「なんの間違いでも…うそでも……勘違い…? そんなもん…知らんわ~! 取りあえず一発かまさんと……。」

   「あっ、お母ちゃん…アカン………」

    「…ち、違うって………」

  「やかましい!」  「いっぺん、生まれ変わってこ~~~い!」

   「うわ~~カバンの角…まともや………。」

    「…うっ…う~~~~っ……。」

( 夕子…心の声 )  ( 良かった~! お父ちゃんは、ほんまに痛そうやけど……二人とも笑うてる…大丈夫や…!)                  ( これで…ほんまに、なんもかんも片付いた気がする… マサ~帰ったら遊んだる…待っときや~~ )


   (…ちょっと意地悪が過ぎたやろか…)
                    ( 琴美 )


                              ― 完 ―