夕子、西成区、花園町在住。 第44話   (ちょっとだけ、かまへんか…)

 「ちゅっとだけ、かまへんか?」

「あら、サブちゃん、今日はどないしてたん?。松喜寿司さん閉めてはったでしょう。」

「店は閉めてたけど、『中に入って適当にやっとき』と大将が言うてくれたんで、茂ちゃんと二人で飲んでたんや。」

「食べるもんは?・・・ちゃんと食べましたんか・・・?」

「うん・・・なんか在ったらたのむわ。」

「ワサビたっぷりの鮭茶漬けでどうです?」

「最高や。・・・夕子、来てたんやろ?」

「よう、手伝うてくれましたんやで。」「今日も森川さんとこ、夫婦で来てくれてましてなぁ…サブちゃんと一緒で、納豆が食べられへん言うて盛り上がってましたわ。」

「納豆でどないして盛り上がれるねん。あんなもん食える方がおかしいんや。」

「そない言うて、盛り上がってましたんやんか。森川さん以外はみんな好きなもんやから、サブちゃんを味方に欲しがってましたわ。」

「あいつとは昔から気が合うんやとか言うてやろ、目に浮かぶわ。」



 「はい。ワサビが足らんかったら好きなように。」

「・・・・うまい。・・・なぁ、おふくろが帰るまで鍵が無いんで帰られへんのやけど、いっぺん電話してみてくれへんか。」

「・・・夕子はもう寝てるやろうしね。」

「居てたらすぐに帰るからって言うてくれ。」


 「・・・でませんなぁ・・・もうちょっと待つしか無いようやね・・・まぁ、のんびりしていき。」「お客さんも途切れたから暖簾しまいますわ。」

「あっ、俺が入れるわ。」

「ほな、私も、一杯付き合います。」「こっちのバッテラは残されへんから、食べられるんやったらどうぞ・・・電話はちょっと時間あけてまたいれますわ。」

「すまんなぁ・・・話が出来るんはうれしいいけど・・・」

「・・・何か話がありましたんか?」

「いや、特には無いんやけど、いつもの通り、なんとか誤解を解きたいだけや。」

「時間も経って、私かて複雑なとこは在るんですけど・・・最初の印象がきつ過ぎて、なにか在る度思い出しますねん。」「思い出したら腹が立つやら情けないやら・・・このアホが、ほんまに・・・。」

「なぁ、いま思い出すんはやめてくれるか。」

「・・・そんな都合よくコントロール出来るんやったら苦労しませんがな。だいたいエッチはしてへん言うても、みだらな事はしてるんやから、なんぼ仕事でも許せませんのや。」

「・・・そう言われると言い訳も出来んけど、ほんなら、変な関係や無い云う事は解かってくれたんか?」

「・・・信じようと…努力はしてます。」

「有難う、大躍進や。」

「調子に乗りなや。夕子のためです。」

「・・・判ってる。それでも、大前進や。」

「始めてしもうた事を今すぐゼロには出来へんのやけど、減らす努力はしてるんや。実際にかなり減ったしな。お前が出て行ってもう一年になる。間に合わんかも知れんけど、出来るなら今年は家族揃って年末年始を迎えたいと思うてるんや。」

「去年はいきなりで、頭に血が上ってましたから・・・今年は夕子のためにも正月ぐらいは一緒に過ごしてやりたいと思うてます。」

「ほんなら、正月までには戻ってくれるって云う気が在るんか?」

「戻るかどうかは別の話ですけど、おせち料理かて、張り切って作って正月を迎えるつもりです。」「夕子が毎年楽しみにしてる十日戎にも、商売してる事ですし必ず行きます・・・お父さん・・・あんたも、今年は一緒にどうです・・・?」

「うん・・・ええ展開が見えてきたわ。戻ってくるための障害はやっぱり…あれがゼロにならんとあかんか?」

「・・・そう云う事だけや無いんですけど・・・なんて言うたらええのか・・・。」

「ゼロにするにはもうしばらく掛かるけど、必ず・・・近い将来には・・・」

「電話予約で午前中限定にするって言うた時は、ただ夕子の事を考えてやと思うてましたけど、減らす努力してるんは、最近になって気が付きました。嬉しいですけど、極端な無理はしたらあきませんで。相手やお客さんが居てる話ですよってに。」

「複雑やけど、八方美人のお前らしい答えやなぁ。せやけど、俺はお前以上の八方美人やから心配はいらん。」

「そこがまた心配なとこですやんか・・・あっ、長話してしもうて、そろそろ、お義母さんに電話してみんと・・・」

「・・・どうや。おふくろ帰ってそうか?」

「・・・う~ん、出ませんなぁ。もう、こんな時間ですよって、一旦帰って・・・銭湯かて、もう済ませてますやろなぁ・・・どないします・・・?」

「ん~…この時間や、もう寝てるやろ、そろそろ困る時間になってしもうたな・・・。」

「預かってる鍵、渡しましょうか?」

「いや、それは持っててくれ・・・俺にええ考えが在る。」

「ええ考え…って・・・?」

「久しぶりに、一緒に銭湯へ行くんや。」

「銭湯に行って・・・?」

「泊めてくれ。」

「・・・・・」「アホ!。どこがええ考えですねん。」

「やっぱりあかんか・・・ええ考えやと思うたんやけど・・・」

「・・・まあ、仕方ないですわ。その代り・・・言うときますけど、ふとんは別、ちょっとでも変な真似したら叩き出しますよって・・・よろしいな。」

「おう、当たり前や・・・解ってるがな。」




 「これより近づいたら承知しませんで。」

「解かってるって、けど、もう一杯だけ寝酒に付き合うてや。」

「ウィスキーやったらそこに在るから、勝手にやって下さい…私はもう寝ます。」

「つれないなぁ。」「一人ではしゃ~ないから俺ももう寝るわ」「電気消すで~・・・・」




 「これっ、なにしてんの?」

「なぁ・・・」

「じっとしとき!」

「なぁ、洋子・・・」

「じっとしときって言うてるやないの。」

「俺、あの仕事しながらごっつい我慢してるんやで・・・」

「アホっ、そんな汚い手でさわりなっ!」

「痛~っ・・・」

「ええ加減にしときや!。ちょっとでも変な真似したら叩き出すって言うたやろ!。」

「変な真似って・・・夫婦や・・・」

「寝るのんか?叩き出されたいんか?」

「・・・寝ます・・・。」

「さっさと寝っ、アホ・・・」

「・・・おやすみ・・・戻って来てくれた時には・・・かまへんの…やろ・・・?」

「アホっ、もう、早よ寝なはれ・・・それは、まぁ・・・考えときます・・・。」

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夕子、西成区、花園町在住。 第45話   (マサ…うちは先に帰るで・・・)

 「マサ、遊んでんとさっさと終わらせんかいな。うちは先に帰るで。」

「冷たい事言うなや。今日が油引きやとは忘れとったけど、掃除当番やからしょうが無いやろ。」

「あんたは、油引きを楽しんでる…遊んでるようにしか見えへんから、うちは帰るって言うてるんや。それにお腹もペコペコやし。」

「腹は俺かてペコペコやけど、油引きは土曜日に決まってるからな・・・判った、すぐに終わるけど先に帰ってくれ。昼ごはん食べたら遊びに行く。」

「無理には来んでもええけど、油でドロドロのまま来たら、家には上げたれへんで。汚れるだけや無うて、うち、その匂いは嫌いやからな。」

「着替えてから行ったらええんやろ?」

「無理には来んでもええ。」

「・・・・・」

「おい藤川、お前ら仲良さそうに見えるけど、ほんまは青田に嫌われてるんとちゃうか?」

「アホっ、あれはあいつ特有の俺に対する愛情表現なんや。たまに俺もややこしいはなるんやけど。たぶん、おそらく、間違い無い・・・と思う。」

「青田だけは敵に回した無いもんな。お前の気持は判るで。」

「いや、そう云う問題や無うて・・・。」




 「夕子、忙しいのに無理してやな、服まで着替えて来たったど。」

「あんた、予想通りのセリフで登場してくれるなぁ。」

「期待は裏切ったらあかんやろ。俺の使命感の現れやないか。それにやな、この袋の中身を何と心得る。」

「マサ、早よ上がっといで。」


 「はい、座布団・・・うちの分も使うか?」

「夕子とこに行く言うたら、お母んが持って行き言うて、芳月で買うて来てくれたんや。」

「花もよう咲かせん子やけど面倒見てるからやろか?」

「夕子、お前なぁ、あの時つまって返事せえへんかったやないか。」

「・・・そうやったような気がする・・・こう云う事は、あんたよう覚えてるなぁ。」

「軽くショックやったからな。」

「この次にはすぐに返事するから。」

「ほんまか?・・・なんて?」

「・・・・・」

「お前、ほんまは俺の事嫌いやろ?」

「違う!マサ、それは違うで。勘違いしたらあかん。なんて言うたらええのんか・・・ちゃうで、違うんや。仲良うするのと面倒見るのは違うやろ?。うん。そう、そう云う事やねん。判るやろ?」

「今日、木島って云う奴にもそんな事言われたからな・・・その時にはあんまり気にしてなかったのに・・・」

「なんて言われたん?」

「ほんまは嫌われてるんやないかって。」

「なんで?」

「夕子が『無理に来んでもええ』って2回も言うからや。」

「マサもそう思うたんか?」

「いや俺としては、夕子特有の俺への愛情表現やと思うてるんやけどな。」

「なぁマサ、怒ったりはせえへんけどな、愛情表現の意味と使い方…間違うてるで。」

「えっ、どこが?」

「全部や、全部。うちはただ、油引きの油とその匂いがほんまに嫌いなだけやねん。せやから、マサが来るのは厭やないけど、無理に来んでもええって言うたんや。」

「うん。そう言われたら判りやすいわ。」

「うちがあんたに愛情で表現する時は、将来、とことん練習したのにオリンピックの予選に落ちた時か、不慮の事故で死にかけてる時ぐらいや・・・覚えとき。」

「・・・忘れたいわ。」

「マサ、今日は土曜日やからプロレスの日やろ。今から先に風呂に行かへんか?」

「えっ、なんで?、なんかええ事でも・・・」

「あんた、どことなく油の匂いが染みついてるんや、けど・・・銭湯で匂い落としたら、お母ちゃんとこへ一緒に・・・マサさえ良かったら一緒に行かへんか?」

「行く~~~~。すぐに帰って、お母んに言うて風呂に行ってからもう一回来るわ。ほんまにええのんか?」

「うちは行く予定やったんや。かまへんと思うけどちょっと電話して来るから待っとき。」

「・・・うん。」

「OKや。『お腹すかしておいで』やて。」

「やった~。ほな一回帰るわ。」

「5時までにおいでや。」

「何が在っても、遅刻はせえへん。」

夕子、西成区、花園町在住。 第46話         (マサ~帰り!・・・)

 「マサ、帰り!・・・来るな!」

「なぁ夕子、不可抗力やないか・・・なにをそんなに怒ってるねん。」

「うるさい!あんたとは絶交や。」

「石鹸が無かったんや、しゃ~ないやろ。」

「なにがしゃ~ないねん。アホっ!」

「油臭い言うたんはお前やど、石鹸無かったら落ちへんやないか。」

「ほんなら、忘れんと持って行け。アホっ!」

「風呂行く言うたら、お母んも一緒に行くって言うから、俺はタオルだけしか持たんと入ってしもうたんや。気がついた時は手遅れやないか。まさか、お母んに持って来てもらう訳にはいかんやろ。」

「当たり前や!…せやから云うてお前が来るな。アホっ!。」

「せやから、声を掛けたやないか。『お母ん、石鹸もらいに行くで。』って、お前にも聞こえたはずや。」

「そう云う問題とちゃうやろ。あかんもんはあかんねん…アホっ!」

「アホ、アホって、そない何べんも言わんでも・・・なぁ、ええ加減、勘弁してや、たのむわ~。『洋子』に行くのごっつい楽しみにしてるんや。お前も電話してくれたし、おばちゃんも待ってくれてるんとちゃうんか?」

「・・・卑怯者・・・。」「お母ちゃんにいらん心配は掛けられへん。店から帰るまでは仲良うしたる・・・けど、勘違いしいなや。その間だけやで。」

「うん、分かってる・・・ふ~っ・・・。」




 「おばちゃん、こんばんは。今日も誘ってもらって有難うございます。」

「はい、いらっしゃい。遅かったやないの。」

「うん。ちょっと色々と・・・」

「また、喧嘩したな?。仲がええ証拠かもしれんけど・・・まぁ、仲直りは出来てるんやろ、ゆっくり食べていったらええわ。」

「今日のはいつもの喧嘩とは違うで。マサが単独でアホな事しよっただけや。」

「単独でも無いやろ?・・・」

「うちは知らん。捲き込まんといて。」

「目、合うたやんか。」

「ここで、それ以上しゃべったら、しょうちせえへんで・・・目だけやろな?」

「はい、はい、しっかり食べや。おかずはどれをいくら食べてもかまへんよ。御飯もんは、あんたらの為にちらし寿司こさえたから。おかわりもしてや。そうや、残ったら、昌幸くん、持って帰ったらええわ。」

「あっ、はい。有難うございます・・・・・ごっつい美味しいです。」

「今日は、ちょっと遅かったから、もうすぐお客さんも来はるやろうけど、ゆっくりしていったらええよ。隅っこで悪いけど。」

「はい、いや、隅っこで十分です。」

「・・・なぁ・・・目…だけやろな?」

「・・・当たり前やろ。お前、湯船に浸かってたやんか。」

「アホっ。いらんこと思い出さんでもええ。」

「びっくりしたんは俺のほうや。お前後ろ向きやと思うたら、こっち向いとったんや。気が付いたら、お前の方から俺をにらんどったやないか。」

「思い出さんでええって言うてるやろ。・・・・・・・・・・なぁ、なんで後ろ向きやと思うたんや?・・・」

「そっ・・・それは・・・・・」

「・・・うちの隣に誰かおった?」

「今田のお姉ちゃん。」

「・・・・・」

「こっち向いてたわ。姉ちゃんは判りやすいからな。別にお前と比べた訳とは違うで・・・夕子は髪の毛も短いからなおさらやねん。」

「なにが、なおさらなん・・・?」

「前か後ろか…判りにくいねん。」

「・・・色が黒いからとは…違うわなぁ?」

「ちがう、ちがう。お姉ちゃんかて、お前ほどやないけど色は黒いやんか。」

「・・・ほんなら、なに・・・?」

「えっ、・・・なにって、なにも無いで。」

「なぁマサ、絶対に怒れへんから言うて。」

「・・・いや、絶対怒る。」

「絶対、怒れへん。ちょっとこの夏から気になってる事が在るねん。」

「なぁ、たぶん夕子の思うてる通りやからもうええやん…俺かて、命は惜しいやんけ。」

「思うてる通りでもええ、絶対に怒れへん。」

「・・・あかんて、あかん…絶対、あかん。」

「今田のお姉ちゃんと、どこが違うんか…だけでもええわ・・・なぁ、お姉ちゃん、6年の中でも大きいって有名やわなぁ・・・」

「それやったら言うけど・・・夕子、お前は、前より肩甲骨の方が大きいやないか・・・けど、神に誓って言うとくで、俺はお姉ちゃんばっかり見てたから、お前の方はゼンゼン見てへん、ほんまやで。」

「・・・せやろな、今の話は説得力十分や・・・腹は立つけど、信用する・・・。」

「良かった~めでたし、めでたしや。」

「アホっ!…なんもめでた無いわ、早よ食べ・・・・・あっ、お母ちゃん、公務員のおっちゃん軍団や…いらっしゃい。」


        地域限定、余談へ 続く・・・

夕子、西成区、花園町在住。第47話(今度やったら、ちょんぎるで…地域限定余談)

 「まいど~。おう若女将、この頃は毎週のように出迎えてくれるやんか嬉しいで。おまけに将来の若旦那も一緒やないか。」

「うちにとって、人生の汚点になるような事、言わんといて。」

「うわっ。みんな気を付けんと、今日の若女将は怖いで。」

「なに言うてんの。うちがお客さんに怒る訳ないやんか…ビールと土手焼き人数分やろ?毎度、おおきに。」

「たいしたもんや。これは、藤川くん、絶対尻に敷かれるで。」

「せやから、人生の汚点や言うてるやんか。」

「夕子、昌幸くん放っといたらあかんやないの・・・はい、お待ちどうさま。」

「おっちゃんら、ほんまに誤解せんといてや。けど、今日はマサが居るから、最初に注いだら終わりやで・・・食べ終わったら帰るよって。」

「よっしゃ。・・・まぁ、まずは乾杯や。・・・はい、お疲れさん。」

「おい、昌幸くん、しっかり食べてるか?…お前が大人しいしとったら可笑しいやないか。」

「ああ、山本のお兄ちゃん今晩は。」

「いつもの元気はどないしてん?」

「いや、元気です。」

「せやから、尻に敷かれるって言われるんや・・・おっと、こんな事言うてたら、また若女将に怒られるわ。」

「ほんまや。ええ加減にしてや。マサも早よ食べ、帰るで。」

「うん。けど、ちょっと待って・・・お兄ちゃん、聞きたい事があるねんけど、いいですか?」

「えっ昌幸、なにが聞きたいんや?」

「あの~、お兄ちゃんら、行き帰りは地下鉄でしょ。南海電車は乗らへんのですか?」

「そら、南海電車も乗るけど、通勤は地下鉄やな。家やこの店には、花園町より萩之茶屋の方が近いんやけど、職場は天下茶屋より圧倒的に岸ノ里の方が近いからな。けど、なんでそんな事聞くんや?」

「お父んが言うには、去年、新今宮の駅が出来て便利にはなったんやけど、萩之茶屋の駅に電車が停まらんようになったって言うんですけど、ほんまですか。」

「そんな訳無いやないか。なぁ。」

「いや、森川さん、ほんまですわ。停まらん訳や無いんですけど、おそらく半分以下になったんとちゃいますか。」

「お父んも、そんなふうに言うてました。兄ちゃん、なんでか知ってるんですか。」

「山ちゃん、俺も聞きたい…教えてくれ。」

「はぁ、新今宮が出来るまでは、難波から天下茶屋まで、すべての普通電車が停まってたんですけど、新今宮が出来てから、本線と高野線に別れてしまいましてん。」

「??・・・ほんで?」

「だから、今宮戎と萩之茶屋は高野線の駅なんですわ。せやから、本線の・・・和歌山行きの電車は、普通電車でも停まらなくなりましてん。わかります?」

「???・・・いや、なんか、判ったような判らんような・・・ええか、新今宮は新しい上に、乗り継ぎ駅やとしても、天下茶屋はどっちやねん、今の話やと本線の駅なんやろ?せやのに天下茶屋には高野線の電車も停まるんかいな?」

「そうですねん。天下茶屋はそこから分岐する駅やし、将来的には大きな乗り継ぎ駅になる予定もあるとかで、こうなったんやそうですわ。」

「ふ~ん・・・萩之茶屋も舐められたもんやな。」

「・・・まぁ、それはなんとも言えませんけど、とにかく、本線の方が本数も多いので、停まる電車は半分以下になったはずです。」

「そら、萩之茶屋の駅から見たら不便になったわなぁ・・・知らんかったわ…どや、昌幸も解かったんか?」

「???・・・はい。有難うございました。」

「良かったやんか。ほなマサ、帰ろか?」

「うん。おばちゃん、ご馳走さまでした。」

「せやから、森川さん、僕らも仮に南海電車で出勤するとしたら、萩之茶屋で電車を待つより、新今宮まで歩いた方が早いかも知れませんで、すぐそこですしね。」

「まぁ、たしかに近いけども・・・」

「おっちゃんら、うちら帰るで、ゆっくりしていってや。」

「ああ、若女将と若旦那、気を付けて帰るんやで。」

「もう、ええって。汚点や、汚点・・・ほんまに・・・お母ちゃんもお休み。」

「ちょっと待ち・・・はい、気を付けて。昌幸くん、これ、ちらし寿司、持って帰り。」

「あっ、いつも有難うございます。こんなにたくさんいいんですか?」

「あんたらの為に作ったんやから、気にせんでもええんよ。」

「お~い、ママ、おかわりや。」

「・・・ほな、お休み・・・はい、はい、森川さんはお湯割りですか?」



 
 「夕子、ありがとう。ほんまに美味しかったわ。お腹も一杯や。」

「・・・うん、そら良かったわ。」

「なんや、まだ怒ってるんか?。お前って、悪魔も思いつかんような恐ろしさと、怪獣が謝るほどの凶暴性を持ってるんやけど、しつこく無いとこが取り柄のはずやったのに。」

「なぁ・・・とりあえず、笑いを取ったら勝ちやと思うてるやろ?・・・」

「うん、けっこう・・・思うてる・・・」

「いつも笑うとは限らんやんか。」

「せやねん。笑うんか、怒るんか、そこは、いちかばちかの勝負なんや。」

「磨きが掛かって来た陰には、それなりの苦労があるんやなぁ。」

「努力は必ず報われる・・・って、教えてくれたんは、夕子のおっちゃんや。」

「・・・次は無いで。」

「…えっ・・・」

「・・・今度、女風呂に入って来たらちょん切るからな。覚えときや!」

「うわっ・・・なぁ・・・ちょん切るって、どこをやねん?・・・」

「・・・なぁ・・・お願い・・今のは、忘れて・・・・誰にも言うたらあかんで・・・」

「・・・えっ・・・うん。」

「絶対やからな!」

「わかった誰にも言わへん。けど・・・しんでも、生まれ変わっても覚えてると思う。」

「ためしてみよか?・・・」

「・・・完全に忘れた…お休み。」

夕子、西成区、花園町在住。 第48話  (先生、この頃・・・琴美さん・・・)

 「先生、この頃食事にも、いっさい付き合うてくれへんやんか。ちょっと冷たいんとちゃう?」

「いや~、忙しいのも在るけど、タイミングも合わへんかったんや。それに求婚されてた件も片付いた事やし、商売柄・・・特定の男と、あんまりうろついたりせん方がええやないか。」

「あのね、先生・・・この辺りで、先生が洋子の女将の亭主やと知らん人なんか居てへんやんか。別居中やって云うのも、ごく一部の人しか知らん事やろしね。」

「それはそうかも知れんけど・・・」

「はっきり言うたらどうです?。奥さんに早よ帰って欲しいんでっしゃろ?・・・そのためには私らは邪魔ものですもんね。」

「いやっ・・・そうや、帰っては欲しいと思うてるんやけど。これはこれで、そううまい事にはいかへんのや。」

「・・・私の旦那やって言う話が女将さんの耳に入ったんは、別居してからでした。・・・でも、求婚してくれた中井さんとっては、そんな事、知らん話です。知らん話やから・・・まさか目の前の女将がほんまの奥さんやとは思いませんわなぁ・・・でも、それを聞いた女将さんには、すぐに先生の事やと判ったはずやと思いませんか?」

「・・・と、思います・・・」

「それを、顔色一つ変えんと、知らんふりをしてくれたお陰で、断る事が出来ましたんや。これが、どう云う事か、私には判ってます。」

「・・・・・」

「おそらく、奥さんは私個人の事なんか、何とも思うてはりませんわ。要するに、仕事や言うて、浮気してるんや無いかと誤解してはるんや・・・ねぇ、それって、マッサージをやめんとアカンって事なんですやろ?」

「・・・指圧自体は商売ですんで・・・あれを・・・やめてもよろしいやろか・・・?」

「いやや、あかん・・・」「この頃、減ってるとは思うてましたけど、減らしてはったんやね。実を言うと、それも、気が付いて無かった訳でもありませんわ。なんや、春駒姉さんの様子もおかしいとは感じてましたんや。」

「実はそうですねん。電話での予約制にして、ちょっとずつ断る回数を増やしてましたんですわ。」

「やっぱり・・・そうでしたんやね。当然、春駒姉さんは承知してはる話やろうけど・・・姉さん、なんも言うてくれんと・・・おかしいとは思うてましたんや。」

「すんません・・・姉さんに、一人ひとり、俺の口から伝えんとあかんと言われとったんですわ。」

「・・・それで、人によってマチマチですのやね。春駒の姉さん達は、指圧のためだけに通ってはるって事ですか・・・ねぇ、残ってるんは、私だけや無いやろね?」

「・・・はぁ、それは違います。」

「あと、どのくらいかまへんの?」

「えっ・・・?」

「あと、どれくらい続けてくれはるの?」

「いや、別にいつまでとは・・・」

「ほんなら、もう少し・・・気持ちを整えときますから・・・あと、少し・・・ね。」

「・・・はい。」「・・・始めましょうか?」

「特別サービスして下さいね・・・」

「いや、それは・・・」

「先生、勘違いせんといて。いつも以上の事をねだるつもりはありません・・・ただ・・・今日は・・・服を脱がせるところから・・・自分で脱ぐのは寂しいから・・・ね、おねがい・・・」


「・・・琴美さん・・・」



「・・・・・・」


夕子、西成区、花園町在住。 第49話  (マサ~いくで、起きてるか? ・・・  遠足 前編)

 「おはようございます・・・マサ~いくで~起きてるか~・・・」

「ちょっと待ってくれ~すぐに行く~・・」「・・・あ~あぁ・・・遠足かぁ~・・・」

「マサ、あんたの得意分野やろ?・・・当日になって何言うてるんや・・・昨日までなんにも言うて無かったくせに・・・なんや、えらい厭そうやないか」

「別にそんなに厭な訳でもないんやけど・・・なんて言うんか・・・もうひとつ・・・」

「もうひとつ・・・なにが必要やねん?・・・なにが足らんって言うんや?・・・どっちにしても早よしぃ…いくで。」

「・・・うん、いこ。」



 「運動会ほど燃えるはずが無いのは判るけど、どないしたんや?・・・ゆうべワクワクして寝られへんかったとか、折角の遠足やのに、腹の調子が悪いとか・・・ど~せ、そんなとこやろ?」

「う~さすが夕子と言うたらええのか・・・半分は当たりや・・・う~虫歯や・・・」

「・・・むしば?」

「歯が痛いんや・・・虫歯が・・・痛い・・・ねん・・・」

「・・・そんなん、急になったんかいな?」

「ゆうべ・・・遠足のおやつに手を出してしもうたんやけど・・・グリコや・・・奥歯のつめてるやつが取れて・・・ツ~ンと来たら最後・・・治まれへん。」

「・・・ほんで、痛い上に寝られへんかったんか・・・?」

「・・・俺の心臓は今…ここに在る・・・最悪や・・・仏滅なんや・・・」

「運動会では左手…外に曲がっても辛抱したくせに・・・どないしたんや。」

「・・・痛さの種類が違う・・・」

「う~遠足か~って言うぐらいやったら、我慢せんと、休んで歯医者に行ったらどうやねん?」

「それはあかん。おれの信条に反する・・・夕子が女のくせに人形遊びなんか絶対せえへんのと同じや。」

「なに訳の解からん事言うてるねん・・・たしかに、ままごとも人形も嫌いやけど。」

「せやろ・・・俺も幼稚園から今まで休んだ事なんかあらへん・・・一年の時、体中にブツブツが出来て、厭や言うてるのに無理やり先生に帰らされた時だけや。」

「・・・うちが染した水疱瘡やな・・・そら、帰らされて当たり前やないか。」

「何が在っても休んだりせえへんのが俺の信条なんや・・・思うたらお前にはえらい目にあわされてきてるなぁ・・・これも夕子の呪いとちゃうやろな・・・?」

「アホ!。虫歯忘れるぐらい、他に痛いとこ作ったろか!」

「・・・ちょっと作ってもらおかな~って思うぐらい痛いんや・・・おい…ほっ、ほんまにしたらあかんで・・・おまえ今、用意せんへんかったか?」

「・・・ええかげんにしいや。そんだけしょ~もない事言えるくせに、元気と違うんのんか?」

「こんな事言うてたら気がまぎれるねん・・・ほんまに痛さの種類が違うんや、今日一日付き合うてくれ・・・そうしてくれたら・・・夕子が望むんやったら、ままごとでも、人形遊びでも付き合うたる。」

「マサ、あんたほんまに調子悪いんか・・・段々調子に乗って来てるやないか。」

「えっ、調子に乗ったらあかん・・・怒られるんやろ・・・?」

「・・・なんにも怒ってへんやんか。」

「ほんなら、調子やのうて、波に乗ってるって言うてくれんと・・・」

「・・・ん?・・・調子がええ…か・・・あんたほんまに・・・まあええわ、それより、うちとマサはクラスが違うんやから別行動やないか。」

「そこや~・・・でも、集合と移動の時だけやろ。電車も車両は一緒のはずやし、昼の自由時間も問題あらえへんはずや。」

「あのなぁ、約束してる訳や無いけど、遠足の時なんかは、まゆみちゃんや恵子ちゃんと食べるって決まってるんや。」

「・・・今日だけは特別や、俺もまぜてくれ、たのむわ~」

「・・・うちはかまへんけど・・・マサかて友達ぎょうさん居てるやないか。」

「アホっ、今日の俺は機嫌が悪いに決まってるやろ・・・」

「…わかった。まゆみちゃんと恵子ちゃんにはうちから頼んどく・・・あんたの友達がかわいそうや。」

「・・・別に喧嘩なんかする気は無いんやけどな・・・。」

「せやから、わかってるって・・・あんたが機嫌悪いだけで、周りは迷惑なんや。」

「・・・お前に言われるんだけは…ちょっと厭やけどな・・・」

「・・・ん?・・・」

「・・・よろしくお願いします。」


    
    
        遠足 後編へ続く・・・

夕子、西成区、花園町在住。 第50話   (菊人形なんか・・・遠足 後編)

 「菊人形なんかなんにもおもろないなぁ・・・夕子、お前かてそうやろ?」

「マサ、あんたと一緒にしいなや・・・と言いたいとこやけど、ほんまにおもろなかったわ・・・あんなもん菊のかたまりにマネキンの首付いてるだけや。」

「えっ、夕子ちゃん・・・私らは綺麗やと思うたけど・・・な、まゆみちゃん?」

「うん、うちも、初めて見たし、よかったわ~あんなん作る人もすごいと思わへん?」

「そら、作った人はすごいと思うけど・・・」

「今日は邪魔してゴメンやで。せやけど、お前らも夕子とはちっこい時から付き合うてるくせに、夕子の事、解かってへんなぁ・・・夕子があんなもん好きな訳無いやないか・・・この辺にしとかんと怖いから、弁当にしょうか。」

「・・・そのタイミングでやめられたら、怒るに怒られへんやんか・・・それよりマサ、歯はまだ痛いんやろ…弁当食べられるんか?」

「そうやてなぁ、やんちゃもんの藤川君も虫歯と夕子ちゃんには勝たれへんみたいやね・・・無理も無いけど。」

「ほんまや、歯が痛いのはたまらんわ・・・昌幸ちゃん可哀そうに・・・」

「そんな風に言われたら、恥ずかしいんやけど、夜も寝られへんかったからなぁ・・・」

「そんな事より・・・マサ、あんた弁当は?」

「・・・これや。」

「水筒やんか・・・やっぱり痛とうて食べられへんからお茶だけ飲むつもりなんか?」

「二つ在るやろ・・・一つはお茶、もう一つはお粥や・・・」

「・・・おかずは・・・?」

「なし・・・」

「かわいそ~」

「かわいそ~」

「かわいそ~」

「・・・3人に同時に言われたら、ほんまに悲しゅうなってくるやないか・・・」

「とにかく、帰ったらすぐに歯医者に行くんやで・・・あんたの大嫌いな。」

「気を紛らすためにここにおるのに、お前…矢印のシッポにトゲまで生えて来たようやな・・・」

「・・・・・」

「あっ、まゆみちゃん…何でもないから、恵子ちゃんも気にせんといて・・・」

「・・・歯医者には絶対に行っとかんとあかんで・・・私も大嫌いやけど・・・」

「好きな人なんかいてへんわ・・・絶対に嫌いや・・・」

「私もや・・・あの音、思い出すだけで・・・ああっ、もうあかんわ・・・けど、矢印のシッポって・・・・・・ なに・・・?」


 「…お前ら3人の共通点や・・・・・」
 

夕子、西成区、花園町在住。 第51話      (マサ、大丈夫か・・・?)

 「マサ、大丈夫か・・・もう治ったんか?」

「・・・とりあえずは・・・な。」

「なんや、その言い方は…まだ痛いんか?」

「・・・とりあえずは・・・痛ない・・・」

「せやから、なんやねん・・・おかしな言い方して・・・」

「・・・一回では終わらんかった・・・」

「もう、なんの・・・あっ、歯医者か~・・・そら、一回では終わらんやろ、何回も通わんとあかんわなぁ・・・ふふふ・・・」

「・・・夕子、お前その性格、早よ治しとかんと将来…生活に支障が出るで・・・絶対。」

「心配いらん。うちはマサ以外には天使のように優しいんや・・・だいたい、うちの事を悪魔やとか、怪獣やとか言うのはマサだけなんや。」

「・・・俺は、悪魔よりも怪獣よりも・・・たちが悪いと言うてるんや・・・一緒にしたらあかん・・・最近ではキングギドラも超えて3キョウやないか・・・」

「マサ…ほんまに実力あげたなぁ。いつもやったら、ここで『アホっ!』って場面やけど・・・3キョウ?ってなんやねん・・・聞かなしゃ~ないやんか。」

「へっへっ、へ~・・・せやろ・・・ええか、最強・最凶・最狂で3キョウなんや。どうやお前にぴったりやろ・・・ふ~っ・・・」

「なぁマサ、逃げながら言うのやめてくれへんか・・・ただでさえ、あの昌幸がびびる女とか言われて迷惑してるんや・・・」

「事実は曲げられへんやろ・・・こないだなんか、お母んに『え~かげんにせんと、夕子ちゃんに怒ってもらうで』っ言われたぐらいなんやど・・・お父んなんか普通にうなづいとったわ。」

「アホ!、ちょっと待ちいや…うちは何モンやねん・・・あんたの家族おかしいんとちゃうか・・・訳が判らんやろ・・・」

「さすがに俺も、『お母ん…なに言うねん』と思うたけど、お父んもうなずいてるし…もはや藤川家では常識として定着した。」

「定着してど~すんねん・・・かなわんなぁ・・・あんたの家、絶対おかしいわ・・・ちょっと待ち・・・だいたい何をやって怒られたんや?」

「えっ・・・いや別にたいした事やない・・・けど。」

「なぁマサ、あんたのその雰囲気で、うちにはピンとくるもんがあるんや・・・言うてみぃ、何をやらかして、うちに怒らせるつもりつもりやったんや、マサのおばちゃんは・・・?」

「いや~せやから、大した事・・・」

「あるか無いかはうちが考えたる・・・言うてみぃ・・・うちにはマサの嘘、すぐに解かるんやから…気ぃつけや。」

「う・・・っ・・・」

「早よ!」

「・・・え~っと…十日ほど前、良文と風呂にいったんやけど、入口で今田のお姉ちゃんに会うたんや・・・」

「・・・ほんで?・・・なんとなく、もう腹が立ってきたわ・・・」

「いや、女風呂へはいってへん。ほんまやで・・・ちょん切られたないし・・・」

「忘れたはずや無かったんか!」

「わ、忘れました・・・」

「アホっ・・・それで・・・」

「・・・この壁の向こうに、今田のお姉ちゃんが居てると思うたら・・・良文と2人でドキドキしてしもうてやな・・・学校から帰ってすぐやったし、ガラガラやったんや・・・交代で肩車しようか~って…どっちが言い出した訳でもなく・・・」

「ど~しよ~もない奴らやな・・・ほんまに・・・アホ~~~~っ!」

「・・・アホです・・・」

「・・・けど、なんでバレたんや?」

「ジャンケンで勝った良文が先やったんやけど…たぶん気付かれとったんやろな、俺に変ったとたん、眼が合うて…『こらっ、マサ~~』って・・・ええとこ無しや・・・」

「アホっ!、ええとこ無しってどう言う意味やねん・・・ほんまに、どうしょうも無いやっちゃなぁ・・・この、アホ・アホ・ドアホっ~!・・・」「ほんでバレたんかいな・・・アホっ!・・・。」

「いつもの事やけど、何回、アホって言うつもりやねん・・・いや、お姉ちゃんは『こら~っ』で済んだんやけど・・・川上のおばちゃんも居ったんや…、『こら~っ』で気が付くわなぁ・・・帰った時にはお母んの頭に角が生えてたんや。」

「・・・それで、風呂の話やから、うちが怒るって事になる訳やねんな・・・」

「さすが!・・・夕子って賢いな~。」

「この、あほんだらが・・・あほらし過ぎて疲れてきたわ・・・いっぺん生まれ変わってこい。ほんまに・・・」

「俺かて・・・生まれ変われるもんなら・・・必ず汚名挽回するから・・・なっ。」

「・・・とことんアホな奴っちゃなぁ、汚名を挽回してど~するねん。汚名は返上せんとあかんやろ。名誉挽回や覚えとき・・・ほんまに疲れる奴っちゃで・・・」

「一生ついて行きますので・・・」

「絶対にお断りや。」

「え~っ・・・ほんなら俺の行先は・・・」



  「歯医者や!」



夕子、西成区、花園町在住。 第52話  (ほな、お母ちゃん、そろそろ・・・)

 「ほな、お母ちゃん、そろそろ帰るわ~、おっちゃんら、ゆっくりしていってや~。」

「はい、気を付けて・・・それにしてもこの頃は土曜日には必ず来てるけど・・・まぁ、夕子の事やから、する事はしてるやろうし、曲がりなりにも母親の店やしなぁ・・・でもかまへんのやろか・・・?」

「母親の手伝いして、何が悪いねん・・・なぁ、若女将。」

「そや、店の看板やで、若女将は・・・」

「うん、おっちゃんらの言う通りやで。お酒を呑むわけやないし、時間も8時には帰るんやから・・・だいいち、うち、この雰囲気好きやねん。手伝いたいねん。」

「まぁ、ほんまのところ、大助かりなんですけど・・・よう役に立ちますよってなぁ・・・邪魔になるぐらいやったら、かえって思わんのかもしれませんけど・・・気が付いたら、頼りにしてる私が居てるもんやから・・・母親としては失格や無いんやろか・・・って」

「・・・うん、ママの気持ちもよう理解は出来ます。言いたい事も解かります・・・けど、ええんとちゃいますか、本人が喜んでやってくれてるんやから。ねぇ、森川さん。」

「門前の小僧や・・・小さい時からママのする事、見て覚えて・・・若女将は、何にも言われんでも、やる事が解かってるんや・・・せやから本人も知らんうちに自然に手伝いになってしまううんや・・・ちゃうか?…なぁ若女将。」

「なんや、うちの話で気恥かしいんやけど・・・おっちゃんの言う通り、自分でも知らんうちに手伝うようになってたと思うわ・・・お母ちゃん、一人で忙しいのは解かってるしなぁ・・・」

「特に土曜日は…なぁ。」

「ほんまに助かってますねん・・・夕子、ありがとう・・・せやけども・・・」

「もう、いややわ~。お母ちゃん何を言うてるのん・・・ほんまに好きで手伝うてるんやから、気ぃよう手伝わしてぇな・・・」

「はい・・・そうですねぇ・・・」

「あのなぁ、日頃から俺は思うてるんやけど、若女将の一番すごいとこ・・・それは接客やで・・・間違いない。この店にくる客は全員、思うてるはずや。ほんでこれは、教えようと思うても、簡単には教えられるもんや無い・・・若女将の天性とちゃうやろか・・・パアっと明るくなる華まで持ってるわ。」

「あっ、俺も絶対にそう思うてます。あとは、それこそ門前の小僧で、勝手に体が動いてるんやないですか。」

「もう、うちが帰るって言うてから・・・なんやのん・・・別に悪い気はしてへんけど・・・有難う、これからも頑張って手伝うわ・・・ほな、ほんまにそろそろ、うち帰るし・・・おっちゃんら、ゆっくりしていってや、けど・・・お酒に飲まれる前に帰るんやで。」

「・・・わかった、おやすみ。」「おやすみ~」

「お疲れ~」「おやすみ・・・」「・・・」



 「・・・ほんまにすごい小学3年生やで・・・器に合うように盛り付けて、向きまで考えて出してくれる・・・器に着いた煮汁をそっと布巾で拭くとこなんか、妙な色気まで漂うてる・・・たしかに、末恐ろしいかもしれんなぁ・・・。」

「仮に後を継いだら・・・」

「うん、ママを超えるのは間違いないやろ・・・後は、料理の腕だけや・・・」


夕子、西成区、花園町在住。 第53話     (・・・風邪やろか・・・)

 「・・・クション・・・う~、ゾクっとするわ~風邪やろか・・・」


 「めっきりと冷え込んで来たからなぁ・・・夕子、今日は風呂、やめといたらどうや?・・・お前がひくような風邪やったら、ひとに染ったら死ぬかもしれん・・・やめとけ。」

「どう言う意味や・・・お父ちゃん、だんだんマサみたいになって来てるで・・・」

「あいつが、俺に似て来てるんや・・・なんせ、弟子やからな。」

「・・・ふたりで居るとき、どんな話、してるんか・・・興味はあるけど・・・なんか、聞きたないわ~」

「男のロマンと将来の夢についてやないか・・・決して女の・・・」

「女の?・・・」

「・・・話なんかはせえへん・・・で。」

「男ってほんま、解かりやすい生きもんやな~・・・なぁ、お父ちゃんがいらん事教えたりしてるんとちゃうやろな・・・?」

「アホな事言うな。俺も元…警察官やど・・・女…いや、俺の子供の頃はこうやった・・・とか・・・やな・・・まぁ、そんな話や・・・昌幸もいろんな事に興味があるみたいで、なんやかんやと聞いてきよるんや。」

「いろんな事になぁ・・・?」

「そ、そうや・・・」

「それで・・・女風呂かいな?」

「うっ・・・」

「学校から帰ってすぐやったら空いてるとか・・・辛抱強く続けたら、そのうちチャンスは巡って来るとか・・・しゃべり方まで想像つくわ・・・」

「うっ、・・・う~っ・・・」

「なんやこの頃、明るいうちに、友達とふたりで行くのはオカシイと思うてたんや。」

「・・・おまえ・・・警官どころか、刑事、いや探偵・・・そうや推理小説でも書けるんとちゃうか?」

「アホっ!さすがに、この話だけはお母ちゃんには内緒にしといたるけど・・・」

「ほ、はんまか・・・」

「・・・白状してるんと同じやんか・・・なんでお母ちゃんが出ていったと思うてるねん・・・うちはお母ちゃんに帰ってきて欲しいんや!・・・アホっ~~~。」

「・・・夕子・・・すまん。マサとはほんまに軽い気持ちでやな・・・ほんまにゴメンや・・・けど、俺は、お母ちゃんに出て行かれるような事はほんまにして無いんや・・・これは信じてくれ。」

「信じてるよ…うちは。・・・お母ちゃんも、そのはずや・・・子供の頃の話を、ウマが合うマサと、面白がってしゃべるんもかまへんけど、お母ちゃんの事考えて、内容には気を付けてくれんと・・・あいつは素直に・・・ほんまに、素直に行動に移しよるんや・・・」

「うん、俺も実はびっくりしたんや・・・」

「あいつ、お父ちゃんの事は尊敬しとるから特に、注意が必要なんやで・・・」

「うん、よう分かった・・・これから気を付ける・・・特にマサにはな。」

「ほんまに、たのむで・・・」

「まかしとけ・・・頑張って汚名挽回するから。」

「名誉挽回や!・・・」

「えっ・・・?」

   (あんたら、親子以上に、ほんまにそっくりやなぁ・・・)

「・・・なんか言う…」

「…てへん!」


 「…ほな、俺は風呂に行って来るわ・・・」「夕子…お前はど~する・・・?やめとくか・・・?」


  「行く!」





夕子、西成区、花園町在住。 第54話  (ふぅ…サブちゃんよかったわ)

「・・・ふぅ・・・サブちゃん・・・よかったわ~・・・時間かかったし・・・疲れたやろね・・・」

「いや、そんなこと、ぜんぜん・・・」

「・・・先生、有難う・・・ねぇ、私のからだ・・・きれい・・・?」

「ごっつい綺麗ですやん。琴美さん、急になに言うてるのん、あたりまえやんか。」

「・・・見た眼は綺麗でも、私らの体は汚れてきたないんやそうです・・・先生だけや・・・・・うっ・・・」

「琴美ちゃん・・・どないしたんや、急に?」「・・・ゴメンね・・・年末も近づいて、帰る田舎も無い私は、また、一人の正月を迎えるんやと思うたら、ちょっとね・・・」

「それは話が違うやないですか・・・誰がなんと言おうと、琴美さんは見た眼も内面も、間違い無く綺麗な人です・・・正月の話は、俺にはどうしようも無いかも知れんけど・・・」

「・・・せやね、どうしようも無いもんね。」

「琴美さん・・・俺で良かったら、出来るだけ・・・」

「そこが先生のアカンところやんか・・・ええとこでも在るけど・・・下手に期待させたらイヤですわ・・・」

「なんて言うたら・・・」

「もうなんも言わんでもよろしいわ・・・よう解かってるつもりなんです・・・どう言えばいいのか、先生への気持ちは、いわゆる普通の恋愛とは違います・・・先生、ほんまにええ男で・・・なんて言うか、ただの二枚目だけや無うて、体格もええし、きっぷもええ、大袈裟に聞こえるかも知れませんけど、あの日から、この人が私のええ人やと思う事で、毎日を頑張ってきましたんや。けど、せやから言うて、奥さんを羨む事も無ければ、まして結婚なんか全く望んでません・・・それは今でも変ってないです・・・けど、例の話で困ってる時、先生の奥さんが出ていきはったと聞いて・・・私らのせいやとは解かってましたけど、断る口実に使わしてもらったんですわ・・・儚い期待が全く無かったと言えば嘘になるかも知れませんけど・・・」

「春駒姉さんも同んなじような事を言うてはりました・・・」

「警察官の頃からカッコええ人やと思うてました・・・せやから、春駒姉さんに先生の仕事の内容を聞いた時、すぐに飛びつきましたんや。他の子も一緒やと思います・・・私らは普通の女の人とは考え方は違うんやろうけど、敵になる人、味方になる人が直感的に判りますんや。」

「それも、春駒姉さんが同じことを・・・」

「そうですやろ・・・ただ二枚目やと言うだけやない・・・それが先生には在りますねん、それがサブちゃんの魅力ですねん・・・」

「こそばいような・・・琴美さん…有難う・・・です。」


 「ふ~…今日で・・・いや、今年いっぱいで終わりにさせてもらいますわ・・」

 「えっ、・・・ほんまですか?」



「飛田の女は、仕事を離れたら嘘はつきません・・・年が明けたら、私も普通の客に戻らせてもらいます。」
「琴美さん…ありがとう・・・」

「せやけど・・・今年一杯は・・・お願いしますえ・・・せんせい。」



  「・・・頑張らせてもらいます・・・」


夕子、西成区、花園町在住。 第55話    (さぁ・・・いよいよやな・・・)

 「さぁ・・・いよいよやな。」

「・・・・・」

「さぁ、いよいよやなぁ・・・なぁ、たのむわ~『なにが、いよいよやねん・・・?』とか・・・なんか、言うてくれんと・・・」 

「…なにが、いよいよやねん・・・あほっ・・・」

「・・・アホは余分やろ・・・」「ええか、今日から12月や・・・いよいよ、正月までのカウントダウンが始まったど。」

「・・・・・」

「夕子…ど~したんや・・・もしかしてほんまに調子悪いんか?・・・熱でもあるんか?・・・お前がかかる病気やったら、他の人間やったら命に係るからな…人の為にも早よ、医者に行った方がええど・・・俺の事やったら心配いらん・・・お前には物心ついた時からエライ眼に合されてるんや、風邪ぐらいには負ける訳がない・・・世界で一番、お前に対しての免疫を持ってる男なんや・・・だいいちやなぁ、医者に行った事が無いお前を医者に連れて行く人間が必要やろ?・・・もしも~し…夕子さ~ん・・・」

「・・・おわったか・・・?」

「・・・なぁ・・・」

「何でも無い・・・マサ、ごめん・・・」

「おい・・・夕子・・・」「・・・どないしたんや・・・」

「あとで・・・宿題終わらせたらおいで。」

「わ、わかった・・・。」



 「お父ちゃん、ただいま・・・。」

「おう夕子、おかえり。」

「・・・なぁ、最近、お母ちゃんと話してる?」

「・・・うん・・・してるけど、どないしたんや・・・言いたい事は分からんでもないけど・・・」

「ちょっと前、お通夜の在った日や・・・帰ってこんかったやろ?・・・あれって・・・」

「ああ・・・夜中になってしもうてなぁ・・・鍵も無いし・・・お母ちゃんとこに泊めてもろうた・・・」

「やっぱり・・・せやけど、お母ちゃんとこやったら、早い時間に帰ろと思うたら帰れるやんか・・・お店閉めてからでも…」「なぁ、何してたん?」

「えっ!・・・」「お、お前・・・時たま、剛速球投げてくるなぁ・・・。」

「・・・別に変な事を想像してる訳やないけど・・・お母ちゃんが泊ってもええって言うたんやろ・・・?」

「・・・あ、当たり前やないか・・・」

「今日から12月や・・・正月まで一カ月、例のマッサージもほとんど無くなってる・・・期待してもええんか・・・?」

「・・・・・」

「なぁ、うち…期待してもええんやろ?」

「・・・う~ん、正直な話…微妙やな。」

「・・・あんまり、期待はでけへんって云うこと・・・?」

「ほんまに、微妙なんや・・・かなり、ええ方向には向いてる…それは間違いないんや。例のマッサージも、残ってるんは2人だけで、なんとか年内には・・・」「せやから、正月までにはとなると、微妙なんや・・・。」

「正月に間に合うのと、間に合わんのとでは大違いや・・・」

「そ、そうやな・・・けどな、正月の事は、お母ちゃんもちゃんと考えてくれてる…おせち料理もそうや・・・戎さんにも行くって言うてた。」「だいいち、誤解はほとんど解けてるみたいなんや…俺の事も信じてくれてるようやし・・・あとは、気持ちの整理なんやろ・・・俺に出来る事は、あれをゼロにする事だけや。」

「そうなんか・・・わかった・・・」

「なあ夕子、元気が無いんは、そのせいなんか?・・・えらい調子が悪そうやけど、病気や無いやろな・・・?」

「あの日から、色々と考えてたんや・・・もしかしたら…とか、せやけど・・・やっぱり…とか、いや、そんなはずは…とか・・・」

「おい、その辺にしといてくれるか、なんか一言一言が…グサッとくるわ・・・」

「正月は特別やし・・・うちが気持ちを膨らませ過ぎとったんや・・・わかった…もう…ええ・・・。」

「なぁ夕子、正月には間に合わんでも、お母ちゃんが戻って来るんは間違いない・・・と思う・・・それも近いうちや。」

「・・・それも、解かってる・・・」

「おい、お前…ほんまに調子悪そうやけど、大丈夫なんか?」

「大丈夫や・・・気落ちしてるだけや。」

「ええか、お前がかかるような病気やったら、普通の人やったら命に関わるんやど、無理せんと医者に行かんと・・・」

「またかいな、2回目やで、その言い方・・・マサと合わせて3回目・・・見事なくらい・・・お父ちゃん、ほんまはマサと親子なんとちゃうか・・・全くおんなじ事言うなぁ・・・びっくりするわ、ほんまに・・・。」

「えっ・・・いやっ、それはマサだけやのうて…誰でも思う事やろ・・・」

「あのなぁ…うちは、何モンやねん・・・もうすぐ、そのマサが来る・・・宿題終わらせてくるわ。」

「おう、それやったら、喋っとったらアカンがな、早うせんとマサ来よるで、まぁ、マサが早う来たら、俺が相手しといたるけど。」

「そんなに長話なんかしてへんやんか・・・今日の宿題…内容的にはほぼ一緒…うちのカンでは15分くらいで終わるはずや・・・うちが15分って事は…マサは、1時間以上はかかるんや、どないしても間に合う。」

「・・・さすがは…夕子や・・・」



 「先生、こんにちは~、夕子ちゃんいてますか?」

「ほんまに・・・ざっと1時間半や・・・さすがは…マサや・・・」

「…?…僕のなにがさすがなんですか・・・」

「いや・・・夕子も、お前も、さすがや・・・夕子待ってるわ、上がっていけ。」

「はい、お邪魔します。」



 「夕子、どうや~・・・ほんまに・・・」

「大丈夫や!・・・病気とはちゃう・・・お母ちゃんの事で落ち込んでただけや・・・」

「そうか・・・ほんでも、近いうちにおばちゃん帰って来るみたいな事、青田先生が言うとったで・・・なんで落ち込むんや…喜ぶんやったら分かるけど・・・」

「・・・あんたも最近、正月、正月ってうるさいやろ・・・うちはなぁ・・・うちかて正月を一緒に迎えたいんや・・・」

「そうか・・・俺…あんまり正月、正月って言うのやめるわ・・・ゴメンやったなぁ・・・」

「そんな事、気にせんでもかまへん・・・マサはマサらしい…しとったらええねん。」

「そうか・・・せやけど・・・」

「どないもならん事みたいや・・・お母ちゃん次第なんやろうけど、気持ちの整理・・・複雑なもんがあるんやて・・・こんな時、大人やったらお酒を飲むんやろな・・・お母ちゃんに会いたいわ~…そうや!、『洋子』に行こ・・・マサもくるか・・・?」

「えっ、急にかまへんのんか?・・・嬉しいけど・・・いっぺん家には帰らんとアカンけどな・・・本気か?」

「本気や・・・決めた!行く!・・・あんた、宿題ちゃんとやったんやろな・・・」

「ちゃんとやって来たわ・・・信用・・・」

「してる・・・時間が証明してくれてるわ・・・うち、今から先に行ってるから、良かったら後からおいで・・・食べるもんは期待したらあかんで。」

「わかった・・・」


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弘と書いてひろむと読みます

Author:弘と書いてひろむと読みます
主人公の夕子と昌幸は作者と同級生と云う設定。          ディープな町、西成区花園町の世界を御堪能下さい。

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