夕子、西成区、花園町在住。 第28・29話         (運動会前夜-2)

 「・・・片付いたみたいやな、手伝うわ。」

「うぅん、すぐに済むから、自分でビール抜いて飲んでて。」「あっ、暖簾だけしもうて下さい。」

「わかった。・・・」

「・・・・・」

「・・・入れといたで、・・・なぁ、なんの話か判ってる時は、ちょっと一言、言うてくれたらきっかけに出来るんやけど。」

「なんの話って、さぁどっちですやろ。言い訳が見つかったんか、夕子の運動会の事なんか・・・。」

「・・・あした、夕子の・・・」

「運動会の方ですねんな・・・はい、明日ですなぁ。応援には3人そろて行くつもりです。」

「そうか、あのっ・・・」

「もちろん、お弁当も考えて在ります。」

「そ、そうか、ありがとう・・・ほんなら」

「ほんなら?・・・なんです?」

「いやっ、ほんならやなぁ・・・」

「ほんなら、帰るんですか?・・・青田三郎、きをつけ!敬礼!」

「ハッ!」

「報告!始め!」

「はい、わたくし青田三郎、嫌疑の掛かって居ります一件につきまして弁明をさせて頂きます。」

「着席!」

「ふ~っ、・・・事の起こりはやな。」

「ほんま手間の掛かる人やわ。慌てんでもええから、はいっ、ビール飲んで、落ち着いて話してください。・・・サブちゃんの言う事、信用しようって気持ち、まだまだたくさん残ってるんやで。」

「そうか、嬉しいわ。」「どこから話したら・・・お前が聞いたって云うお客さんやけど、その人かどうかは判らへん。もしかしたら、そうかも知れん。お客さんやし滅多な事も言われへんけど・・・」

「もう、まどろっこしいわぁ。今は二人しかい居てへんし、なにを言うても、ここだけの話やんか。たぶん、そのお客さん本人の話やと思います。確か、中井さんって人で、街中に大きな土地を持ってて、戦後、えらいお金持ちになったそうです。この人が、来る度に、とは言うても3回ほどですけど、『飛田に、足を洗わせて引き抜いてやりたい子が居てるんやけど、これがほんまに、ええ子やねん。本気で惚れてしもうた。』って、ノロケてましたんや・・・それが、このあいだ、今のところ、それっきりですけど、『あいつ、飛田の女やのに亭主がいてたんや。信じられへん話やろ。そんな事って在るんか?』どう思うって言うから、今は、時代が変わりましたよってに、そう言う事も在りますやろ。って言いましたんや・・・ふぅ・・・。」

「洋子お前、すごいなぁ。これが台詞やったら・・・漫才師でも目指したらどうや。」

「あほ!大事な話してるのに。だいたい、あんたの話やねんで。」

「あっ、いや、すまん。けど、その子が琴美で、その亭主が俺やったって話やろ?」

「そうです。」

「ほんなら、もう解かってるやないか、俺のしゃべる事、なんか残ってるんか?」

「なにを言うてるの。なんでそうなったかを説明せんかいな。」

「おぅ、そ、そうやな・・せやけど、洋子はなんで、その子の亭主が俺やと判ったんや。」

「・・・判った?・・・ほな、この話は事実や言うこ事ですのんか!」

「うわっ、・・・びっくり・・・お前のその迫力、確実に受け継がれてる。心配はいらんで・・・。」

「そんな心配してない!、ちょっとは真面目に考えてや!」「・・・ほんまに・・・あのなぁ・・・私の亭主は、ここら辺では有名な猛者で、やくざも一目置く元警官で、今は骨接ぎやってる人っ言われて思いつくのは?」

「…俺。」

「せやろ~!」

「はいっ!・・・もう、あかん。お前、最初は慌てんでもええって言うてたやないか。ふ~っ、これ以上は堪忍や・・・俺の心臓、もう喉まできてる。」

「くち開けてみぃ。いっそ外に出したろか。」

「え~っと、あれは確か・・・って、ほんまにどこから話をしたら・・・」

「こないだは、事の最初からはなすって言うてたやないの。」「だいたい、この話については筋が読めてるんやから、なんであんな仕事を始めたんか、最初から説明してみなはれ。もしもの話ですけど、納得できて、誤解がとけたら、夕子のためにも帰りますよってに。」

「そうかっ、ほんまか・・・頑張るわ。」

「頑張るって・・・誤解やったら解けるかも知れんけど、誤解や無うて、ほんまの事は誤解の解きようが在りませんで。」

「いや、まったくの誤解やねん。洋子の勘違いや。」

「ほな、あれは・・・まぁ、よろしい。聞いてからです。いっさい誤魔化しは認めませんよってに。」

「判った・・・。まず、第一号のお客さんは源氏名を春駒って云う姉さんで、警官の時から顔には見覚えの在る人やった。お前が見て勘違いをした時もこの春駒やったんや。」

「あれが、勘違いですか?いっそ見間違いで、目が悪いんや無いかって言うて欲しいわ。」

「・・・もちろん始めのうちは、仕事柄、腰の調子がって事で、整体と指圧やったんや。それがある日、今日は特別に調子が悪い言うて、もっと強くとか、そこは弱くとか、もうちょっと右やとかやってるうちに、俺の手を持ってやなぁ・・・そこは春ちゃんあかんやろって言うたんやけど、別料金払うからお願いってなぁ・・・金が欲しかった訳や無いけど、話を聞いたら気の毒に思えて・・・そこに俺のサービス精神がプラスされてしもうてなぁ。それからや・・・お前が見て勘違いしたのが5回目くらいの時やった。」

「回数なんか関係ありません。おまけに、なにがサービス精神や・・・5回目やて?・・・ほんまにぃ・・・ほかにも、それらしい人、何人も来てたやないか。」「だいたいあの場面を見て、勘違いは無いやろ。誰が見てもそうとしか見えるかいな。」

「たしかに、でも、違うんや。・・・それでな、2、3回した後、同じ思いの子はたくさん居てる。お願いやからって・・・他の子を連れて来てなぁ。割り切ったらええ商売になるやんかって頼み込まれたんや。もう一度言うけど、金の問題や無うて、一人に出来て・・・って言われるのが俺には辛かったんや。」

「わかったような事言わんとき。スケベ心は無かったと言うつもりですか?。なかなかの二枚目や言われて、鼻の下伸ばしてたんですやろ。」

「ちがう、それこそ誤解や。あくまでも仕事なんやって何べんも言うてるやないか。まぁ、警官やったのが幸か不幸か、けっこう顔を知ってる子が多かったんで、ああ、あの人やったらって、口コミで広まったらしいわ。そこには中々の二枚目言うのが役に立ったみたいで・・・自分で言うのもなんやけど・・・」

「やかましいわ!役に立って良かったって自分で認めてるやんか。」

「それも、違う。仕事と考えた上での事や。仕事なら繁盛して喜ぶのは当たり前やろ。なぁ俺の事、信用する気持ちはたくさん残ってるって言うてたやんか・・・とにかくそんな中の一人が、琴美さんや・・・ふぅ、やっとここまでたどり着いたわ。」

「ほんまやね、信用する気持ちの事です・・・実は、状況はどうあれ、サブちゃんの仕事場、勝手に覗いたんは悪いと思うてます。それにな、確かにあんたの言う通り、あんたは服は着てました。ちゃんと覚えてます。けど、どない考えても、これからって状況にしか・・・たどり着いたところで、今日はこのへんにしときましょ。明日は夕子の運動会ですわ。それこそ、こっちは勘違いしたらあきませんで、主役は夕子で、サブちゃん、あんたや無いですから。」

「う、うん、でも、ここでええのんか?」

「ことの始まりはまぁ判りました。たどり着いたここからさきは、だいたいの察しはついてますよってなぁ。」「人助けのつもりでって云う言い訳まで判ってますわ。」

「そこまで判ってるんやったら、納得出来たと言うことで、夕子のためにも帰って来てくれたらええのと・・・」

「あほ!、納得なんか出来ますかいな。根本的な解決も気持ちの整理も全然や。」

「そんな、なぁ、洋子・・・」

「汚い手でさわりなっ!」

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夕子、西成区、花園町在住。 第30話         (運動会当日 前編)

 「ハッハッハッ~。天気まで俺の味方や。太陽とゴールテープと映画までが俺に手招きしとる・・・きょうは家族の期待と、なによりも自分の目的のために全力で頑張るんや。」

「・・・・・」

「なぁ、夕子。一言でもなんか言うてくれんと・・・寂しいやんか・・・ええ一言を期待してる分けでもないんやから・・・」

「・・・いや、文句の付けようが無かっただけや。じゅうぶん意気込みも伝わってきたし、将来、スポーツ以外にも道は在るかも知れんと思うてたんや・・・ただ、あんまり、あほらし過ぎて・・・それに、サンダ対ガイラはおとといの金曜で終わったはずやで。」

「・・・うそっ・・・も、もしも、それがホンマの話やったら、運動会終わるまで教えて欲しなかったわ・・・夕子、嘘でもええから、嘘やって言うてくれ。」

「嘘や。」

「…あかん、ほんまの話や~」

「・・・ややこしい奴っちゃなぁ。」

「・・・いや夕子、ありがとう。前もって判って良かったんや。新たな目標を見つけたらええねん。たしか鶴見橋でガメラの新作をやってるはずや。」

「バク転以外にも、いや、それ以上やな、立ち直りの早さ、こっちは死ぬまで、真似できんと思うわ。」


 「夕子、速かったな~。勝つのは判ってたけど、ぶっちぎり方に磨きがかかってきたやないか。昼からはリレーや、個人戦とは違うけど夕子やったら楽勝や。さぁ、しっかり食べて昼からに備えるんや。」

「あんた、騒ぎ過ぎです。ゆうべ言いましたやろ、主役は夕子であんたや無いって。」

「お母ちゃんの予想的中、お父ちゃん、お店に行ったんやな。」

「こう云う事には、期待を裏切らへんのがお父ちゃんです。」

「どんな事でも、俺は期待に答えてるつもりやで。」

「女の人のお願いにはそうかも知れませんなぁ。お父さん優しいから・・・さぁ、お腹一杯食べなさいよ。・・・あんた、どうしたんや、喉に詰まったんか、咽てからに・・・」

「・・・なんやお母ちゃんて、底の深い迫力を感じる時がある・・・今も、そうやった。」

「うっ、うん・・・うん。」

「はいお父ちゃん、お茶。」

「・・・・・ふ~、死ぬかと思うた。」

「何を大げさな事、言うてますねん。はい、残さんと食べてや。」

「じゅうぶん食べてるで、昼からの事考えたら、あんまり食べ過ぎてもあかんねん。」

「おう、そうやなぁ。夕子はどないしても負けへんとは思うけど、残りはお父ちゃん、頑張ったるわ。」「それより、昌幸のやつ大丈夫やったんか?、人間ピラミッドで崩れた後、保健室に運ばれとったど。」

「ちょっと頭、打っただけやろ。頭良うなってええんちゃうか、悪うなる心配は無いねんし・・・なにより、今日一日にかけるマサは、本気度全開や、かりに怪我しとっても、絶対に勝ちよる。一年を運動会のために生きてるような奴やねんから。」

「お父ちゃんには解かるで、そう云う奴に悪い奴はいてへん。根性も在って男らしい、けど、人には優しいって奴なんや。」

「夕子がもう一人知ってる言うてた二人が揃いましたんやなぁ・・・けど、気にはなりますがな、夕子、藤川君の様子、ちょっと見て来てあげなさい。」

「うん。絶対、大丈夫や思うけど。」

 「・・・サブちゃん、誰にでも優しいのも考えもんでっせ。」

「俺、この一件片付くまでに胃を壊しそうやわ。」

「そんな冗談言えてるうちは、まだまだ大丈夫ですわ。覚悟しときや・・・」

「・・・う、う・・・」

   後編へ・・・

夕子、西成区、花園町在住。 第31話         (運動会当日 後編)

 「おばちゃん、あっ、おっちゃんもこんにちは・・・藤川君、大丈夫・・・ですか?」 

「お~い・・・様子を見て来てあげなさいって言われて、心配なんかしてへんのに来てくれてありがとう。・・・夕子の予想通り大丈夫や。」

「おばちゃん、うち帰るわ。」

「昌幸!なんて言い方するのこの子は・・・夕子ちゃん堪忍やで。へんな倒れ方したやろ。あれで左の肘がなぁ、反対の方に曲がってしもうたんよ。そうとう痛いはずやのに保険の先生がなんて言うても、大丈夫や医者なんかいらんって・・・とりあえず応急処置と痛み止め飲んだんやけど・・・。」

「マサ・・・あんた・・・おばちゃん、お父ちゃん呼んで来る!」


 「昌幸、おまえ男やな。大の大人でも転げまわるような痛さのはずや。幸い関節も柔らかいから大事には至らんで済んだ。もう大丈夫や心配いらん。けど、無茶したらあかんぞ、将来のオリンピック選手なんやろ?意地と根性も大切やけど、自分と自分の体も大切にせんと大きな夢にはたどり着かれへんのや・・・覚えとけ。」

「はいっ!…有難うございました。」

「おう、・・・藤川さん、昌幸君はもう心配いりません。しっかりした息子さんや。」

「青田さん、お礼の言葉もありません。有難うございます。本職の人に診てもらって、あの・・・」

「奥さん、気にせんといて下さい。ご主人とは子供の時からの付き合いで、おまけに藤川さんの方が2つ上の先輩ですやんか。困ったときはなんとやらで。」

「わかりました・・・ほんとうに有難うございます。」

「サブちゃん、ありがとうな。俺って口下手で人見知りやし・・・」

「兄ちゃん、ええって。気持は十分、なっ。」

「昌幸、辛抱したんや、昼からも期待してる。絶対勝つんやぞ、頑張れ。」

「はい、絶対勝ちます。」


 「お父ちゃん、有難う。・・・それに、カッコ良かったわ。」

「うん?、そうか・・・。」


 「昌幸君どうでしたんや?。急にお父さんまで連れていくから、骨折でもしてましたんか。気になって・・・でも、私まで、ヤジ馬みたいに行けませんしなぁ。」

「お父ちゃんのおかげで大丈夫や。うちお父ちゃんの事、思いっきり見直したわ。」

「思いっきりですか?」

「そう、思いっきりや。」「お母ちゃんの最大のライバルは飛田のお姉ちゃんや無うて、夕子やって言うくらい、思いっきりや。」

「なぁ夕子、お前、お父ちゃんの事、褒めてくれてるんやろなぁ。」

「それも、思いっきり当たり前や。」

「あんたがややこしい事するからです。素直に喜んどいたらよろしいがな。」

「うん、そうしたいところなんやけど・・・」

「なんにしても良かったですわ。昼からも頑張れるんやね。」

「痛い目したんや、絶対に勝て言うたら、絶対勝ちますって言うとったわ。」「あっ、せやけど、リレーは決勝で夕子とぶつかるんやないんか?」

「マサの極秘調査によると・・・って、赤組どうしやから当たり前なんやけど、マサとは一緒に走らへん。マサが1組目でうちが3組目や。」

「なるほど、昌幸の言葉が自信にあふれてたんは、そう云う事やったんか・・・」



 『ただ今の総合リレーの結果…3年生1組目…1着・赤組-藤川 昌幸 君・・・・・2着・・・・・・』


 「よっしゃ~!」

 


夕子、西成区、花園町在住。 第32話           (運動会その後)

 「俺、去年のオリンピック観て、体操選手にあこがれたんやけど、今は柔道もええなって思うてるんや。」

「絵に描いたように単純な奴っちゃなぁ。」

「肘をはめてくれたんもそうやけど、言葉のひとつひとつが俺にはグッときたんや。」

「うちも、あの時のお父ちゃんには、確かに惚れ込んだわ。でも、それは、お父ちゃんにで、柔道選手や無いやんか。精神的な事なんやから、目指すんは体操選手でええのとちゃうのん。」

「なんて言うんか、おっちゃんの言葉はもちろんやけど、持ってる雰囲気って言うんか・・・いろんな意味で柔道やってたから見に着いたんとちゃうんかなぁ。夕子はどう思う。」

「マサ、あんた今日は一から十まで真面目な雰囲気が漂うてるなぁ。」

「俺はいたって真面目や。中学へ行ったらどうせ柔道習うしなぁ、体操クラブ行くのを柔道に変えたらええ・・・それに・・・中学生になるまでに、お前よりさきに強くもなれるはずやし・・・」

「アホ、中学で柔道習うのは男子だけや。」

「えっ、ほんまか?…ほんなら、夕子は?・・・空手か、合気道か、ひょっとしたら相撲とか・・・。」

「・・・疲れる奴っちゃなぁ、そのかわりボチボチ本来のマサに戻って来たみたいや。けど、そんなもん習うわけ無いやろ。だいたい女子はうちだけや無いんやで。」

「へ~ぇ。お前やっぱり、自分でも自分は普通の女の子とは違うと認めてるようやなぁ。・・・痛った~・・・う~っ、本気で蹴ったやろ・・・お前、すでに凶暴性ではキングキドラを超えてるど・・・手加減してや~っ。」

「あのなぁ、うちはマサ以外には、間違いなく可憐な乙女で通ってるはずなんや。」

「それは、間違い無く、間違うてるで。夕子の勘違いや、間違い無い。」

「マサ~っ!」

「うわっと、危っぶなぁ~。1日に2発も食ろうたら命に関わるやないか。なぁ、よう聞けよ、ガメラなんか怪獣やのに子供の味方なんやで。夕子も絶対、観に行った方がええ、人間同士の絆や親子の愛情、友情の大切さ、特にここやな。それと真の正義とはなにかが・・・なぁ、最後まで聞いて・・・。」

「最後からしゃべり!」

「え~っと、せや、女子は普通の体育とは別になにを習うんや?」

「実はうちも、良くは知らんのやけど、上級生の話では、ダンスを創作したり、発表したりするダンス活動とか言うとった。」

「えっ、たんす担ぎ?・・・」

「ダンス活動や!」

夕子、西成区、花園町在住。 第33話  (おっちゃん軍団いらっしゃい…)

 「・・・森川さん、藤島さん、山本さん、北村さん、公務員のおっちゃん軍団いらっしゃい。」

「なんか、ややこしいて疲れる挨拶やわ。いつも通りに戻してくれるか。」

「せやろ、うちもそう思うし、助かるわ。」

「いやいや、俺は一人ずつ順番に、顔を観ながら名前呼んでもらえて嬉しかったで。座りかたによって、呼ぶ順番も替わるって事や。」

「まぁ、人それぞれやろ。俺は短い方が好きやけど、若女将の気分で決めてくれたらええ。」「それより、まずは土手焼きで一杯や。」

「せやな。」

 「はい、お疲れ~」

「なぁ、森川のおっちゃんって、ゆうべも来てくれてたやん。お店的には、毎度おおきに~なんやけど・・・」

「なんや、気ぃつこうてくれてんのかいな。そんなん、自慢やないけどおとといもや。しかも嫁はん連れで。うちは二人だけやから、週に1、2回は晩ごはん自体をここで済ますねん。それに俺の場合、地下鉄降りて歩いてるうちに、気が付いたらここに座ってる事まであるわ。」

「森川さん、それ、もう病気ですやん。」

「病気って・・・、まぁ、いつやったか、考え事もしてたけど、ほんまに家とここがややこしぃ成ってなぁ、あれ、うちの嫁はん、いつの間にこんな若こうてべっぴんになったんやろって思うたことも在ったわ。」

「いやいや、それは、完全に病気ですわ。」

「なんて言うか、不思議な事に、いっぺんここに寄ったら、家までの帰り道を思い出せるんや。」

「えっ、それまでは帰り道忘れてるっ事なん?・・・そしたら、森川のおっちゃん、ほとんど毎日来てくれてるんや。」

「せやな、6日のうち、5日ってとこやな。そこに、山ちゃんが3日くらいや・・・なっ?」

「俺まで、病気に聞こえますやんか。」

「なんや、うちの店、病人の集まりでしたんか、うちは医者やありませんえ・・・はい、これ、イワシ炊きましたんやけど、みんなで味見して頂だいね・・・包んどきますよって、森川さんは持って帰って、奥さんにも食べてもらって下さい。」

「ありがとう、いつもスマンなぁ。こないだの炊きこみ御飯も美味しかったで。」

「そんなぁ、奥さんにはお世話になってますから・・・この間も、ほら今年から体育の日って祭日が出来ましたやろ。その時の区民体育祭のお手伝いでも、奥さんがいちばん頑張ってはりましたわ。」

「新しいもん好きやねん。」

「・・・ちょっと違うような・・・」

「せやな・・・とにかく、賑やかなんが好きやねん。特に子供が集まるようなとこには喜んで行きよるわ。」

「子供さんにあげる、飴やお菓子まで用意してはりますもん。よっぽど子供が好きみたいですわね。」

「好きなんはほんまやけど、出来んかった事がよっぽど残念やったんや思うわ。」

「こればっかりはなぁ、うちなんか3人も出来た替わりにみんな女の子や。1人でええから男の子も欲しかったで。」

「性別かぁ、それも在るわな。実の事言うと、うちにも出来たんやけど、流れてしもうたんや。その後それっきりでなぁ。・・・あかん、しんみりしてきた。今日は早よ帰って、嫁はんと飲み直すわ。ママ、お勘定しといて。これ空けたらかえるよって、みんなはゆっくり飲んどいてや。」

「そうか、俺はもう一本飲んでかえるわ。」

「北さん、俺らも付き合うで、なぁ山ちゃん?・・・」

「はい。僕はこんな時間に帰っても仕方ないんで・・・。」

「森川さん、おおきに。これ、云うてたイワシ、包んどいたから。これをおかずに奥さんと飲み直して。」

「ありがとう。ほな、みんな、ゴメンやで。」

「お疲れさん。また来週。」

「さぁ、こっちも残ったメンバーで飲み直しといこか。」

夕子、西成区、花園町在住。 第34話     (今日も夕子来てたんか…)

 「今日も夕子、来てたんか?」

「えっ、サブちゃん会うてませんのか?。それに、こんな中途半端な時間に来て・・・」

「うん、夕子が帰るまでに出かけて、飲み友達と一杯飲んでたからな・・・満席やったら遠慮しょと思うたけど、このくらいやったら勘弁してや。おふくろが起きてる間に帰るようにしてるんや。せやないと、鍵、持ってへんしなぁ・・・。」

「それは良ろしいけど、まだいろんな話は出来ませんで。」

「それも解かってる。それに、話の先は見えてるんやろ。俺もちょっとは、気が楽になったわ。」

「図に乗って、甘えたらあきまへんで。はい、とりあえずビールと土手焼き。」

「おっ、有難う。どうや、お前も飲まへんか?」

「・・・今日は結構、飲んでますんやで。でも、まぁ一杯は付き合いますわ。」

「ほんまや、ほとんど食べるもんは残ってないわ・・・忙しかったんやなぁ。」

「まぁ、あした休みや云うのも在りますけど・・・適当に盛り付けときます。あっ、せや紅鮭焼いたげるわ。」

「うん、有難う。なんでもええ、在るもん片づけるで。」

「はいっ、シャケはもうちょっと待ってや。中田さんらも、これ残りもんで悪いですけど食べて下さい。」

「ああママ、いつもスマンなぁ。そうなったら、ビールもう一本貰わんとな。マー坊はど~する?、熱カン付けてもらうか。」

「いや、冷でええわ…ママ、冷で一杯。」

「はい、ビールと冷とね・・・これでお勘定で宜しいやろ。暖簾はしまいますけど、あとはノンビリしていって下さいね。」「はいな、サブちゃんシャケ焼けましたで。もう、なんにも残ってませんわ。」

「俺も、もう一本もらうわ。あとで、片づけもん手伝うし、お前も一息ついたらどうや。」


 「助かりました。片づけどころか掃除までさせてしもうて。土曜日やからよけいに助かりましたわ。」「どうします、もう一本空けましょか?。そろそろお義母さん寝る時間やと思いますけど・・・」

「そやなぁ、二人で一本飲んでくれるか?・・・それで帰るわ。」

「・・・そう…よろしいなぁ・・・はい、どうぞ・・・」

「うん・・・おっと、俺にも注がせてくれるか・・・・・まぁ、お疲れさん。」

「・・・サブちゃん、琴美さんの話ですけど、私の予想通り、亭主のふりをして欲しいと言われましたんやろ?」

「その通りや。亭主がいてると何回言うても、信じてもらえんから言うて頼まれたんや・・・ええお客さんやったのに、気に入られ過ぎて、仕事辞めてワシの嫁はんにってなぁ・・・後は洋子、お前の言う通りの展開や。」

「なんて言うか・・・よくある話では無いけど・・・まぁ読みやすい流れの話やったからねぇ。」

「飛田みたいな処では、ちょくちょく起きる事らしい。たしかに十年前やったら、亭主がいてるなんて、在りえん話や。けど、買春禁止法が出来て、時代も変わった。とは言うても、やっぱり亭主が・・・籍の入った亭主がいてる女なんか、まずおらんやろ・・・ただ、一番大きな違いは、辞めたかったら、辞められるようになった事や・・・出来る事なら・・・そら、辞めたいやろ。」

「あんたの言いたい事も想像はつきますわ。」

「マッサージに来てるうちに、この話を聞いたんやけど、俺なぁ、最初のうちは、悪い話と違うやないか・・・って言うてたんや。そら、親子以上に歳も離れてるし、好みのタイプでも無いかもしれん。それでもこんな商売、いつまでも続けてられへんしなぁ・・・」

「琴美さんの人生は、琴美さんのもんですから・・・。」

「そうらしい・・・ええお客さんやけど、それは仕事やからで、仕事でなかったら絶対厭やって相手とは一緒にはなられへん・・・と。なにより、自分が言うのもおかしいけど、こう云う処に出入りする人は信用出来へんとも言うてた。なるほど、女心なんやろなぁ。」

「女ごころ、ですか・・・男の人かてそうですやろ。私は、人として当たり前の事やと思いますわ。なにより、因果な商売ですなぁ、女やったら、一番やりとう無い仕事ですやろに・・・女の私にはよく判ります。」

「戦争で父親を、伊勢湾台風で残った家族を失くしてしもうたらしい・・・それで、頼れる親戚も居て無いんで、転々としながら此処へ流れてきたそうや。同じような理由や境遇の子がたくさん居てるとも聞かされたわ。」

「すごい被害が出ましたもんね。私らには、同じ台風でも、その後の第2室戸の方が怖かったですけど・・・なんにせよ、そんな話を聞かされてから頼まれたら、サブちゃん、あんたには断る事なんて出来んかったやろね。」

「せやねん。例のマッサージと一緒や。」

「アホ!、それとこの話を一緒にせんとき!」

「うわっ・・・急に怒って大きな声を出さんといてくれ・・・本気でビビるやないか。」

「マッサージなんか無い話で、私が出ていったりして無かったとしても、琴美さんの旦那さんのふりをしてあげたらよろしいやんか・・・それに関しては、私は怒ったりしませんで・・・たぶん・・・」

「洋子…お前やったらそうやろな・・・」

「せやけど、あの胡散臭いマッサージだけは、どない考えても仕事やと言いながら・・・アホっ!・・・思い出したら腹が立ってきたわ・・・ほんまに・・・」

「あの~・・・では、そろそろ、母が待ってますので・・・ご馳走さま・・・・」

「・・・・・」

「お休みなさい。」

「・・・アホっ。」

夕子、西成区、花園町在住。 第35・36話     (夕子、悪行の数々…)

 「夏休み、運動会と終わってしもうたからな、次は冬休みと正月へまっしぐらや。どんな障害にも負けへんで。」

「アホ、どんな障害が在るって言うねん。」

「昔から、『もう、いくつ寝ると』って言う言葉が在るやろ。嬉しい事はやって来るまでに、時間もかかるけど、幾多の困難を乗り越えんとあかんのや。」

「・・・マサの言う事、最近、無理が目立ち過ぎやで。」

「少なくとも、俺はそう解釈してるんや。なっ、暇やと時間がたたんやろ・・・」

「ようするに、暇で退屈してるって事や・・・うちなぁ、退屈したら、猫の髭切りを思い出すねん・・・あんなおもろい遊び、ほかには在りえへんもんなぁ・・・長いこと、して無いわ。」

「お前あの頃、きんちゃく袋、いつも持ち歩いとったもんな。近所の猫、夕子を見たら逃げ出しとったで。もう、髭のある猫が居て無いようになってやめたんやろ?」

「アホ、違うわ。猫って、髭が在るから、狭いとこでも通れるか通られへんかが判るんやって、おばあちゃんが教えてくれたからや。猫って髭が無いと、不安になって、ごっつい困るらしいわ。」

「お前、かわいそうな事、しとってんな。」

「言わんといて。それに気付いたからやめたんや、もう二度とせえへん・・・けど、あんなおもろい遊びは、ほかに無いのも事実や・・・きんちゃく袋から頭を出した瞬間、このタイミングが命やねん。紐をキュッと絞めるやろ、あとは・・・」

「手も足も出えへん猫の髭を切るわけやろ。せやから、悪魔でも思いつけへんようなって言うんや。お前、ほんまは、矢印型のしっぽ、生えてるんとちゃうか?」

「生えてへん!。けど、矢印型のしっぽはおもしろいわ、マサにしたら久々のヒットやで。」

「せめて、ツーベースにしてくれへんか。」

「マサ、ど~したん?…今日、絶好調やん。」

「へっへ~、調子に乗ってるやろ?」

「波に乗ってるや!…調子に乗ったらあかんやろ、アホっ・・・だいたい誰のせいで、幼稚園辞めさせられたと思うてるねん。」

「えっ、それは・・・俺も悪いとは思うけど、自業自得というか・・・普段からのやな・・・おこないが・・・」

「あのなぁ、普段からヤンチャやったんは認めるけど、最後の実行犯はマサ、あんたやで。マサが幼稚園の池の鯉を捕まえて、まさみ先生にプレゼントしたいけど、手掴みでは無理やねん言うて、ずぶ濡れになって来たから、うちは、『それやったら、池の栓を抜いたらええやん』って言うただけやんか。」

「・・・池の栓抜くなんて、誰に教えてもろたんやって聞かれたから・・・夕子ちゃんにって・・・素直に答えただけやん。それに、あんな怖いあさみ先生、初めて見たし・・。」

「アホっ、完全に協同犯にされてしもうたやんか。せやのに、園長先生まで家に来て、もう来させないで下さいってやなぁ・・・なんで、うちだけやねん?。二人一緒やったらまだ解かるけど・・・。」

「そこが、俺と夕子の普段からのおこないの違いや。外でボール遊びやって、一旦根性に火が付いたら、誰がど~言うたって中へは入らへんし、歌も好きな歌しか歌わへんし、ウサギ小屋に爆竹は放り込むし、そこら中にビー玉の穴掘るから、みんな、つまづいて怪我はするし・・・言いだしたらきりが無いやんか。それにやで、持って来たらあかんって言われてるベーゴマ詰め込んで、何回もポケットに穴を空けるような奴、男でも珍しいで。また、あんだけ膨らんでたら、そら見つかるわ~、しょっちゅう怒られてたやないか・・・ふ~っ、息すんの忘れとった。」

「あんた、次から次へと・・・しょうもない事、よう覚えてるなぁ。」

「そんなん、まだまだ在るで、だいたい最後の池だけでも色々あるやん。寒い日に、『池に氷が張りましたけど、絶対に乗ったらいけません。』って先生が言うた5分後にはハマってたやんけ。」

「あっ、あれはアカン。あんな事言うたら、乗りなさいって・・・うちには聞こえてしまうんや・・・」

「・・・まぁ、あれは俺もそう聞こえたわ・・・お前が早すぎただけで、十分後には俺がハマってたと思うけど・・・ちがう、ちがう・・・お前、いろんなモン捕まえてきては、池に放してたやろ・・・カメ、カエル、この辺まではまだ良かったんやけど、ザリガニや、ザリガニ・・・大漁や言うて、百匹以上は放り込んだやろ・・・腐ってしもうて、幼稚園の外まで臭かったやないか。」

「・・・あれか~あれなぁ・・・いつもやったら、どっちかは優しくしてくれるはずやのに、あの時はだけは、さすがにお父ちゃん、お母ちゃん両方から無茶苦茶に怒られたわ・・・たぶん、今までで一番やった・・・」

「その後、全滅した池を綺麗にして、鯉まで飼うてたのに、あれをやってしもうたんや。」

「うちかて、池には懲りてるから、手伝う気も無かったんやで・・・ずぶ濡れのマサ見てたら、ふと思いついてしまったんやけど、あんたも素直に実行せんでもええのに・・・」

「素直なんが俺のトリエやから、夕子の名前まで、素直に言うてしまったんや。」

「・・・そうか・・もうええ。解かったわ。考えてみたら、うち、結構ひどい事してたんやなぁ。」

「そんな謙遜せんでも、結構どころか、ごっついひどい事いっぱいやって来てるで、俺が証人や、心配いらん。」

「なにが謙遜やねん。なにが心配いらんねん。・・・いつか、マサがおる事自体、うちの心配になる時が来そうな気がする。」

「その時は、俺が嫁はんにもろたる。それも心配いらん。」

「今のうちに、将来の不安を取り除くって事も大切やと思わへんか・・・?」

「そろそろ、ひどい事をする事自体、やめるべきではないかと、僕は思うんですけど・・・。」

「アホっ。このタイミングでそんな風に言われたら・・・まぁ、今日のところは、そう云う事にしといたるわ。」

「よかった~。やっと、いままでの悪行の数々を悔いて真人間に生まれ変わる時が来たようやな。」

「・・・もう、怒る気にもならんけど、ええかげんにしときや。だいたい本気でビビってるんでも無いくせに、ちょくちょくビビってるような事言うのもやめとき。人が聞いたら本気にするやんか。」

「半分以上は本気やで。喧嘩も夕子とは6回やって5敗1分け、謝ってるのに一方的なボコボコがプラス1回なんや。」

「アホな事言いな。それに、一方的なボコボコってなんやねん。」

「喧嘩は、何回やっても負けてるんやけど、1回だけ引き分けが在るんや。ただ、あの時・・・あの蠅たたきが無かったら、やっぱり負けてたんやと思う・・・それを卑怯モンとか言うて、謝ってるのに後でボコボコにしたやないか。」

「あんた、しょうもない事は、ほんまによう覚えてるなぁ~。うちも思い出したわ、あれはほんまに痛かったんや。マサの前では泣けへんかったけど、家に帰って鏡みたら、うちのほっぺた網目になってたんやで。」

「それは悪かったと思うてる、けど次の日、おんなじ目にあわせたる言うて・・・お前のんは2日で消えたけど、俺は左右両方、3日間消えへんかったやないか。」

「・・・それも思い出した、ゴメン・・・けど、ほんまによう覚えてるなぁ・・・それだけ痛かったって事やろな、マサ、ほんまにゴメンやで。」

「実は、いまでもその蠅たたきが残ってるんや。その蠅たたきを見る度に俺の両ほほが・・・痛い痛いとうめき声を・・・夕子、お前はほんまに罪な女や。どうせ、嫁には行かれへんやろうから俺が・・・」

「アホっ!。それを、調子に乗ってるって言うんや!。」

「・・・波に乗りたいです。」

夕子、西成区、花園町在住。 第37話          (マサの目標・・・)

 「なぁ、おとうちゃん。マサの奴あれ以来、お父ちゃんに惚れ込んでしもうて、柔道でオリンピックを目指す事にしたそうやわ。」

「体操選手はどないしたんや?」

「せやねん、あいつ何でも思い込みが激しいからなぁ、それも去年のオリンピック見て、憧れよってんけど、実際なにやっても上手いんやで、器械体操も鉄棒も、うちにも出来へんバク転かて出来よるねん。せやから、お父ちゃんには憧れたとしても、目指すんは体操選手でええやんって言うたんやけど。」

「けど・・・?」

「なんや、言葉一つ一つに重みを感じたとか言うて・・・それにお父ちゃんの持ってる雰囲気が気に入ったらしいんやけど、それは柔道を通じて見に着いたんやないかと、マサには感じられるんやて。」

「嬉しいような、ちょっと、こそばい気もするくらいやけど、それは実際にそうかもしれん。柔道と云う格闘技でありながら・・・なんて言うか、上手くは言えんのやけどな、本気でやればやるほど、独特の世界観が開けてくるんや。」

「今のうちには、ちょっと難しいわ。それでな、柔道選手になって、そのあと警察官になるって云う最終目標が出来たらしいわ。」

「ほんで、警察辞めたら骨接ぎ屋か?。」

「それは判らんわ・・・けど、それでセイカンなんとかを始めたりしたら、あいつとは一生、口きかへん。」

「・・・ありがとう、俺とは口きいてくれて。、なぁ話しを変えよか・・・」

「なんで、警察官なんやろ・・・お父ちゃんはもう、警察辞めてるのに。」

「男の子が憧れる職業のひとつなんや。特に、柔道やってる子には、なおさらやろ。お父ちゃんもそうやった。」

「ふ~ん、そうか、女の子のバスガイドとかスチュワーデスと一緒なんや。」

「そうかもな、夕子もそうなんか?」

「ちょっとだけ・・・いや、あんまり興味ないわ。」

「うん、夕子にはちょっとイメージが違うように思うなぁ。どうや、やっぱり居酒屋の女将か?」

「そんなん、分からへん。せやけど向いてるとは思うで。・・・なぁ、お父ちゃんはなんで警察官を辞めたん?」

「・・・・・」

「いつか聞きたいとは思うてたんや。お母ちゃんに聞いても知らんって言うし・・・なぁ、ほんまにお母ちゃんにも言うてないの?」

「ほんまや。」「・・・2,3秒は目をパチクリさせてたけど、『ああ、そうですか・・』ってな、ただ、それだけやった。なんにも聞かへんかった・・・俺にとって最高の優しさやった事は確かや。」

「聞かれたら・・・どうしてたん?」

「・・・でも、聞かれへんかった・・・それだけや。」「バスガイドでも女将でもええけど、夕子も出来る事なら、そんな女に成って欲しいと、お父ちゃんは思うてる・・・」

「なんにも聞かんと、黙ってられるかどうかは判らんけど、意味は何となく理解出来たと思う。・・・それから、この話はここまでやって事なんやろ?」

「夕子は察しがええから、助かるわ。いつか言う時が来るかもしれんけど、その時は、夕子からではなくて、やっぱり洋子からで無いとあかんと思うてる。」

「それは絶対そうやと思うわ・・・うん、わかった。お父ちゃん、もう十分や。」「最後にこれだけは教えて。警察が厭で辞めたんとは違うんやろ?」

「・・・難しい質問やなぁ。・・・警察官と云う仕事には誇りを持ってたし、それはいまでも全く変わりない。どんな世界でもそうやけど、色々な人が居て、色々な事が起きる。俺は、信念を曲げてまで、自分に嘘をつくようなマネは出来なかったと言う事や。・・・これでどうや、勘弁してくれるか?」

「うん。なぁ、マサが警察官を目指すんは間違うてる訳やないやろ?。」

「当たり前や。」「最初からそう云う質問やったら簡単やったのに。マサに頑張るように言うたってくれ。警察官は遣り甲斐のある、りっぱな仕事やと。」

「わかった、思ってた通りの答えやった。けど、それを聞けて良かったわ。」

「夕子、お前自身がほんまに、ええ奴っちゃなぁ。マサの事も真面目に心配してやってるのが伝わってくるで。」

「勘違いだけはしたらあかんで。あいつ、アホ過ぎて放っとかれへんだけや。」

「ほいほい、そう云う事にしときましょ。」

「お父ちゃん、なんか引っ掛かる言い方するやんか、どう云うつもりかしらんけど。」

「いや、なんて言うか・・・大人になって制服姿を見たらやな、かっこ良さにほれ込むとか・・・」

「無い!」

夕子、西成区、花園町在住。 第38・39話    (もしもし青田整骨院…)

 「もしもし、青田整骨・・・」

「あっ、サブ…いえ、先生…春駒です。あした、私と紫ちゃんとお願いできますやろか?」

「え~っと、いや、あしたは午前中からお年寄りの予約が続いてて悪いんやけど・・・」

「なんやのん、またそんな事言うて、午前中は優先してって先生言うてたやんか。もう10日以上も空いてますのに。」

「いや~、ほんま、すいません。」

「ほんなら、いつやったらよろしいの?」

「いや~…今週はもう・・・」

「え~っ・・・私らも忙しいて、疲れがほんまに溜まってますのに。」

「あっ、それやったら、朝は予約が入ってますけど、明日の昼からやったらどうです?」

「昼からでもええんですか?」

「いや、だから、普通の指圧だけになりますけども、それでよければ。」

「えっ・・・そうですか・・・まぁ、仕方ないですわ。昼からやと、2時か、2時半でお願い出来ますか?」

「はい、2時からやったら、ふたり続けてで構いませんけど。」

「紫ちゃんは残念がると思うけど、とりあえず、それでお願いしときますわ。」

「はい、判りました。ほな、あした。お待ちしてます。」「・・・やれやれ・・・」


 「春駒姉さん、確かに疲れがたまってるようですけど、相変わらず忙しいんですなぁ。」

「無茶苦茶ですわ・・・それでも私なんかより、そこの紫ちゃんや琴美ちゃんなんかもっとやと思いますど・・・そこは、ちょっときついですわ。弱くして・・・ふぅ~・・・なぁ先生、私でもまだまだ女盛りやと思てますけど、紫ちゃんや琴美ちゃんのような若い子には出来る事なら普通の恋愛して、普通の男さんと所帯を持って欲しいと思いませんか?」

「もちろん、思いますわ。春駒姉さんかて、まだまだ捨てたもんや無いですやんか。」

「アホっ。解かってるくせに・・・出来る事ならですわ…出来へんから言うてますねん。」

「・・・はぁ・・・」

「疲れた体はこうやって指圧も出来ますけど、ボロボロの気持ちには何の手立てもありませんのやで・・・先生のような人が必要ですねん。誰にでも頼める事や在りませんやろ?。何回か指圧に通ううちに、先生、ええ男やよってに・・・こんな男さんに、と思うたのが最初やった。こうやって先生の手を・・・」

「あっ、春ちゃんそこは・・・」

「ふっ、その時もそう言わはった・・・けど商売としてお願いしたら、お金が欲しかったんや無い事は解かってます・・・でも、それ以上の事はなんにも聞かんと、お願いに答えてくれましたやろ・・・嬉しかった・・・。」

「・・・春駒姉さん、俺は、あくまで仕事と割り切って・・・役に立てるのやったらと思うて・・・。」

「そう云う人や、先生は・・・。それで、今は先生ですけど、警官やった頃のサブちゃんは知ってる子も多いし、男前やったのも覚えてるから、仲の良い子の中で、同じような思いを持ってる子を誘っては連れて来るようになりましたんや。あっという間に口コミで広まってしまいましたけど。」

「姉さんには感謝してます。」

「嘘をついたらあきません、奥さんが出て行ったんもこれが原因に決まってますやんか。」

「・・・それは・・・」

「子供さんかて、女の子やしなぁ・・・実は申し訳ないとは思ってました。思ってましたけど、私らには、唯一とは言いませんけど、楽しみやったり、心の支えでも在ったもんでよってなぁ。せやけど、今日で良く判りました。だいたい私には、これからは電話で予約制にすると聞いた時から、家族の事も考えてやろうけど、薄々気が付いてましたんや。」

「はぁ、有難うございます。」

「ここでお礼は可笑しいですやろ。」

「はぁ、すんません。」

「もう、謝る事もありませんがな。」「これからは、私は、残念ですけどよろしいわ、普通の客に戻ります。私から始めた責任も感じてますしなぁ。だから新しい人も誘いません。せやけど、この後の紫ちゃんにも、その他の人にも、急には無理でも、自分でなんとかして下さいね。多かれ少なかれ、みんな先生に惚れてますのやから・・・特に琴美ちゃんはそこそこ本気やと思います。身寄りの無い子やし、徐々に…旨い事、考えて挙げてくださいね。奥さんには早く帰って来て欲しいと思いますけど。」

「・・・はい、気をつけてやらせてもらいます・・・時間はかかるかも知れませんけど・・・」

「タイミングも悪かったんやね・・・」

「はぁ、カミさんに出ていかれて、これは何とかせんとマズイと思うてた時と、亭主のふりをして欲しいと頼まれたんが重なって・・・タイミングが良かったのか、悪すぎたのか・・・また、その旦那さんがカミさんの店のお客さんで・・・」

「女将さんの耳にも入ってしまいましたんやろ・・・それでは、奥さんかて、帰るどころか、悩みの種が増えたようなもんですやん。」

「とにかく、琴美ちゃんの方の話が本当やって事にと・・・カミさんには後で謝ったら済むやろうと、その時は思いましてん。」

「ところが、そう…うまい事はいきませんわなぁ・・」

「・・・ところが、カミさんんにはお見通しやったみたいで、話を聞いただけで、俺の対応が読めたらしいですわ。」

「それやったらなんで・・・どっちにしても賢い奥さんですなぁ。」

「そうですねん。せやから、琴美さんの事については、あんまり怒られてません。けど、元々のコレが誤解されてしまってるのと、これからの琴美ちゃんへの対応が問題やと思うてるんですわ。」

「それやったら心配なんかいりませんで。琴美ちゃんかて、本気で先生と所帯が持てると思うてる訳が無いのやから。淡い期待ぐらいは在ったかも知れませんけど・・・」「後は奥さんに、何にも無かったとほんまの事を信じてもらうだけの事ですやんか。」

「それが難しいのですわ。それと、琴美ちゃん、本気でカミさんと別れて一緒になれると思い込んでるような感じが・・・出て行ったんもカミさんの方からやし・・・。」

「それこそ琴美ちゃんの淡い期待の現れですわ。私の口から言うのはおかしいですけど、決して本気や在りません。タイミングが良過ぎて、自分のために奥さんが出て行ったと思いたい気持ちは・・・解かりますやろ?・・・なによりも、あれこれ聞きもせんと、頼みを聞いてくれる先生が頼りになって、嬉しかっただけの事ですわ。」「私もそうやけど、これだけの苦労をしてきた人間には、誰が味方で、誰が敵なのかが直感で判りますねん。それと期待とが重なった結果がこれやと思ってやって下さい。」

「そんなもんですか・・・。」

「はい。私ら、法律が変わって自由に成りましたんや・・・だから、世間の中には、好きでこの仕事を選んだと思ってる人もいてますやろ・・・でも、一度こんな仕事に身を沈めると誰かの助けが無いと、自分一人では抜け出せません。私やったら、琴美ちゃんの話、断ったりして無いかも知れません・・・琴美ちゃんの場合は、自分に嘘をついてまで・・・って考えて、先生に思いを重ねたんやないですか。」

「そんなもんですか・・・」

「そんなもんです。」

夕子、西成区、花園町在住。 第40話        (たこ焼きの値上げ…)

 「あっ、おじさんこんにちは。おじゃまします。夕子ちゃんいますか。」

「おう昌幸、頑張ってるか?」

「はい!頑張ってます・・・僕なりに。」

「うん、それでええ。夕子やったら居てるで、さっき帰ってきたとこや…ほら、降りて来よった。」

「マサ、あんた、また宿題も時間割もせんと来たやろ、ほんまに・・・まぁ、上がっといで。ちょっと待ちぃや、宿題はすぐ終わる。」


 「夕子、えらいこっちゃ。一大事やど。」

「・・・いちおう聞いたるけど、どないしたんや?」

「タコ焼きが10円で5個になってしもうたんや。これが一大事と違うたらなにが一大事やねん。いままでは8個やってんど。」

「うそやろ!。いつからやねん。ほんまに一大事や・・・って言うと思うたんか?」

「まて夕子、お前、事の重大さが判ってへんやろ。8個やったら10円だけで辛抱出来るけど、5個になったら20円買わなしゃ~ないやないか。おまけに奇数はあかん、お前が3個で俺が2個になってまうやろ、どっちがお金を出しても結果は同じや。以上の事を総合しても、断固、反対するべきなんや。今こそ弘治小学校の全員が立ち上がる時やと思わんか?。全校生徒でデモ行進を決行するんや。・・・今日は最後まで聞いてくれてるみたいやなぁ・・・。」

「うん。おもろい、引き込まれとったわ・・・もう、おしまいなんか?」

「この辺までしか考えて無かった・・・次はもうちょっと先まで考えとく・・・けど、そのかわり最後まで聞いてや。」

「それは、内容によるわ。でも、確かにタコ焼きについてはマサほどやないけど一大事やからな。8個と5個の違いは大き過ぎるわ。でも、横町だけの話やろ?会津屋はもともと値段が違うけど、萩之茶屋商店街にも鶴見橋にも、花園市場にも在るやんか。」

「南の市場やろ。あそこはもっと先に値上げしとった。北の市場は、夏前にタコ焼きからトコロテンに変えて、そのままや。萩之茶屋のみたらし団子屋は横町と一緒に値上げしよった。きのうからやで、ものすごいショックやった。」

「さすがにマサや、と言うてええのか、どうなんか・・・ほんで?」

「今から、鶴見橋と梅南の商店街に行くんやけど、誘いに来たんや…行こ。」

「・・ちょっと待ち・・・よっしゃ…行こ。」


 「うしろ乗るか?」

「うちも自転車で行く。」

「喧嘩したら、歩いて帰らんとあかんからやろ?」

「あんたが、な。」

「・・・今日の場合、会津屋はほっといて、梅南から鶴見橋の順番で行く。もしもの時は、その後、今宮戎を目指すつもりや。」

「気合十分やな。マサ、この頑張りを他の事にも発揮したらどうやねん。」

「そら気合も入るで。たこ焼きは、お好み焼、焼きそばと並んで永遠のベスト3や。その中で、毎日こずかいで食べられるんはタコ焼きだけやないか、それが、10円と20円ではえらい違いやんか。」

「こう云う事には説得力あるなぁ・・・うちのベスト3にはアイスクリームが入るかも知れんけど。」

「夕子もまだまだ甘いな。ええか、総合順位のベスト3は不滅なんや。けど、タコ焼きやお好み焼きを食べ終わったとたんに、芳月のアイスクリームが1位に変るんや。これこそ総合順位が状況順位に変る瞬間やねん。」

「スゴっ・・・マサ、先生と呼んでええか?」

「先生でも師匠でも、好きなように・・・なぁ、最初にタコ焼きって言うた時に、『タコ焼き云うても、お前を焼くんとちゃうで』って、ごっつい言いたかったのに、ぐっと我慢したんや・・・正解か?」

「アホ!…ぐっと我慢したんやったら、最後まで我慢しとき!・・・結局、言うてしもうたら一緒やんか。たしかに、もう怒る気にはなれんけど。」

「正解やったなぁ。あのまま言わんと終わったら今日、寝られへんかったとこや。」


 
 「ん~~。どこもかしこも値上げしとるやないか。話が出来てるんやないか・・・結論は5個10円がええ方やと言うことや。」

「なぁマサ、あんたブツブツ文句言いながら、行くとこ行くとこ全部でタコ焼き買うて食べてるやんか。うちはもうお腹一杯やで。」

「値段だけやったら、買わんでも判るけど、せっかくやのに、味見もせんといかんやろ。その上で、近所の横町が5個10円で、値段も味も一番やと言う事が解かったんやないか。やっぱり食べるモンは花園町や。」

「せやな、うちの周りの大人も、みんな同じこと言うてるわ・・・大人の一番は土手焼きみたいやけど。」

「えっ、そうなんか?・・・ベスト3の残り二つは?」

「串カツとホルモンらしいわ。」

「お好み焼はどこにいったんや。大人と子供の違いと言うより、夕子の情報は酒飲みのおっちゃん限定やろ。」

「…うん。これはマサの言う通りやろな。年齢性別順位みたいなもんが在るような気がするわ。」

「そうやで、総合順位は不滅のはずや・・・どうや、こずかいの残りも少ないし、タコ焼きで腹は膨らんだし、仕上げは芳月しかないやろ。お腹一杯でも食べられるはずやで。」

「うん、うん。今の一位は、絶対に芳月や。二位もたぶん冷やしあめ…かラムネやわ。マサの言う通り状況で順位が変わったわ。マサあんた、こう云う事はすごいなぁ。あとは晩御飯がちょっと心配やけど、それは根性で食べることにする。」



 「どうする、大2個でええのんか?」

「うん。・・・えっ、マサのおごりなん?」

「これで天下無敵の無一文や。」

「うそやん!・・・ありがとう。状況順位もすごかったけど、また、ちょっとマサの事好きになってしまうやんか。」

「・・・期待はしてへんけど、百点満点で言うたら?」

「8点。」

「…出世したわ・・・」

夕子、西成区、花園町在住。 第41話           (三郎ちょっと…)

 「三郎・・・ちょっと。」

「うん?。おふくろ出かける時間か。」

「もう出かけるとこですけど、お願いが在りますねん。」

「珍しいな。買いもんか・・・?」

「そう。物干し竿、頼みますわ。今日は月曜日ですやろ、今日か明日にはこの辺りに来るはずやから、忘れんと買うといてや。」

「え~っ…お客さんが居てる時やったら勘弁してや。今すぐにも必要なんか?」

「だましだまし、使うてたんやけど、とうとう真っ二つになってしまいましたんや。しかたおまへん。」

「だましてまで使わんと、早めに買うときぃなぁ・・・ほんまに。」

「アホっ。使える間は使いますがな。」

「しゃ~ないなぁ・・・お客さんさえ居て無かったら問題ないんやけど…まぁ、なんとかするわ。」

「それから、こっちは暇な時でええから、役目の終わった物干し竿に引導を渡すんも忘れんといてや。」

「・・・切って処分しとけと・・・」

「ほな、お願いしときますよって、忘れたらあきまへんで。」

「ん…ああ、いってらっしゃい・・・せめて、麺類は一日一食にしてくれ・・・。」



 「さお~だけ~~」

「!!!」

「・・・・・あやめ姉さん、ゴメン。ちょっと待ってて・・・ごめんやで。」

「あん・・・ちょっとって、いやや・・・」

「あやめ姉さん、ほんまにゴメン。おふくろの頼まれもんで・・・」




 「もう・・・先生のアホっ!もうちょっとやったのに。どないしてくれんの・・・」

「いや・・・精魂こめて一から頑張りますよってに。」

「もう、気が抜けてしまいましたやんか。私ら仕事が仕事なだけに・・・その気になるのもタイミングが在りますのやで。」

「すんません。この埋め合わせはきっと・・・」

「・・・キスして・・・」

「えっ・・・」

「ねっ・・・キスして・・・」

「・・・それは・・・」

「埋め合わせしてくれるのですやろ・・・キスしてくれたら、もう一回その気に・・・ねっ、お願い・・・」

「あ・・・あやめさん・・・」



 「・・・いままでで一番良かったですわ・・・せやのに、私だけで先生は・・・私が厭なんか、先生が我慢してはるんか、どっちです?」

「それは・・・俺も男ですよって、我慢してるに決まってるやないですか。」

「それやったら、好きにしてくれたら宜しいのに。」「・・・これから、私の時にはそうして下さいな、ねっ、お願いやよって・・・」

「あやめ姉さん・・・勘弁して下さい。」

「もう、なんでやのん。結局、こんな商売の女やからですか。」

「いや、違います。そんな事は絶対にありません。それやったら、こんな事自体やってませんわ…ほんまです。」

「ねっ先生、この部屋だけの関係でええんです。」「私かて気を許して抱かれる相手が欲しいだけなんですわ・・それもたまにの事ですやんか。」

「せやから、姉さん勘弁して下さい。」

「・・・他の人からも同じような事言われてますのやろねぇ…それに、電話で予約が必要なほど忙しいのも解かってるつもりですねん。春駒のお姉さんから教えてもろて・・・こう云う事は口コミですぐに広まりますしねぇ・・・私の言う事なんか聞いてたら、すぐに誰とでも同じ事せんとあかんようになってしまいますわなぁ・・・解かりました、無理は言いません。」

「あやめ姉さん・・・有難うございます。」

「でも、今日ぐらいのサービスはこれからもお願いさせてや・・・よろしく…ねっ。」

「えっ・・・はい・・・。」

「他の人には絶対に言いませんよって、先生、自分から広めたらあきませんで。」

「・・・はぁ・・・」

「ほな、次はまた来週に電話いれますわ。」

「はい。おおきに、有難うございました。」

「ふ~、あやめ姉さんも時間が掛かりそうやなぁ・・・。」

夕子、西成区、花園町在住。 第42話        (居酒屋「洋子」 前編)

 「ごちそうさま。お母ちゃん美味しかったわ。けど、今日も急な話で迷惑かけたんとちゃうのん?」

「いえ、今日はお婆ちゃんから連絡もらってましたから、電話って便利ですなぁ。」

「そうか、うちは昨日まで聞いて無かったから・・・お母ちゃんは聞いてたんや。」

「私も夕子とそうは違いませんで。だいたい婦人会の集まりは前もって予定してた事やと思いますけど、お通夜と重なったんは急な話に決まってますがな・・・それより、お父さんは晩御飯、どないするつもりやろか。」

「飲み友達と松喜寿司やろ。」

「お母ちゃんやお父さんは付き合いの無い人ですけど、松喜寿司さんはお通夜に行くはずやと思いますねん。まあ、終わったらお店を開けるのかも知れませんけど。」

「そうなんや。飲みに行く処はなんぼでも在るけど、食べるとこはなぁ、昼と夜では町が変るから・・・麺類だけは避けるはずやし。」

「そうですなぁ、晩御飯にお好み焼やホルモンって云うのも、何かもう一つやしね。でもまぁ、どないでもなりますやろ。」

「ママ~、ちょっと早いけどかまへんか?」

「あっ、森川のおっちゃんや、いらっしゃい。お母ちゃん、ちょっと手伝うていくわ。帰っても誰も居て無いし。」

「おや若女将、どないしたんや、今日はまだ火曜日やで。」

「お婆ちゃんが出かけてるから、ここで晩御飯やってん。おっちゃん今日は一人なん?」

「すぐに山ちゃんが来よる。そこでタバコ買うてるわ・・・せやから先ずは、ビール二本と土手焼き二つや。」

「まいど~、あれ、今日は土曜日やったかな?・・・はい森川さん、これで良かったはずやね・・・。」

「えっ、これ、ロンピ・・・おう、すまんなぁ・・・ええのんか。」

「なに言うてますのん、ついでですやんか。はい、はい、まずは一杯・・・ん、若女将、有難う、・・・はい、お疲れ様・・・ふ~っ、うまい!」

「うん。ほんまに旨い。最初の一杯は季節に関わらず、やっぱりビールやな。」

「…そうは言うても、ちかごろは朝晩が冷え込む季節になって来ましたやんか・・・森川さん、そろそろ二杯目からはお湯割りなんかどうです?」

「いや~まだまだ・・・せやな・・・うん、ママ、二杯目はお湯割りにするわ。」

「いつも通りのロク・ヨンでよろしいね。」

「うん、きもち薄めで。」

「森川のおっちゃんは日本酒は冷で飲むのに焼酎はお湯で割るんやなぁ。」

「さすが若女将や、客の好みを覚えてるやないか。」

「うちの記憶に在るおっちゃんは、とにかくここで飲んでるおっちゃんやから、知らんあいだに覚えてしもうたわ。シイタケと納豆が嫌いなんも知ってるで。」

「えっ、森川さん、納豆あきませんの?」

「あんなもん、人間の食うもんやあらへん。なにが悲しゅうて・・・だいいち、糸、引いとるやないか、糸・・・山ちゃん、お前、食えるんか?」

「旨い、安い、健康的…完璧な食いもんですやん。」

「安うて健康的なんはそうかも知れんけど、俺は騙されへんど、絶対に食わん。」

「ちょ、ちょっと、それやったら食べず嫌いですやんか。あんな旨いもん食べんと損でっせ…ねっ、ママ。」

「ええ、まぁ、私も夕子も好きなんですけど、実はサブちゃんが森川さんと同じ事・・・『人間の食うもんや無い。』とか言うて、あきませんねん。」

「せやろ。サブちゃんとは昔から気が合うんや。誰が何と言おうと絶対食べへん。だいたい、死んだ嫁はんの遺言で、納豆だけは食べたらあかんと言われてるんや。」

「奥さんは…生きてはります!」

「・・・せやったかな?」

「もう、怒られますよ、知りませんで。」

「実はそろそろ来る頃やと思うわ。今日は俺らが早かっただけで、いつものように待ち合わせしてたんや・・さっきの事は内緒やで。」

「面白い人やとは思うてたけど、おっちゃん、ほんまにおもろいわ。けど・・・うち、内緒にしとくように頑張ってはみるけど、おばちゃんの顔を見て、口が裂けてしもうた時はゴメンやで。」

「口が裂けたらあかんがな。裂けても言わんといてや、たのむで若女将。」

「あっはは、夕子もみんな、ほんまにおもろい・・・ええのりですわ、ヘタな漫才より、面白いかも知れませんで・・・」

夕子、西成区、花園町在住。 第43話        (居酒屋「洋子」 後編)

 「ど~も…お邪魔します。」

「はい、あっ、いらっしゃい。ご主人、お待ちかねですわ。」

「あらあら、すでに盛り上がってますやんか。どうせ、私の噂でもしてましたんやろ。」

「・・・・・」

「こんだけ、シ~ンとしたら、図星やって言うてるようなもんやないの。あんた、正直にいうてみ。」

「おっちゃん、うちの顔、そんなに見んでも、まだまだ口は裂けへんから心配いらんて。」

「あちゃ~裂けたんとおんなじや・・・若女将、それを自爆って云うねん。」

「どうせ、死んだ嫁はんの遺言とか、なんとか言うてたんですやろ。」

「・・・・・」「・・・・・」
「・・・・・」

「アホっ…どこに行ってもワンパターンなんやから。」

「こんなんを以心伝心って言うんやろか…?うち、なんや、ごっつい将来のために成りそうや・・・けど、森川さんとこがええ夫婦や云うのも改めて判ったわ・・・なぁ、おばちゃんも飲むやろ、飛切りの熱燗…で。」

「…はい、頂きます。夕子ちゃん、噂通りの若女将ぶりやね。私とはたまにしか会わへんのに、ちゃんと覚えてくれてる。なにより会話のやり取りが上手やわ。」「・・・どうも、騒がしてすいませんなぁ。さぁ、山本さんも飲み直して下さい。いつも主人のオモリしてもらって有難うございます。」

「いえ、いえ、オモリをしてもらってるのは僕の方ですから。逆に帰りを遅くさせて申し訳在りません。先輩と飲んでるとほんまに楽しいもので。」

「これからもお願い致します。ご無沙汰してますけど、良かったら、また家にも来て下さい。ママのようなご馳走は出来ませんけど。」

「はい、それこそ有難うございます。」

「おい、放っとかんといてや。ママ、ブリの照り焼きとお湯割りをおかわりや。」

「ペース早いんとちゃいますか?山本さんはよろしいか?」

「僕、今日はずっとビールでいきます。一本抜いて下さい。でも、奥さん、飛切りの熱燗って、すごい酒豪みたいですやん?。」

「その逆です。好きな方ですけど、強くは無いんで、飛切りの熱燗にするとアルコールが飛んで飲みやすくなりますねん。」

「あっ、なるほど。」

「お酒の事はうちには良く判らんけど、みんな、飲むもんが違うんやなぁ。日本酒でも冷で飲んだり温めて飲んだり。焼酎もそうや、お父ちゃんはビール以外はウィスキーしか飲まへんし、これは大人になってから全部ためしてみんと判らんわ。」

「若女将は飲める口やろか?」

「そうですなぁ、私とサブちゃんの子やから間違い無く飲める口やとは思います・・・けど、後は本人の口に合うかどうかですなぁ。」

「うち、みんなを見てて、お酒が美味しいもんやと云う事はよう解かってるし…絶対、好きになるとは思う。」
「けど・・・うちはお酒を好きになっても、お母ちゃんがいつも言うてる通り、酒飲みはええ…せやけど、酒に飲まれる人は・・・今も、これから先も…好きにはなれんと思うわ・・・自分もならへん・・・絶対に。」

「・・・ええ心がけや…ママ、そろそろお勘定・・・」

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弘と書いてひろむと読みます

Author:弘と書いてひろむと読みます
主人公の夕子と昌幸は作者と同級生と云う設定。          ディープな町、西成区花園町の世界を御堪能下さい。

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